#1958 引き抜きに行こう!場所はまさかの〈弓聖手〉
ミサトの案内で向かったのはとあるギルド。
そこは、Bランクギルド〈弓聖手〉のギルドハウスだったんだ。
「レミちゃん~、いる~」
「あれ? ミサト? なんでここに居るの?」
「〈弓聖手〉と〈ハンマーバトルロイヤル〉がついに合併するって聞いて、お祝いと祝福と引き抜きに来たんだよ~」
「いや最初の2つ意味一緒だし! というか引き抜きって言った!? ゼフィルス君も居るじゃん!」
「よ。お邪魔するぜ!」
訪ねてみると、ちょうど表で色々片付けなんかをしているメンバーを発見。しかもその内の1人が〈弓聖手〉のギルドマスター、レミだった。
ハリセン少女の片割れ。アディの相方。そんな印象のレミだが、相方のアディとは長くギルドが別々だった。2人とも、自分の特色に沿ったギルドに加入していたのだ。
だが、〈ハンマーバトルロイヤル〉がこの前Aランクへと至り、〈弓聖手〉はもう少しというところでBランクから昇格できず、燻ってしまったことで一大決心をしていた。
すなわち、〈ハンマーバトルロイヤル〉と〈弓聖手〉、両ギルドの合併だ。
なにせ、ギルドマスター同士の仲が良いからな。
下部組織も新たに作り、〈弓聖手〉すべてがAランクギルド〈ハンマーバトルロイヤル〉に組み込まれるらしい。実は俺もついさっきミサトに聞いて初めて知ったよ。
ただ〈弓聖手〉の中には、このまま〈ハンマーバトルロイヤル〉に入るのか、それともこの機会に別のギルドに移るのか、まだ悩んでいるメンバーも少数ながらいるのだという。そこがミサトの狙い目だ。
「まず、〈ハンマーバトルロイヤル〉と〈弓聖手〉の合併、おめでとうございます」
「ありがとうございます? まあめでたいことは確かなんだよね」
「たは? なんか歯切れが悪いね。やっぱり全員一緒にお引っ越しは無理があった感じかな?」
「だね~。この前の〈学園春風大戦〉を切っ掛けに〈ハンマーバトルロイヤル〉と合同ダンジョン攻略とかを進めてきて、もう大体のメンバーがだいぶ馴染んではいるんだけど、一部がどうも合わないみたいでね」
「それまたどうして」
「いや、あっちのギルドメンバーが、みんなアディ大好きアホバカマヌケ人間ばかりだから、かな?」
「ああ!」
妙に納得してしまう理由が提出されて俺は思わず手を打った。
確かに〈ハンマーバトルロイヤル〉ってハンマー使いだから弱いはずないんだけど、アディからよくしばかれてる印象あるよな。なるほど、性格の不一致か。
「そこで私の出番だよ!」
「え、なにミサト、何かいい考えがあんの?」
「あるよ! 例えば、〈エースシャングリラ〉へお引っ越しとか」
「…………それって引き抜きじゃん!! そうだ、さっき引き抜きに来たって言ってた!」
「たは! 言った言った」
一瞬目を丸くしたレミだったが、ようやく頭に入って来たのか思いっきりミサトにツッコんでいた。相変わらず、思い切りのいい良いツッコミだ。
周りで急な〈エデン〉幹部来訪にざわついていたメンバーがさらにざわついたのを感じ取る。
「ちなみに欲しいのはナゴ君にキャロルちゃん、グラジオラ君、エミメナちゃんの4人ね!」
「ちょ! 〈ハンマーバトルロイヤル〉の方からも持って行く気!?」
「イエス! あ、もちろん本人が良いって言ったらね」
「うぐっ、なんでそうピンポイントでうちらの悩ましい人材を名指ししてくるかな?」
「うちで引き取るよ!」
「やかましいわ!」
どうやら交渉は順調のようだ。
ミサトが今上げた4人の名前は、どうやら訳ありであるらしく、レミも扱いに困っているような印象を受けた。
「優秀なんだよ、4人とも、抜けたらちょっと困るかもしれないんだよ。でも合併を機に抜けるなんて言っちゃってさぁ」
「うんうん、それで私に相談が来たんだもん」
「やっぱりその流れかーい! タイミングおかしいと思ったよ!」
あ、どうやらミサトはすでにその4人と面識がある、というか何か相談を受けていたらしい。結構突発的に決めたと思った今回の募集だったが、タイミングバッチシと言われた理由はこれだったのかも?
「ギルマス」
「あ、ナゴやん。もしかして今の話、聞いてた?」
「はい。僕たちの話だと思ってたので」
そう声の方へ向くと3人の男女がそこに立っていた。
男子が1人、女子が2人だな。
そのうちナゴやんと呼ばれた男子が俺たちに向かって一礼する。
「初めまして、ナゴと言います。【秘書】に就いており、〈弓聖手〉で財務系を担当してました。今は2年生です」
なんと。この男子、ナゴは【秘書】。つまり〈エデン〉でいうサトルやメリーナ先輩のポジションを担当してくれていた男子だった。言葉遣いはクール。メガネがなかなかに似合うメガネ男子だった。真面目そうな口調と物怖じしない度胸がありそう。ややブラウン寄りの黒髪ショートに黒目という出で立ちだ。あとやや高身長。
さらに紹介は続き、女子に移る。
「私はキャロルって言いますよ~。1年生で、職業は【観測者】! 遠いところでも狙って遠距離アタックできますよ~」
間延びした口調が特徴のこの子はなんと【観測者】だった。
観測して指示を出したりできる指揮官などにもなれる逸材だ。ユナの補佐、つまり今のカイリポジションに就かせることができるだろう。
見た目はクリーム色の髪を背中まで流し、ふわふわウェーブに先がカールしている。瞳はグリーン寄りのようで、明るい子の印象を抱いた。
「エミメナと申します。【司祭】に就いている1年生でポジションはヒーラー。LVはまだ低いですが、腕は良いとみんなから持てはやされてます。お菓子なんかをくださるとより頑張れます」
お、おう。なんか真面目っぽい表情のまま要約するとチヤホヤされたいです願望を前面に押し出してくるこの女子は、意外にも【司祭】。【司祭】がお菓子を受け取って回復魔法を行使するところを思わず想像してしまう。大丈夫かな? だが、貴重なヒーラーに変わりはない。カルアみたいに食欲を満たせば十全に動いてくれる子と見た。見た目は黄緑系のショートに同色の瞳。全体的にスラッとしているスレンダー体型だ。
「エミメナは〈転職〉希望なんだよ~」
「なに!? そうなのか!?」
「はい。エリサさんにあこがれてます。【悪魔】ヒーラーとかやってみたいです」
「おお!」
うん。それだったらなんか似合う。
お菓子貰ってやる気を発揮する【悪魔】ヒーラーなら、かなりっぽいじゃないか!
「〈エデン〉に任せてよ! 〈天魔のぬいぐるみ〉だってちゃ~んと用意できるからね!」
「つまりは【ナイトメア】系列を希望だな? 俺に任せておけ! しっかり就かせてやるぜ!」
「頼もしい」
3人とも、さっきミサトが話してた名前に出てきた子だ。
「こちらこそよろしくな。俺はゼフィルス。〈エデン〉のギルドマスターをしている。今日は引き抜きに来た」
「ありがとうございます。僕たちも〈ハンマーバトルロイヤル〉に行くか、このまま別の道に向かうか、決めかねていたのでありがたい話です」
俺の挨拶にナゴが代表して応えてくれる。
「ええー、ナゴやんたちもう〈エデン〉に行くの決めちゃった感じなの!?」
「レミさん、今までお世話になりました」
「こんの薄情者ナゴやん!」
あ、さっきギルマス呼びだったのにレミさん呼びに変わってる。
つまり、そういうことだろう。ナゴたちの意思は硬いと見た。
「最終確認なんだが、3人とも〈エデン〉の下部組織〈エースシャングリラ〉に来る、ということでいいのか? 色々チェックがあるから即採用というわけにはいかないんだが。希望調査だ」
「たはは~。大丈夫だよゼフィルス君。ナゴ君たちは〈ハンマーバトルロイヤル〉と〈エースシャングリラ〉なら〈エースシャングリラ〉を取る子だよ」
「はい。ミサトさんの言うとおりです」
「ぐぬぬー! ギルドマスターの目の前で堂々と引き抜きとか、良い度胸なんだよ!」
レミが荒れているが、ミサトが説得に向かっていったので、俺は彼らに志望動機などを聞いてみる。
「僕は単純に、〈ハンマーバトルロイヤル〉にも僕のような職業持ちが居るので、2人は必要無いと思いまして。また、僕はもっと大きい仕事がしてみたいのです。〈エデン〉の下部組織なら、それができるであろうと考えました」
なるほど。ナゴは向上心の固まりのようだ。
〈ハンマーバトルロイヤル〉にも【ワーカー】系の職業持ちがいるのなら、仕事量的に2人は要らないだろうという合理的判断に基づき、この機に脱退しようかと悩んでいたらしい。無事ステップアップできそうだとむしろはしゃいでいる様子だ。
「私は~〈弓聖手〉だととても大活躍だったんです~。前衛が少ないので斥候多めが〈弓聖手〉の持ち味だったので。色々指示出しで活躍できました~。でも〈ハンマーバトルロイヤル〉は相性が悪いみたいで、現場判断の方が良いことが多くって~」
「ふむ。ちなみにキャロルのレベルは?」
「45になったところです~」
「それじゃあ仕方ない部分もある。1年生なんだからまだまだこれからだ。うちに来て学べば良いさ」
「いいのです~?」
「おう。あ、それについてはまだ正式決定じゃないぞ。うちでもしっかりとしたチェックをさせてもらうから」
「はい。嬉しいです、待ってます~」
「最後は私。〈エデン〉に希望したのは〈エデン〉が美味しいものを常食していると噂されているから。おいしい物食べたいです」
「エミメナは完全に腹ぺこキャラじゃねぇか」
「腕は良いと自負してます。料理の満足度が高いと、本気の上を狙えます」
「平然と限界突破できる宣言に聞こえるんだが、本当か?」
エミメナは色々見るべきところが多そうだ。
「そういえばミサトがあと1人名前を言っていたが」
「グラジオラ君ですね。彼は〈ハンマーバトルロイヤル〉所属なので先ほどチャットで連絡しました――あ、来たようです」
ナゴの言葉に振り向くと、こっちに駆け足で向かってくる男子の姿。
「お待たせいたし候! グラジオラ、ここに見参したですぞ!」
「おお~デッカいな~」
もう1人も到着。その人物は――熊人。
小さな熊耳を頭に持つ巨漢の男子だった。




