#1953 海は最後にあらず、来年もまたここに来よう。
楽しい時間は瞬く間に過ぎていくものだ。
〈海ダン〉でのイベントが終わると、それは帰還の合図。
「あ~、楽しかったなぁ」
「ほんとね~。特にアルルたちが作ったあの滑り台、ウォータースライダーと言ったかしら? あれは勲章ものよ!」
「他にも色々と楽しいものが盛りだくさんで、年々豪華になりますね」
「ええ。正直、もう何日か楽しみたかった気もするわ」
「シエラさんの言うこと、分かります。私もなんだか毎年それ思うんですよ」
俺、ラナ、エステル、シエラ、ハンナが先頭を歩き、〈海ダン〉のイベントを名残惜しみながら帰路についていた。
ならばテントで宿泊なりして明日も海を満喫すれば良いじゃないか、と思うかもしれないが、そうするとなんだか本当に満足するまで居座ってしまう気がするんだよ。
気が緩まないうちにこうして帰るのが吉だろう。
「でも最高の思い出ができたな」
「私ね、毎年この海というのが楽しみになったのよ。海ってこんなに色々楽しめるのね!」
「分かりますラナ様。正直ラナ様の肌をあんなに見せてしまうのはどうかと思っていたのですが、あれは良いものです」
「波に揺られているだけでも心地良いものね。なんだかまだ波に揺られている感覚がするわ」
「……また来たいですね」
…………。
ハンナのまた来たい発言を境にちょっと無言になる俺たち。
だが、それを破ったのはラナだった。
「なによ、そんなのまた来ればいいでしょ? この〈海ダン〉にね」
「ラナ?」
「来年は確かに卒業よ。でも、ここに来ない理由にはならないわ。なにしろここはエクストラダンジョンだもの。観光地よ!」
「ラナ様の言う通りです。確かに私たちは卒業してしまうかもしれませんが、また集まればよろしいかと」
「名案ね。私も、これっきりというのは少し寂しいわ」
「私もです!」
そう、みんなが言って俺に視線を向けてくる。
「ゼフィルス、また集合を掛けなさい! 私はいつだってゼフィルスの集合に駆けつけてあげるわ!」
「私もこのような集まりには、また是非参加したく思います」
「私もよ。思い出はいくらあっても良いと思うの」
「ゼフィルス君、やっぱりみんなも集まりたいんだよ!」
「ラナ、エステル、シエラ、ハンナ……」
今が夜間で良かったぜ。
じんわりと温かく心に広がるその言葉に、俺は思わず目頭が熱くなったような気がした。
「ああ。だな! 今年だけで終わるなんてやっぱり勿体ない! 来年も、その次も! この〈海ダン〉に集まってみんなで盛大に楽しもうじゃないか!」
「良く言ったわ! それでこそゼフィルスよ!」
「楽しみが増えましたね」
「良いと思うわゼフィルス。あとで詳しく話し合いましょ」
俺の宣言にラナはグッと拳を握ってグーしてくるし、エステルは朗らかな笑顔を浮かべ、シエラはよほど楽しみなのかクールを装いつつも気が早い感じ。
みんな、とても嬉しそうだ。この様子なら、卒業後でもし離ればなれになったとしても、みんな集まってくれるだろう。
「良かったね、ゼフィルス君」
「ああ。ハンナのアドバイス通りだ! ありがとな、ハンナ」
最後にニコッと俺に微笑んでくれるハンナ。
ハンナには感謝しかないな。
よーし、そうと正式に決まれば早速みんなにも相談しよう。
1年後のことではあるが、みんな忙しい身だ。気が早いということもないだろう。
今から予定を立てるのだ!
ああ、楽しみだな。
俺は来年の光景を思い浮かべながら、〈海ダン〉から帰還した。
◇
〈海ダン〉から帰ると日常が戻ってきた。
いや〈海ダン〉もダンジョンだからある意味日常なのか? とにかくダンジョンに行く日々だな。
また、来年の計画を立てるために〈海ダン〉の楽しかった思い出が鮮明なうちにブリーフィングも行なった。
今回の議題はもちろん、来年の〈海ダン〉参加者を募り、どういう計画で実行するか、だ。
サーシャとかツッコミ組は今年の夏休みの話し合いかと思っていたら気が早くも来年の話し合いだったので盛大にツッコミを入れていたよ。
やっぱり気が早いよね。
「みんなの気持ちも分かる。だが、1年なんてあっという間だ。楽しいことは瞬く間に過ぎていく。だから、今のうちから決めておこうと考えたんだ! 俺たちの卒業なんて、本当にもうすぐだからな」
「「「「「!!!!」」」」」
この言葉がかなり効いたのだろう。
みんな、卒業というものを本気で意識し始めたのはここからだったと思う。
漠然と卒業するときが近づいているなと感じていたものが、すぐ身近に迫っていると突きつけられたのだ。
だからこそ俺たちは提案する。
「来年、卒業したあとも集まろう! みんなはここまで一緒にやってきた仲間だ。卒業で離ればなれなんて寂しいじゃないか」
「ああ、だな。ゼフィルスの言う通りだ」
「たはは~、またみんなで海で遊べるんだね!」
「もちろん海だけじゃなくて温泉も、だよね!」
「いいね! 海と温泉! 夏と冬に集まろうよ!」
「賛成だよ! これは計画を練らないとだね!」
メルト、ミサト、サチ、エミ、ユウカを筆頭に賛成多数、というか全員が賛成につき大可決!! むしろ総意!
こうして来年も俺たち〈エデン〉のメンバーは〈海ダン〉でエンジョイすることが大決定したのだった。
そうなれば後は早かったな。
来年の計画の草案はすでにセレスタンとサトルを軸にして決まっていたので、これをベースにして練り、日にちも決定。
夏休みに入って大体1週間後。
今年〈海ダン〉に行った7月25日が、毎年みんなで集まろう記念日に決定したのだった。
それが決まった時、もうね、うぉっしゃーって心の奥から叫び声が出た気がしたんだよ。俺、一生〈ダン活〉の世界に居る! もう決めた!
卒業後の〈ダン活〉世界も、たっぷり謳歌してやんよ!
さらには〈秘境ダン〉の温泉回。
夏に集合できるなら、冬に集合してもいいだろう。
冬の〈秘境ダン〉の集合日はまだ正確に決まらず、これは今年の冬に改めて決めようということで決着した。
これも楽しみだ!
絶対に、何があっても今年〈秘境ダン〉に行かないとな。良し!
ちなみに、もちろん夏休みのこともちょっとは話し合ったぞ。
まあ、来年のスケジュール決めの方が熱が入っていたせいで、サーシャたちからは、
「夏休みの計画がついでのようですの!」
「さっきの熱をもうちょっと維持してー!」
とツッコまれてしまったけどな。
夏休み、これからの予定は〈エデン〉――〈万界ダン〉攻略。
そして〈アークアルカディア〉と〈エースシャングリラ〉の大育成に決定した。
なにせ1日使える長期休暇がまだ1ヶ月以上あるのだ。
時間が掛かる育成をここで一気にやるべし。
そのために、俺たち〈エデン〉のメンバーズはまず〈鉱ダン〉のボス周回を開始したんだ。目的はそう――素材集め。
〈鉱ダン〉の経験値は美味い。俺たち〈エデン〉のメンバーはすでにLV100でカンストしてしまったが、これは俺たちのレベル上げのためではないのだ。
〈アークアルカディア〉、つまりは生産組のレベリングのためである。
なんか〈鉱ダン〉が封鎖されてたけど学園長にお願いしたらオーケーもらえたので大量の素材をお持ち帰りした。そして。
「待たせたな兄さん!」
「ばっちり準備オーケーです。いつでも最強〈戦車〉、造れますですよ」
「私も最強料理が作れるよー! 神の料理が食べたいかー!」
「役立つアイテムの生産は私たちに任せてくださいね」
「でも回数回復アイテムを持ってくるのはそこそこにね! できれば最強〈爆弾〉レシピを持ってきてよろしく!」
「ちゅうわけや兄さん! うちら生産7人衆、全員がLV100になったでぇ!!」
「頼もしい! すげぇ頼もしいぞ!」
そう、ついにハンナとアルル以外の生産7人衆、タネテちゃん、ミリアス先輩、ソフィ先輩、レンカ先輩、そして―――マリー先輩が上級職LV100、カンストに手が届いたんだ。
こりゃ、すごいことになるぜ。
ここからが本番だ。
最強装備を揃え、最強アイテムを手に、残りの最上級ダンジョンを攻略する時がきた!
第四十四章 ―完―
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