#1925 ゼフィルスがLV100になるって言って入ダンした
テスト明け、夏休み前の最後の土日。
その日、学園は――もう何度目かも分からない驚愕に震撼した。
「発表します! ――宣言! 我々ギルド〈エデン〉は〈鉱ダン〉を攻略した! その際、〈鉱ダン〉の最奥ボスのレベルキャップが100である可能性に気が付いた! 〈エデン〉はこれより調査のため、LV100になってきます!」
「「「「それ調査じゃねええええええええ!?!?!?」」」」
ゼフィルスがまたもそんなことを発表、否、宣言したからだ。
なんか〈エデン〉から重要な発表があるとかなんとかで〈エクストラダンジョン門・特伝〉、通称:〈エクダン〉から少し離れた場所で行なわれたこの宣言は、学園に、いや学園に留まらず世界にまたもとんでもない激震を走らせたのだ。
「ということで、〈エデン〉はこれからLV100になりに〈鉱ダン〉へ行くそうです」
「…………ふぅ。――ガフッ!?」
「ああ学園長! お気を確かに~~~!?」
学園長室では今日も平常通り学園長がどこか旅立った。一度はなんとか落ち着こうとした学園長だったが、耐えられなかったらしい。
「はい学園長。こちら蘇生茶です」
「熱っつあ!?」
そしてコレットが蘇生茶で呼び戻していた。
いつもの光景だ。
「ああ、人類の頂きが生まれる!? 関係各署への連絡は!? いやそれよりも研究所の職員が先走らないように手配が先か!?(や、やることがいっぱいすぎるんだけどーーーーーー!?!?!?)」
とはいえあの冷静沈着――に見えるカイエンさんでもとても忙しそうにしている。
結構な大事の様子だ。
学園長が意識を飛ばしている僅かな間でも仕事が進んで素晴らしい。
◇
また、場面は変わって、こちらはとある〈ギルバドヨッシャー〉のギルドメンバーたち。
「こんとーーーーーーーーーーーん!!」
「はい。すっごく混沌。まさか、私が入学してから数ヶ月で、こんな美味しい混沌が何度も学園中に溢れかえるなんて、本校に来て良かった!」
「やかましいぞ混沌野郎に混沌ガール! またギルドから勝手に消えやがってーーーーーー!? 探しに行くのは俺だと何度言えば――」
「こん、こ――ケヒュン!?」
「昏倒してんじゃねええええええええええ!?!?」
〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスターは鋭い嗅覚を持つ。
故にしっかりとゼフィルスからの宣言も生で聞いていた。そして別の意味で旅立った。興奮しすぎたのだ。
「おい混沌ガール! あれ? 混沌ガールどこだ!? おいルトカ、どこへ行く!?」
「ちょっとあっちから新しい混沌が発生しそうだから、行ってくる」
「え? あ、本当だ――いやいやいや!!!! つうか混沌野郎の介抱を手伝えーーー!?」
混沌術師の名前判明。その名は――ルトカ。
今年入ってきたばかりの1年生にして〈ギルバドヨッシャー〉の新メンバー。
加えて、驚くべきことにオスカーの従妹に当たる。
あとオスカーと同じ嗅覚を持っており、混沌の発生を匂いで察知できる特殊能力を持っていた。
さらに最近、シンジも同じような混沌をうっすら感じ取れるようになってしまっている。なお、シンジはそれを認められていない。
首を全力で横に振りまくり、混沌臭を振り払うシンジ。そんなことをしても、もはや手遅れである。
「くっ、こうなったら混沌野郎はマージたちに任せて俺はルトカを追うしかねぇか! 混沌野郎はおとなしくここで寝てろよ?」
オスカーをその場に残してルトカとシンジは、さらなる混沌の発生場所へ向かうのだった。
最近、昏倒した混沌野郎は基本マージたちが回収する感じになっている。
「くっそう~、なんで混沌家はこんな自由なやつらばっかりなんだーー!」
嘆くシンジ。しかし、師の従妹だ。面倒を見るのも弟子の務めである。
なお、師本人はその辺に放置されてしまったが、最近は全く気にならなくなってきた模様だ。
◇
「なんだと! ゼフィルス氏たちがついに人類の頂きに!?」
こちらは今をときめく学園の研究所。
そこで目の下に隈を作りつつも生気に満ち溢れているイケてる長、ミストン所長が報告を聞いて目をランランと輝かせていた。
いや、輝かせていたのは他の研究員たちも同じだ。
すぐに出張、いや、出発の準備を調えていく。研究員のくせに手慣れた、非常に軽いフットワークだった。
「こうしてはいられん! 皆のもの! 精鋭を集めよ!」
なんの精鋭だろうか?
しかしミストン所長のその言葉だけで色々と通じたらしく、白衣に身を包んだ研究員の中でも、なんか精鋭っぽいメンバーが集まった。
「ミストン所長! このラミィエラスもお供に連れていってください!」
「今回は少数精鋭だ! いくぞ!!」
「「「「応!!」」」」
非常に息の合った掛け声。研究員なのに、なぜか慣れている。
その迫力と練度の前には「公爵」のカテゴリー持ちのラミィエラスですら割り込めない。
その日、非常にスマート、かつ力強いアスリート走りを披露する研究員の集団が〈エクダン〉へと乗り込んだが、ゼフィルスたちはすでに出発した後だった。
「くっ! 間に合わなかったか!」
「いや、〈エデン〉はまだLV100になってないらしいですよ」
「おっとそうだった。LV100になった時、人類の頂きに立った者の生の言葉を聞きたかったが、どうやら早とちりしてしまったらしい」
うむ。ゼフィルスたちが帰ってきたときが心配だ。
きっと油断していたら研究員たちに囲まれてしまうだろう。間違いない。
あの力強いアスリート走りを披露した研究員たちは、息切れ皆無だったのだ。なぜか鍛え上げられている。
ちなみにすでに人類の頂きが〈エデン〉のギルドハウスに居るのだが、そっちは気付かれなかったのだった。
◇
「え? ゼフィルス君がLV100になってくるって言ってダンジョンに潜っていった?」
「はい。そのように報告を受けていますよ」
ここはとある王宮の一室。
学園都市から馬車で2日の位置にある王都、その中心にそびえ立つ城だ。
そこでこの国の王太子、ユーリは目を丸くしながら報告を受けていた。
「そうかぁ」
人類の頂き、それは上級職LV100。
言い伝えや神話にはなるが、人類のLVの真の限界は上級職LV100なのだそうだ。
下級職はLV75。これも、言い伝えや神話に数多く残っており、実際その通りで間違いは皆無。
故に上級職LV100も十中八九そうだと想われている。
まあ、到達した者が皆無なので証明はできていないが、それが証明されようとしていた。
そんな人類未到の域に一学生であるゼフィルスたちが到達しようとしている。
報告を受けて、一笑に伏することもなくユーリはそうなんだぁと受け入れた。あのゼフィルスを知る者として、ありえると思わされる大事。むしろ大事件である。
あのゼフィルスがLV100になってくると言ってダンジョンに潜っていった?
なら宣言通りLV100になって戻ってくるだろうさ。簡単な推理だよ。あかん。
「となると、一緒にいるラナもLV100になるの、かな?」
「私も、そうなるのではないかと思います」
最近側近として手伝いをしてくれるようになった、ギルド〈キングアブソリュート〉時代の初期メンバーの1人、ソトナからの言葉にユーリは自分のステータスを確認する。
そのLVは30。
ゼフィルスが自分たちとしてくれた上級下位ダンジョンの共同探索、〈岩ダン〉の攻略で至ったそのLV。
当時は最精鋭、人類で並びたつ者は自分たちしかいないという自負と共に誇り高かったそのLVも――なんか1年と半年で世界はえらいくらい変わってしまっていた。
まさに一瞬の栄誉と言えよう。
「ふふっ」
「ユーリ?」
「なんでもないよ。でも、真面目に考えなくちゃいけない。学園長には、また迷惑を掛けるかもしれないかなぁ」
そんなことを呟くユーリの目は、遠くを見つめていた。
しかしその目は遠い目ではない。なんだか、近々楽しいことが起こるのを予感させるような、そんな無邪気な目をしていたのだった。




