#1903 ダンジョン週間突入〈聖界ダン〉最奥へ到達。
次世代の【錬金術師】たちを迎えて数日。6月も下旬に差し掛かりダンジョン週間に突入した。今はダンジョン週間の4日目だ。
「それじゃあハンナたちも順調なのね」
「みたいだな。最初は新しい子たちも戸惑うことが多かった――というか戸惑うことしかなかったらしいが、ようやくハンナたちの教えを吸収できるだけの心が備わったらしい」
「なにその表現??」
シエラの問いに俺が答えると、ラナがポカンと聞いてきた。
「うむ。そうとしか表現できないんだよ。心の大きさとか、心の広さがどうとかって言葉があるだろ? あれのハンナ版だ。心をハンナに持つことができればハンナの教えを吸収できる。そんな感じ?」
「だからそれどんな感じよ! 心をハンナにってどういうこと!?」
うん、俺も言っててちょっとおかしいなと思ったよ。つまりは慣れだ。ハンナの教えに慣れたんだろう。そう言っておく。
「それなら分かるわ。みんな元気ならそれにこしたことはないわよね!」
「だな! 1年生たちが育てば、〈エデン〉の次世代も安泰だ!」
「…………」
まさに今言った通り、次代の錬金術師の卵たちは加入してから勉強に次ぐ勉強と、実技? 実験? とにかくアイテム作製しまくっていた。ちなみにスラリポマラソンはしてないぞ? 本当だ。
貴重(?)なボス素材をたくさん使用させてもらえるのでレベルもガンガン上昇中とのこと、夏休みも近いし、もしかしたら2ヶ月もしないうちに下級職のLVカンストまでいけそうとはアルストリアさんの言だ。
「ゼフィルスさん、今よろしいでしょうか?」
「構わないぞ。どうしたリーナ?」
「はい、そろそろ時間なのでみなさんに突入の準備を促していたところですわ」
「おっと、もうそんな時間だったか! ハンナが頑張ってるんだ、俺たちも頑張らないとな!」
リーナに言われて気が引き締まったのを感じた。
突入準備、そう、俺たちの前には大きな、それは大きなボス部屋の門が立っていたのだ。
その数字は10。
間違い無くレイドボスへのボス部屋だ。
そして俺たちはこの日――90.5層に到達していた。
ここまで長かった。ひょっとしたら、攻略を本格的に開始して一番時間を掛けたダンジョンかもしれない。
〈教会ダン〉よりも時間が掛かったからな。いや〈猫界ダン〉の方が長かったか?
61層からは今までの〈数ある聖域の中から階層門のある聖域を探せ!〉というものから打って変わり、一本道。
〈たくさんある聖域を全て攻略し、奥にある階層門のある聖域にたどり着け〉というものに変わったのでとても時間が掛かったのだ。もう総力戦と言った感じだな。
レベルは相変わらず全員が95に限りなく近いのでほとんど蹂躙――いや、無双、いや、制圧?
まあ、普通の聖域がいくつ立ちはだかろうと俺たちの実力に掛かれば問題無し。
時間こそだいぶ掛かったが、その全てを占拠して突き進んできた。
そして本日、いよいよ90層に到着し、今からここの最奥のレイドボス、90.5層のボスに挑もうとしているところだ。
俺は気合いを入れて、料理アイテムを食べて食休みをしていたメンバーの前へ出る。
「みんな、時間だ! 準備はできているかー!!」
「「「「おおー!」」」」
「ついに最上級ダンジョンのランク3、〈聖界ダン〉を攻略する時が来たぞーーーーーーー!!」
「「「おおー!」」」
「ボスに挑むじゃ無く攻略って言ったよゼフィルス先輩!」
「すでに攻略した気満々ですの!」
おかしいな、さっきよりも元気な「おおー」の声が少なくなった気がする。
俺はこんなに気合いが漲っているのに!
「大丈夫だ、俺たちなら勝てる! ここまでレイドボスを幾度となく倒してきた俺たちならな! さあ、今回のレイドボス、30.5層と60.5層はレイドボス・大型だった! そろそろ連型が来る頃合いだろう。連型は強い、だが、幾度も聖域を制あ――攻略してきた俺たちなら必ず勝てる!」
「今何か言いかけたな」
「えっと、制圧って言いそうになってたよね」
「勇者が制圧とか言っちゃダメでやがりましょうに」
おかしいな、訓示っぽいことをしているのにツッコミの方がよく聞こえる気がする。
「こほん。では出発する! みんな、俺に付いてこい!」
俺はバサッと全員に背を向け、ボス部屋の門へと振り返る。
「突入だーーー!!」
「「「「おおー!」」」」
こうして俺たちはボス部屋へと突入した。
◇
そこは、今までの天界というものからより神の下に近づいたかのような、神秘的な空間だった。
周りはヒヒイロカネ製と思われる金色に赤が混じった金属の柱に覆われた広場。
上からは日差しとはまた別の木漏れ日のような淡い光が照らし、下には彼岸花にも似た花がいくつも咲いていて、ただ淡く光を放っていた。
そんな神のおわす場所というに相応しいフィールドに降臨する4体のモンスター。
「! 『看破』します! あれは全てレイドボス・連型! 〈熾天使・セラフィム〉です!」
「やっぱり連型か!」
やっぱりと言いつつも知っている俺。
そう、やはり〈座天使〉〈智天使〉と続けば最奥のボスは天使階級のヒエラルキーのトップ、〈熾天使・セラフィム〉だろう。
その姿は3対6枚の白い翼を持つ人型。1体1体が20メートル級という、大型の半分近くしかないものの、それでも巨体なボスが4体もいたのだ。
数で攻めてくるレイドボス・連型において、非常に珍しいボスである。
『看破』の直後から、〈セラフィム〉が動き出す。
『『『『聖域を侵すものを排除します』』』』
「声が聞こえたわ!」
「来るぞ! シエラ、シャロン、フィナ、トモヨ!」
こいつも喋るボス。喋ると言っても会話機能は無く、ただ機械のように喋る感じ。
天使の4体が同時に片手をこちらに向けたのでタンクに指示をだす。
「『アブソープション・ワン・フォートレス』!」
「『ゴッドオリハルコンランパート』!」
「『天域大結界』!」
「『主の盾』!」
戦闘は〈セラフィム〉の四連爆発魔法の発射から始まった。
手から発射される極太の炎はタンクの盾にぶつかると激しい爆発を起こす。それが四連撃である。
「くっ!」
「きゃあ、ちょ、何これ、ほとんど半壊してるんだけど!」
「くっ、飛んでたら、吹き飛ばされてました」
「これ、吹き飛ばし効果が凄いよ!」
攻撃を受け止めたシエラ、シャロン、フィナ、トモヨの言葉に再度みんなが気を引き締めたのを感じた。
見ればシャロンのオリハルコンの城壁は半壊、フィナの大結界は破壊され、シエラとトモヨのスキルにも少し破損が見えるほどの威力である。これに強力な吹き飛ばし効果まで加わっているのだから第一形態の初手からもう威力がヤバい。
「反撃を撃ち込め!」
『防御を展開します』
「な、あれ、盾!?」
「私の盾にそっくり!?」
するとなんと1体の〈セラフィム〉が大きな盾を顕現させる、その姿は、トモヨの『主の盾』にそっくりだった。つまり。
「反射が来るぞ!」
「みんな避けて!」
トモヨの『主の盾』は反射持ち。
当然のように撃ち込んだ攻撃が、こっちに返ってきたのだ。
「あ!? あれって、バフ!?」
『バフで強化します』
『感謝。パワー2倍。発射』
「ちょ!?」
なんと今度は盾を出したのと違う個体、仮にBとしよう、それがCにバフを与えたのだ。2倍のパワーって中々のバフだ。とはいえ単体なのでうちのノエルほどではない。うちのノエルは3倍だぞ! おっとそんなことを言っている場合じゃ無かった。
「フィナ、天秤を!」
「はい! 『天秤の行方』!」
「カタリナ防御だ! 」
「はい! 『七重奏大結界』ですわ!」
『天秤の行方』はバフとデバフを反転させるスキル。
フィナが天秤を前に出すと、右に傾いていたものが左に傾いた。
その瞬間、ボスのバフが反転、デバフになって火力を2分の1に落とした。なんで倍マイナスではなく2分の1かは開発陣に聞いてくれ。
さっきよりも強力な爆炎発射か、と思われたが、手から出たのはちょっとした火炎放射。
カタリナは敢えて〈五ツリ〉で受けたな。〈五ツリ〉でもオーバー防御だったようだ。
しかし、攻撃が終われば相手のデバフも消える。
「やはり今のは『ハイテンションエール』みたいな一度だけ威力を2倍にするスキルみたいだな!」
「連携!? このレイドボス連型、連携しているの!?」
「しかも見たことのあるスキルを使ってくるんだよ!?」
トモヨとノエルが目を丸くして叫ぶ。
そりゃ自分たちと同じスキルを使ってこられたら驚くだろう。
しかも、自分たちの奥義レベルの強力なスキルばかり使っているのだ。それは〈猫界ダン〉の最奥レイドボス、〈巨神猫・ブレイブ・ベヒモス〉を思い出す光景。つまり、〈聖界ダン〉の最奥レイドボスも同じということ。実はさっきの2倍バフは【ミカエル】のスキルだったりする。ノエルのバフが優秀なのでフィナには覚えさせて居なかったが、これでなんとなく分かっただろう。
そうこいつらはうちの「天使」たちのスキルを使用できるのだ。本来ゲームなら1人しか加入させられない「天使」を4体とか……マジ最上級ダンジョンの最奥レイドボスが強すぎる!
とはいえだ。
それらのスキルは知っている。むしろ使い手である俺たちが一番よく分かってるまである。
「焦るな! 確かに相手が強力なスキルを使ってきてはいるが、それは俺たちの方がよく知っているだろう!」
「あ! うん、そうだったね!」
「あれは『グローリーバニッシュ』ですか。確かに私のスキルです」
「うん。私もなんとなく分かった。あれは【ウリエル】のスキルを使ってる」
「わわわ、回復魔法まで使っちゃうんですか!? レイドボスが連携して回復魔法まで使い出しちゃダメですぅ!」
ハッとする天使組。
〈巨神猫・ブレイブ・ベヒモス〉の時との違いは、そのスキルをこっち側のメンバーもみんなが知っているという部分だろう。
それからも〈セラフィム〉はどこかで見たことのあるスキルを使いまくり、攻撃は基本〈火魔法〉。
さらに盾を出し、バフを味方に与え、魔法攻撃し、回復する、という連携を繰り返した。
こちらはというと。
「アイギス、まだいけるか!?」
「もちろんです! ――いきますよゼニス。『人竜一体』! 『神飛・ドラゴンオーバーストライク』!」
「クワァ!」
炎をものともせずに突っ込むのはアイギスだ。
アイギスはその防具により〈火属性〉のダメージを100%カットできる。
これを活かし、まずは回復魔法を使ってくる〈セラフィム〉を集中的に攻撃して狩ることにしたのだ。
もちろん〈Bセラフィム〉や、〈Aセラフィム〉も職業スキルしか使わないわけじゃなく、剣や〈火属性〉魔法で反撃してくるが、これは他のタンクが受け持って、攻撃は全て〈Dセラフィム〉に集中させる。
〈Cセラフィム〉は物理専門と言わんばかりに両手の二刀流で好き勝手暴れていたため、こちらはタンクとサブタンク4人掛かりで凌いだ。
「やはり、〈セラフィム〉は個体ごとに特性が分かれています!」
「その特性を活かした連携をしてくるということね! やるじゃないの!」
〈セラフィム〉たちはレイドボス連型の特性通り、HPを分けていたのでまず〈Dセラフィム〉から撃破。しかし。
「1体目、動きません!」
「沈黙してるデスが、光にならないデース!」
「動かないならそれでいい。他の〈セラフィム〉のHPを削るぞ!」
撃破された〈セラフィム〉は光に還らず、そのまま地面に膝を突いて沈黙するだけだ。
だが、それでいい。
その後、厄介な〈Bセラフィム〉、好戦的な〈Cセラフィム〉を撃破し、最後に最も硬い〈Aセラフィム〉を下して第一形態がまず終了する。
「これは!?」
「ちょー、復活しちゃったんだけど!?」
「さらには大量の天使まで来ちゃったですのー!?」
続いては第二形態。
4体の〈セラフィム〉が復活し空を飛び、光に包まれると、今度は無数の配下たちを連れて登場した。




