#1898 〈エデンの園〉を守りしは〈智天使・ケルビム〉
「ここがレイドボスのフィールド?」
「なんでしょう、とても神秘的な雰囲気です」
「ここは地面が草原なのね。60層の聖域と同じような場所?」
「大きな樹が2本生えているのです!」
「さっきと同じ樹~? でもこっちは実がないね~」
60.5層、レイドボスのボス部屋。
そこは60層の聖域とほぼ同じ作りだった。
雲の地面では無く草原の足場。どこまでも続いていそうな、広々とした自由を思わせるそんな風景が広がっていた。
奥には泉のようなものもあり、そこから伸びる4本の川、泉の対岸には2本だけ大きな樹が鎮座している。
「まさに、〈エデンの園〉という光景だな」
「? ゼフィルス何か言った?」
「いや、なんでもないさ。それより準備だ。ここのボスは、〈座天使・ソロネ〉よりもきっと手強いぞ」
「分かってるわ!」
思わずポロリと言葉が出る。
俺のギルド名〈エデン〉のモデルになった楽園。〈エデンの園〉。
ここは〈エデンの園〉がモチーフにされたボスフィールドなのだ。
すると当然そのボスも――〈エデンの園〉を守る、あの天使である。
「! 来ました、上です!」
「なにあれ、赤子?」
「赤子がたくさんの翼の鎧を纏っている、のでしょうか?」
「『看破』です。あのボスの名は――〈智天使・ケルビム〉です!」
そう、〈エデンの園〉を守る存在と言えば、天使ヒエラルキーで上から2番目、〈智天使・ケルビム〉が有名だ。
いや逆だな、ここには〈智天使・ケルビム〉が登場するから〈エデンの園〉がイメージされたんだ。
〈智天使〉は上位天使の上から2番目。ちなみに上から3番目が〈座天使〉なので、〈座天使〉の次は〈智天使〉のレイドボスという配置になっている。
最上級ダンジョンの天使系レイドボスは、上位天使たちが配置されているというわけだ。
ちなみに余談だが、〈ダン活〉では9の天使階級のうち、3つの下位天使が上級中位ダンジョンから登場するようになり、上級上位ダンジョンで3つの中位天使、最上級ダンジョンで3つの上位天使が登場するぞ。〈教会ダン〉に登場した〈能天使〉は中位天使だったしな。
さあ、いよいよ上から2番目のヒエラルキーである智天使級が登場だ。
改めて〈智天使・ケルビム〉を見る。
リーナが困惑しながら言ったように、その姿は翼の塊。その中央に目を瞑った赤子の顔だけがあるという、繭を思わせる状態で降臨してきたんだ。
「あれは繭のようだな」
「! ということは、形態が変化するごとに翼が開き、本来の姿になるということでしょうか?」
「おそらくそうだろう。まずはこの形態から倒さなくちゃならない。さあまずは攻撃パターンを探るぞ!」
「はい!」
リーナと軽く打ち合わせしているうちに〈智天使・ケルビム〉が動き出す。
翼が繭のように閉じているくせに宙に浮かび、そのままスライドするようにゆっくりと前へ出てくる〈智天使・ケルビム〉。その大きさは第一形態で縦に30メートル級。やはりレイドボスだという大きさだった。
「カッ!」
「シエラ! フィナ! トモヨ! モニカ! 防御!」
「『アブソープション・ワン・フォートレス』!」
「『天域大結界』!
「『主の盾』!」
「『大強欲吸覇城占盾』!」
初手、赤子が目を瞑ったまま口を少し開けると、5メートル級の光球が〈ケルビム〉の周りに浮かぶ。俺が指示を出して先頭のタンク4人が防御スキルを展開すると、その光球からビームが発射された。
「きゃ!」
「大丈夫です、崩れません!」
しかしこれは全てシエラたちが防御成功。
ズドンズドンズドドドドドンと凄まじい余波が俺たちを襲うが、すでに俺たちのLVは全員が90だ。
ステータス的にもほとんど完成が近く、普通の魔法攻撃くらいならばこの通り軽く防ぐことが可能だ。
〈座天使・ソロネ〉のあの直滑降攻撃はもちろん特殊な部類なのでノーカンだけどな。
「タンクはヘイトを取って!」
「『たぬたぬポン』! 『たぬきだまし』!」
「『電鈴』!」
「『特大打ち上げ花火』!」
「カッ!」
「魔法攻撃、来ますわ!」
「タンク防御! ラクリッテ、ロゼッタ、シャロン!」
「ポン! 素晴らしき盾よ、皆を守れ――『グロリアスブクリエ』!」
「『シールドレギオン・パラディオン』!」
「いくよ――『ゴッドオリハルコンランパート』!」
まずは定石から。
レイドボスの攻撃はタンクでも受けるのがキツい。故にアタッカーにタゲを取らせるわけにはいかない。
タンクがヘイトを上げてタゲを取り、アタッカーやヒーラーをかばう。
「ノエル、バフ頼むぜ! オリヒメさんはデバフを!」
「テンション上げちゃうよ~! 『プリンセスアイドルライブ』!」
「お任せください――『絶対氷結』!」
その間にノエルがバフを全体に浸透させ、オリヒメさんが遠距離デバフを〈智天使・ケルビム〉に掛けていった。『絶対氷結』は〈氷結〉状態と防御力の特大デバフにする状態異常の〈五ツリ〉魔法。かなり成功率が高いが、レイドボス相手では〈氷結〉は掛からなかった。とはいえ、防御力デバフだけでも十分。しかし。
「な! デバフを回復されました!」
「な、なにぃ~!? じゃああたいの攻撃も回復されちまうってことかよ!?」
キキョウの叫びにゼルレカも悲鳴を上げる。
そう〈ケルビム〉はまさかのデバフ回復スキルをもっているのだ。
さらに〈ケルビム〉の身体が光る。あれも知っているぞ。
「ラナ、ユニーク!」
「へ? あ、ああ! 『光守られし聖なる奇跡』!」
「カッ!」
おっとギリギリセーフ。〈ケルビム〉が光の波動のようなものをフィールド全体に放つが、どこにも異常は見られない。
「え? 今の、もしかしてバフ打ち消し!?」
「だな! デバフ回復を持ってたからラナにユニーク使ってもらって正解だった!」
ということにしておく。
バフ打ち消しは高位のボスがしてくるとんでもスキル。そして、ラナのユニークスキルはそれを無効化してしまうのだ。
デバフは仕方ないが、バフは消させないぜ?
「ゼルレカ! デバフを回復されても良い! それで行動を1つ強制させることができる! いつも通りデバフを連打してくれ!」
「あいよ! 『怠慢と堕落の剣』! 『惰性と堕弱の一撃』!」
デバフ回復は残念だが、回復されるなら回復されるでやり方がある。
回復する行動に1手使わせることで、それだけ隙ができるのだ。回復というのは隙が多い行動だからな。
「カッ!」
「アタッカー攻撃! 『インフィニティ・バニッシュセイバー』!」
「おー! 『雷神竜・インフィニティ』!」
「私も続くですの――『エターナルフロスト』!」
「カッ!」
〈智天使・ケルビム〉の第一形態は攻撃パターンは非常に単純。
攻撃魔法、回復魔法、バフ打ち消しの3つだ。
もちろん攻撃魔法の破壊力は非常に高く、一度攻撃を放てば俺たちの身体よりも大きな極太ビームが降り注ぎ、時に全体攻撃として周囲が光に包まれ大ダメージを負うこともある。
ここはヒーラーの出番だな。
「全体攻撃ですわ! 防御姿勢!」
「ぎゃー! ぼくのHPが4割も吹っ飛んだー!?」
「回復するよ! 『奥義・神使特大回復儀式』!」
「全回復に加えて最大HPが300以上増えた! これでぼくも戦える!」
「ニコちゃんがやる気に!」
「私たちもいくよ!」
「せーの!」
「「「『三柱神授神器・ジャストメイトジャッジメント』!」」」
やられなければ回復は容易い。ニーコのような比較的薄い装甲でも全体攻撃は耐えられるので、あとはヒーラーが回復すれば元通りだ。いや、HPの上限を上げたので元通り以上だな。これでよりやられにくくなったぜ。
だが、問題も多い。
「カンザシとモミジがやられちゃった!?」
「召喚系は全体攻撃をされると厄介ですね。もう一度召喚します――『六精霊全召喚』!」
特に召喚系は全体攻撃に弱いので、結構やられてしまう。
それでもクールタイムが終われば呼び戻せるのが召喚系の使い勝手の良いところだな。
「リーちゃんはどんどん回復! チーちゃんは防御しまくって! やられたら復活が面倒なんだからね! 『モンスターエクスヒール』!」
逆にフラーミナみたいなテイム系は、やられると〈御霊石〉になってしまうのでやっかい。そのためフラーミナは〈最高位天精霊・フェアリエル〉に最終進化した元ハイフェアリーのリーちゃんをヒーラーにして立ち回り、〈アルティメット心折モチッコ〉のチーちゃんにリーちゃんを守らせていた。
チーちゃんの上に乗って回復を飛ばすリーちゃんが、見た目モチッコナイトに見える不思議。
そして攻撃させるのはフラーミナの3体目にして主力の1体。
「いっけーヒーちゃん! 〈ヤマタノオロチ〉の力を見せてー! 『我が軍勢よ。蹂躙せよ』!」
「「「「ゴオオオオオオオオオオ!」」」」
そう、〈ヒュドラ〉→〈オロチ〉ときて、ついにヒーちゃんが〈ヤマタノオロチ〉に最終進化を遂げていた。
8つの首から発射される青い炎の火炎放射がかなりかっこいい。
「ゼニス、上から叩きます! アルテいきますよ――『ドラゴンラッシュ・エクスランスレイン』!」
「クワァ!」
「ちょ、私ヒーラーなんだけど! ええい、行くよワダラン! 『クリティカルスマッシュ』!」
上空では2体の竜種が〈ケルビム〉を攻撃。
アイギスとアルテもフラーミナと同じテイムモンスターだが、そのHPは騎乗している騎士が引き継ぐため、ゼニスやワダランへの攻撃は全てアイギスとアルテが引き受け、ゼニスとワダランへのダメージはゼロである。
「はい、アイギス姉さま回復! 『聖獣の手助けオールヒール』!」
「助かりますアルテ」
「はいはい!」
そしてアイギスのHPを回復させるのがアルテの役目でもある。
ヒーラーは至る所に配置してあるのだ。
代わりにアルテを守るのはアイギスだな。アイギスもかなりの防御スキルを持ってる。
「カ…………」
「よし、1つ目のHPバーを削りきったぞ!」
ここで第一形態終了。
繭の中に目を瞑った赤子の顔が引っ込むと形態が変化していき、今度は10歳くらいの少年の顔がこんにちはした。
さらに繭を形成する複数の翼のうち6枚が開かれ、人型へと姿を変えていったのだ。




