#206 金箱確定アイテム現る!俺がそのボスを狩ろう
〈ダン活〉にはとてもとてもロマン溢れるアイテムが多数存在する。
今回はその中の1つを紹介する。
その名も〈金当タ〜ル(○級)〉。
効果はそのまま「使用したボスの宝箱を〈金箱〉にする」だ。
つまり〈金箱〉確定アイテムである。当然ながら使い捨て。
本来なら〈銀箱〉産でドロップする激レアアイテムであり、〈初級〉〈中級〉〈上級〉〈最上級〉の4つの種類が存在する。ダンジョンの等級毎に使える〈等級〉が違うということだな。
例えば初級ダンジョンで使いたいなら〈金当タ〜ル(初級)〉を使わないと効果が現れない。
そんな激レアアイテムを、運良くツモってしまった二年生のパーティは貸切のダンジョンに突入。
そして運悪くレアボスに遭遇してしまうも、これの〈金箱〉産を想像してしまい、目をミールにして〈金当タ〜ル(初級)〉を使ってしまったらしい。
そして結果、惨敗。
目に涙を浮かべながら〈救護委員会〉に運ばれて戻ってくるも諦めきれず、こうして門の前で騒いでいたそうだ。
補足すると、同じ日に同じ敵で〈救護報告〉を放った場合、学園側からペナルティが科せられる。クエストポイントの罰金などだな。
それも彼らが二の足を踏んでいた理由だ。
ちなみに、レアボスは倒されない限り消えないのだから当然〈金当タ~ル(初級)〉の効果もそのままだ。
つまり、今突撃して倒せば棚ボタ式に〈金箱〉をゲットできるという寸法。
素晴らしい。是非突入しよう! その排除、俺に任せてくれ! なぁに先輩たちから報酬は取らないさ! 俺って良心的だぁ。
ということで早速話を持ち帰ってパーティに相談した。先輩たちはガクンと膝を突いていたけど気にしない。
「というわけでこれから〈毒茸の岩洞ダンジョン〉のレアボス討伐に出撃することになった」
「なんでそんな事になったのかとか、明日からの準備をどうするのかとか、もう17時過ぎなのにこれから突入して何時まで掛かると思っているのかとか、色々言いたいことは多くあるけど、とりあえずゼフィルス」
「おう、なんだシエラ」
「……決めてしまったのなら、いいわ。頑張ってきなさい」
「すっごいジト目!」
あと、何気に私は手伝わない的なニュアンスが含まれてる! 勝手に決めてごめんなさい!
「何よ、そんな事勝手に決めて、すごく楽しそうじゃない! 私も参加するわ! レアボスの〈金箱〉は私の物よ!」
「ラナ殿下、明日の準備は良いのかしら? エステルたちとの約束もあったはずだけど」
「そんな事より大切な事があると思うの!」
なんて欲望に忠実なんだラナ。そして俺も大賛成である。俺も欲望に忠実でありたい。
「シエラもジトってないで参加しようぜ! レアボスの〈金箱〉だぜ!?」
「…………む…」
おおっとシエラが悩んでおります。シエラは元々無い時間を空けて今日のパーティに参加してくれたのだ。本当なら無理強いは出来ないが、ここでじゃあバイバイも違うと思うので全力で誘う。シエラだって本当はレアボスをやりたいはずなのだ。最後の〈サボテンカウボーイ〉を倒したときの一言を、俺は忘れてはいない。
それに安心してほしい。悩みを一部解消するための助っ人を呼んである。
どうやら到着したみたいだ。
「お待たせいたしましたゼフィルス殿。ただいま戻りました」
「良いタイミングだエステル!」
向こう側のパーティもちょうどボス周回を切り上げるところだったらしい。
〈学生手帳〉のチャット機能でそれを確認した俺はすぐにエステルに協力を仰いでいた。他の5人はもう一度ボスに挑むらしく、エステルは一足先に帰還して今に到る。
〈乗り物〉を使って最短距離をぶっとばせば最奥まで20分も掛からないだろう。
18時には余裕で帰ってこられるはずだ。
そう熱く説明するとシエラがキョトンとした顔でエステルに向く。
「……本当にそんなに速いの?」
「シエラ様にはお見せしたことがありませんでしたね。凄まじく速いですよ。ゼフィルス殿の言うことにも偽りはないかと」
「……そう。18時までに戻ってこられるなら、まあ、いいかしら」
よっし、シエラ陥落だ。
「エステル! 私も行きたいわ!」
「ええラナ様。一緒に行きましょう」
「ねえエステル、あなた最近ラナ殿下に甘過ぎじゃないかしら? 何かやる事があったのではないの?」
「と、時にはアメも必要かと。明日からは学業ですし、遊ぶ時間も限られてしまって可哀想ではありませんか」
「………そうね。1時間だけだものね」
エステルのダダ甘発言にとっても悩ましそうな顔をしたシエラだったが1時間だけという言葉をひねり出してなんとか自分を納得させていた。
とりあえずこれで4人確保だ。あと1人、誰にするか。
「私、付いて行っていい、ゼフィルス?」
「カルア?」
そこに手を挙げたのは意外にもカルアだった。
ずっとリカと共に事の成り行きを見守っていた彼女、普段自己主張はほとんど無いのにどうしたというのか。
「ん。なんだろう? なんだか行かなくちゃいけない気がした」
「ふむ?」
カルア自身、なぜ立候補したのか分かっていないようだった。
強いて言えば勘、か? そういえばカルアは俺と同じく『直感』持ちだったな。
ゲーム時代では『直感』に虫の知らせ的な効果は無かったはずだが、俺も割と日常生活中に勘が冴える時がある。
もしかしたら何かの前触れを察知したのかもしれないな。
カルアは横に立つリカに視線を向けた。その視線は行っていいと聞いているかのようだ。どうやらいつも一緒のリカを置いていくのに抵抗があるらしい。
リカもそれを分かっているのかフフっと笑って言う。
「かまわない。今日は十分楽しませてもらったし、今回はカルアに譲るとしよう」
「いいの?」
「ああ。その代わり次同じ事があった場合は譲ってほしいかな」
「ん、約束する。ありがと、リカ」
リカが譲ってくれたので残り一人はカルアに決定した。
「じゃあ、早速出発しよう。早く行って早く帰ってくるんだ。〈金箱〉が俺たちを待っているぞ!」
「楽しみね! リカ、行ってくるわ!」
「ええ、殿下たちもお気を付けて」
リカに見送られ、俺たちは急ぎ足でダンジョンに通じる門を潜った。
授業免除最終日はもうちょっと続くようだ。