#1893 ハンナが居なくなるとか無理だから面接して!
「ハンナ、後輩に良い子はいないかしら?」
「良い子ですか? みんな良い子ですよ?」
「そういうことじゃないのよ」
「つまり、みんな引き入れてしまえと、ハンナはそう言っているのか」
「あれ? そういうことなのかしら? なんだか分かんなくなってきちゃったわ」
ラナがハンナとの高度な会話に目を回し始めた。いや、ハンナは多分そこまで考えての台詞じゃなかったのだろうが、俺がついラナをからかいたくなったのがいけなかったか。
「どうしたのゼフィルス君?」
「おう。実はな?」
まずは情報共有、ハンナに今の俺とラナの危機感を共有してもらう。
ハンナの後任がどうしても必要なのだ。
そこにアルストリアさんとシレイアさんが加わる。
「ハンナさんの後任ですか。個人には無理ではないでしょうか?」
「わ、私たち2人でもハンナ様には追いつけません!」
「いえいえ!? アルストリアさんとシレイアさんが組めば私よりも生産効率良くなると思いますよ!?」
「生産は追いつけても質が……」
「その質を維持しつつ大量の製品を量産するのは2人でも不可能、です」
「えっと……」
アルストリアさんとシレイアさんが2人掛かりでも敵わないと言われ、助けを求める目でこっちを見るハンナ。俺はそれに満足げにうんうんと頷くのだ。
伊達に最初の一歩からハンナを育ててきていない。
「SP振りのほんのちょっとの差がかなりの影響力を生み出す、それが【アルケミーマイスター】だ。LV10のスキル、LV5のスキル、その数が物を言うんだ」
「はい。とても実感しておりますわ。一度離されたら二度と追いつけませんもの」
「さすがハンナ様、です!」
「それは2人が別の方向に特化しているからだよ!?」
うむ。アルストリアさんは武器へのスキル付与なんかが得意、シレイアさんは〈爆弾〉系のアイテム作りが得意になる方向にSPを振っているため、ハンナとはそれなりの差が開いている。そりゃハンナが得意の薬の質に追いつけんわ!
俺は職業スキルをメインに戦術を組む派なので、ハンナにはスキルを使うために必要なMPのポーション作りに特化した俺好みの方向に育成してもらっているのだ。いや、どちらかというと【アルケミーマイスター】の最強の方向に俺が方針を合わせたと言った方が正確かもしれない。
そりゃハンナとシナジーを発揮する訳だな。
つまり、ハンナのようなSP振りをしている【錬金術師】で、今後もハンナの育成をなぞるようにSPを振ってくれる子を募集したいと、そう言うわけである。
「それは、結構簡単かもしれませんわね」
「そうなの?」
アルストリアさんが少し考えるポーズを取りつつも、全く深刻そうじゃない感じに言うと、すぐにラナが反応した。
王女に話しかけられてアルストリアさんがちょっとビビる。
「えっと、はい。ハンナさんは今や全〈錬金術課〉学生の憧れの的でして……」
「ハンナ様効果で今年の1年生は10クラスにもなっているんでしゅ!」
アルストリアさんの言葉の続きをシレイアさんが継ぐ。シレイアさん、ハンナの話題になると凄い生き生きしてるな!
なお、当人のハンナは俺と一緒に傍観者側みたいな位置にいるよ。ほぇっとしてる。まるで初めて知ったと言わんばかりだ。
「10クラスって、それは凄いわね! そっか、ハンナもそんなに有名なのね。なんだか私まで嬉しくなってくるわ!」
「分かっていただけましゅか!」
ちなみにハンナの時は〈錬金術課〉は1クラスしかなかった。それが2年で10倍に増えたと言えば人気振りが分かるな。
あと、シレイアさんが同志を得たように生き生きしてる。
「というわけで、ハンナさんのようになりたい学生というのはとても多いのですわ。今の時期では二段階目ツリーを開放したか否か、というところでしょうからSPも『錬金』と『調合』にしか振っていない子も多いでしょうし、ハンナさんの後任は十分見つかると思われますわ」
「さすがはアルストリアさん、素晴らしい情報だ。ハンナが一番頼りにしていると言っていただけある」
「はえ?」
「言ってないよ!? 言ってないからねシレイアさん!?」
ポロッと漏らしてしまった俺の言葉にシレイアさんが「はえ?」ってしまった。
ちなみにハンナはしっかり言っていたぞ。1年生の頃だったけど。
シレイアさん、すまん。
「えっと、では早速探してみましょうか?」
「頼めるかアルストリアさん?」
「承知いたしましたわ。では近いうちに声を掛けておきますわ」
「了解だ。こっちも採用と育成の準備を進めておくぜ。ちなみにだが、ハンナと同じ仕事をするには何人くらい必要だ?」
「そうですわね……休みなどのローテーションや、体調面などを考慮して、最低5人は育成しておいた方がリスクは少ないと思いますわ。とはいえ、数は多ければ多いほど良いですわね」
「了解だ。助かる。……というか、ハンナは一流の仕事を5人分こなしているのか……」
「どうでしょう? 一昔前の錬金術師なら100人分の仕事くらいこなしているのではないでしょうか? 学園全体をカバーしてますし」
なんだかアルストリアさんの言った桁が想像の2つくらい違ったんだけど?
そうか、少し前まで錬金術師の一流って、下級職カンストだったもんな。今のハンナは上級職のLV87である。一流の人が100人束で掛かっても勝てるかは分からない。
後任の育成が急がれるな。
「こりゃ、〈アークアルカディア〉に採用する子だけじゃ手が足りないかもしれないな」
「こればかりは時間を掛けて増やして行くしかないですわね。そもそも、この問題は学園長先生がなんとかすべき案件ですし」
「あ、確かにそうか。俺たちは〈エデン店〉と〈エデン〉〈エースシャングリラ〉のダンジョン攻略に必要な消耗品の作製だけに目を向ければよかったんだったな」
ハンナがいなくなると都市の機能が麻痺するかもしれないと聞いて少し変な方向に行きかけたんだぜ。だが、これで方針は決まったな。
「ハンナ」
「う、うん」
「とうとうハンナも後輩を育てるときが来た。というか育ててくれ」
「わ、わかったよ。でも私にできるかなぁ」
「そこはアルストリアさんとシレイアさんにも頼むと良いさ。みんなで一緒に考えて後輩を育てる。きっとその経験もハンナの力になるはずだ」
「うん! 頑張ってみるよ!」
ハンナも今の話を聞いたからか、前から思っていたのか、後輩を育てることに前向きな姿勢だな。もしかしたら〈生徒会〉でもそういう議題が上がっていたのかもしれない。
結構スムーズに話は決まった。学園長にも〈エデン店〉のセラミロ店長代理を通じて今の話を報告しておいたよ。きっと対策を講じてくれるだろう。
◇
「そんなことになっていたのね」
「確かに、〈エースシャングリラ〉だけではなく、〈アークアルカディア〉の後輩も必要ですわね。特にハンナさんの後任がいないと、その、次代が立ち行かなくなりますわ」
翌朝、シエラたちにこの話をすると、それはそれは深く同意してくれた。
リーナの話を側で聞いていたノーアなんか震えている。
「ハンナさん抜きの最上級ダンジョンは無理ですわ!」
「はい。今はハンナ様のポーションを使って十全にスキルを回せて戦えておりますが、これがなくなるとなると……」
次代の代表とも言えるノーアとクラリスの発言がこれだ。
あのノーアがはっきり無理と言うくらいには、ハンナのポーションが必要不可欠だというのが分かるな。
「そういうわけで、来週辺り〈アークアルカディア〉への加入面接をすることにしたから」
「了解よ」
「ノーアさんも安心してくださいな。ゼフィルスさんなら何とかいたしますわ。わたくしたちは今は目の前の〈聖界ダン〉攻略に力を注ぎますわよ!」
「「おおー!」」
実は今も〈聖界ダン〉攻略の真っ最中だったりする。
まあ、〈聖界ダン〉は相手の聖域というか、境界を越えなければモンスターは襲ってこないので、それまでの間、こうして情報交換などに勤しむことができるのだ。
11層ではなんと聖域が2つになる。
何を言っているのか分からないかもしれないが、〈教会ダン〉も階層を進む度に教会自体が増えていったので、その延長だな。
10層まではチュートリアル。11層からが本番ということだ。
いきなり2倍。階層門は片方が偽物で、もう片方が本物なのだが、〈教会ダン〉の時同様、隠されていて発見するまで本物かどうか分からない。
故に11層ではどのみち両方の聖域を制圧して、このギミックの正体を暴かなくちゃいけないわけだな。
「まずは片方の聖域に全員で仕掛ける! 〈教会ダン〉に近いなら、もう片方の聖域から援軍が来る可能性が高いから、十分気をつけながら作戦通りいくぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
もうここまでくればダンジョンの特性なんかも大体みんな分かっている。
片方に攻め込んだらもう片方が援軍に来るんだろ?
そして片方に攻め込んだ結果、やっぱり援軍は来た。
俺たちは両方の聖域を制圧した。




