#1888 まずは検証!雲の上は歩ける?戦車は動く?
「ここが、〈聖界ダン〉……」
「雲の上なのです!」
「地面がふわふわなの!」
「これは! ――みなさん、すぐに足場のチェックを! いつも通り動けるか確認するのですわ! エステルさんは〈足特装型戦車〉装備に換装してみてくださいまし!」
「! 了解です!」
そこはまるで雲の上の聖域。
足場は完全に雲で、触ってみるとふわふわのモコモコだった。ちゃんと実体があるし、足が埋まったり、落っこちることもない。まさに神の御業といえるダンジョン。
やべぇ、今俺本当に雲の上に乗ってるよ。
なんだか小さい頃に夢見た何かが叶った気分でテンションが一気に上がっていく。
しかし、なんだろうこの雲の足場? ふわふわモコモコなのにトランポリンのような弾みがあるわけではなく、低反発のようにやや沈む感じなのだが、動くのには支障が無い感じ。実に不思議な感触だ。
「〈足特装型戦車〉問題ありません、普通に走行可能です」
「こっちの〈シャインブレイカー号〉はダメですね。動きません」
「〈ブオール〉は動きますよ」
「なるほど〈戦車〉は動くみたいですわね。では――」
リーナはこの不思議地面を早速調べ始めて、エステル、アイギス、ロゼッタが〈乗り物〉による走行チェックを開始していた。
エステルの足に装備された〈足特装型戦車〉はこのモコモコな足場でも普通に走行可能な様子。実に不思議だな。
だがアイギスの出した〈からくり馬車〉、〈シャインブレイカー号〉はピクリとも動かない。機械ウマががんばって引っ張っているのに欠片も動かないな。アイギスしか乗っていないのに。……あ、アイギスが機械ウマの手綱を――これは見なかったことにしよう。
ロゼッタの〈ブオール〉は普通に動く。
走行にも問題無いようで、雲の上を走る蒸気機関車という非常にレアな映像が生まれていた。これは撮らなくてはなるまい! パシャパシャ。
「ジャンプでポップでポヨヨーンなのです!」
「ルルお姉ちゃんすごーい!? アリス、そんなに高く跳べないよ!?」
「いや、マネしないでいいですよアリス。あれは多分、地面関係無いですから」
「おう。あれは普通にルル先輩の身体能力でジャンプしているだけだな」
「というかこの地面で良くあそこまで飛び上がれるでやがりますね……」
別の場所ではルルがこの地面をトランポリンと勘違いしていた。
いや、アリスもがんばって飛び跳ねようとしている。これもレア画像だ。パシャパシャ。
ふう、キキョウ、ゼルレカ、モニカに止められる前にスクショが撮れて良かったぜ。ちなみにシェリアは近くでエリサに介抱されているよ。
「すっごいわ。なんだか王宮にある絵を思い出すわね! 私、なんだか絵の中に入り込んだ気分だわ」
「とっても分かるデス、ラナ殿下のお気持ち。私も雲の上を駆けてみるのが夢だったのデース!」
「気をつけてくださいパメラ。これは雲なのですから。いきなり足場が――なんてことがあるかもしれませんよ」
「シズはおっかないこと言わないでくださいデース!?」
こちらではラナがキラキラ感動の表情で楽しんでいた。
きっとゲーム世界に迷い込んだあの時の俺と似たような心地なのだろう。絵の中に入り込む、誰もが1度は夢見る光景が、今ここにあるのだ。感動もひとしおだろうな。
シズのように現実的な人もいるようだが。
「ね、ねえ勇者君? 大丈夫かい? 本当に大丈夫なのかい? もし落っこちた時、人は空を飛んでリカバリーすることは、基本できないのだよ!?」
「だからって私にくっついてたらモンスターに狙われちゃうよニーコちゃん?」
「お、ニーコにトモヨか。確かに万が一があったとき飛べるメンバーに掴まっているというのは有効な手段だな」
俺に声を掛けてきたのはトモヨに抱きつくニーコだった。
トモヨはギルドメンバーの中でもかなり鎧率が高い方なので、とても硬い。
しかし、鎧の隙間は掴みやすいらしく、トモヨが一番くっつきやすいとか無駄に効率の良いことを模索しているニーコである。
「ま、おそらく落ちることはないだろうから安心していいぞニーコ。俺の『直感』も反応しないしな」
「勇者君の『直感』っていまいち信用できないんだよ……」
失敬な。『直感』さんは心強い味方だぞ! 最近は大活躍だったんだ。半分くらい「なるようにしかならん」と言っていたような気もするが。
「まあ、ほらあっちを見てみろ。シャロンとカルアが早速猫津波を解き放って検証しているが、猫が落っこちる様子は無い。この雲は、雲に見えるだけの足場で実際の雲じゃないぞ」
「ほ、本当かい?」
ふむ、まさか最初の足場で動けなくなるメンバーがいるとは。
いや、雲の上を歩くとか非現実すぎて現実主義のシズやニーコだと受け入れ難いのかもしれないな。
コレばっかりは慣れてもらうしかない。
ちなみに〈猫界ダン〉で手に入れた〈猫津波の召喚盤〉はシャロンが持つことになっていて、おかげでこういう罠の発見などに駆り出されることも増えてきていたりする。カルアの場合は自前の猫軍団『エージェント・レイド・クロネコ』だ。
2つの猫津波が雲の上を走りながら遠ざかっていく姿は、なかなかにファンタジーな光景だったんだぜ。
「ゼフィルスさん、ある程度足場の実態が分かりましたわ」
「早いなリーナ!? そうか、リーナも現実主義だもんな」
「? 結果から言いまして、この地面は雲っぽい何かです。雲じゃないのだと思いますわ」
「それは本当かねリーナ君!」
「こんな格好で失礼するねリーナさん」
「え、ええ。ですからニーコさんもトモヨさんに掴まらなくても大丈夫ですわ」
「……ふう。リーナ君の言うことなら安心できるね」
「あれ? ニーコ?」
俺の言うことには心動かされなかったのに、リーナの言葉でトモヨから手を離したぞニーコのやつ。
スコップを取り出してみよう。ニーコを見つめながら。
「!? 勇者君、なにを唐突にスコップなんか取り出しているのかね!? や、止めるのだ! それで何をしようというのかね!? まさか、地面を――」
ふう。満足。
「ニーコをからかうの止めなさいよゼフィルス」
「お、シエラ。天使の様子は?」
気が付けば、救済場所の境界線に立ち、警戒していたはずのシエラがこっちに来ていた。
しかも盛大なジト目を向けてくれている。やったぜ!
「はぁ。……向こうに動きはないわ。猫が近づくと斬られるから、きっと一定距離に近づかないと反撃してこないタイプね。侵入者を撃退していた〈聖ダン〉や〈教会ダン〉と同じだわ」
そう言って奥を見るシエラの視線を追う。
そこにあったのは、なんで雲からそんな立派な木が生えているの? と思わず口に出てしまいそうな巨樹。
幾何学模様のリングが巨樹を取り囲むように浮遊しており、そしてその周りには巨樹を守るようにして数多くの天使系モンスターが存在していたのだ。
まるで蜂の巣である。いや、まんま蜂の巣なのだ。天使の巣だけど。
「あの木の中腹付近に見えるのよね、階層門が」
「入ダンした瞬間から階層門が見えるというのもまた新しいよな。まあ双眼鏡使ってようやく確認できるくらいだが」
「ふむ。つまりはあそこの階層門に入りたければ天使を追っ払うか、撃破するか、気付かれないように通り抜けるか、というミッションなのだね?」
「だな。ニーコの言う通りだろう。――リーナ、今の話をみんなに共有してくれ」
「承知いたしましたわ」
そう、この〈聖界ダン〉は前も言ったとおり〈聖ダン〉や〈教会ダン〉の上位ダンジョン。
聖域を侵すものには容赦なく天使が襲ってくるし、〈教会ダン〉のようにモンスターの住処がある。しかもその住処を攻略することが階層を更新する条件という変わったダンジョンなのである。
ちなみに気付かれないように通り抜ける案は採用できない。
たとえカイリがユニークスキルの『パーティインビジブル』を発動していても聖域に進入してしばらくするとバレるのだ。時間経過でバレるという罠である。
最初は上手くいくものだからインビジブルを発動して聖域の奥深くまで入り込んでしまい、途中でいきなりバレて巣の中で囲まれた状態からさらに大量の天使に襲われることになる。マジで全滅必至のとんでもない罠だ。
しかも時間経過という原因が分かりづらい条件でバレるため、原因を探るべく何度も再チャレンジしてしまい全滅を繰り返すという、まさに最上級の難易度となっている。恐ろしいダンジョンだ。
つまりである。聖域にある天使の住処を制圧しろというのがこのダンジョンなのだ。〈教会ダン〉にそっくりだな。
「ゼフィルスさん、みなさんへの周知終わりましたわ」
「サンキューリーナ。それじゃあ周囲を警戒しつつあの天使の住処――巨樹へ向かうぞ!」
「はい!」
リーナの周知によってどんどんメンバーが集まってくると、俺は今一度みんなに作戦と方針を伝える。
「みんな聞いてくれ! おそらく今回のダンジョンは〈教会ダン〉に似た、制圧型のダンジョンだ! あの巨樹を守る天使は進入した途端襲ってくるだろう! それを防ぎつつ天使をまず全滅させる」
集まった俺を抜いた54人のメンバーズに方針を共有する。
最初なのでまずは天使の力を測ってきたい。
撤退も容易な正面からの正々堂々なぶつかり合いを挑む。
メンバーからも異論は無かったようなので、出発だ。
「行くぞー!」
「「「「「おおー!」」」」」
さあ、〈聖界ダン〉の攻略開始だ。




