#1865 60.5層の太陽猫! 寝ている猫を叩き起こす!
「ついに60層のここまで来ましたね」
いつになくテンションの高いシェリアの声が響く。
俺たちは、〈猫界ダン〉の中層奥、60層へと踏み入れたのだ。そして現在、俺たちは見覚えのありすぎる門の前に立っていた。
「レイドボスの扉、〈樹界ダン〉と同じなら、ここには大型が居るはずだけど」
「あの〈猫津波〉みたいなレイドボスとはあまりやりたくないですね」
シエラが見上げながら言い、エステルがそれを聞いて少し苦笑しているな。
〈猫津波〉の迫力と威力と可愛さは魔性のそれだ。なぜか進んで呑まれたくなる魅力がある。まさに魔性。俺だって一度呑まれてみたいもん。
今後周回する時は気をつけないとな。うっかり呑まれて戦闘不能者が出そうなボスの筆頭だし。
だが、安心してほしい。ここはそういうボスじゃないから。
「ん。どんなボスが出ても、私がこれで倒す」
「カルアもいつになくやる気に満ちあふれているな」
カルアの言うこれとは、マリー先輩から受け取った〈妖精女王伝説シリーズ〉装備、に加えてアルルが作ってくれた武器、〈キャットソウルスペードソード〉の二刀流だった。
ちなみに〈キャットソウルスペードソード〉は48層に登場したツインズ系のエリアボス、〈ツインズ・スペード・デス・大熊猫〉からドロップしたレシピから作製している。AGIが上昇する短剣だ。
カルアのAGIをこれ以上あげてどうしようっていうんだ!
もうカルアのAGIに追いつける人なんていないぞ?
見た目はスペードと猫の意匠が彫られた反りの入った片刃の短剣だ。かなりかっこいい。でもパンダからのドロップなのに〈キャット〉の名前がついているのはツッコむべきなのか、悩ましい所だな。
加えて新品の装備全集も着ているのだからカルアのやる気はさっきから凄い。
シェリアに続くレベルだ。
やっぱり新しい装備手に入れると上がるよね。
「今ならなにが来ても切れる気がする」
「うむ。そのやる気は良し。だが、カルア、くれぐれも無茶はするなよ?」
「ん」
リカが諫めているが、カルアの言うことに間違いはない。ランク2ダンジョンならなにが来ても切れるだろうさ。〈キャットソウルスペードソード〉は『猫特効』を持っているからな。かなりのダメージが期待できるぜ。
大熊猫よ、本物の猫になにか恨みでもあったのか?
もちろんこの短剣は最終装備への繋ぎだ。レジェンド品じゃないしな。
もうそろそろ装備も最終に突入するだろう。強化玉の出番だな。とても楽しみになってきたぜ。
「それじゃあみんな、料理バフを掛けるぞ! 準備が終わり次第ボスへと挑む! それじゃあティーで乾杯だー!」
「ノリが相変わらず軽いですの!」
「これから未知のレイドボスに挑むノリじゃないんだよ!」
「おかしいよね。私が小さい頃から聞いていた話だと、本校のレイドボスっていったら数千人で戦うようなボスって言われてた気がするんだけど」
「ああ。あたいもそう聞いてた。実際に観戦したこともあるし。やり合ったこともある。でも、ここだと本当に常識が木っ端微塵に崩れるなぁ」
サーシャ、カグヤ、クイナダ、ゼルレカがまたもや良いツッコミ。
ふっふっふ、常識は常に変わっていくものなのだよ。ふはは!
「よし、準備ができたようだな。行くぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
ティーを飲んでバフ完了。
準備ができたので、俺たちはレイドボスのいるボス部屋へと入っていった。
中は、草原が広がるフィールドだった。
室内っぽいフィールドの〈猫界ダン〉では、なかなか新鮮な風景である。
「えっと、いない?」
「あ、あれじゃないですか?」
「一目で大型だと分かるのはありがたいですわ」
「でも遠い! え? どんくらい離れてるの?」
エステルとリーナが見つけ、シヅキが盛大に疑問の声を上げる。
それも分かる。確かにそいつは大きかった。だが、その大きさが割と小さく見えるくらいには遠くに居たのである。多分、1キロは遠くに居るな。
ボスは動かず、丸まって寝ているように見える。
奇しくも猫がこたつで丸くなっているような姿だ。
「『看破』! やはり範囲圏外です!」
「ん、私に任せる」
「カルア、行ってきてくれるか?」
「ん。ここまで釣ってくる。私の足ならできる」
AGIにさらに磨きが掛かったカルアがそう口にする。
ならば、任せてしまおうか。
「よし、行ってこいカルア。何かあった場合、ユニークスキルを使ってでも逃げて戻って来い」
「ん! 新調した武器の力を見せる――『神速』!」
初手、カルアの移動速度上昇スキル。
このボスと戦う場合、初手でいくつかのパターンがあるのだ。
起きているならば咆哮を上げながら迫ってくるが、寝ている場合起こす必要がある。
そして寝ている場合が問題だ。
寝ている場合は寝起きの機嫌の悪さでめちゃくちゃ暴れるので、全員で準備万端、囲んでから起こすと、とんでもない被害が出る場合があるんだ。
寝起きだからか、ヘイトをとってもタゲが定まらず、無差別攻撃をするのである。
それが原因で初手から大打撃を受けて始まると一気に壊滅に追い込まれるのだ。
故に、寝ている場合は釣り最善。
カルアは、『直感』があるためか、それとも新しい装備でハイになっているためか、正しいパターンを引き当ててきた! これはまさに渡りに船。
カルアには釣りを頼むこともあるので慣れているだろう。きっと大丈夫なはずだが、俺たちもいつでもフォローできるように構えておく。
「ゼフィルス大丈夫なのか? カルア1人だけで、それにレイドボスを釣るなど」
「大丈夫だリカ。カルアを信用してやってくれ。今のカルアに追いつけるボスはいない。いたら、俺たちだって追いつけないしな」
「それは―――」
「ワオオオオオオニャアアアアアアア!」
「今カルアさんがボスを起こしましたわ!」
「超怒り狂ってますの!」
「わわ、なにあの大暴れ!? 近くにいかなくて良かったー」
「リカ、悪いが話はここまでだ。カルアは無事だ。来るぞ!」
「!」
リカとの話の途中でボス目覚める。
きっとカルアが新しい短剣でぶっすりやったに違いない。そりゃ大暴れするよ。
だが、カルアには多くの回避スキルと高い移動速度持ちという強みがある。
カルアの俊敏性を加味すれば、寝起きで狙いも定まってない暴れる獣から逃げるくらい訳は無いのだ。
「全員戦闘準備! 今のうちに溜めを作っておくといいぞ!」
「「「はい! ――『グラスプ・アタッチメント・シンチャージ』!」」」
「了解です――『充填』!」
「溜めちゃうのです! アリス、いくのです!」
「おー!」
「「『エネルギーチャージ』!」」
「オッケー! 『時溜め』!」
「んみゅ『恵まれた勝利の拳』!」
「私も――『必殺の溜め』!」
ボスを釣ってくるまで溜め系スキルがあるメンバーは使っておくが吉。
早速サチたちが手を繋ぎ、輪になって溜めを始めたな。
続いてエステル、ルルとアリス、ルキア、ミジュ、クイナダなどががっつりと溜め込む。
しばらく寝起きで暴れまくり、そこら中の地形が変わるんじゃないかという威力の攻撃を放ちまくっていたレイドボスだが、ようやくカルアに狙いを定めると、逃げるカルアを追いかけて俺たちの方へ駆けてきた。さすがはカルアだ。
「よし、上手く釣ったな」
「あの猫燃えてるよ!」
「それに輝いてる!」
「まるで太陽みたい……」
サチ、エミ、ユウカの言うことは的を射ていた。
さっきまで寝ていたため普通の猫、否、トラっぽい感じだったが、今は身体中からメラメラと炎を出し、体自体が太陽のように輝いていたのだ。
あれがレイドボスの本体だな。
「ニャアアアアアアアオオオオオオオオ!!」
「ん、帰還!」
「今ですわ! 『全軍一斉攻撃ですわ』!」
「みんないっけー! 『アルティメットテンションエール』♪」
「完璧! 『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
「飛んで火に入る猫ね! ――『大聖光の無限宝剣』!」
「「「いっけー! 『三柱神授神器・ジャストメイトジャッジメント』!」」」
「いきます――『彗星槍』!」
「とう! 『神世界インフィニティ』!」
「いっちゃえー『雷神竜・インフィニティ』!」
「『そして時は動き出す』! 喰らえー!」
「『ビッグクマン・グロリアスクローベアード』!」
「斬れ――『必殺・大神抜閃・破邪銀狼華』!」
カルアが帰還した瞬間、リーナのユニークスキルと指示がなされ、ノエルが全員のスキルを3倍にしちゃって一斉攻撃が放たれた。
ラナなんか〈樹界ダン〉でLV10までSPを振り、64本にまで増えた最強の『大聖光の無限宝剣』をぶっ放してる! いや64本て、それLV100のボスに撃つような魔法だからね?
サチ、エミ、ユウカは手を繋ぎ、次のコンボ攻撃の威力を超上昇させる『グラスプ・アタッチメント・シンチャージ』で溜めておき、近づいてきたところをいきなり最強スキルでズドンしたのだ。
ルルとアリスのダブルインフィニティも最高。
他のメンバーが溜め込んだ強力な攻撃も次々と当たっていき、かなりのダメージを受けて怯んだ。
さっきまでの勢いが止まったぞ。特にラナとサチ、エミ、ユウカの攻撃が命中した辺りで。しかしダウンならず。残念。さすがにレイドボスのダウンはそう簡単には奪えなかったか。
いきなり1本目のHPバーを3割も吹っ飛ばされたレイドボスはさらに怒り狂い、特大の炎を生み出し攻撃してきた。
「ニャアアアアアアアオオオオオオオオ!!」
「モニカ! ブレイクだ!」
「お任せくださいやがれです! 『欲望渦巻く混沌の闇球』!」
遠距離攻撃相手ならばモニカの右に出るものは――まあそんなにいない。
ボスの炎はまるで太陽。スキル名は『陽球』。
それがぶっ放されたが、モニカも〈六ツリ〉の強力な闇の球を顕現。そのまま太陽に向けてぶっ放したのだ。
空中でぶつかる太陽と闇の球。
これは強力なブレイク系。闇の球を発射し、相手の攻撃を飲み込んで消滅させる。モニカの究極の奥の手の1つだ。
その効果は、レイドボスが撃った渾身の攻撃すらも消滅させる。いや、強っ!
罪深い!
「今だ!」
「攻撃再開ですわ! 『竜絶兵砲・Vドラゴンバスター』!」
「『天光勇者聖剣』だ!」
「ニャアアアアアアアオオオオオオオオ!?」
まずは成功。
あいつの大暴れの罠は防がれ、『陽球』もモニカが消滅させた。
突進も止めて、今はメンバーが次々と飛び掛かっているところだ。
レイドボスは、トラを豪華にしてまるで太陽のように身体をメラメラと燃え上がらせたような、4足歩行のボス。
淡く輝いていて、若干まぶしさまで感じるが、〈バトルウルフ(最終形態)〉を周回していたためか、4足歩行のボスに全く抵抗のないメンバーが次々と有効打を与えていくな。もちろん俺もだ。釣り作戦からの流れが完全に決まっていた。大成功だ。
しかし、相手はレイドボス、このまま負けてくれるはずが無かった。
「ニャアアアアアアアオオオオオオオオ!!」
「うわ、眩し!」
「って火が、強っ!」
「なんにも見えないんだけど!?」
1本目のHPバーが半分を下回ったところ身体が突如太陽のように光り出し、炎を噴出。
組み付いていたメンバーを吹き飛ばして引き剥がしたのだ。さらに大きなダメージまでくっついていた。
「これは大変だわ! 『全体回復の願い』! 『天域の雨』!」
「回復は任せてくださいまし! 『星の歌』!」
「みなさん存分に攻撃してください! 『オールエル・ヒール』!」
「助かるぜ!」
「これは、組み付いた者を予備動作をほとんどせずに炎だけで引き剥がすのか!」
「ん。この装備なら、私でも大丈夫! 『スターソニック・レインエッジ』!」
これは篩だな。
メルトの言う通り、今の炎は突然の出来事だった。回避は難しい、みんな多かれ少なかれダメージを受けていたのだ。
だが、戦闘不能者はゼロ。みんな、耐久力が低くても半分も減っていない。
これが装備が整っていないとそうもいかない。かなり削られてしまい、下手をすれば戦闘不能になってしまう。
しっかりと防御力や魔防力を上げていなければこのレイドボスを相手にすることは難しいという意味である。今までそこら辺が紙装甲気味だったカルアも、新しい〈妖精女王伝説シリーズ〉を身に着けたことで被ダメージは3割にも満たない。
これくらいなら問題無いと突っ込んでいったんだ。
もちろんすぐにラナ、オリヒメさん、マシロなどのヒーラーがしっかり回復してくれている。俺たちも前線に復帰した。
レイドボスは暴れに暴れ、途中途中で例の炎を出してくるから厄介。
あれ、実は〈盲目〉と〈火傷〉も誘発するので、『状態異常耐性』を持っていないと目をやられたうえにスリップダメージを受けるんだが、〈エデン〉ではヒーラーが状態異常を防いでくれるし、個人の防具の耐性も高い。問題無く削ることができた。
そのおかげで、1本目のHPバーを早々に削ることに成功した。
「おっしゃ形態変化きたぞ! みんな、離れて補給だ!」
「今のうちに、『看破』です! 出ました。このレイドボスは――大型! 〈太陽猫聖獣・ヨウネル〉です!」
そして、ここでようやく名前が判明した。
では、通称〈ヨウネル〉と呼称しよう。




