#201 斥候より早くモンス見つけられてカルア焦る
「じゃあエステル、後を頼む。退屈な役をさせて悪いな」
「構いませんよ。ゼフィルス殿はどうかラナ様をお願いいたします」
そう言って後をエステルに任せ、1人先に〈小狼の浅森ダンジョン〉から帰還する。
初ダンに到着するとちょうど〈エデン〉のメンバーたちが初ダンに入ってくるところだった。
「あ、ゼフィルスじゃない! いつも遅れてくるのに今日は早いじゃない。どうしたのよ」
失敬な。
ラナが本当に不思議そうに尋ねてくるが俺は今まで遅刻した事なんて無いぞ。ラナたちが俺より少し早めに到着しているだけだ。
まあ、いいか。待たせているのは事実なのであんまり掘り下げると俺が不利なような気がする。
話を変えよう。
「みんな一緒だったのか?」
「そうね。午前中は〈付喪の竹林ダンジョン〉を無事攻略することが出来たわ」
「初めての初級上位ダンジョンボスだったが。〈竹割太郎〉だったか、皆に付いてきていただいたおかげで楽に勝つことが出来たよ」
「ん。楽勝だった」
俺の問いにシエラが戦果報告を告げ、リカが微笑を浮かべながら、カルアは片手の親指を立てて報告してくる。
「そうか! リカ、カルア、初級上位ダンジョン初攻略おめでとう!」
「むふ、イエイ」
「ありがとう。君に言われるとちょっと照れくさいな」
「よかったら道中でどんな感じだったか聞かせてくれないか」
「もちろん良いとも」
どうやらリカも、言いたくてうずうずしている様子だった。そりゃ言いたいよな、初の攻略や戦果って人に自慢したいよな! その気持ち、よく分かるぜ。
現在ここにいるのは俺、ラナ、シエラ、リカ、カルアの5人だ。このメンバーで〈孤島の花畑ダンジョン〉に挑む。早速移動を開始した。
「そういえば、結局シエラは来られたんだな。良かったよ」
「ええ。ハンナは明日の学園の準備と『錬金』の作業があるらしいから、午後はそちらをやるのですって。あなた、昨日ハンナに〈魔力草〉の束を渡したんですってね? ハンナすごく目を光らせてたわよ」
「おおう、そうか。渡すのもう少し後にしてあげれば良かったな」
実は午後のメンバーは俺、ラナ、カルア、リカの4人は固定だったが、シエラかハンナは来られるか分からなかった。明日から学業が始まるのだし、2人とも来られないなら仕方なしと思っていたのだが、シエラは無事参加できたようで良かった。
ハンナは『錬金』作業もあるが、どうも学園から何か頼まれ事を承ったらしく、残念ながら来られなかった。
まあ、定員オーバーになるし逆に良かったのかな?
そんな事を考えつつ〈孤島の花畑ダンジョン〉の門を潜った。
ここは状態異常〈毒〉を多用してくるダンジョンだ。それにボスの〈サボッテンダー〉が遠距離攻撃タイプなのでリカのタンクと相性が悪く、昨日までリカたちのパーティは〈付喪の竹林ダンジョン〉を先に攻略していた経緯がある。
今回は〈毒〉を回復する手段を持つ俺、ラナ、それに『状態異常耐性LV10』を持つシエラがいるため、〈孤島の花畑ダンジョン〉をさっさと攻略してしまおうという魂胆だな。
「———それで〈竹割太郎〉はずるくてな、攻撃しようとするとすっごい勢いで下がるんだ」
道中はリカの〈竹割太郎〉戦の話を聞く。どうもリカは〈竹割太郎〉の攻撃に対して防御スキルで完璧に対処したのだと胸を張って言ったのだが、攻撃を弾くとその勢いでセグウェイが凄い勢いで後ろに滑っていくのが気にくわなかったらしい。
「あれでは『ツバメ返し』に繋げられないではないか。いくらなんでもノックバックしすぎだと思うんだ。それに私はあんなに吹っ飛ばすほど怪力では…、いやなんでもない」
途中で自分のSTR値に気がついたのかスッと俺から目を離し明後日の方を向くリカ。
今更のような気がするが、怪力女子の異名はさすがに嫌らしい。
ひょっとしたら女子にSTR値を聞くのは失礼に値するのかもしれない? あとでシエラにでも確認しておこうと決める。
こんなことで女子に嫌われたくなんてないぞ。
「あ、〈ツルー〉発見よ! 戦闘準備! 『聖光の耀剣』!」
「ツルツルテン!?」
ラナが敵発見と同時に大技を放つ、ズドンッと大きな音がして〈ツルー〉がエフェクトになって消え去った。
「準備する前に終わったぞ?」
戦闘準備とはいったい。
「仕方ないじゃない。なんかちょっと、そうよ、魔が差したのよ。少し気持ちよかったわ」
「そうか、よかったな」
まあ、モンスターを一掃したり無双したりするのって爽快感あるしね。いいけど。
そんなラナにカルアがひょこっと近づく。
「次、私やる」
「いいわよ。敵見つけたら教えるわ!」
「仕事が…」
どうやらカルアはラナに敵をサーチアンドデストロイされて焦っているらしい。
何故かラナはモンスターを見つけるのが上手くて誰よりも早く発見する。
カルアは斥候なのでせめてサーチくらいやらせてあげてください。
「むむ、負けない。『ソニャー』!」
カルアが音波探知スキル『ソニャー』で索敵を始めた。耳の後ろに手を当てて音を拾って敵探知するスキルだ。
「発見、こっち」
「あ、カルアやるわね! 援護は任せてね!」
「ん。行ってくる」
「私も行くわ!」
ボスが目当てなので別に行かなくても良いのだが…。
まあ楽しそうだから良いか。
「あ、待ってカルア、危険だから。私も行くから待ちなさい!」
俺と話をしていたリカが道を外れて駆けていくカルアを追いかけていく。
そしてシエラと俺だけが残された。
「私たちはどうするの?」
「とりあえず追いかけようか。なんかそれもそれで楽しい気がする」
「あなたって…。いえ、いいわ。確かにあの子たちこのまま帰ってこられなさそうだもの。追いかけましょう」
何か言いかけたシエラだったがいつもの事だと思ったのか首を振り、俺に続いて走り出した。
そんなこんなで寄り道を楽しみつつ、午後4時には最下層に到着したのだった。