#200 練習は終了した、これからは狩りの時間だ!
「あれは確かに分断せざるを得ないです」
「はい。『統率』スキルですか、敵にバフが掛かるだけでこうも厄介になるとは、それに〈バトルウルフ〉は集団戦でこそ真価を発揮しますね。なるほど、ゼフィルス様のおっしゃるとおり、連携させてはいけませんね」
反省会を、と思ったがすでに頭脳派のシェリアとシズは今の一戦を意見し合っていた。
いいな。その意見交換。
俺もボスモンスターに負けた時や、すげぇ時間が掛かりすぎる時なんかは掲示板でいろんな〈ダン活〉プレイヤーと意見交換したっけ。そうやって少しずつ〈ダン活〉の腕と知識を深めていったものだ。
あの2人は逆に放置していた方が良くなるかもしれないな。
悪いクセが付きそうなら助言しよう。
ということで俺は残りの3人に向き直る。
「では、まずルル」
「はい!」
「うむ、返事は良し。今の戦闘で何が悪かったのかわかるかね?」
「はい! 多分最初に飛び込んじゃったのがダメだったのかなって思うです!」
「そうだな。ルルはちゃんと理解出来ているな。敵中に入り込んで大暴れするのはとてもロマンでヒーロー的な戦法だ。しかし、それは一歩間違えば今のようにボコボコにやられてしまう結末もあり得る。だが、それは職業の使い方さえ知ってしまえば回避出来るものだ」
敵中に突撃して大暴れするこの戦法を〈ダン活〉プレイヤーは〈ヒーロー戦法〉と呼んでいた。
シミュレーションゲームなどで使われるメジャーな戦法で。とりあえず強くて硬い、あるいは避けるユニットを敵中に放り込んでザコを一掃。本隊が悠々と後を追って余力を十分に残したままボスを撃破するという立派な戦略だ。
しかし、これは放り込むユニットが圧倒的に強い場合に限られる。
今回は敵がバフを掛けてきたために戦力差があまり開かず、ルルは圧倒的になりきれなかった。ルルのスキルの使用方法が未熟だったということもある。
〈ヒーロー戦法〉が通じる相手なのか、そうでは無いのか、それを見極めるのも戦略には重要なことだ。
ルルにはこれからいろんな戦法や戦術、スキルの使い方などを知っていってほしい。
オールマイティでいろんな事が出来る職業はそれだけ多くの場で活躍出来る。
LV40にもなっていない【ロリータヒーロー】はまだまだこれからだ。
何しろ公式最強職業ランキング第四位の職業だ。使い方さえマスターすれば凄まじい戦力になる。〈姫職〉で最も強いと言われた職業の実力を今後じっくりと育てていこうな。
次はパメラだ。
「パメラは頑張ったな。スキルの使い方がとても上手くなってたよ。それに中盤の〈バトルウルフ〉のタゲ取りも良かった。あそこで〈バトルウルフ〉を抑えられる人はパメラだけだったし、よく抑えきった。あのパメラの活躍が無かったら後半スムーズに勝つことは出来なかっただろう」
「本当デスか! 嬉しいデース!」
「今後はもっといろんなスキルを使っていこうか。まだスキルを抑え気味なところがあるからな」
「うー、はいデース。スキルがまだ慣れませーん」
パメラは元々陰から護衛する役割を担っていた。その辺はかなり優秀らしい。
しかし、ボス戦などではぐいぐい前に出ることを指示されるためパメラは未だに戸惑いを感じているようだ。
本人は陰に徹したい、陰から援護などをしたいと思っているのに、タゲを取ったり、身体張って押さえ込んだり、近接戦闘で戦ったりと、思いっきり表で目立っている。
しかし、それが【女忍者】なので諦めて接近戦を頑張ってもらいたい。
とりあえずパメラは要練習だな。
「セレスタンは、言うこと無しだな。というか、なんで回避スキルも無しにあんなに素避けできるのか教えてほしいくらいだ」
「恐縮です」
1人でお供4匹を押さえ込んだセレスタンだが、その表情はいつもの微笑み、実に涼しい顔をしていた。これが本物の執事というものなのだろうか。リアル執事ってスゲェ。
その後、もう7周ほど『統率』有りの〈バトルウルフ〉戦を行なった。
今回も俺は特に指示を出さず、見守りに徹する。すると彼女たちはシズとシェリアを中心に色々と自分たちで戦術を試すようになった。
最初はぎこちなかった連携も徐々に修正されていき、周を重ねる毎に彼女たちの動きに磨きが掛かっていく。
うーむ、やはりセレスタンがダントツで安定しているように見えるな。
避けタンクが鮮やかだ。なんで避けタンクで安定しているのか知りたい。
パメラはまだお供4匹全てを引きつけて避けタンクをすることは出来ず、ルルも試行錯誤しながらもタゲを取ったりアタッカーに回ったり、デバッファーをしたりと動き回っている。しかし、ルルもまだ『統率』済みのお供4匹は受け持てないようだ。
一度お供4匹の中に〈バトルウルフ〉が入ってきて同時に相手をしなければいけなかった時は危なかった。
『合流』スキルの厄介な点だな。お供を相手にしていたはずなのにボスが割り込んでくるのだ。皆の動揺は激しかったが力押しでなんとか乗り切っていた。一歩間違えば誰かが戦闘不能になっていてもおかしくなかった一戦だった。あれは良い教訓になっただろう。
その後も色々と試行錯誤していたが、結論として基本的にセレスタンがお供のタゲ取りをして、パメラかルルが〈バトルウルフ〉を押さえ込む戦法に落ち着いたのだった。
7周目が無事に終わったところで戻ってきたシズとシェリアが言う。
「やはりお供と〈バトルウルフ〉は分けるべきです。手に負えません」
「結論としまして。どのやり方をとってもお供がいるうちは〈バトルウルフ〉は倒せません。お供を倒すのに注力すべきです。またお供を素早く倒すため〈バトルウルフ〉に邪魔されることの無いよう分断するべきだと考えます。今回のことは良い勉強になりました」
「そうだな。敵はまず弱い奴から倒す。常套手段ではあるが基本中の基本だ。今回の戦闘は良い刺激になったようで何よりだよ」
シェリアの慢心もだいぶ和らいだように感じる。
戦法一つでこうも変わるものなのだと身にしみてくれたようだ。
「そろそろお昼ですか。昼食にいたしますかゼフィルス様」
「だな。休憩しよう。シズ、頼む」
シズがぺこりとお辞儀をするとそのまま救済場所に入り〈空間収納鞄〉から色々取り出して準備をし始めた。
そこにセレスタンとパメラ、ルルも加わるとあっと言う間に昼食の準備が整っていく。
そしてシェリアは何故か俺の隣で待機している。
「シェリアはここにいて良いの?」
「邪魔になってはいけませんから」
どういう意味だろうか?
「ゼフィルスお兄様出来ました! ルルも手伝ったのですよ!」
「お、おおそうか。偉いなぁルル」
なぞの回答に頭を捻っているうちに準備が整い、ぴょんぴょん跳ねるルルが報告に来てくれた。なんだろう。凄くホッコリする絵だ。
昼食はシズがあらかじめ作ってくれていたもののようでシチューだった。白いパンと食べると絶品だ。
「シズは料理上手だな」
「ふふ、結構自信あるのですよ」
おお、珍しくシズが料理自慢。
いや、これは確かに自慢出来るわ。凄く美味! これがメイドの実力なのか!?
あまりの絶品具合にもう手が止まらず、あっと言う間に食べきってしまった。
また今度リクエストしたら作ってきてくれるだろうか?
そんなこんなで昼食タイムが終わると再びボス周回に入る。腹ごなしだな。
「周回はもう最初の戦法で良いのでしょうか?」
シズの質問に頷く。
「ああ。目的は達成したしな。午後は今日の目標である職業LV30を達成するために頑張ってほしい」
『統率』済みの〈バトルウルフ〉戦は確かに良い練習になるのだが、何しろ倒すのに時間が掛かる。さすがにこのペースでは職業LV30まで届かない。スピードアップだな。
シズが「了解しました」と言って下がる、するとシェリアが14層の出入り口を見て声を上げた。
「あ、あの馬車、エステルですよ」
「ん?」
見れば〈からくり馬車〉改め〈サンダージャベリン号〉がやってくるところだった。
もう交代の時間か。
「ゼフィルス殿、お待たせいたしました」
「いや、ちょうど昼休憩が終わったところだ。待ってないよ。それより悪いなエステル。助かるよ」
実は午後はリカとカルアのパーティに合流することになっていた。
なので周回のドカンッ要員をエステルに代わってもらう予定となっていた。
見たところ、新メンバー5人もずいぶん上手くなったし、最適化された戦法ならヒーラー無しでも事故ることも無いだろう。
ということで俺は一足先に帰還することになったのだった。