#1841 〈学園春風大戦〉Aランク21ギルド戦試合開始!
〈学園春風大戦〉、Aランク戦21ギルド参加型。
――〈拠点落とし〉、〈25人戦〉、〈全室迷路〉フィールド。
――――試合開始。
「試合始まったな!」
「〈エースシャングリラ〉は5人残して出撃ね!」
「速いですね! いいスタートを切れています!」
「おう! 〈城取り〉でも〈拠点落とし〉でもまず初動が大切。膠着状態になる前に、情報が出揃っていないうちに突き崩すのが正義!」
「拠点の場所は今回ランダム配置ですわ。〈エースシャングリラ〉の近くにある拠点は見たところ2つ――ミサトさん?」
「はいはーい! ギルドのことならまっかせてよ! 〈エースシャングリラ〉に近い2つのギルドは――〈クラスメートで出発〉と〈零の支配〉だね!」
「そこまだ残ってたんだ!?」
思わずツッコんじゃったじゃん! 〈クラスメートで出発〉とか、初代メンバー全員卒業済みだろ!? 2代目かな?
〈全室迷路〉フィールドは、俺たちが昔Sランク戦をした時の〈リメインロボッツ〉フィールドに似ているような、そうでもないような形をしている。
俯瞰して見ると、3×3マスの個室とも言えるような部屋が、縦12、横12、計144個も配置され、隣の部屋と繋がっている。そんな同じ景色が繰り返されるような形のフィールドになっている。そんな部屋に21のギルドがランダムに配置されているわけだ。
だがこれはよーく見ると4×4、計16の部屋が3×3で配置されている作りに見えてくる。これが鍵だ。
144個もの同じような部屋を見て回るとか攻撃においても防衛においてもやりづら過ぎる。故に、これをまず9つのエリアに分けて考えるのがコツ。
すると144部屋割る9エリアで16部屋になる。
この16部屋が地図を俯瞰したときに上下左右斜め中央に配置されている、という図だな。
大きく9つのエリアに分けた理由は、中央以外の1つのエリアに必ず3つ以下のギルドの拠点が建っているからだ。つまり必ず近いところに2つ以下のギルドが建っている、というわけだな。
これを上手く対処したものが次のステージに進めると考えていい。
このエリア内で手を組むも良し、撃破するも良しだ。
Aランクギルドの席は3つだからな。
同じエリアにいるギルドを倒さず協力しあってAランクを目指しても良いし、自分の拠点が脅かされるとして排除しても良い。そこはギルドごとの方針によるだろう。
そして〈エースシャングリラ〉は、後者を選ぶ。
同じエリアのギルドは自分たちの拠点へ攻めてくる可能性のある脅威。
力のあるギルドからすると、最初は排除安定なんだよ。
ということで〈エースシャングリラ〉は最初1つのギルドへ向かって一直線。
防衛5人を残し、〈エデン〉からの貸与品である〈乗り物〉、〈クマエンジェル・バワード〉2台に20人が乗り込んで攻め込んだのだ。熱い。
「今攻め込んだのは〈クラスメートで出発〉だよ!」
望遠鏡を覗くミサトから情報が入る。しかし、
「〈クラスメートで出発〉……あれ? 聞いたことがあるような、ないような?」
「私たちが〈学園出世大戦〉に出場した時にも居た相手だね!」
「ああ! 思い出したわ! 名前の通り当時のクラスメイトで創立した珍しいギルドよね! え? まだ残ってたの?」
ポンとラナが掌を叩く。
そのコメントには頷きしかないんだぜ。
「〈クラスメートで出発〉、被害甚大!」
「え? もう?」
「防衛モンスターの召喚もまだなところに空から襲撃だからね。そりゃ度肝抜かれるよ!」
「電撃戦ですわ!」
「このやり口、とても〈エデン〉っぽいな」
〈クマエンジェル・バワード〉で空から拠点に乗り込んだ〈エースシャングリラ〉のメンバーズが好き勝手暴れていた。俺がそう指示したんだけどな!
ミサト、リーナ、メルトの順に感想をこぼす。特にメルトはこのやり口に既視感が芽生えた様子だ。
「〈クラスメートで出発〉の拠点陥落!」
「はっや!!」
「試合開始4分50秒ね! 私たちには敵わなかったわね!」
「ラナはどういう勝負をしているのか。でも分かっちゃう……!」
試合開始4分50秒、〈クラスメートで出発〉ギルドがいち早く陥落した。
なんて早い陥落なんだ。
なお、俺たちは同じAランク戦でラナが〈弓聖手〉ギルドを3分で落としていたのでタイムアタックは〈エデン〉の勝ち(?)だ。
「〈クラスメートで出発〉はどうやら〈零の支配〉と手を組もうとしたみたいだけど、失敗に終わったみたいだね!」
「ミサトはそこまで分かるのか」
「たはは! 伊達にスカウトウーマンはしてないんだよ~。あの厨二ギルド同士は仲が良いからね。まさかあの2つのギルドが同じエリアとか驚いちゃったよ。手を組まれる前に〈エースシャングリラ〉で片方を滅ぼしたのは正解だね!」
「滅ぼしたわけじゃないぞ?」
ミサトの口調に容赦がないな。いったい〈零の支配〉と〈クラスメートで出発〉でなにがあったというのか。というか厨二なの〈クラスメートで出発〉2代目って?
「〈零の支配〉は元々Bランクギルド常連だけあって粘るね! 空からの襲撃は諦めて、モニカちゃんはあの戦法を使うみたいだよ!」
〈零の支配〉はさっき話に出た、俺たち〈エデン〉のAランク戦にも出場していた、Bランクの中堅に位置するギルドだ。
〈クラスメートで出発〉よりも地盤がしっかりしており、弾幕を張って上空からの攻撃を防いできた。
〈乗り物〉は乗車している時スキルを使うことはできない。故に乗り込もうとしていたわけだが、あれだけ弾幕を張られたら無防備に攻撃を受けることになる。
モニカは一度地上に降りて、モニカを先頭にした布陣で攻略を開始した。
あの〈天下一パイレーツ〉戦でモニカがやっていた戦法だ!
遠距離攻撃の弾幕が、全てモニカに吸い寄せられていく。
「やっぱりあれ、強いわね」
「優秀なヒーラーが側で癒し続ければ、俺たち〈エデン〉の六段階目ツリーですら遠距離攻撃による突破は難しいからな」
遠距離攻撃に凄まじい耐性を持つ【強欲】の本領が発揮されていた。
アレはまるで城塞だな。
〈零の支配〉は拠点に立てこもり、防衛モンスターと遠距離攻撃で対抗。まさに籠城戦の構え。
それに対し、モニカたちは攻城戦と言うにはあまりにも消極的な、距離を置いた遠距離攻撃で対抗する。
だが、その結果は徐々に現れていく。
〈零の支配〉の攻撃は全てモニカに吸い寄せられ、受け止められていくのだ。
しかもヒーラーが数人掛かりでサポートしているので、全然倒れない。凄まじい頑丈さだった。
対して〈エースシャングリラ〉の攻撃に晒された〈零の支配〉は、徐々に拠点へのダメージを蓄積させていく。
そして拠点の回復手段は――〈零の支配〉には無い。
拠点、つまり〈城〉を回復させるには特殊な職業が必要だ。
だが、〈零の支配〉にそんな優秀な職業持ちは居なかったのだろう。
回復できる壁モニカと、回復できない拠点を背負う〈零の支配〉の差は広がっていき、ついに〈零の支配〉が痺れを切らして打って出た。それで正解。
モニカ相手に遠距離攻撃とか俺たちでもキツいのだ。
接近戦に持ち込むのが大正解である。
だが、もちろんそんなの予想していない訳も無く、対抗手段も用意してあって。
彼らが不用意に踏み込んできたところで大爆発。
こっそり仕掛けられていた罠に嵌まって部隊は大ダメージを負って崩れてしまったのだ。この罠まで作戦の内。
もちろんそこを見逃すモニカではなく、〈エースシャングリラ〉が攻勢を強めて〈零の支配〉を倒して終了。
このエリアでは〈エースシャングリラ〉が生き残った。退場者ゼロで。
「やるわね〈エースシャングリラ〉!」
「はい。作戦が見事に嵌まっていました。もし罠を見破り接近戦に持ち込まれても、それはそれで対抗策を用意していたみたいですね」
「かなりダメージを喰らった子はいたけれど退場者はゼロ。たは! 〈エースシャングリラ〉やるぅ~!」
「さすがはゼフィルスから直接指導、作戦を与えられているだけあるな。やり口がどこかの誰かにそっくりだ」
はて? 誰のことだろう? 俺かな?
「ねぇゼフィルス! 次の作戦は!? なにを教えたのよ!」
「それを今言っちゃぁネタバレだ。ここからは〈エースシャングリラ〉の腕の見せ所だな」
ラナが次の展開を急かして聞いてくるが首を横に振ってノー。
だが、ヒントくらいはいいだろう。
「ヒントはこのフィールドが9つのエリアに分かれているところだ。中央以外の各エリアに3ギルド以下ずつギルドが配置されている。そして勝利の席は3席。1つのギルドが1つのエリアを制しました。じゃあ次の狙いはどうしますか?」
「次のエリアを制圧しに行くのでしょ?」
「イエス! さすがはシエラだ!」
「あ、なるほどね! 9つのエリアのうち3つのエリアを制すればAランク確定だものね!」
シエラの言葉にラナも気が付く。
なにせ、勝利の席が3席なのだ。9エリアの3分の1を制すればAランクが確定する。
そして先ほども言ったように〈拠点落とし〉でも初動が命だ。
試合が始まって11分が経過。
現在各エリア内でも色々とドラマが勃発している。
「〈エースシャングリラ〉たちの居た所のように争うエリア。手を組むエリア。2つのギルドが手を組んで1つのギルドを倒すエリアなどなど様々な展開が起こっているが――重要なのは、まだまだ安定していないという部分だ」
「さっき言ってた、膠着状態になる前に崩す、ってやつね」
「その通り、エリア内の抗争が落ち着いてしまうと突き崩すのが難しくなる。ポイントの変動は起こりにくくなり、9エリアのうち9エリア全ての拠点が生き残ってしまうと、上位3位に残ることが難しくなる」
例えば1つのエリアに居る3つのギルドが手を組み、そのエリアへ入ってくる侵入者を許さない、という方針の場合、1つのギルドでは突破は難しい。だからといって数を集めると乱戦になり、相手も味方も被害が大きくなってしまう。
故に攻め込めず、膠着状態となり、ポイントが変動しなくなってしまうのだ。
その時の順位が4位以下だとしたら、そのままタイムアップまで順位が変動しないということも十分あり得る。
中央以外の8つのエリア全てで1つずつギルドが生き残った場合、1位から8位のうち〈エースシャングリラ〉がどこにランクインするか分からないのだ。
故に、膠着状態になる前に少なくともどこか1つのエリアには攻め込んでおきたい。そのためにちょっぱやで2つのギルドを落としたのだ。
休憩もそこそこに次へ向かうのが勝利への秘訣。
「〈エースシャングリラ〉は〈竜の箱庭〉を起動してますから攻めやすいエリアはすぐに分かりますわね」
「ちょうど隣が良い感じだよ! 2つのギルドが手を結んだけど、1つのギルドは折り合いつかなくて、今2対1で戦闘中!」
「いいな! ちょうど良いじゃないか! 1の方について2対2に持ち込むのが吉、しかも留守を狙って直接拠点に突撃だな!」
〈竜の箱庭〉はまだリーナとカイリの物しか持っていないので、〈エースシャングリラ〉が今使っているのはリーナの〈竜の箱庭〉だ。それを、【後陣の姫大名】に就いたユナが操っていた。
そして、方針決定。
俺が教えたパターンや作戦をちゃんと理解しているのだろう。
〈エースシャングリラ〉は、隣の戦闘中のエリアに攻め込むことが即で決定したようだ。




