#1840 新Sランクギルド誕生! Aランク戦――開始!
「おおおおおお!! 勝った! 〈集え・テイマーサモナー〉が勝ったぞー!! 新しいSランクギルドの誕生だーーーー!!」
「蓋を開けてみれば、納得の結末に落ち着いたわね」
「凄かったわね〈集え・テイマーサモナー〉! 〈竜〉を何体テイムしたのかしら!?」
「数えてみましたが、31体でした」
「31体!?」
〈学園春風大戦〉最初のバトル、Sランク戦の勝者は〈集え・テイマーサモナー〉に決まった。
やはり決め手だったのはそのテイムモンスター。
今回、〈戦車鳥ピュイチ〉ではなく、なんと空飛ぶ〈竜〉を大量投入してきたのだからもう半端ない。
確かに、小城マス取りのある〈城取り〉では、高さ2メートルしかない小城にタッチしなければならない都合上、地面を高速で走る〈ピュイチ〉系が正義だった。最終進化系の〈ピュイチ〉は走るのが〈ダン活〉で最も速いテイムモンスターなのだ。
しかし〈拠点落とし〉ではマスを取らなくていいため、最初から飛行モンスターに騎乗するという制空権を確保する戦法が使える。
これに対抗出来るのは同じく空を飛ぶ〈天使の聖剣〉だけだったが、向こうの『天空飛翔』はMPを常時使用する。空の戦いにおいて〈集え・テイマーサモナー〉の方が数においてもレベルにおいても、持久力についても優位だった。
〈集え・テイマーサモナー〉的にも最大の障害は空を飛ぶ〈天使の聖剣〉だと分かっていたのだろう。真っ先に戦いを挑み、そして勝利。
その時には〈筋肉は最強だ〉と〈氷の城塞〉がぶつかっていたが、〈氷の城塞〉は援軍に派遣した〈アビスの熊〉と〈サクセスブレーン〉が合流。
こっちは残りの4ギルドが戦う大きな戦闘となり、筋肉という無敵のボディと争うことになった。
ちょうど俺たちが居る観客席の近くで勃発し、その時の緊張感ある声が聞こえてきたほどだ。目を瞑れば思い出す。
「ヤバい! 割れた腹筋からビームが出てくるぞ! 避けろ!」
「筋肉ビーム!」
「あぎゃー!?」
「6分割ビームだと!?」
「2人吹っ飛んだぞ!」
「ああ!? オルクが吹っ飛んだーーーー!?」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」(←観客席の熱狂)
ヤバいな。緊張感無かったかもしれない。
なんで筋肉ビームってあんなに強いんだ? いや【サタン】は強い職業だったけどさ。というか腹筋からシックスパックに割れたビームをそこら中に撃つっていったいどうやってるんだろう? ゲームではそんな仕様じゃなかったはずなんだけど……? あとオルクが1人だけ反撃で吹っ飛んでたのには観客席が異様に盛り上がってたなぁ。あれは俺も思わず笑っちまったよ。
そして〈天使の聖剣〉の次に脱落したのは――意外にもなんと〈サクセスブレーン〉だったんだ。
あそこはカイエン先輩が抜けたこともあるが、〈SSランクギルドカップ〉でもあまり対人戦はしていなかったし、対人戦がものを言う〈拠点落とし〉ではその力を発揮できなかったっぽい。
あと、姿を隠したナギを「筋肉の鼓動がここだと告げている!」というよく分からない索敵で発見したときは「うそでしょ、なんでバレたの!?」とナギも度肝を抜かれてたしな。なんで筋肉に隠蔽って効かないんだ? ゲームではそんな効果は無かったはずなのに。(2回目)
次に〈氷の城塞〉が陥落。
耐え続けた城塞だったが、筋肉たちを止められず、いや本当に涙を誘う最後だった。
オルクが真っ先にやられたことで、なぜかベニテが膝から崩れ落ちてたシーンが印象的だったよ。敵同士じゃなかったっけ? なんだか「私があそこに居れば~」とかいう嘆きが聞こえてきた気がしたんだ。まあ、気のせいだと思うが。
だがここで〈アビスの熊〉がやってくれた。〈筋肉は最強だ〉の拠点を落とし、ついに〈筋肉は最強だ〉も退場。
サブマスターのナイヴスを犠牲にしての辛勝だった。
出場した半数のギルドが手を組んで辛勝とか〈筋肉は最強だ〉ギルドがヤバすぎるな。
こうして最後は〈集え・テイマーサモナー〉対〈アビスの熊〉の一騎打ち。
〈アビスの熊〉も奥の手、〈エデン〉地下工房特製の〈クマエンジェル・バワード〉を投入、空中戦に躍り出た時は手に汗握ったよ。
だが〈クマエンジェル・バワード〉は2騎しか用意できなかったのが悔やまれる。
竜たちに囲まれて撃沈。さすがのクマも、竜の群には勝てなかった……!
あとは制空権を取られた〈アビスの熊〉は抵抗するも、最後には拠点が陥落してしまったのだった。
シエラの言うように、振り返ってみると納得の結末に落ち着いてたな。
「〈集え・テイマーサモナー〉、カリン先輩やエイリン先輩は卒業してしまったが、そのモンスターは今も健在、か」
「〈獣王ガルタイガ〉も、きっとこの結末を予想して辞退したのね」
「俺もそう思う。たとえ〈天使縛りの鎖鉄球〉が使えたとしても、〈集え・テイマーサモナー〉は抑えられないからな」
〈天使の聖剣〉と戦った経験のある〈獣王ガルタイガ〉は、空飛ぶギルドという恐ろしさをよく知っていたのだろう。〈アビスの熊〉みたいなことになるって分かってたから出場しなかったんだな。
「これで戦闘系のSランクギルドは〈ギルバドヨッシャー〉〈百鬼夜行〉〈千剣フラカル〉、そして〈集え・テイマーサモナー〉になったわね」
「ブラボー! マジ〈集え・テイマーサモナー〉ブラボー! 新ギルドマスターアイシャに乾杯だー!」
一先ず口だけで乾杯! ジョッキを持ってたらガツンとやっていたね!
〈集え・テイマーサモナー〉がSランクギルドとか感慨深い。クラスで唯一Aランクギルド所属だったアイシャもSランクギルドに昇格して熱いじゃないか!
いやー、マジブラボー。あとでアイシャにお祝いのメッセージを送らないと!
さて、
「Aランクギルドの空きも3つになったし、次はAランク戦だな!」
「い、いよいよですか!」
「緊張するねミツル君!」
「でも、なんだかワクワクもする。今の私たちがどれだけできるか、試したい」
俺が振り返って新メンバーに声を掛けると、一瞬ブルッと震えたミツルや元気なソア。そして表情が乏しいシオンがワクワクすると伝えてくる。
昨日の特訓。
モニカを入れ、レベル上げも込みで戦ったボス戦で、シオンたちは何かを掴んだらしい。恐れよりも自信が漲っている感じがしたんだ!
『続いてインターバルを挟んだのち、ここ第一アリーナでAランク戦を始めます。選手の方は控え室の方に移動してください』
「お、呼ばれたぞ。行ってこい! そしてAランクになってこい!」
「「「「「はい!」」」」」
「モニカ、頼んだぞ」
「お任せやがれですゼフィルス先輩! 昨日の感じなら、かなり良いところまでいけると思うでやがります。期待していいでやがりますよ!」
「頼もしいな!」
ギルドマスターはソアだが、今回の指揮官はモニカ。
レベルが圧倒的に違うため、試合中はモニカが全体の指揮を執って挑むことになっている。ユナとシオンは今回そのサポート役だな。
「私も早く強くなって、モニたんみたいになる!」
「その意気だソア!」
「うん! それじゃあ、行ってくるよ!!」
がんばれと励まして〈エースシャングリラ〉のメンバーを見送った。
「どうなるかしらね」
「全く分からないな! だが、俺はいい線行くと思ってるぜ? まず今回のAランク戦では、モニカ以外に六段階目ツリーの開放者がいない」
「……あなたが〈エースシャングリラ〉を〈天下一パイレーツ〉にぶつけてギルドランクを奪ったのって、そういうことよね?」
「あれ? もしかしてバレてた?」
「いいえ、私も今気が付いたわ。なるほどね、ここまで見越していたのね」
シエラの言う通り。
〈天下一パイレーツ〉の面々が下手をしてBランクギルドになってしまったため、このままAランク戦に出場すると、六段階目ツリーの開放者が4人もAランク戦で暴れることになってしまう。
正面から止められるのは、まあモニカくらいだろう。つまりモニカの居る〈エースシャングリラ〉をぶつけなければならない。
俺は別にサターンたちを弱いとは思っていない。弱いけど。対人戦では結構強いんだぜ?
モニカ以外のメンバーがサターンたちとぶつかれば、間違い無く被害が出る。もしかしたら致命傷を受け、その場では勝利を掴んでも、トップ3に入れない、ということになる可能性も否定できない。
故に不確定要素は〈城取り〉で封殺、というのも計画の中に含まれていた。
〈城取り〉なら対人戦をせずに勝利が掴める。これで正面から戦わずにランクを下げ、Aランク戦最大の障害をこっそり排除したのだ。
話の流れから誰にも気が付かれてないだろうなと思っていたが、シエラは気が付いたらしい。さすがだ。
「ゼフィルスは後輩に甘いわよね」
「なに言ってんだ。俺はみんなに甘いぞ? 厳しく当たるのはサターンたちくらいだ」
「……確かにそうだったわね」
このお膳立てにシエラが少しジト目になったが、すぐに戻ってしまった。そんなぁ。
「ゼフィルスはあの時から、本気で〈エースシャングリラ〉をAランクギルドにしようと思って計画を練っていたのね。いつも思うけれど、あなたのギルドバトルに対する考え方には恐れ入るわ」
恐れよりもジト目ください!
俺がそんなことを考えているとは思ってもいないだろうシエラが会場に視線を戻す。
それからしばらくして、試合時間が迫ってきた。
『ではこれより、Aランク戦を開始する! 出場ギルドは21! そのうち3つのギルドが新しいAランクギルドとなる! みなのもの、励むのじゃ! 観客席の者たちよ、学生たちを声高く応援してほしい!』
学園長のお言葉にテンションを上げる!
21ギルド、それぞれが25人ずつを送り込み、その選手は全部で525人。
参加ギルド数が多いために広い第一アリーナが使われ、なんとSランクギルドが使用する、狭い通路のフィールドが採用されていた。
そこに21の拠点が配置される。
『場所は〈全室迷路〉フィールドじゃ! では始めよう。カウントダウンじゃ!』
学園長が直接カウントダウンを進めてくれるとはなんという豪華!
観客席も盛り上がり、10カウントから声を張り上げる。そして。
Aランク戦、試合開始。




