#1836 〈エースシャングリラ〉対〈天下一パイレーツ〉
「試合始まったわ!」
「出だし良し。北からの〈中央巨城〉隣接を目指すルートだ」
「私たちがBランク戦をした時と同じ動きね」
「〈天下一パイレーツ〉も同じ動きをしていますわ!」
これが最善だからな。
〈天下一パイレーツ〉は〈カッターオブパイレーツ〉時代とは違い、俺たちがしたのと同じように北からのルートで攻めてきた。
「ぶつかる! いや、サターンたちが、遅い!」
「いえ、あれはフェンラたちが速いのです!」
「そう、ギルドバトルはレベル差勝負じゃない、移動速度勝負だ! たとえレベルで負けていても移動速度が勝っていれば勝負はできる!」
〈スマイリーフィールド〉は白本拠地が北西、赤本拠地が北東にあるフィールド。
当然のように〈エースシャングリラ〉は白本拠地だ。
そこからまずは〈中央巨城〉を狙うべく、ほんの少し迂回して〈中央巨城〉の北側に回り込み、一気に南下して隣接を取るルートが〈エデン〉の作戦だ。
だが、この〈中央巨城〉の北側に回り込んだ時、白と赤のお互いのルートがぶつかってしまう。ここでスピードが速い方が相手の道をブロック、インターセプトして有利に立てるのだ。
そう、ぶっちゃけ〈カッターオブパイレーツ〉戦の時は東側から回り込まれたせいでブロック、インターセプトができなかった。
〈カッターオブパイレーツ〉は良いルートを選んでたよ。【道案内人】が居たからこそ選んだルートだったけどな。
だが、今回はお互い同じルートを通りたい、ならばぶつかってしまうのは当然だ。
〈天下一パイレーツ〉は〈エデン〉の真似をすればレベル差で自分たちが勝つ、とでも思っていたのだろうが、甘いな。むしろこっち来てくれてサンキューまである。
いくらレベル差があろうともサターンたちのAGIは――ぶっちゃけ大したことないのだ。
「フェンラやクラは「獣人」。速度に特化した「獣人」と言えば「兎人」や「猫人」がまず思い浮かぶだろうが、クイナダやミジュを見ても分かるように「狼人」や「熊人」だって十分速い。この日のために『素早さブースト』をLV10まで育てておいたからな。「騎士爵」の男子たちだけじゃなく、1年生まで早いメンバーを揃えてみたぜ」
「加えて我々が使うような上級上位級のAGI特化型装備に鞄持ち……。ゼフィルス殿、アレは」
「おう、俺直伝、〈マイセット早着替え〉戦法だ」
「明らかにオーバーキルですよ?」
〈城取り〉では〈空間収納鞄〉は持ち込めないが、普通の鞄は持ち込み可。
トップを走るフェンラとクラは、なぜか大きめのショルダーバッグを背負っていた。もちろんそういうことである。
〈天下一パイレーツ〉でLV60の4人は魔法使いのサターン、剣士のジーロン、斧使いのトマ、盾持ち戦士のヘルク。この中でAGIを高めに育ててるのはジーロンだけだ。
それでも、AGI特化装備に身を包んだ2人には追いつけない。そう、1年生にも追いつけないのだ。
ジーロンの焦りが伝わってくるな!
「ここで進路を〈中央巨城〉から〈北東巨城〉へ変更!」
「あ~、線が敷かれちゃったわね。通せんぼうの完成よ」
観客席を利用し、〈中央巨城〉へ行くと見せかけて途中で進路を東に変更。
南下していたところから急にL字に東へ進路を変更したのだ。加えて東側には観客席があり、見事に道を敷かれて行く手をブロックされてしまう〈天下一パイレーツ〉。
西側に来られないよう、「騎士爵」男子たちも〈ロードローラー戦法〉でマスを取っていくな。「騎士爵」男子たちはそのまま南下。フェンラとクラはそのまま東に進む。
あ、〈中央巨城〉と〈北東巨城〉に隣接した。
「ここで発動だ! 〈マイセット早着替え〉!」
「みんなフル装備ね!」
着替えといっても一瞬の変身なので過程を見られる心配はご無用だ。
ほんと、傍から見ても一瞬で姿が変わっている。
そして鞄をその場にぽいっとするのも俺が教えた通りだ。
そのままフェンラたちは〈北東巨城〉の攻略に入る。
「〈天下一パイレーツ〉はどうして今回北側ルート一択で攻めちゃったのかしら? 東側から回り込むルートと両方使えば良かったのに」
ラナが素朴な疑問を投げてくるので答える。
「それはおそらく俺たちがBランク戦にした時の戦法を使おうとしたんじゃないか?」
〈カッターオブパイレーツ〉戦で〈エデン〉が使った、北から〈中央巨城〉をまず確保して、その後四方に散る戦法だ。
〈スマイリー〉フィールドの中央付近にある5城のうち、過半数を確保できる可能性が非常に高い有用な戦法。それをするには人数が必要なため、〈エースシャングリラ〉も北側に20人全てを割り振っている。サターンたちはこれをマネしたんじゃないかな?
〈エースシャングリラ〉も、相手を西側に入れないようにする戦法を使っているので、〈天下一パイレーツ〉も同じような作戦だったのだと思われる。
だが悲しいかな、〈天下一パイレーツ〉には圧倒的にスピードが足りていなかった。
「って〈天下一パイレーツ〉、西に動いたわよ! 目標、本拠地!」
「ゼフィルスさん、これは?」
「サターンたちの直感か、リセットを企んでるな」
「リセット?」
ここで〈天下一パイレーツ〉が動いた。
保護期間が終わるまで待っていられるか、俺は西へ向かうぞ! とばかりに動き出す〈天下一パイレーツ〉。
本来なら引き返して一度赤本拠地へ向かい、南下してまだ取られていない〈中央東巨城〉を狙うのが一般的だが、サターンたちが目を付けたのは西側。
つまり白本拠地だ。
これは悪い選択肢ではない。
サターンたちの狙いは、おそらく白本拠地を落とすことで発生する仕切り直しだ。
お互い本拠地に強制的に戻らされ、2分後の再スタート仕切り直しにより、今フィールドの中央で好き勝手している〈エースシャングリラ〉のメンバーを呼び戻し、再スタートさせようとしているのだろう。
仕切り直すとマスの保護期間が切れているため通過は可。自分チームのマスを再取得して保護期間を張ることはできないため、同じ作戦、ブロックやインターセプトは使えない。
さらに〈スマイリーフィールド〉は〈南巨城〉というとんでもなく遠い巨城があるため、競争という意味でも仕切り直してよーいドンは有効だ。
「〈中央巨城〉と〈北東巨城〉が落ちたわ! 次の狙いは――〈中央東巨城〉と〈北西巨城〉、そして〈中央西巨城〉ね!」
「サターンたちが白本拠地を落とす前に欲しいところだが、ここからは運だな」
「クラさんの城特効で〈中央東巨城〉は落とせそうですよ」
まずは巨城を2つ先取。〈北東巨城〉の攻略はかなり早かった。
その理由がクラだ。クラはゴツい手甲使いで城特効持ち。【暴食】は城特効も持っているのだ。まさに悪食。
やや変則的だがここで〈周囲四点喰らい戦法〉を展開し、近くの3つの巨城へばらけて走る。
〈北東巨城〉を落としたフェンラとクラたちは〈中央東巨城〉を手伝いに南下していった。
この展開は読み通りだな。
本来なら道をブロックされた〈天下一パイレーツ〉は、来た道を戻る形で〈中央東巨城〉へ向かうか、保護期間が明けるのを待って〈北西巨城〉へ進むルートを取るはずなので、その道を塞ぎつつ巨城を確保するという戦法だった。
だが〈天下一パイレーツ〉が白本拠地を狙ったことで巨城に集中できるようになった〈エースシャングリラ〉のメンバーたち。
ここからは時間との勝負、白本拠地が先に落とされてしまえば先取出来た巨城は2城で仕切り直しになってしまう。
しかし、ここで3城、できれば4城取っておけばかなり余裕が出来る。
果たして結果は――。
「あ! 〈中央東巨城〉、落ちましたわ!」
「〈北西巨城〉も落ちたわ! 同時に白本拠地も落ちたわよ!」
「4城先取か! ビューティフォーじゃないか!!」
なんと過半数先取に成功して仕切り直し!
これは素晴らしい。
〈中央西巨城〉だけは取れなかったが4城確保! これは大きいぞ。
〈白チーム:8,760P〉対〈赤チーム:8,300P〉。
直後に巨城は赤チームの物になってしまったが、ポイントは追いついただけ。
また巨城を確保すれば引き離せる。
〈天下一パイレーツ〉にとってはかなり苦しい展開だ。なにせ、残っている巨城は西側にある〈中央西巨城〉と、フィールドで一番大きな観客席の反対側にある〈南巨城〉のみ。
つまり、両方とも赤本拠地からとても遠い位置にあるのだ。
しかも〈中央西巨城〉は白本拠地の真南にあるので、ほぼ〈エースシャングリラ〉が取ったも同然。そうなると、〈南巨城〉を全力で狙うしかない、となるが。
「仕切り直して、よーいドン!」
「〈エースシャングリラ〉と〈天下一パイレーツ〉、同じくらいの速度で〈南巨城〉へ侵攻中です!」
2分後の仕切り直しで、両者一斉に南下した。
狙いはお互い〈南巨城〉。〈エースシャングリラ〉も〈中央西巨城〉は後回しだ。
理由は〈南巨城〉へ〈天下一パイレーツ〉が主力全員で一斉に仕掛けてくるだろうから。
対抗するには〈エースシャングリラ〉も主力で一斉にやるしかない。
「お互い、ここが勝負どころね」
シエラの言葉に緊張が高まる。
フェンラたちはさっきの〈北東巨城〉の初動の時にAGI装備からいつものフル装備に換装している。故にスピードも落ちていた。この場では〈走竜〉を操る【竜騎士】と【邪竜騎士】男子たちがツーマンセルでマスを敷く。
〈天下一パイレーツ〉が誇るツーマンセルと、現在はほぼ互角の戦いだ。
そのままお互い〈中央西巨城〉を無視して〈南巨城〉へ隣接、攻略に入った。
ここまでほとんど同着だ。
「いっけー〈エースシャングリラ〉!」
「負けないでください! みなさん、がんばってくださいまし!」
「がんばれーー!!」
俺が声を張ると〈エデン〉メンバーたちも一斉に声を張り上げた。
ここが勝負どころ、火力では完全に〈天下一パイレーツ〉が勝るし、〈エースシャングリラ〉はまだ〈ジャストタイムアタック〉を習得していない。
故に純粋な勝負だ。
お互いがガガガガガガガとスキルをぶつけ合い、巨城のHPを削り合う。そして、HPがゼロになる。
「!! 立った旗は――白! 〈エースシャングリラ〉が取ったぞーーー!!」
「私見てたわ! クラが最後に城特効を使ったのよ!」
「温存していた一撃をかましていましたわ、見事でした!」
〈南巨城〉は〈エースシャングリラ〉が先取。
クラが最後の最後まで取っておいた最高の一撃を巨城に食らわせ、それが決め手になったようだ。これは、あとでいっぱい褒めてやらなければいけないな!
そうして最後は〈中央西巨城〉の先取合戦。
追ってくる〈天下一パイレーツ〉の道を塞ぎながら北上した〈エースシャングリラ〉が最初に隣接を取り、巨城を囲むように隣接を取りまくって囲ってしまったため勝負あり。
どこかで見た様な、保護期間を両手で叩くサターンやジーロンを尻目に〈エースシャングリラ〉は余裕で〈中央西巨城〉を落として、これで全巨城の先取を成功させてしまったのだ。
「み、見事、でしたわ。まさか入学して僅か1ヶ月にも満たない子たちがこんな」
「ユナとシオンが見事に指揮してくれたみたいだな。加えて、俺の作戦Gが見事に嵌まった」
「全てはゼフィルスさんの読み勝ち、ということですか」
そんなんではない。全ては膨大なデータから有効な戦法をピックアップして教えただけだ。
これと同じ展開を、俺はゲームで何度も経験したことがある、ただそれだけだな!
それに、全巨城取れるかは運も絡む。この展開は、本当に運が良かったんだよ。それと、ユナやシオンが指揮を頑張ったおかげだ。
「ここからは小城取りバトル。そして、相手の六段階目ツリーの開放者たちに捕まらない戦法が求められる」
試合展開はまさかの〈エースシャングリラ〉6城全て先取。
しかし、それも対人戦で人数が減らされてしまえばどうなるかは分からない。
まだまだ気は抜けないぜ?




