#1835 巧妙に垂らされた餌に食いつくサターンたち。
こちらは〈天下一パイレーツ〉。
モニカから「〈天かす〉さんの名を広められたくなければ、分かりやがりますね?」と脅されて屈したサターンたち。ついにモニカの脱退を認めたが。
「ぐぬぬぬ、ゼフィルスめ! まさかモニカを籠絡するとは!」
「ふふ、僕たちはモニカに迷惑ばかり掛けていましたからね」
「だが、まさかだ。〈天下一パイレーツ〉を乗っ取ったくらいだから、モニカが脱退するなんて思いもよらなかったぜ……!」
「俺様の活躍の場が戻って来たのに、素直に喜べないだと……」
〈天下一パイレーツ〉のギルドハウスで顔を付き合わせる〈天プラ〉たち。
この数ヶ月ほどで〈天下一パイレーツ〉は、激動の時代に突入、それはもう波乱万丈と言って良いほど山あり谷ありを繰り返してきた。
だが、今の〈天下一パイレーツ〉はここ最近で一番のピンチに立たされていた。
そう、原因はモニカの脱退だ。
「ふふ、モニカがいなければ〈天下一パイレーツ〉の骨組みはガタガタですよ?」
「ああ。モニカのリーダーシップはサターンを軽く凌ぐほどだったしな」
「おんっ?」
「すごんでも事実は変わらないぞサターン。俺たちにはもっと優秀なリーダーが必要なんだ! どこかに転がっていないものか」
「俺様を忘れてもらっては困るぞ!」
「ふふ、ヘルクが成れるのならサターンだって成れるでしょう。とりあえず座っておきなさい」
「「ぐがぬぬ!?」」
言い返せずに着席するサターンとヘルク。
そうモニカは加入して1年。そのリーダーシップにより〈天下一パイレーツ〉をAランクギルドに押し上げるほどの実力を持っていた。
モニカが抜けた途端〈天下一パイレーツ〉はBランク落ちしたのがその証拠だ。
今は引っ越しの準備中だったりする。
「やはり、モニカに戻って来てもらうしかあるまい! 好待遇で迎え入れるのだ!」
「ふふ、できる限り歓待しましょう。サターンも、その席を空ける準備をしておくのです」
「ぐぬぬ、それじゃあジーロンよ、サブマスターの席を空けてくれ。再び我はそこに座る」
「ふ? いえいえ、ここは渡しませんよ?」
「なんだと!?」
「待て待て、そもそもモニカにどうやって戻って来てもらうか、それが問題だろ?」
「モニカは〈エデン〉への加入が内定しているという話だぞ? どうするのだ?」
荒れ狂う〈天下一パイレーツ〉ギルド、だがここに、1つの希望がもたらされたのだ。
〈学生手帳〉がピロリン♪という気持ちの良い音を鳴らす。
まさかモニカかも、とサターンがすぐに確認する。そして、
「なんだと!」
「ふふ、どうしたのですかサターン?」
「これを見てくれ! あのゼフィルスが〈決闘戦〉を打診してきたんだ!」
「俺たちじゃなくて〈エデン〉が〈決闘戦〉を仕掛けてくるだと!?」
「俺様を忘れてもらっては困るぞ! 〈エデン〉はSSランクギルド、〈天下一パイレーツ〉は今やBランクギルドだ。〈決闘戦〉は不成立だぞ!」
「ふふ、いえ見てください。どうやら〈エデン〉は噂の下部組織を僕たちに当てたいみたいです」
「え? あの噂の下部組織、もうCランクギルドに上がったのか!?」
「お、俺様たちはCランクギルドに上がるのにあれだけ苦労したというのに……」
たかだかできて3週間程度のギルドがもうCランクギルドと知って動揺するメンバーズ。
だが、チャットの続きを読むことでその動揺は次第に興奮へと変わっていった。
「わ、我らのBランクギルドの地位を賭けてギルドバトルだと!?」
「ふふ、できたばかりのギルドだというのに、調子に乗っていますね」(←ブーメラン)
「いや待て、〈エデン〉の下部組織だから。賭けるものは〈エデン〉が出すようだぞ!」
「俺様も読み終わった。これは、モニカを返せという要求も通るのではないか?」
「「「!!」」」
ヘルクの不用意な一言で場が瞬時に静まりかえった。そして、
「それだヘルク! ナイスな考えだぞ!」
「ふふ、光明が見えましたね」
「俺も賛成だ! 相手はできたばかりの下部組織! しかも〈エデン〉のメンバーはそこに参加しちゃいけないって言うじゃないか! これは大きなチャンスだぞ!」
ゼフィルスにより巧妙に垂らされた餌に、彼らは見事に食いついたのだ。
「勝てるな」
「ふふ、僕たちは六段階目ツリーの開放者ですよ。勝ちは決まったも同然です」
「俺も同意見だ。相手には六段階目ツリーを開放した猛者はいない! むしろ五段階目ツリーの開放者すらいないらしいぞ!」
「俺様を忘れてもらっては困るぞ! すぐに回答しようじゃないか!」
六段階目ツリーの開放者。
それは五段階目ツリーの開放者と一線を画す。六段階目ツリーを開放している人物どころか五段階目ツリーの開放者すら1人もいないギルドが相手だと分かり、サターンたちの心は決まったのだ。
え? なんで〈エースシャングリラ〉に五段階目ツリーの開放者すらいないと分かったのかって? チャットに書いてあったからだ。これもゼフィルスの罠である。
なお、人を賭ける場合、賭けの対象であるモニカが「戻って来たい」と思わなければ、即また脱退されてしまうのだが、その辺については深く考えていない様子だ。
自分たちが最高の好待遇を約束すれば再びリーダーに返り咲いてくれると思っている。
こうして、〈エースシャングリラ〉対〈天下一パイレーツ〉の〈決闘戦〉開催は決定。
〈学園春風大戦〉が目前に迫っているため、〈天下一パイレーツ〉としてもモニカに戻って来てもらい、Aランクギルド戦に参加して返り咲きたいという思いから、僅か2日後の水曜日に〈決闘戦〉を行なうことが決まったのだった。
なお、翌日には〈エースシャングリラ〉のメンバーが全員上級職に〈上級転職〉していることを、サターンたちは知らない。
◇
2日後、ここは第三アリーナの控え室。
そこに俺と緊張する〈エースシャングリラ〉のメンバーがいた。
「うう、緊張する」
「大丈夫だよミツル君! しっかり特訓したじゃない!」
「昨日1日と今日の午前中だけじゃないか!?」
「勝てるって思えば勝てるよ! 特訓を活かせるかは気持ち次第なんだよ!」
うむうむ。ミツルを励ますソアに緊張の色がない。こういうところがソアの良いところであり、持ち味だ。
ソアのマイペースさが良い方向に現れているな。
「大丈夫だミツル、自分を信じられなければ俺を信じろ。俺の作戦に不備はない。きっと勝てるさ」
「! は、はい! ゼフィルス先輩のこと、信じてます!」
「お姉ちゃんの時と態度が全然違うよ!?」
〈エースシャングリラ〉はCランクギルドに昇格した僅か2日後にBランクギルドと戦うことになった。特訓の時間は昨日しかなかったので、昨日はレベル上げに費やしてもらい、今日には〈決闘戦〉のフィールドなどが決まったので、あとは作戦を通達して午前中は練習に費やし今に到る。
2年生には初の上級下位ダンジョンに入ダンしてもらい、ランク9の〈火口ダン〉のレアイベントボスでレベル上げ。
もちろん俺たち〈エデン〉メンバーと合同攻略だったので楽勝だ。
あそこの経験値はとんでもなく美味しいので一気にレベルが上がり、エリアボスを周回。今朝もあそこのレアイベントボスを倒したことで2年生のLVは20から21にまで上がっている。
1年生には、昨日ついに全員上級職になってもらった。さらに中級上位ダンジョンのランク8〈ダンジョン商委員会〉のいない〈強者の鬼山ダンジョン〉で人知れずボス周回したことで、すでにLVは5に届いている。
サターンたちはLV60。
ユミキ先輩情報では、やはり〈天下一パイレーツ〉で現在LV60なのは4人だけのようだ。
正直、正面からバトルしたら今のミツルたちでは相当上手くやらないと勝てないだろうな。
レベル差には、それだけの実力の差があるんだ。
だが、ギルドバトルは対人戦だけが全てじゃない。
1年生たちは今回、ここぞという時と城攻略以外、四段階目ツリーを使わないことにした。下手に選択肢が多いと失敗の元になるからな。
故に、〈SSランクギルドカップ〉戦の〈ギルバドヨッシャー〉のように、対人戦以外で勝ちを引っ張ってくる戦術が必要だ。そして、それは俺が今日の朝からみんなに伝授した。
「さあ、そろそろ試合開始の時間だ。みんな、気合い入れろよ。これに勝てば〈学園春風大戦〉でAランク戦が見えてくる!」
「「「「はい!」」」」
「良い返事だ。みんな、気張らなくていいから行ってこい!」
「「「「おおー!!」」」」
こうして〈エースシャングリラ〉のみんなを送り出す。
〈天下一パイレーツ〉は俺たちが2月にキャリーするまで、上級中位ダンジョンに入ってそう経っていないくらいだったので、レベルはサターンたち4人を除き、一番高くても32だ。
さらにユミキ先輩情報によれば20人中8人は下級職とのこと。
この8人は下部組織からの引き上げのようで、レベルはカンストしているようだが、ギルドバトルは初めてらしい。
やはりサターンたちだけが突出しているな。
強い者のワンマンプレイは、当たらなければどうということはない。
俺は〈エースシャングリラ〉を見送って、みんなの居る観客席に戻った。
「ゼフィルス、おかえりなさい。戻ってきてホッとしたわ」
「え? それはいったいどういう意味だ?」
「ゼフィルスなら仮面を被って、〈俺はゼフィルスではありません。ゼルフィスです〉とか名乗って試合に出ようとするんじゃないかって話してたのよ!」
「なんだって! え? それってありなの?」
「ダメに決まってるでしょ」
「そんなの、私が出たいわよ!」
「ラナの宝剣や〈白の玉座〉とか一発でバレるじゃん!」
「それはゼフィルスも同じでしょ!」
まさかそんな考えをされていたなんて。
まったく、とんでもないことだぞ?
それがありだったら迷わず出場してたけどさ。
「まあまあ、落ち着いてくださいな。さあゼフィルスさん、こちらの席へ」
「おう、サンキューリーナ」
「「あ!」」
リーナに促されて隣に座ると、シエラとラナから声が上がった。
だが、気にする前にリーナから話しかけられてしまう。
「それでゼフィルスさん、勝てますの?」
「警戒すべき対象が上級職12人、実質4人だけだからな。これくらいなら、全く問題無いだろうぜ」
「ゼフィルスさん仕込みの対人戦をしないギルドバトル、とても楽しみですわね!」
リーナが本当に楽しそうにそう言う。
相手が自分のギルドよりも強い場合のギルドバトルの戦法。
リーナは現在、それに飢えているらしかった。
いよいよカウントダウンが始まる。
カウントが進み、ゼロになると、いよいよギルドバトル〈決闘戦〉が始まった。
今回のフィールドは第三アリーナ、〈スマイリーフィールド〉。
懐かしきBランク戦、〈カッターオブパイレーツ〉と戦ったあのフィールドだ!




