#1832 Cランクギルド昇格打ち上げと、次の対戦相手!
「ではーーー!! 〈エースシャングリラ〉のCランクギルド昇格を祝ってーー! かんぱーーーーい!!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
〈エデン〉のギルドハウスで勝利を祝って乾杯だ。
本当はギルドマスターであるソア、もしくはサブマスターであるミツルに乾杯の音頭を取ってもらうのが筋かと思ったのだが、なんか辞退されたんだ。
「むしろお兄さんの音頭で乾杯したいな~」
「はい。姉ちゃんの言う通り、僕たちがここに立っていられるのはゼフィルス先輩のおかげですから」
そんなことを言われちゃあ俺が音頭を取るしかねぇ! と決まった形。
早速今日のMVPたる15人の出場者たちの下へ向かう。
「ソア、飲んでるかぁ!」
「あ! お兄さん、これいいね! すっごく美味しいんだよ! これが王族御用達と名高い〈芳醇な100%リンゴジュース〉なんだね!」
「そうよ! これが〈エデン〉には山ほどあるわ! 今日はどんどん飲んでいいんだからね!」
そう、今日のジュースは〈芳醇な100%リンゴジュース〉。
今までDランク試験合格の時だって〈食ダン〉で採れた〈深泉のアップルジュース〉で乾杯していたので、今日はグレードアップ!
これで英気と共にモチベーションもアップしてもらうのだ!
「今日はとても心が躍りました」
「分かります! 私も今でもギルドバトルをしている気分です! もっと〈城取り〉したいです!」
こっちはフェンラとクラだな。1年生からは2人の退場者が出ていたが、今回が初めてのギルドバトルだったのだから、むしろ退場が2人しか出なかったことを褒めるべきだろう。
5人ともかなり楽しかったようで、クラなんかまたやりたいって連呼していたよ。
今回出場できなかった5人なんか、すごく羨ましそうにしていたからな。
「もう私たちもCランクギルド……」
「早いよねぇ。僕は未だにちょっと信じられないところがあるよ。あ、シオンさんコップが空だよ、ジュース注ぐ?」
「お願い」
こっちではクールなシオンとショタのミツルがしみじみと頷いていた。
なにせ創立して3週間ほどで――この通りだ。
今日の試合はちょっと危ないところもあったが、このまま順調にレベル上げと練習をすればCランクギルドを維持できる。そんなことを考えているに違いない。
だが、それは甘いと言わざるを得ない。
なにせ〈エースシャングリラ〉ではCランクギルドなんて、通過点なのだから。
宴もたけなわとなったところで、俺はさらに重大な発表を突きつけた。
「聞いてくれ〈エースシャングリラ〉の次の予定を発表するぞ!」
「「「次の予定?」」」
残り4日ほどで〈学園春風大戦〉が始まるというこの時期にCランクギルドになった〈エースシャングリラ〉。
となれば、〈学園春風大戦〉ではBランク戦に出場できる。
しかし、俺としてはもう1段上を目指したいのだ。なにせ、BランクからAランクに上がるのは、普通かなり時間がかかるものだから。
〈学園春風大戦〉を利用すれば、それを大幅に短縮出来る。ということで。
「目指すは〈学園春風大戦〉でAランク戦に出場すること! そのために、〈エースシャングリラ〉には〈学園春風大戦〉までにBランクに昇格してもらいたいと思う!」
「「「「ええー!?」」」」
「また始まったわ」
「はい。ゼフィルスさんお得意の普通ならできなさそうな挑戦ですわね。そして」
「いつも成功してるのよね。つまり、今回も成功する可能性が高いということでしょう」
俺が〈エースシャングリラ〉の目標を発表すると、当人たちは驚愕の声を上げ、付き合いの長い〈エデン〉メンバー、特にシエラとリーナ辺りはいつものことよね、みたいな雰囲気を出していた。もっと驚いてくれ!
「で、でもどうやってですか!? Bランクギルドに上がるには、Cランクで一度防衛戦を経験して、さらに現在のBランクギルドにランク戦を仕掛け、勝たないといけません。でも昇格したばかりのギルドは1ヶ月間、防衛実績があって防衛戦ができません!」
「良い質問だミツル、さすがはサブマスター、しっかり代表として質問が出来ているな。――その答えは簡単だ。ランクの変動というのは、なにもランク戦だけで動くものじゃないんだ。そして防衛実績がなくても格上に挑めるギルドバトルが――もう1つ存在する」
「あ、もしかして、〈決闘戦〉!?」
ピコンと豆電球が点いたかのように声を上げたソアに俺は頷いた。
「ソアが当たりだ。〈エースシャングリラ〉には、Bランクギルドを相手に〈決闘戦〉をしてもらいたいと思っている。向こうがレートに出すのは、Bランクギルドの地位だ」
「「「ええー!?」」」
――〈決闘戦〉。
それは自分たちのギルドランクの上下1ランクまで挑むことができる、名前の通り決闘を模したギルドバトル。
そして、なんと言ってもこの〈決闘戦〉は何かを賭けることで成立するギルドバトルであり、防衛実績が無くても1つ上のランクのギルドに挑むことができるのが最大の特徴であり、利点でもある。
そして、この〈決闘戦〉では自身のギルドランクを賭けるということも可能。
というか、〈エデン〉もDランクの時に経験がある。
当時Cランクギルドにまで落ち込んでいた〈テンプルセイバー〉が、再起を図って〈エデン〉に〈決闘戦〉を仕掛けてきたのだ。
しかしそのレートが釣り合わず、向こうがランクまで賭けることになったんだよな。
故に、レートが釣り合っていればランクを賭けて〈決闘戦〉をすることは可能だ。
もちろん普通ならランクを賭けるなんてことはしないのでほぼ成立しないのだが、出すものがなければ賭けるしかない。
「それでゼフィルス、相手のBランクギルドは? いったいどこなのよ」
シエラの言葉に1つ頷くと、俺は声を張って答えた。
「良く聞いてくれたな。相手として選んだのは、最近AランクギルドからBランクギルドに転落した、元Aランクギルド――〈天下一パイレーツ〉だ」
「「「〈天下一パイレーツ〉!!」」」
瞬間、ドッと〈エデン〉メンバーが反覆した。
あそことは因縁も多く、なぜか〈エデン〉メンバーたちの方がやる気になってしまったのだ。
「ゼフィルス! 詳しく説明なさい!」
「〈天下一パイレーツ〉がBランク落ちしたという話は聞いていましたが、なるほど、妙手ですね」
ラナが急かしてくるのに頷く。
エステルみたいに知っている者もいるだろうが、〈天下一パイレーツ〉はモニカが脱退を表明し、3年生の【賊職】メンバーのほとんどが卒業したあと、もうこれでもかというくらいあっさり負けた。
勝ったのは〈天使の聖剣〉ギルド。最近台頭してきた、新進気鋭の【天使】職が多く集まるギルドだ。
おかげで〈天下一パイレーツ〉はBランクギルドに落っこちて、〈エースシャングリラ〉の標的にふさわしい位置にいる。
そんなことを説明した。
「そして、実はすでに〈天下一パイレーツ〉とは交渉は済んでいる!」
「済んでるの!?」
「いいわね! また〈天下一パイレーツ〉を滅ぼすのよ! 木っ端微塵にね!」
「〈エースシャングリラ〉のみなさん、これは勝たないといけませんよ」
「あの鼻は定期的に刈らないとすぐ伸びますからね。邪魔になる前に刈るのも大事でしょう」
「シズ、扱いが雑草なのデス!? 今回はもうすでに散々折られていると思うデスよ!?」
「やば、先輩たちの方が燃えてるんだけど!?」
相手が〈天下一パイレーツ〉と知ってやる気満々な〈エデン〉の面々と、その迫力にビビる〈エースシャングリラ〉の面々。
俺たちの因縁を〈エースシャングリラ〉に背負わせちゃってごめんね。
だが、その因縁のおかげで〈天下一パイレーツ〉がギルドランクを賭けた勝負を受けてくれたので〈エースシャングリラ〉にはがんばってほしい。
「〈天下一パイレーツ〉はなんと言っていたのですか? 向こうが欲しがっているレートは?」
リーナが確認してくる。リーナはその辺、〈天下一パイレーツ〉との契約の責任者の位置づけだからな。
「〈天下一パイレーツ〉が欲しているのは、実はモニカだ」
「モニカさんですか?」
「ああ。〈天下一パイレーツ〉としては、〈エデン〉が引き込もうとしているモニカに待ったを掛け、今一度〈天下一パイレーツ〉に戻って来てほしいというのが希望だな。その間、モニカを〈エデン〉に加入させないことも条件に入っている」
「それは……ずいぶんと〈エデン〉に都合の良い希望ですわね」
「そうなんだよな」
〈エースシャングリラ〉と〈天下一パイレーツ〉戦が終わるまでモニカを〈エデン〉に加入させないという条件。
そもそもモニカには一度〈エースシャングリラ〉に入ってもらい、〈学園春風大戦〉を戦い抜いて〈エデン〉に来てもらう予定なのだが、今〈エースシャングリラ〉の枠に空きは無い。つまりどのみち加入出来ないのだ。
次にモニカに〈天下一パイレーツ〉に戻って来てほしいという条件。
これはモニカが〈エデン〉に連なるギルドに正式に加入した瞬間発動するため、可能な要望だ。
問題はその後だ、加入したはいいが、本人が脱退を希望すれば脱退させてあげなくてはならないのが学園のルール。
せっかく勝ってモニカを手に入れても、モニカが「もう1回脱退しやがりますね」と言えば、結局モニカは脱退してしまうのだ。
となると、一度加入すれば脱退しないと言いださないくらいの好待遇を用意しているのかもしれないが、あのサターンだからなぁ。
どれだけ好待遇を用意してもモニカが脱退する様子が目に浮かんでくるんだ。
そもそもそんな好待遇で釣れるのならもう釣られているはずだからな。
ということで、〈天下一パイレーツ〉の希望はほとんどこちらの痛手にならなかったりする。
なのに求めているのが六段階目ツリーを開放した【大罪】職ということで、無駄にレートが上がってしまっているのだ。
Bランクギルドのギルド証の他にも、レートの釣り合いを取るために〈天下一パイレーツ〉側がいくつか賭ける物を増やすことになったほどだ。
そう説明する。
「いつの間にそんな交渉をしてきたのよ」
「〈エースシャングリラ〉が勝ってすぐだから、ついさっきだな」
「ゼフィルスさん、こうなることを狙っていましたわね」
ふっふっふ、サターンたちには悪いが、今のサターンたちではAランクギルドどころか、Bランクギルドの維持も難しいだろう。なにせサターンたちだ。
なんだか〈テンプルセイバー〉と被るんだよ。Cランクまで真っ逆さまに落ちる未来しか見えない。
なら、俺たちがCランクへ落としても問題無いよね?
「でもゼフィルス、勝てるの? サターンたちは、腐っても六段階目ツリーの開放者よ? それが最低4人は居るわ。〈エースシャングリラ〉は五段階目ツリーの開放者すら居ないのよ?」
「任せておけ。〈城取り〉というのは何も対人戦だけで決まるわけじゃない。故に、対人戦をしない、レベル差があっても勝てる策を伝授するまでだ」




