#198 新メンバーで〈バトルウルフ〉戦。対策会議
〈小狼の浅森ダンジョン〉ボス〈バトルウルフ〉第一形態。
少し前に過剰すぎるほど狩られまくったボスが、今日もまた狩られまくろうとしていた。
「グ、グルルル……」
「なんか元気がないのですこのワンちゃん」
「キャイン!?」
〈バトルウルフ〉にガッツリ腕を噛み付かれた状態のルルが〈バトルウルフ〉をなでなでしながらそう言った。とっても主人公っぽい絵だ。
〈バトルウルフ〉はなんでこの子効いてないのと言わんばかりに噛み付く回数を増やし、尻尾はだんだんと下がっていく。何故かルルを怖がっているように見える気がするが、きっと気のせいだろう。
現在、ボス戦中。
新メンバー5人で初攻略を行なっているところだ。
メンバー全員がアタッカー寄りという、ちょっとバランスの悪い構成だが、ルルがガリガリに相手の行動や攻撃力を削ってくれるので普通に回っている。
やっぱり【ロリータヒーロー】むちゃくちゃ強いな。
この中だと唯一の〈姫職〉であるルルが一番目立っていた。
俺は〈『ゲスト』の腕輪〉を装備してボス部屋に侵入し、その様子を陰から見守る。
エステルは救済場所の向こうで留守番。今回は旅に出ないらしい。よほど1人が寂しかったようだ。
お。お供の〈ウルフ〉と〈リーダーウルフ〉を倒したメンバーたちが合流したな。
そうなると、ここからは一方的な戦闘になるな。
「『ファイヤバレット』! 『アイスバレット』!」
「『エレメントランス』! 『エレメントジャベリン』!」
「ガウッ!? ガァ!?」
すっかりルルに足止めを食らっていた〈バトルウルフ〉がシズとシェリアの攻撃にやられ、慌てて距離をとった。
「覚悟するデース『巨大手裏剣の術』!」
「ガウ!」
「あ、避けられたデース!?」
「ここはお任せを。『ストレートパンチ』!」
「キャインッ!?」
パメラが身体ほどもあるでっかい手裏剣で追撃する。ちなみにこの手裏剣はカルアの『投刃』と同じく幻影のものだ。しかしこれは〈バトルウルフ〉が野生の勘で回避した。
だが、回避したその場にはいつの間にか微笑みを浮かべるセレスタンが…。いつの間にそこに居たんだ?
そのまま腰の入ったパンチが突き刺さり〈バトルウルフ〉がたたらを踏む。ちょっと白目剥いてたぞ、どんなパンチだ?
「ルルも行きます! 『チャームポイントソード』!」
「ガァァァ!?」
ルルの追撃も突き刺さり、〈バトルウルフ〉が大きく暴れだした。
ボスモンスターは一方的に攻撃されるとこうして暴れだす性質がある。軽い怒りモードだ。
しかし、ルルに弱化されているので大した威力が無いのが残念だ。哀れ〈バトルウルフ〉よ…。
暴れる〈バトルウルフ〉に怯みもせず飛びかかったルルを始め、アタッカー寄りのメンバー全員でボコボコにして、とうとう〈バトルウルフ〉は消えていった。
難の無い勝利だったな。
「お疲れ様~」
「はい。お疲れ様でした、とても容易い相手でありましたね」
「ま、シェリアの言う事も分かるけどな」
哀れ〈バトルウルフ〉。初級中位最強ボスとして、また〈ダン活〉のガチ勢ボスモンスターとしてのプライドもボロボロだろう。
まあ、正直言えば〈バトルウルフ〉第一形態は単体だとすごく弱いからな。
というより初級中位ボス自体単体だとあまり強くない。お供が参加するから強いのだ。
そのためお供を分けてしまえばこんなものである。
〈バトルウルフ〉の名誉のために言わせてもらえれば、彼は当初のゲームでは結構苦戦する相手だったんだ。何せお供と常に共にいて、お供をパワーアップさせ、さらにお供を分けても『合流』スキルでヘイト関係なく合流してしまう。
今は対抗する戦術がしっかりしているから楽なだけであって、5匹を相手に戦うと相当苦戦する相手だぞ。
ゲーム時代初期は弱点の明確な〈デブブ〉より倒しづらいと言われていたほどだ。その後『合流』スキルを封じる戦法が広まって一気に弱くなったが。
いや、そうか。
一度『合流』スキルを阻止せずにやらせてみようか?
良い訓練になるだろうし、シェリアからは少し慢心を感じる。ここはあくまで初級ダンジョン。こんなところで勝ち誇られても今後躓いたときに大きく転けるだけだ。ボスモンスターは対策ひとつでこうも変わるのだというところを一つ見せておいたほうがいい気がする。
案外、ナイスなアイディアかも知れない。
「全員集合! 今後の計画を話しあうぞ」
思い立ったが吉日でエステルも含めて全員で緊急会議を開く。
議長は当然俺。時間もないので簡潔に話す。
「今の戦闘だとLV上げ的にはとても良いが訓練にはならないと思う」
俺の一言にセレスタンを始め幾人かが頷いた。みんな微妙にそう思っていたということだろう。
実力の高いメンバーが中心に頷いている。シェリアもシズも、ハンナがあれだけ苦労していた遠距離攻撃を難なくこなしているからな。彼女たちにとってあれくらいの動く的はどうと言うことはないのだろう。
逆に遠距離攻撃にまだ難のあるパメラはキョトンとしていた。彼女は一度持ち帰って練習から始めた方が良い気がする。
ルルはよく分かっていなさそうだ。
そこから俺がこれからの方針を提案する。
「そこで全員の職業LV30以上という目標はそのままに戦闘の訓練を模索しようと思う。その一環で考えたのが正々堂々の戦闘だ」
「先生同行デス?」
先生が同行してどうする。
「正々堂々だ。つまり対策を採らない。俺が教えた戦法を使わない。自分たちで模索して戦ってもらいたい」
「なるほど、ゼフィルス殿は今の戦法がどれほど有益であり、そしてそれを使わなかったときとの差を見てもらいたいのですね」
「さすがだなシェリア。そういうことだ」
今の戦法は〈ダン活〉プレイヤーたちが考えた知恵の結晶。より周回時間を短縮できるよう最適化された戦法だ。これを使わなかったときの感触を味わってほしい。
そこから具体的に話し合い、まだ職業LVが18なシズとパメラの2段階目ツリーが開放されたら始めるということで話は纏まったのであった。