#1817 面接開始。最初の面接は――子爵の姉弟!
「挨拶は初めましてになりますゼフィルス様! お噂はかねがね。僕は子爵家が子息。ミツルと申します。こっちは姉のソア」
「初めまして! ミツル君のお姉ちゃんのソアです!」
「こちらこそ、こうして自己紹介し合うのは初めてだな。もう知っているようだが改めて、俺はゼフィルス。〈エデン〉のギルドマスターをやってる。よろしくな!」
早速来てもらったのはミサトのオススメ枠。
【ヒーロー】に就いているという弟のミツルと、【魔法幼女】に就いているという姉のソアの双子姉弟だった。
実はミツルとソアとは去年の入学の時に面識があったのだが、あの時は当時の1年生の貴族系、その多くを対象に職業の発現をさせまくって無双していたので、こうして挨拶するのは初めてなんだ。というか、あの時はテンションがハイになってたからよく覚えてない。
実質初めましてみたいなものだな。ということで、しっかり見極めたいと思う。
面接開始だ。
最初の印象は、「あ、しっかりした方が弟なのね」だった。てっきり兄かと。
そういえば弟キャラって初めてかもしれないな。
ミツルの見た目はショタ。ブラウン系のお坊ちゃんスタイルというのだろうか。
なんだかよく躾けられた子ども的な感じを思わせる。ヒーローと言うからには熱血キャラかと思ったのにこれは意外だった。ちなみに格好は普通に制服姿だ。
もし採用となればこちらから装備は貸与する方針。
「あ、ミツル君は今真面目モードだけど、普段はもっと子どもっぽいよ」
「姉ちゃんは余計なことを言わなくていいの!」
「おお~」
あ、ショタっぽい。
どうやらミツルが気張っていたのは真面目モード(?)だったからのようだ。
やべ、一気に親近感が湧いたな。
姉に苦労させられている構図だろうか? そういう姉妹、〈エデン〉にもいます。
「ほら! なんかゼフィルス様から変な感心されたじゃないか! 姉ちゃんのせいだぞ!?」
「大丈夫大丈夫、遅かれ早かれだよ~。そんなのすぐバレるって」
「大事な面接だって分かってるかなこの姉ちゃんは!?」
なんてこった。振り回される弟の構図じゃないか!
これは良いキャラ。こういう場を和ませてくれる雰囲気、とてもいい。
あとミツルはツッコミ属性が高いのも高ポイント! さらには貴重な男子! 貴重な男子だ! セレスタンからも合格をもらっているし、ヒーローだし、俺の心はもう採用で動き出していた。
「ではミツルはもういいとして、次はソアいこうか」
「ちょ、姉ちゃんのばかー! ほら僕何もしてないのにもういいよされちゃったじゃないか!?」
「ありゃ。ごめんミツル君。でもお姉ちゃんに任せて、ミツル君を再評価してもらえるように、お姉ちゃん頑張るから!」
「全然信用できない……。僕の面接が、一瞬で終わった……」
チーン。
なんだかそんな効果音が聞こえてきそうなほどミツルが真っ白になってしまった。
どうやら不合格にされると思っている様子だ。
大丈夫、ミツルは合格だ。そう言おうと思ったところで姉のソアが上目遣いでねだってきた。
「お願いお兄さん、ミツル君はとても強い子なの。絶対ギルドの役に立つから、不合格にしないでほしいの」
「お兄さん……!」
――お兄さん。それはまたなんて甘美な響き。まさに近しい後輩ちゃんの呼び方。
今までの「子爵」っ娘は「ゼフィルスお兄様」「ご主人様」「教官」「お兄ちゃん」と様々な呼び方で俺の心を捕らえてきた。
聞けば、それが「子爵」令嬢の処世術とのこと。
こんな呼び方されたらそりゃデレデレになっちゃうよ!
「あざとい! この子、とてもあざといんだよ! ゼフィルス君にクリーンヒットしてる!」
はっ!?
この部屋に居るもう1人の面接官、ミサトのセリフに俺の心は現実へと帰還した。
危なかった。もう少しでデレっとするところだった。
俺は改めてソアを見る。
さすがは【魔法幼女】。その姿は立派な幼女だ。アリスと同学年にしか見えない。いや同学年だけども。
ミツルと同じブラウン系。ゆるふわウェーブで肩より少し長いくらい。
瞳はキラキラ光るオレンジ系。まん丸の大きいお目々はロリ度120%。
実に幼女! さすがは「子爵」令嬢!
性格は、マイペースだな。あと、あざと可愛いと。俺は心の中にメモをした。
アリスよりか精神年齢はこっちがだいぶ上っぽい感じだな。
「こほん。えっとどこまで話したんだっけ? とりあえず志望動機から聞こうか」
咳払いして仕切り直し。お兄さんと呼ばれた衝撃でさっきまでの記憶が全部吹き飛んだとかじゃないぞ? まだ面接らしい面接をしてないことに気が付いたんだ。
ミツルの方がどんよりとした雰囲気になってしまった気がしたが、大丈夫だろうか?
「〈エデン〉が一番成長できるから、かな? あとおいしい物をいっぱい持ってるって聞いたの」
「ほほう。もちろん〈エデン〉の下部組織に入れば大きく成長できることは間違い無いぜ。それと、〈エデン〉に入れば美味しいジュースが飲み放題だ」
「是非入りたいの! お願いお兄さん」
「どうしようかな~」
「ゼフィルス君ゼフィルス君。なんだか会話が全然面接官じゃなかったんだよ。まるで妹を可愛がるシスコン兄みたいだったんだよ!」
「なぬ!?」
いかんいかん。お兄さんと呼ばれてお願いされてしまうとついデレッとしてしまう!
ミサトに言われ、俺は身を引き締めた。キリッ!
「こほん。では最後に聞かせてもらおう。〈エデン〉の下部組織、そこは最終的にSランクギルドを目指す予定だ」
「「Sランク!」」
あ、ミツルも起きた。よし、これはミツルにも聞いておきたかったからな、ちょうどいい。俺は話を進めた。
「それだけじゃないぞ。俺たちが卒業した後、もしかしたらSSランクギルドである〈エデン〉に加入してもらう可能性もある」
「「SSランクギルド……!」」
「そうだ。学園でトップのギルドだ。そこに所属し、みなが見本と認めるほどの実力者であり続ける。その覚悟はあるか? もちろんこれは2人に聞いている」
これは〈エデン〉加入者全員に聞いている話だ。トップを目指す気の無い者にトップは任せられない。強くなるにはなによりもやる気が必要なんだ!
え? ニーコ? ニーコはいいんだよ。うん。
「! 僕はもちろんその気です。トップギルドに入れるのなら、相応の実力を身につけ、〈エデン〉の一部であり続けると誓います!」
お、ミツルが真面目モードだ。
俺はそれに満足げに頷く。即答だったのだ。よほどの覚悟をして面接に臨んだのだと分かるな。
そしてソアの方はというと。
「私もミツル君と一緒にいく。どこまでも真っ直ぐにどこまでも遠くに! たくさん成長して、きっと〈エデン〉を支えてみせるよ! ミツル君が共に居れば、きっと叶えられるよ!」
「!」
ソアから自身の成長だけではなく、ミツルの成長と、共に頑張りたいという強い思いが伝わってきた。さすがは双子、さっきのミツルへの言葉は本気だったのか。
これは採用するのなら2人纏めてじゃなければならないな!
それに「子爵」だ! 「子爵」は――強い。可愛い。文句無し。の三拍子!
「採用だ!」
「「!!」」
「もちろん2人とも採用するからミツルは安心していいぞ」
「は、はい! よかった、ほんとうに良かった。もうダメかと――」
「ミツル君ミツル君、素が出ちゃってるよ。真面目モード真面目モード」
「――いえ、なんでもありません。〈エデン〉の下部組織採用、とても嬉しく思います。〈エデン〉の名に恥じぬよう、誠心誠意頑張りましょう」
ミツル、少し気が抜けたみたいだが再び真面目モード。
それを見て思った。なんだかんだ姉のソアが弟を支えている構図なのだと。
最初もいきなり弟が素になって呆れられないように、前もって伝えワンクッション、フォローして弟を支えていた。
さっきの言葉は、弟の夢を側で支えたいという意味でもあるんだろう。ソアも良いものを持ってる。
改めて俺は2人を採用したことに満足した。
「これからは仲間になるからな。ミツルは様を付けなくてもいいぞ。普通に呼んでくれ」
「そ、そうですか? では、ゼフィルス先輩で」
「私は?」
「ソアはそのままでいい」
「お兄さん!」
「うむ」
「こらゼフィルス君。真面目にやらないと、あとでシエラさんからお説教喰らっちゃうよ?」
「冗談だ。ソアも好きに呼んでくれ」
「お兄さんでもいい?」
「もちろんだ!」
結局ミツルからの呼び方はゼフィルス先輩、ソアからはお兄さんで決定した。
俺は満足だ。




