#197 運命の日ですが、〈エデン〉には関係ない。
今日は5月1日だ。
学園の様子は特に慌ただしい。
貴族舎にも職員が出入りしてバタバタしており、いつもほんわかしている寮母さんもお忙しそうだ。
今日は最終測定の日。
学園でもっとも忙しい日とも言われているらしい。
しかし、〈エデン〉は今日も通常運転。
測定が必要な人はいないため、行事とは無縁にいつも通りのダンジョンアタックを敢行する。
「今日も楽しくダンジョンアタック! というわけで今日のパーティ分け発表です!」
「ほんと、あなたはブレないわね」
学園全体がバタバタしている今日もいつも通り進めようとする俺に少しあきれ顔のシエラがそう言った。
現在〈エデン〉のギルド部屋。
メンバーは誰一人として欠けること無く全員集合しているのだから、むしろいつも通り進めないと逆に失礼というものだ。
せっかく今日も集まってくれた皆にも申し訳ないからな。今日もダンジョンアタックです。
「今日は1年生授業免除の最終日、明日から学園が始まるからな、本日の目標は全員の職業LVを30以上にすることだ」
前から掲げていた目標通りだな。皆も異論は無いようだ。
「この振り分けは? 二つのパーティで合同攻略って書いてあるけれど?」
「ああ。今日のメイン探索は初級中位の〈小狼の浅森ダンジョン〉だ。ここは学生の利用率がやや少ないからな。今日はほぼ貸し切りで攻略出来る。それを利用して2パーティ合同で探索しようと思ってな」
シエラの質問に答える。要は協力プレイである。
ダンジョンは2パーティ以上が合同で探索することが可能だ。
これを〈合同探索〉と言う。
つまり2パーティなら10人、3パーティなら15人などでダンジョン探索が出来るわけだ。経験値や報酬がかなり分散される代わりに攻略が進む力業だな。
しかし大人数での探索が出来るのは道中のみ。ボス戦だけは5人という少数で挑まなくてはいけないと決まっている。6人目が門に入ろうとすると弾かれてしまうのだ。〈『ゲスト』の腕輪〉なんか例外はあるけどな。
でだ、その特性を利用し、ルル、シェリア、セレスタンのパーティとシズ、パメラのパーティを合流させてボス周回させようというのが今日の目的だ。ちゃんと俺とエステルでキャリーするので実質7人で攻略するつもりだな。
そう説明するとスッと手が挙がる。
質問にはまず挙手、そんなきっちりした事をするのは〈エデン〉の最強アタッカーであるエステルだった。
「はい、エステルどうぞ」
「ありがとうございます。質問なのですが〈『ゲスト』の腕輪〉は使えないのでしょうか? 何も2パーティに分けなくても彼女たちと〈『ゲスト』の腕輪〉を装備した私がいれば6人1パーティで行けると思うのですが?」
「ああ、それはダメなんだ。〈『ゲスト』の腕輪〉は戦闘をすれば壊れてしまう。エステルの〈乗り物〉でモンスターを轢いた場合それは戦闘とみなされるんだ。〈『ゲスト』の腕輪〉は6人いる時ダンジョンの途中で外すことは出来ないし、壊したとしても別パーティ扱いになり、ダンジョンを出るまでそれが続く。なら最初から2パーティで挑んでも変わらないという形だな」
モンスターを避けながら最下層に行くことも可能だがそれだと馬車の意味が無い。
馬車とはちょっ早でモンスターを無視して最下層に仲間を運ぶのが役割だ。モンスターをいちいち相手にしたり避けたりしていては走るのと変わらない。
それにエステルの馬車は7人まで乗車可能だ。2パーティを合計7人以下にすれば両パーティとも運べる。これを活用しない手は無い。ちなみに馬車が大きくなると3パーティ4パーティと運べるようになるので便利だぞ。
残りのカルアたちのパーティには今日はラナ、ハンナ、シエラが入り、初級上位ダンジョンの一つ〈付喪の竹林ダンジョン〉を攻略してくる予定だな。
「なるほど。ご説明いただきましてありがとうございました」
「おう。他に質問ある人はいるか? …いないならダンジョンアタックを開始しよう!」
「「「おー!」」」
俺の宣言にラナ、ルル、カルアの元気の良い返事が部屋を満たした。
初ダンでカルア、リカのパーティと分かれ、俺とエステル、そして5人の新メンバーたちで〈小狼の浅森ダンジョン〉に潜り、早速馬車を取り出して出発する。
とりあえずあまり顔を会わせたことの無いメンバーたちだ。道中軽く自己紹介を含んだ挨拶を交わしてもらうことにした。
「セレスタン、なんだかあなたとこうして話すのは久しぶりな気がします。今日はよろしくお願いしますね」
「お久しぶりデース! よろしくデース!」
「こちらこそ、お久しぶりですシズさん。パメラさん。今日はよろしくお願い致します」
〈分家〉組の3人が共に挨拶し合う。そういえば3人ともラナの紹介で〈エデン〉に入る事が決まったんだよな。お互い知った仲というわけだ。
「ルルはルルです! 【ロリータヒーロー】でガンガン戦うのです! よろしくお願いします!」
「ルルは本当に可愛いですね。私はエルフで【精霊術師】のケイシェリア。気軽にシェリアとお呼びください。魔法アタッカーですので後方からの攻撃がメインですね。よろしくお願いします」
続いてルルがその可愛さをふんだんに溢れさせた挨拶で場を和ませ、次にシェリアが丁寧に礼をとりながら挨拶する。
5人ともギルドに加入して5日ほどだが、ちゃんと話すのは初めてになる。やはり近いうち交流会をするとしよう。
エステルの隣の席に腰掛け、窓から車内の様子を見ていたが、皆仲良く話し始めたようだ。
特に明るいパメラとルル、そしてマイペースなシェリアは気が合うようで盛り上がっている。
逆にシズとセレスタンは聞き役に徹している様子だ。
「ではパメラさんとシズさんは、昨日幽霊ダンジョンをクリアしたのですか」
「そうデース! シエラとハンナにはたくさん手伝ってもらったデスが、なんとか倒したのデース!」
「すごー」
昨日シズとパメラたちは俺たちの攻略にエンカウントしないよう〈幽霊の洞窟ダンジョン〉を攻略していた。シエラも、幽霊は苦手なはずなのに挑み、無事雪辱を果たしたらしい。
頑張ったなぁ。後でシエラとハンナも労っておかないと。
シェリアとルルに褒められてパメラが身体をクネクネさせる。
「そんなに褒められても嬉しいだけデース! 何も出まセーン!」
「お茶をどうぞ」
「あ、お茶くらいしか出ないデース!」
「お菓子もありますよ。どうぞルルさん。シェリアさんもどうぞ」
「ありがとうです! ルルはお菓子大好きなのです!」
「ありがとうございますシズさん」
「シズー、わざとデスか!」
「いいえ? あなたも食べますか?」
「……い、いただくのデース!」
仲良くなって何よりだ。
そんな様子を助手席から窓越しに確認しながらエステルにも指示を出しダンジョンを爆走。
モンスターを数えられないくらい轢いたのち、無事に最下層に到着したのだった。




