#1813 さあ、第二下部ギルドを作る話し合いをしよう
「さて、ようやく〈SSランクギルドカップ〉や最上級ダンジョンの報告なんかが一段落したし、今日からは本格的に動こうと思う!」
「本当に一段落したのかなぁ。まだまだ学園の中心にある気がするんだよ?」
ハンナの指摘にニコリと微笑みで返して、今日のことを考えた。
本格的に動く? 何に? って?
そんなの新しい子の発掘に決まってるじゃないか!
せっかく学園から新しく下部組織をもう1つ作っても良いよ。今度はSランクギルドまで育てられるよ、をもらったのだから有効に使わないとな!
とはいえ、ことは新しいメンバーについてだ。
他のメンバーの同意無しにとはいかない。ということで、今日は〈エデン〉の頭脳陣を集めてまずその件についての話し合いだな。
「ゼフィルス君が本格的にか~。むしろ今までは本格的じゃなかったんだね」
「おうよ。実際、まだ1人だって勧誘してないしな」
ということで今日の方針は決まりだ。
まずは、集まれるか〈エデン〉メンバーに連絡だな。
結果、さすがは〈エデン〉のメンバーたち、頭脳陣は10時にはほとんどが集まれるそうで、今日の予定も決定した。
◇
「みんな、今日はよく集まってくれた!」
「もちろんですわ! わたくしはいついかなる時でもゼフィルスさんの声があれば参りますわ!」
「問題無いわ。むしろ色々落ち着いて、何をしようかと悩んでいたところだったのよ」
「ヘカテリーナ様と同じく、呼んでいただければいつでも参りましょう」
ここは〈エデン〉のギルドハウス、その個室の1つだ。
俺が集まってくれたみんなに感謝を込めて声を掛ければ、真っ先に応えてくれたのは我が〈エデン〉の軍師、リーナだった。
続いて応えてくれたのは、我が〈エデン〉のサブマスターにして、今日も金髪碧眼が美しい、シエラ。
最後に優雅に一礼する自称、俺の専属執事、セレスタン。
メルトは何やら用があったらしく、今日はこの3人に集まってもらった形だ。
え? ラナ? ラナは呼んでないな。
「ゼフィルスさん、最近会えなくて少し寂しかったですわ。お元気そうでなによりです」
「いやぁ、色々立て込んでてな。リーナも元気そうでなによりだ」
俺がギルドハウスに来るのも、もう1週間ぶりくらい。なんだかみんなの前ではいつも凜々しい頼れるリーナから、今はなんだか初めて会ったときのような不安定さを感じた気がした。まさか俺と会えなかった時間が長くて精神的に不安定になっている、なんてことはないよな?
……ハンナとは毎朝会っていたことは秘密にしておこう。
「確かに、こんなに会わなかったのも珍しいわね。今年に入ってからは、特にダンジョン攻略に熱を注いでいたもの」
「シエラとは毎日のように会ってたからな。確かにそう言われると久しぶりに会った感覚がしてくるぜ」
いつもは雑談をあまりしないシエラがまず雑談を始める程度には、会わなかった期間が長かった模様だ。シエラの言う通り、ここ数ヶ月毎日会ってたもんな。俺も久しぶりに会ったような感覚がしているよ。
なお、セレスタンは変わらない。だって毎日会ってたし。これもなんだか内緒にしておいた方が良い予感!
「ゼフィルスさんから声が掛かったということは、諸々の事柄は大体一段落したということですわよね?」
「ああ。〈SSランクギルドカップ〉の後始末に最上級ダンジョンの報告と諸々の協力、ようやく一段落付けたよ。今日はその連絡も兼ねているんだ」
リーナが少しはしゃいだ風に身を乗り出す。俺がこうしてギルドハウスに来たことで、こっちのことは大体見抜かれている様子だ。さすがは軍師。
「あまり自分1人で抱え込まないでよ。私たちも少しくらい頼りになさい」
「!」
シエラの言葉からは、俺を純粋に心配しているという気持ちが伝わってきた。
なんとなくじーんとくる。シエラ、そんなに俺のことを心配してくれていたのか……!
俺の心は少し温かくなった。あ、あとはジト目でももらえれば元気出ますよ?
「さすがはシエラさん、手強いですわね」
「リーナはもう少し落ち着きなさい。はしゃぎすぎが表に出ているわよ」
「では、場も温まったところでそろそろ本題に入りましょう。ゼフィルス様、よろしいでしょうか?」
「よろしい! では今日集まってもらった本題の方に移ろうか!」
何やら隣同士のリーナとシエラが小声でこそこそ言っていたが、あまり聞いちゃいけないような気がしてセレスタンがくれた波に乗っかった。
リーナもシエラも俺を見て、集中してくれたことが分かる。
「今日話そうと思っていたのは、ズバリ、新入生の勧誘だ! そしてSSランクギルドへの報酬である新たな下部組織の創立を進めようと思う!」
「なるほどですわ。あと10日と少しで入学式ですものね」
「これ以上増やすの? もうギルドとしてはかなりの人数よ?」
「もちろんできる限り増やしたいと思う! なにせ1年間はランクダウンしないっていう確約まで貰っちゃったからな! これは増やさないといけないだろうさ!」
SSランクギルドの特典の1つに、1年間ランクダウンしないというものがある。
ん? って思うだろ? それどういう意味? って。
つまり、Sランクギルドがランク戦に負けるとAランクギルドにランクダウンしちゃったり、BランクギルドがCランクギルドになっちゃったりする、あれだ。
それがしない? へ? ってなるよな。だがちゃんと理由がある。
SSランクギルドへの昇格はランク戦ではない、〈SSランクギルドカップ〉でのみ昇格、または世代交代する形となっているのだ。
SSランクギルドは学園の象徴にして学園トップのギルドの証。
そんなトップがころころ入れ替わられるのは学園としては宜しくないわけで。
なら、SSランクギルドへの世代交代は〈SSランクギルドカップ〉のみにしようと落ち着いたわけだ。
つまり、1年間ランク戦を挑まれないことを意味する。
最初それを聞いたときはびっくりと同時に絶望したよ。
それ、ランク戦仕掛けてもらえないやつじゃないか! って。
だが、その直後に「そもそも〈エデン〉へランク戦を仕掛けるギルドもいないしの」という言葉にさらに撃沈し、ならどのみち挑んでくる人いないし、まあいいか。となったんだ。
もうこうなったら来年の〈SSランクギルドカップ〉に賭ける!
それはともかく、要はランク落ちしないので今居るメンバーがランク落ちによって脱退しなくちゃいけない事態にならなくなるという意味でもある。
脱退の心配が無いのなら〈アークアルカディア〉を限界まで増やしても、なんら問題無いわけだ。
「それは、どうかしら? 新しい下部組織を作るのでしょ? それもSランクギルドになるレベルの。Bランク以上に上がるのなら、ランク戦に負けたらこれまで通り脱退者が発生するんじゃない?」
「あ、確かにその通りだ。そのリスクがあったか」
下部組織から脱退者が出るなんて考えもしてなかったため今まで気が付かなかったが、確かにシエラの言う通りだ。
Bランクギルドで上限30人になれば、ランク戦で負けると上限20人に減ってしまい脱退者が出る。その時の受け入れ先が問題になるな。全然〈アークアルカディア〉を上限まで入れてよくないわ。
まあ、下部組織をCランクギルドまでに留めておくのなら脱退者が出る心配は無いが、できれば下部組織もSランクギルドにしたいじゃん?
なら、〈アークアルカディア〉は変わらずこの人数を保つということで。
しかしなるほど。SSランクギルドがランク落ちしないというのは、脱退者を必要以上に出さない意味合いもあったんだな。もし〈エデン〉とSランクギルドまで育てあげた下部組織が同時にランク戦で負けた場合、脱退者は合計で20人になる。なんとなくギルドが終わった感じする数だ。ヤバい。
故に〈エデン〉をランクダウンさせないようにしてランク戦とは無縁のギルドを持つことで、脱退者の数を1度に10人までに抑える狙いがあった様子だ。納得だったな。
「シエラ、俺はまさにそういう話がしたかったんだ。なにせ2つ目の下部組織、しかもSランクギルドまでランクを上げられるなんて初めての試みだからな。色々分からないこと、手探りも多いだろう。今日はその辺の事情込みで下部組織の運営についてを話したい」
「なるほどね。了解よ」
「わかりましたわ。もちろん協力を惜しみませんわよ」
「承知いたしました」
こうして3人の協力を得ることに成功した。
「ではまず纏めてきましたこちらの資料をご覧ください」
「セレスタン!? いつの間に資料なんて作ってたんだ!?」
なんか執事が俺がまだ発表する前に資料を作ってきていたんだけど。なんでだ!?
「ゼフィルス様ならきっと下部組織の運営に興味を持つと思ったので、学園に問い合わせて準備しておきました」
どうやら、俺の行動が見透かされていたらしい。
だが、資料は助かる。俺はとりあえず、セレスタンに礼を言って労っておいたんだ。




