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ゲーム世界転生〈ダン活〉~ゲーマーは【ダンジョン就活のススメ】を 〈はじめから〉プレイする~  作者: ニシキギ・カエデ
第四十章 卒業とお別れと思い出作りの最上級ダンジョン

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2075/2112

#1811 さよならクイナダ。いっぱいのお土産を贈るよ!!




 その日、学園に激震が走った。

 いや前々から激震が走るんじゃないか? と噂されていたが、結局のところ、いくら〈エデン〉といえど新しい等級のダンジョンは苦労するだろう。なにしろ最上級ダンジョンだぜ? 大丈夫だよね? みたいに囁かれていた。


 実際〈エデン〉が上級ダンジョンに初入ダンした時は、あっちこっち行ったり来たりしながらかなり時間を掛けて先に進んでいた。

 まあ、一度流れに乗ってからは攻略速度が爆速したのだが。


 ということで、最上級ダンジョン門の解放と同時に即入ダンした〈エデン〉でも、まさかそんな早く攻略するとは――欠片くらいにしか思っていなかった。


 だが、結果はどうだろう。

 卒業式、最上級ダンジョン門が解放されて1週間きっかりで、〈エデン〉は見事に最上級ダンジョンの1つを攻略して帰還してしまったのだ!!


 え? なんでそれが分かったのかって、もちろんゼフィルスが自慢していったからである。

 堂々と、大注目の中――最上級ダンジョンのランク1〈新世の樹界ダンジョン〉の攻略を高らかに宣言したのだ。

 当然、〈樹界ダン〉の攻略者の証を掲げながらである。


 もう激震どころの騒ぎじゃない。

 学園は一瞬でこの話題一色に染まってしまった。

 都市の端から端までその日だけで伝わってしまったほどだ。


 そんな学園がお祭り騒ぎで大きく盛り上がる中、学園長は――またも魂を飛ばしていた。


「ああ学園長、お労しい。私が全力を注いで作ったこの蘇生茶で今戻してあげますからね」


「熱っつああ!?」


「本当に良く出来ているよねこの蘇生茶。いったいどういう理屈なんだろう? 私には最上級ダンジョンの攻略よりもこっちの方が気になるよ」


「ありがとうございます」


「ひぃひぃ、そ、そんなことよりもコレット君、冷たいお茶を、お茶をくれ」


 学園長、無事帰還。

 ここ1週間、勇者ゼフィルス率いる〈エデン〉が最上級ダンジョンを無事攻略中という報告を受けて気が気ではなかったが、ついに心配事が的中。学園長の意識を天高くまでぶっ飛ばしたのだ。まあ、学園長の意識は蘇生茶の力で無事戻って来たのだが。


「『健康診断』! うん、今日も大丈夫そうだね。学園長はいたって健康だ」


「ほ、本当かね?」


 医者のシトラスの診断結果がいまいち信用できない学園長。

 こんなに意識があっちこっち行っているのに健康診断では問題無い様子だ。


「蘇生茶が効いていますね。最近、ほんの少しですが〈エデン店〉に〈アルティメットエリクシール〉なる最上級のポーションが売られるようになりまして、試しで入れてみたのです」


「新薬をわし(学園長)で試しちゃったの!?」


 学園長の健康に問題は無い。無いはずだ。無いはずなのだが、学園長にはそれが間違っている気がしてならないらしい。


「それで学園長、ゼフィルスさんの話ですが、報告によると明日は大事な行事があるそうで、最上級ダンジョンの報告は明後日になるとのことです」


「明日は休もう。みんな明後日に備えるのじゃ」


「いえ、明日は留学生の総帰還日ですから学園長も忙しいですよ。スケジュールはびっしりです」


「…………ぁぁ」


 声が小さい。

 学園長、まだまだお休みは取れないご様子だ。

 コレットの報告に遠い目をする学園長、ああお労しや。


「御安心ください学園長。このコレット、付きっきりで学園長の意識がどこか行っても連れ戻せるよう補佐します」


「もし蘇生茶で戻って来られないときは私の出番だね。二重のセーフティーが学園長をお守りします」


 なぜだろう。頼もしい、頼もしいはずの2人が、学園長には他のなにかに見えてしまった気がした。きっと気のせいだと思いたい。


 ◇


「マリー先輩いるか~」


「いるで~」


 最上級ダンジョンを攻略し終え、なんか最上級ダンジョン門で出待ちをしていた多くの人たちの前で攻略宣言をしたあと――少しの間だけ解散。

 俺はその足で、マリー先輩が勤める、未だオープン前のデパートに来ていた。


「というか兄さん。また派手にやったなぁ。最初聞いたときはまた肝を取られるかと思ったわ!」


「ええ!? その話、もう伝わってんのか!?」


「そんなん、すでに学園中に広まっとるわ!!」


 なんて勿体ない。最上級ダンジョンの攻略をここでも宣言してマリー先輩の度肝を抜こうとしたのに、すでに知っているだと! しかも学園中!?

 情報伝達の速度が段違いすぎる!


 だが、まだこれだけでは終わらないぜ? 俺には次の手があるんだ!


「それで、ここに来たってことは、まさか、あれかいな?」


 マリー先輩が恐る恐るという感じで聞いてくる。

 ふふふ、マリー先輩は俺のことを、よく分かっているな!

 そう、攻略したということは、当然そのボス素材も――俺の手の中だ!


「見よマリー先輩! これが世で誰も見たことも聞いたことも無い、マリー先輩しか作製を許されない最上級最奥レイドボス、〈バトルウルフ(最終形態)〉の素材群だ!!」


 ズドン、と〈空間収納鞄(アイテムバッグ)〉をひっくり返してそれでドバドバと山を作る。

 そう、これは〈バトルウルフ(最終形態)〉の皮素材なのだ!!


「お、おおおおおお!! だが、だがこれだけではうちの度肝は抜かせへんで!! バッチリ心構えしとったからな!」


 むう! 手強い。さすがはマリー先輩! 俺がここを訪れた時から心構えをしていたのだろう。度肝を抜くのはそう簡単では無い。――なんて言うと思ったか!


「そしてこれが〈バトルウルフ(最終形態)〉の皮素材で作製する――〈金箱〉産の防具シリーズ全集だーーーーーー!!」


「〈金箱〉産の防具シリーズ全集やってーーーーーーーー!?!?」


「さらに、これまで戦ったレイドボスの分もドン!!」


「レシピがこんなにあるやとーーーーーーーー!?!?!? あかん、兄さんいつも溜めたらあかんって言ってるやろーーーーーー!!!!」


「はーっはっはっはっはーーー!! 全部〈金箱〉産だ! レイドボスは、〈金箱〉しかドロップしないのだーーーーー!!」


「な、ななななな! なんやこの数値はーーーーーー!!」


 ふはははははは!!

 心構えもなんのその、今まで溜め込んだレイドボス、〈フェアリークイーン〉や〈ネファイブ〉の素材とレジェンドレシピも一緒に出してこれまた山を作り、マリー先輩の度肝を抜いてやったぜ!! これがあるからマリー先輩はやめられないんだ!!


「マリー先輩! これで最っっっっ高の装備を作って欲しい!! 最優先で!!」


「はぁはぁ、ま、任せろい兄さん! うちが、これはうちが、誰にも負けない最っっっっ高の装備にしてやるわ!!」


 レシピの束を掲げて息を荒げているマリー先輩が頼もしい!

 さあ! ここからは商談の時間だ!!


 ◇


「待たせた!」


「おっそーい! こっちは準備出来てるわよゼフィルス!」


「ゼフィルス君、はい、これジュースだよ」


「悪いなハンナ。ありがとう」


 俺が〈エデン〉のギルドハウスに帰還すると、そこはとある会場に様変わりしていたんだ。ハンナに〈芳醇な100%リンゴジュース〉が注がれたジョッキをもらい、俺はすぐに壇上へと向かう。

 どうやら俺待ちだったみたいだ。


「慌てないで大丈夫よゼフィルス、良いタイミングだったわ。ちょうど準備が終わったところよ」


 そう言って話しかけてくれたのはシエラだ。その言葉にホッとする。

 そして壇上の前を見れば、そこにはピンクのドレスに着飾ったクイナダが立っていたんだ。


「ゼフィルス」


「おお! キレイじゃないかクイナダ!」


「ふふ、私がコーディネイトしてみたんだ~」


「えへへ、ちょっと恥ずかしいんだけどね」


 おっと、どうやらハンナの手腕によるものだったらしい。

 良い仕事じゃないかハンナ!

 普段和服を好むクイナダがこういうのを着ていると、なんだか新鮮な気持ちになるな。


「さ、クイナダ。今日はあなたが主役よ。がんばって来なさい」


「よし、いくかクイナダ」


「う、うん!」


 そう言って俺の後に続き一緒に壇上へ上がってもらう。

 すると、会場中が静かになった。

 もうお分かりかもしれないが、今日のこれは、クイナダのお別れ会だ。


「みんな、注目してくれ! これより、クイナダのお別れ会を開催するぞ!」


「「「「おおー!!」」」」


 会場の熱を上げ、お別れ会だというのにしんみりしない空気をセッティング。

 俺はそこでクイナダとの出会いから〈エデン〉に引き込んだ――じゃなくて勧誘した経緯などを語っていった。そしてクイナダがいた1年間を振り返る。本当にいろんな事があったなぁ。


「ここでクイナダからみんなに一言もらおうか! ――クイナダ、みんなに伝えたいことがあれば、ここで言ってみてくれ」


「うん! 私ね、〈エデン〉っていう大きなギルドに勧誘されて、最初はすごく驚いたの。その時は私も下級職だったし、私なんかが上手くやっていけるのか、とても心配だった。でも、ハンナちゃんやゼフィルスに優しくしてもらって、なんだかあっという間に【大軍一将之真神】になっちゃってたりして、あれにはとてもびっくりしたよぉ。でも、そこで自信が付いてね、〈エデン〉は本当に驚きの連続で、気が付けば1年で最上級ダンジョンを攻略する一員にまでなってた」


 そこでクイナダが言葉を切る。

 なぜだろう?

「〈エデン〉は本当に驚きの連続で」辺りから「うんうん」と頷く人がすごく多い気がするんだ。そこまで驚かせてない、よな? 度肝も抜いてないし。


「でも、この1年、すっごく楽しかったんだよ。最後にお別れ会なんて嬉しい場も用意してもらって。改めて、みんな、1年間、どうもありがとう!」


 そう、改めてクイナダが感謝の思いを告げると、会場中から拍手が上がった。


「私たちも楽しかったよ! クイナダさん、分校に帰ってしまっても、元気でいてください!」


「クイナダと一緒に修業したこと、あたい忘れないからな!」


「うん――うん! 私も忘れないよ!」


 クイナダと特別仲の良かったハンナやゼルレカの声が届き、クイナダが少し潤みながらも再度お礼を言う。


「まだまだ色々話したいこともあるだろう! ここで乾杯を執り行なうぞ! クイナダの新たな旅立ちにエールを送り――乾杯だ!!」


「「「「「乾杯!!」」」」」


 気持ちよく送ってやるのだ!

 その日は少し遅くまでお別れ会をして過ごした。

 途中でちょっとしたパレードになってしまいつつも外を歩いて、ついでにちょっとだけ〈猫界ダン〉を覗いたりもした。

 すぐに帰ってきてしまったが、和んだなぁ~。

 ああ楽しい! クイナダ、最後の夜だ。たっぷり楽しんでいってほしい!




 そうして長い夜は過ぎていき――翌日。

 俺たちは大量の馬車が待つ都市の出入り口まで来ていた。

 もちろん、クイナダを見送るためだ。

 周囲を見れば、多くの同じことをしている学生たちが見受けられる。


「みんな、見送ってくれて、ありがとう」


「ううん! そんなの当たり前ですよ! クイナダさん、体調には気をつけてくださいね!」


 ハンナが頼もしい。クイナダとは、本当に仲が良かったからな。

 頼もしいついでにこれも任せるか。


「クイナダ、俺たち〈エデン〉からプレゼントがあるんだ」


「え?」


 クイナダの門出だ。たっぷりと豪華なプレゼントを贈ってやらないとな!


「ははは、なんとか間に合ったわぁ」


「アルルちゃん、大丈夫ですか?」


「もちろんや、ハンナはん、これ、頼むわ」


「え、ええ?」


「ハンナ、それをクイナダに」


「え? これって」


 かなりお疲れの様子のアルルからハンナが受け取ったのは、とある大剣。

 それを見て、クイナダはなにかに気が付いたようだ。


「こいつは昨日ドロップしたレシピから作った――〈森界狼新王の牙王剣(がおうけん)〉だ!」


「やっぱり!?」


 そう、昨日の最奥〈バトルウルフ(最終形態)〉からドロップした〈森界狼新王の牙王剣(がおうけん)〉のレシピと牙素材から、今朝早くからがんばってアルルが作製した――この世にまだこれしかない最上級の大剣だった。


「え、ええ!? でもでも、私、あまり持ち合わせが」


「プレゼントだって言っただろ? これは、〈エデン〉メンバーの総意だよ」


「ええ!?」


 クイナダが見渡せば、〈エデン〉メンバーがみんな頷く。


「本当に、いいの?」


「おう! これで分校のダンジョンモンスターもバッタバッタ倒してくるといいぞ!」


 そう言ってニカッと笑う。

 アクセ装備の〈キングの加護腕輪〉と〈狼王の全てを貫く(きば)首飾り〉の代金は受け取っているが、これはサービス。なにしろレジェンド装備作製の初めての作品、つまり試作品みたいなものだ。試作品に代金は必要無い。


「クイナダさん、受け取ってください」


「ハンナちゃん」


 ハンナが差し出したことで、クイナダが〈森界狼新王の牙王剣(がおうけん)〉を手に持った。

 ――よし、今だ。


「それだけじゃない」


「え?」


「実はついさっき、マリー先輩からも装備が届いたんだ」


 そう言って俺がハンナ経由で差し出すのは、お高そうな装備が入ってそうな白い箱。

 ハンナに箱をもってもらい、俺が蓋を持ち上げてズラすと、そこには大剣と同じような色と意匠が入った、頭装備から足装備まで揃った装備シリーズ一式が出てきたんだ。


「え、ええ!? これって! 昨日の!?」


「おう、これも昨日出た防具のレシピから作製した、〈森界狼新王シリーズ全集〉だ!」


 さすがはマリー先輩。昨日お願いして今朝にはもう完成させてしまうとは恐れ入る。

 だが、正直助かった。クイナダの出発に十分間に合ったからな。

 忙しいはずなのに、俺は感謝でいっぱいだ! また今度色々持っていって埋め合わせしなければなるまい!


「ちなみにこれが鑑定書な」


「わ、わぁ! 凄い! 何この能力値!? こ、これが最上級レイドボスの装備!?」


 装備の能力値が書かれた鑑定書を渡すと、そこに書かれていた数値にクイナダが目を丸くした。ふふふ、その顔が見たかったんだ。なんちゃって。


「な、なんだか最後の最後でまた度肝を抜かれた気分なんだけど」


「そんなことないさ。クイナダ、分校戻っても元気でな」


「! うん! みんな、ありがとう! 私、この装備を着て頑張るよ!」


 これにて武器、防具、アクセ全てが最上級(レジェンド)で揃った。

 これは〈エデン〉なりのエールだ。



 馬車に乗り込んだクイナダが、窓から顔を出して潤んだ瞳で俺たちを見る。


 動き出した馬車に、みんなで一斉に手を振った。


「がんばってねクイナダさん! 今度、手紙書くから!」


「うん! うん! 私も手紙書くね! みんな、また会おうね! ばいばーい!」


 最後は笑顔でばいばいだ。

 留学生の総帰還。

 俺たちはクイナダの馬車が見えなくなるまで手を振り続け、クイナダの旅立ちを見送った。


 大丈夫だ。また会えるさ。

 その時は、そう遠くはない。



 第四十章 ―完―




 第四十章も楽しんでいただき、ありがとうございました。


 また、作者の大好きなお()様、お待ちしております!




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ゲーム世界転生〈ダン活〉1巻2022年3月10日発売!
― 新着の感想 ―
クイナダは現状最もゼフィルスに貢がれた人物かも知れない
留学生が分校に帰っても、インフラが整ってなさ過ぎて何も教えられないのでは 笛もない、マップデータも無い、攻略本もない、ダンジョンショップも乗り物もない。 エデン店がないからポーションも買えない、貴族じ…
裏で動いている「救世イベント」絡みかな。
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