#1808 〈バトルウルフ(最終形態)〉レイドボス戦!
「「「「「ウォーーーーーン!!」」」」」
「噛みつきとブレスを警戒! 特に側面も注意しろ! 1つ目と5つ目の首が来るぞ!」
「わわわ、首だけこっち向いたーー!? 『神宝剣・ホーリーシールド』!」
「サチっちー!! 『神宝本・終末のディストラクション』!」
「『神宝弓・フルパワーダートストリーム』ーー! サチ、大丈夫!?」
「あっぶなー。助かったよ~」
側面からぶった切ろうとしたサチだったが、正面から見て一番右側の首が振り向き、サチに光属性のブレスを叩き込んだのだ。
幸いサチは〈六ツリ〉防御スキルで防御し、エミとユウカがフォローして事なきを得た。
このように首が5つともなると振り向ける場所は千差万別。
視界は広く、側面に回り込んでも振り向いて攻撃でき、股下に潜ろうとも覗き込んでくる。
上を取ろうにも同じだ。
唯一の首が振り向けない場所は後方だが、それもバックアタックと尻尾によるガードや薙ぎ払いなどで容易に攻撃ができない。
〈バトルウルフ〉は最終形態になってかなり強くなっていたのだ。
「動きも、これだけ大きいのに俊敏ですわ……! トモヨさん! フィナさん!」
「『絶対ガブリエル頑強盾』!」
「『天域大結界』!」
「「「「「ウォーン!!」」」」」
時々ジャンプしたり、前へ突進したりもする。
正面はかなり危険で、バックアタック後の突進が非常に強力だ。
あの巨体だからな。今もトモヨとフィナの2人掛かりで突進を受け止めていた。
タンクは基本的に正面を担当、側面と後方は1人ずつ配置し、万が一に備える形。
俺はそろそろかもと後ろに回り込むと、〈バルフ〉が仕掛けてきた。
「! 『爆炎尻尾薙ぎ』予備動作! 離れてくださいまし!」
懐かしき初級中位のレアボスだった〈バトルウルフ(第二形態)〉のユニークスキル。『バトルウルフ流・爆炎尻尾薙ぎ』だった。
だが、これはすでにくるだろうと見込まれていたので予備動作の時点でリーナが離れるよう指示を出していた。
なにせ上級中位ダンジョンの〈バトルウルフ(第五形態)〉もしてきたからな。
しかし今の〈バトルウルフ〉は30メートル級、この巨体で回転とかマジヤバい。
スキルエフェクトが光り、尻尾が燃えて身体をぐるんとその場で一周させる、もはや範囲攻撃と言えるのかも怪しい大規模攻撃が俺たちを襲った。
「ラクリッテ、盾を!」
「ポン! 素晴らしき盾よ、皆を守れ――『グロリアスブクリエ』!」
後方のタンク担当であるラクリッテが〈六ツリ〉の防御スキルを発動し、後方に回り込んでいたみんなを守る。だが、本番は炎の攻撃が止んでからだった。
なんと〈バルフ〉がこっちを向いていたのである。身体ごと。
『爆炎尻尾薙ぎ』の回転時、なんと最終形態のバルフは1回転半回り、後方と前方を切り替えてしまったのである。
せっかくタンクを固めていた正面が今度は後方というアンビリーバボー。
こっちの純タンクはラクリッテしかいない。
これには普段から大きなお目々をしていたラクリッテの目がさらに丸く大きくなってしまった。
「危険ですーー!?」
「俺に任せておけ! 『天光勇者聖剣』!」
「ゼフィルスさん!」
俺が後方側に来たのはこれを知っていたからだ。フォローは完璧。
早速噛みつき攻撃を繰り出そうとしていた〈バルフ〉をぶった切り、一瞬の硬直状態にしてしまう。
『爆炎尻尾薙ぎ』が本物のユニークスキルだったらここでダウンが取れていたかもしれないが、あの尻尾薙ぎはあくまで疑似的なただのスキルなので硬直のみだ。残念。
「タンクのみなさん、すぐにスイッチを! トモヨさんフィナさんはすぐに正面へ! シエラさんはカバーで移動をお願いしますわ!」
「「「了解よ(だよ)(です)!!」」」
さすがはリーナ、予想外の1回転半だったのにもかかわらずすぐに足の速いタンクを急行させる手腕が素晴らしい。
だが、さすがに硬直が解ける方が早く、再度噛みついてこようとする。
でもな、ラクリッテを甘く見られちゃぁ困るぜ?
「ラクリッテユニークスキルだ! 『聖剣』!」
「ポン! 現れるのは最高最強の幻、重力すら惑わす宇宙をここへ見せよ――『ギャラクシーイリュージョン』!」
さらに『聖剣』で硬直を狙い時間を稼ぐと、ラクリッテがユニークスキルを発動する。
それは宇宙の幻影。無重力状態に陥った〈バルフ〉は身体の制御ができなくなってしまう。
「「「「「ウォーーーーーン!!」」」」」
「『ブレイブシールド・イグニッション』!」
「『クイーンオブカバー』!」
噛みつきができなくなったので次にしたのはブレスだった。
本来ならばそれも狙いが付けられず、明後日の方向に飛んで行きそうなものだが、こいつちゃんとラクリッテを狙ってきたよ。間に入って究極の勇者盾を召喚して防御。
だが、ここにシエラがカバー系スキルで割り込んできたんだ。
「さすがシエラ、速いな!」
「ゼフィルス、防御は任せて、あなたは攻撃に集中して」
「了解だ! 『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
シエラの防御がとても頼りになる!
勇者盾の効果が切れると同時に究極魔法で攻撃。
ズドンズドンと超強力なダメージを与えまくった。
〈バルフ〉が宇宙で行動もままならない状態なので他のアタッカーも攻撃の密度が大きく増しているのだ。
「おらー! 『怠慢と堕落の剣』! 『惰性と堕弱の一撃』! 『堕弱の刻印』!」
「『神様はお怒りです』! 『雷神父アターック』!」
「とうー! ワンちゃんおとなしくしないとメッなのです! 『神世界インフィニティ』! 『ヒーロー・バスター』! 『ヒーロー・バスター』! 『ヒーロー・スターレイ』!」
ゼルレカのデバフが五段階目に突入したな。
かなりの弱体化でダメージの伸びが凄まじい。アリスのような強力なアタッカーはヘイトを取り過ぎてしまわないか心配だ。
「大丈夫よ、もしタゲがアタッカーへ向いたら――私が守るわ」
「シエラがかっこよすぎる!」
シエラの言葉にときめきそうだ。シエラには奥の手の『完全魅了盾』があるからな。レイドボスを1人で受け持つとかなかなか大変なのであまり使わないが、他のアタッカーたちがやられそうになったら躊躇なく使おうとシエラは決めている様子だ。
ラクリッテのユニークスキルの効果が切れて〈バルフ〉の4本の脚と肉球が地面に触れる。さっきみたいなイレギュラーがまた起こると仮定し、リーナがタンクをさらに分け、ヒーラーも再配置しながら対応していった。
そのおかげか、被害無しで最初の第一形態を乗り越えることに成功する。
「ナイス!」
「最初のHPバーがゼロになりますわ! みなさん一度集まってください!」
「「「「「ウォーーーーーン!!」」」」」
リーナの声がフィールド全体に届いて3秒ほどで1本目のHPバーがゼロになった〈バルフ〉が黒い炎に包まれた。
第一形態が終わり、形態変化が始まる。
俺たちはその間に一度リーナの下に集まり、〈アルティメットエリクサー〉をグビッと1杯やるのだ。
「よし、MP全開だ! この1杯のためにスキルを使ってるんだぜ!」
「美味しいわよねこのポーション!」
「なんだかゼフィルス先輩とラナ殿下が今〈バトルウルフ〉さんのことを完全にわすれている気がしますぅ!」
「それは私も気のせいじゃないと思うなぁ」
なぜかマシロが戦慄し、シヅキがうんうんと頷いていたんだ。はて?
レイドボスの形態変化は長い。ムービー15秒という感じだ。
その間に全メンバーの補給を完璧に済ませられるかが腕の見せ所だな。
もちろん〈エデン〉では全員集合に加え、補給も完璧だ。
「そろそろ形態変化が終わりそうだ!」
「まずはみなさん正面へ! なにが来るか分かりませんわ!」
最初は一塊になって第二形態に備える。さすがはリーナ優秀だ。
だが、第二形態になった直後の〈バルフ〉にとってはちょっと悪手。
なにせ〈バルフ〉の第二形態の初手は、メラメラ燃えていた黒い炎を集めてぶっ放すブレスなのだ。
珍しく『直感』さんが発動するレベルの危険度。
「ん!?」
「前方防御! シャロン、カタリナ、ロゼッタ、キキョウ、ヴァン!」
カルアも耳をピンと立てるほどの反応。
形態変化の炎が晴れるのかと思いきや、それがギュッと5箇所に凝縮し、〈バルフ〉のそれぞれの口の中へ吸い込まれ、同時に5つのブレスが放たれたのだ。
「『ゴッドオリハルコンランパート』!」
「『絶界』!」
「『神守盾』!」
「『吸属封印盾』!」
「『オリハルコン城』!」
だが、うちのタンクたちが防御スキルを全開で出したことで防ぎきる。
「ひゃああああ!?」
「あぶ、危なっ!」
「いきなり!? 予備動作がほとんど見えなかったよ!?」
サチ、エミ、ユウカの叫びが〈エデン〉メンバーの声を代弁しているな。
「形態変化の直後にだと? 厄介な攻撃を! いや、それだけじゃ無さそうだ、周りを見ろ!」
メルトの言葉にその周りに目を向ければ、〈バトルウルフ(最終形態)〉の周りに新たな影が。なんとそこにも〈バトルウルフ〉が居たのである。
それも歴代と言っていいだろう。第一形態から第六形態までの〈バトルウルフ〉が勢揃いしていたのだ。
最終形態も合わせて7体の〈バトルウルフ〉が勢揃い。
これが〈バルフ〉最終形態の第2ラウンド。
要は眷属召喚である。召喚された眷属が全部ボスだけどな。
さらに、こいつらはもちろん過去の強さのままなんてことはない。
ちゃんと最上級ダンジョンに登場するにふさわしいほどレベルが上昇しているんだ。




