#1805 徘徊型襲来! 逃げると破壊と奇襲戦法の鬼!
翌日からは朝から〈ネファイブ〉も〈竜笛〉で呼び出し、周回しながら攻略を進めた。
最初に〈ネファイブ〉を撃破して2日が経ち、12回目の撃破で36個の〈金箱〉をゲットしたが――サチが欲しがる〈神剣〉系のレシピは未だにドロップしていない。
まあ、あれってもっとランクの高いダンジョンでドロップするしな。
というかビューティフォーが出ない!
大丈夫だ、これはまだ貯めているだけだ! 最奥こそは……!
「ゼフィルスさん、今よろしいでしょうか?」
「お、どうしたモナ? 採集物になにか不満があったか?」
「いえいえ、物に不満はありません。ですがソドガガがちょっと」
「あ、このダンジョン発掘ポイントが無いんだっけ」
現在83層。
上級上位ダンジョンの最奥である80層を突破し、やはり最奥は90層にあるのだろうとみんなが感じ始めたところで、相談しにやってきたのはモナだった。
その内容は、〈採集無双〉の『発掘』担当、ソドガガの不調だ。いや、不調というか元気が無いというか……。
原因は分かっている、この〈樹界ダン〉には全く『発掘』ポイントが無いせいだ。
だって〈樹界ダン〉、上下左右、どこ見ても樹で覆われているからね。鉱石系なんて発掘しようもないダンジョンなんだ。
ソドガガも「きっと奥に行けば、もっと奥に行けば、釣りポイントが現れた時同様、発掘ポイントも現れるはず……!」と思いながらがんばって来てくれたのだが、もうすぐ最奥に着きそうな雰囲気。
最上級ダンジョンの発掘ポイントをとても楽しみにしていたであろうソドガガにとって、厳しい状況のようだった。
ならば、ここは俺の出番だろう。
モナに付いていき、他の採集を手伝っているソドガガに声を掛けた。
「ソドガガ」
「――――」
こっちに振り向くが相変わらず寡黙なソドガガ。
だが、もう長い付き合いになる俺には「何か用か?」と聞かれたように感じるんだぜ。
「実はな、そう遠くない辺りで〈鉱ダン〉に潜ろうと計画しているんだ」
「!!」
俺の話にグイッと食いつくソドガガ。
――〈鉱ダン〉。
正式名称〈鉱石と貴金ダンジョン〉。
この学園が保有する5つのエクストラダンジョンの1つだ。
まだ〈エデン〉では行ったことの無いダンジョンだな。
そして、この〈鉱ダン〉は強い。
それはそれは強い。もう強すぎてエクストラダンジョンの中でも〈道場〉を抜きにしてまだ攻略されていないダンジョンとして君臨しているくらいだ。
上級上位ダンジョンですら〈エデン〉以外でも攻略されているこのご時世に、まだ攻略されていないとかアンビリーバボー。
いったいなぜか?
エクストラダンジョンは〈道場〉を除き。
〈食ダン〉は初級。
〈海ダン〉は中級。
〈秘境ダン〉は上級の強さがあった。
なら〈鉱ダン〉は?
もうこの流れで言えば分かるだろう。
〈鉱ダン〉は、最上級クラスの難易度を持っている。
当然、〈鉱ダン〉の深層で採集できる鉱石は――最上級だ。
この〈鉱ダン〉でしか手に入らず、『発掘』担当が居ないと入手出来ないレア鉱石もあって、金属系の最上級武具を作りたければいずれは行かなければいけない場所。
この話を誰も行ったことのない奥地へ向かうとソドガガに言うことで希望を抱かせるのが狙いだ。
「おお! ソドガガの目にあんなに活力が! ――ゼフィルスさん、ありがとうございます!」
「はっはっは! まあ、まだ詳しい日程とかは決まってないけどな。もうちょっとここでレベル上げもしたいしさ」
「――――」
この話だけでソドガガの採集速度がむちゃくちゃ上がってたよ。効果は抜群だったようだ。
〈鉱ダン〉はエクストラダンジョン内で最難関。
あそこを攻略するにはまだレベルが足りないため、もうちょっとレベル上げが必要だが、ソドガガに未来の希望を与えるには良い働きをしてくれた。
「ゼフィルスー、なんか次の階層から嫌な感じがするわー!」
「ラナの嫌な感じとか洒落にならないんだけど?」
次はラナからの相談だ。
すぐにラナの声がする方へ向かえば、84層へ通じる階層門があった。
だが、別に階層門自体には荒々しかったり、闇闇しいオーラは無い。
しかし、ラナの勘は良く当たる。となると、84層に何かあるに違いない。
「多分、徘徊型ですわね」
「リーナもそう思うか?」
うん。俺もそう思っていたところだ。
昨日から深層に突入した俺たちだが、未だに徘徊型とは遭遇していない。
深層は大型の植物モンスターが多く、1体1体のモンスターが強くなる。5階という道も突き破って上下に移動してくるので奇襲されやすい。フィールド自体はそこまで変わらないので、モンスターにさえ注意しておけば中層と同じように進める場所だ。
故にモンスターの位置は特に気をつけてリーナたちが索敵していた。
だが、エリアボスは数居れど、未だ徘徊型ボスは発見すら至っていなかった。
この先に居る予感だ。
「クイナダ」
「う、うん? 呼んだゼフィルス?」
そして問題がもう1つ。それがクイナダだ。
クイナダの出発は、ついに明日に迫っていた。
だからだろう、昨日からどこか心在らずということが増えてきていたんだ。
深刻そうならばマシロの癒施術を受けさせるが、昨日やったばかりだしまだ大丈夫そう?
「おそらく84層では徘徊型が出る。気を引き締めてくれよ。このままだと奇襲に反応しきれず戦闘不能になるぞ」
「! う、うん! 気をつけるよ!」
徘徊型ボスは基本奇襲してくるのがデフォルト。
気が抜けていては奇襲に反応することはできない。
改めて、クイナダにはしっかり気を配る必要がありそうだ。
「それじゃあいくぞ! 84層に突入だ!」
「「「「「おおー!」」」」」
みんなで潜れば恐るるに足らず!
そうして突入した84層は、一見普通の階層だった。
だが騙されてはいけない。ここは徘徊型が出る見込みのダンジョンなのだ。
「索敵班、索敵開始だ!」
「『フルマッピング』! 『敵性発見』! 『索敵竜眼』! 『神の目』ですわ!」
「『エージェント猫召喚』! 『ネコの探知はごまかせない』!」
「私も微力だけど手伝うね! 『立体地図レーダー完備』! 『上級痕跡発見』!」
「私も見つけます! 『シークレットアウト』!」
リーナ、カルア、カイリ、マシロがスキルを使いまくる。
徘徊型を要チェックだ。〈竜の箱庭〉に次々と情報が現れる中、それは――物理的に響いてきた。
ズドーン! ズドーン!
「な、なにこの音!?」
「なにかが壊れ? いえ、なにかが壊しながら進んでいますわ!」
「これ徘徊型じゃないの!?」
最初に聞こえたのは破壊音。〈竜の箱庭〉で見つけたんじゃないんだ、物理的に響いてきたんだ。
エリアボスが樹の中にいて索敵が効きづらいというのは周知の事実。だが、徘徊型は、まさかの索敵するまでも無く移動が分かるパワータイプなのだ。
「本当に君徘徊型!?」「奇襲戦法全くできてないじゃん!?」と〈ダン活〉プレイヤーたちに言わしめたボスである。
「来ますわ!」
「もう!? まだ歩き出してもいないんだけど!?」
「ゴンガーーーーーー!!」
「ゴンガー!?」
〈竜の箱庭〉を使って僅か10秒。その徘徊型ボスはもう俺たちの前に姿を現した。
「『看破』! あれは――〈最強ゴリゴリラ・キングオブドンコンガ〉というそうです!」
「徘徊型って、〈ドンコンガ〉系統なの!?」
現れたのは鳴き声で大体お察ししたとおり、ゴリラのボス。
〈ドンコンガ〉系最強のボス――〈最強ゴリゴリラ・キングオブドンコンガ〉だったのだ。
「! アイコンは――6です!」
「最大値か!」
これまでの道中、守護型ボスもエリアボスも数パーティ推奨だった。
そのアイコンは30層でリセットされ、5層ずつ1パーティ増えていくという仕様。
5層では2パーティ必要であり、10層では3パーティ、15層では4パーティ、20層では5パーティ、25層では6パーティ、そして30層では10パーティ、レイドボスを倒せばリセットされ、35層では2パーティ、40層では3パーティと増えていく。
今のところレイドボスを除けば6パーティ推奨ボスが最強で、25層ボスと55層ボスがそれに当たる。その時でも25層は2体のボスに分かれていたのでハンディ自体は高くなかった。しかし55層は6パーティ推奨の5ハンディボスとかいう、意味の分からないやつだったのだ。あいつは強かった。最後は「キャイン」って鳴いてたけど。
つまりはこの徘徊型ボスも、最強クラスのボスということだ。
「1班、2班、3班、6班、7班、それに――10班が戦闘に入ってくれ!」
「え!? 私たちも!?」
「わたくしもですか!?」
俺の宣言にびっくりして返してきたのはカイリやリーナだ。
なにせ、10班はサポート部隊。本来ボス戦なんて最奥ボス以外しない班だからな。人数もここだけ4人パーティだ。
しかし、この徘徊型にはカイリの力が必要なんだ。
「コンガーーー!」
「させないわ――『エンプレス・オブ・カバー』!」
「ラナ、シエラに加護!」
「『守護の大加護』! 『耐魔の大加護』! 『病魔払いの大加護』!」
「ゼルレカ、デバフだ!」
「おっしゃー! 『モチベーション・ゼロ』! 『エンド・オブ・バイタリティ』!」
「こいつは今後〈キングコンガ〉と呼称する!」
〈最強ゴリゴリラ・キングオブドンコンガ〉、通称〈キングコンガ〉が最初に狙ったのは、リーナ。
おそらくリーナがやった何かしらのスキルのヘイトを感じ取ったのだろう。
当然シエラがカバーに入る。今回ノエルがいないのでバフ担当はラナ、デバフ担当は7班のゼルレカだ。
「きゃ!?」
「『ジェットバーストフェニックス』! 『エル・セイバー』!」
ズドンとリーナをぶん殴ろうとした〈キングコンガ〉が自在盾に止められ、側面から7班のエフィが飛び込んだ。そのまま攻撃開始。
「ガ? コンガーー!!」
だが、デバフ&攻撃を防がれた〈キングコンガ〉はこれに怒りを表したのか、大きく後退。エフィの攻撃はそこそこのダメージを与えていたが、他のメンバーが攻撃する前に引いたことで仕切り直しだ。
だが、〈キングコンガ〉は驚くべき行動に出る。
「コンガーーーー!」
ドカーン!!
「壁を壊しましたわ!? 逃走!?」
なんと本来なら破壊不能オブジェクトである壁を破壊し、その中に入っていってしまったのだ。壁はすぐに修復されるが、その後も破壊音がドカーンドカーンと続くのが聞こえてくる。
「いや、回り込んで来る気だぞ! ロゼッタ防御! 3、2、1、今だ!」
「はい! ―――――『神守盾』!」
「コンガーーー!」
ドガーンと再び壁から現れた〈キングコンガ〉が狙ったのは、6班。
だがすでに6班タンクのロゼッタが盾を構えており〈キングコンガ〉の攻撃を完璧に受け止めていた。
これが〈キングコンガ〉の奇襲(?)戦法。
ダンジョンオブジェクトである壁を破壊して中に隠れ、内部を破壊しながら回り込んで攻撃を仕掛けてくるのだ。
移動中の破壊音さえ聞こえなければ完璧な奇襲戦法である。
なお、ゲームの時は音無しでやるとベリーハードモードだったとここに記載しておこう。基本、音有り推奨だ。
「あ、また壁の中に逃げるわよ!」
だが、この行動は防ぐことが可能なのだ。
〈キングコンガ〉がまたも壁をぶっ壊して内部へ引こうとする。しかし、それは徘徊型特有の逃走扱いに分類されるのだ。つまり、
「カイリ! 徘徊型封じだ!」
「! そっか! 『徘徊型は逃げられない』!」
「コンガ!?」
ズドンとなにか透明な壁にぶち当たったかのようにして弾かれる〈キングコンガ〉。
カイリの六段階目ツリー、『徘徊型は逃げられない』の効果は名前の通り、逃走しようとする徘徊型を逃走できなくしてしまうスキル。
そう、なぜ俺がパーティとして数が足りておらず、サポート班である10班をこの戦闘に選んだのか。
カイリのスキルが――〈キングコンガ〉戦でエグいほどぶっ刺さるからなんだよね。




