#1802 レイドボス大型〈ネファイブ〉戦――開始!
〈レイドボス・大型〉――〈邪悪寄生花・ネネネネネルジュガン〉、通称〈ネファイブ〉。
超大型の化け物花で、周囲の樹を枯らし、養分を吸収し、〈樹界〉という凄まじい力をその身に吸収して巨大化した寄生花。
その大きさは40メートル級。これまで学園祭に登場した2体のレイドボス、〈ヘカトンケイル〉と〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉と同じくらいの大きさだ。
20メートル級が限界の通常ボスの、倍もの巨大さを誇る。まさにレイド級だと分かるだろう。
姿は何千本もの茎が絡みついたような身体に、邪悪な色の超巨大な花がその先端に一輪だけ咲いている。根っこは茎よりもさらに多く、足場と見分けがつかないほど周囲に張り巡らされていた。
「〈ネネネネルジュ〉!?」
「ラナ様、〈ネネネネネルジュガン〉です」
「言いにくすぎるわ!」
ごもっとも!
ネが多過ぎる! まあ、根で周囲の〈樹界〉を根こそぎ吸い尽くしたボスだからね。根が多いんだよね。
「こいつは〈ネ〉が5つで通称〈ネファイブ〉と呼称しよう。どうだ?」
「それ採用よ! 〈ネファイブ〉ね! 覚えたわ!」
ネが5つで〈ネファイブ〉。なんか前にもこういうボス居たよね。
お察しの通り、こいつは中級中位〈枯木の邪花ダンジョン〉、レアボス〈邪球根・ネネネバナ〉、通称〈スリーネ〉の最終進化系だ。途中に〈ネフォー〉も居たんだが、そっちはまた今度、会えたら紹介しよう。
今回は〈ネファイブ〉だ。
また、〈枯木の邪花ダンジョン〉の〈スリーネ〉と言えば、〈カウントダウン即死〉を初めて使ってきたボスでもある。その進化系……。
つまり、こいつは〈即死〉使いなんだ。
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
俺たちを見つけたであろう〈ネファイブ〉が狂ったような叫び声を上げる。
だが、その叫びはただの叫びではなかった。
「な、なに!?」
「きゃ!?」
「ゼフィルスさん、今数人の『カメ代わり』が発動しましたわ!」
――『カメ代わり』。
これはギルド設置型アイテム、〈カメさんトロフィー〉のスキルだ。
上級下位のランク10、その最奥ボス〈ダダル〉からドロップしたアイテム。その効果は「〈即死〉攻撃を受けたとき、1日に1度だけ無効にする」である。
「これは、〈即死〉攻撃の雄叫びだ! 全員〈身代わりのペンダント〉を装着! ――シュミネ!」
「はい! 『世界樹召喚』! 『ハイエルフの楽園』!」
開幕初手で全体〈即死〉攻撃とかマジ最終進化形!
しかし『カメ代わり』のおかげで誰1人戦闘不能者は出ず、ここで〈身代わりのペンダント〉を装着させるのと、シュミネの状態異常を無効にする超コンボを召喚してもらう。
エステルやアイギスなど、アクセを2枠使うメンバーは少なくない。故に装備だけではなくシュミネにも召喚をお願いした形。ただシュミネの世界樹は破壊される可能性があるため、2重の防御策で〈即死〉に対応する構えだ。
ここまでは想定通り。こいつが〈即死〉使いであると全員が理解したことだろう。
「ジャオオオオオオオ!!」
「来るわ!」
「シエラ!」
「任せて――『アブソープション・ワン・フォートレス』!」
装備を換装していると、しびれを切らした〈ネファイブ〉が襲ってきた。
花から種の連射。〈スリーネ〉の初手もこれだったな。だが、その大きさは段違い。
一輪の花、と言えば清楚っぽいが、実際はなんか牙とか生えているやべぇ花からの種発射だ。しかも種の大きさは1つ5メートルを超える。40メートル級の高さから発射された5メートルの種は、端的に言って隕石だった。
しかし、シエラはこれをしっかり防御。
俺が指示を出すまでもなく〈六ツリ〉を展開するシエラが隕石の連打を受け止める。衝撃を吸収して術者のHPを回復する『アブソープション・ワン・フォートレス』により、シエラはフィードバックを受けた瞬間から回復し、なんと1人で受けきった。
「すご、さすがシエラさん!?」
「トモヨもこれくらい出来るでしょ」
本来なら初手の全体〈即死〉攻撃で崩されたところにくる隕石級の攻撃だ。壊滅への第一歩って感じの一撃。それを1人で防ぎきったシエラにトモヨが尊敬の視線を向けていた。
だが、シエラが言うほど簡単ではないぞ? なにせレイドボス・連型の〈フェアリークイーン〉は4人で防御していたんだから。
それを1人で防御しきるシエラがどれだけとんでもないかが分かるだろう。
これ、もう一度言うけど本来は全体〈即死〉攻撃の直後に放たれるやつだからな?
「相手はレイドボス・大型! これは〈ヘカトンケイル〉や〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉と同列のボスだ!」
「あの何千人もの人で挑むようなボスが相手!? こっちは49人だよ!?」
「安心しろニーコ! 俺たちだって六段階目ツリーを開放している! あの時よりもだいぶ強いんだ! 今ならこの人数でも負けないぜ!」
「確かにぼくたちは強くなってるけれど、あれを倒せるのかい!?」
ふっふっふ、ニーコめ、良いリアクションをする。
連型〈フェアリークイーン〉の時はどうもレイドボスという感覚がしなかったっぽいが、大型には比較対象があるぶん、より鮮明に感じるのだろう。
だが安心してほしい。むしろ〈六ツリ〉というのは、レイドボスに対抗するためのスキルなのだ。これで勝てなければ嘘だ。
「それを証明してやるぜ! 『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
「ゼフィルスに続け! 『コキュートス・ゼロ・ディザスター』!」
「よーしやっちゃうよー! 『雷神父アターック』!」
「ゼフィルス先輩が勝てると言うのなら勝てますの! 『氷龍』!」
「みんな前向きすぎるーーーー!?」
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
〈六ツリ〉の強力な魔法が突き刺さる。
3本あるHPバーの1本が目に見えて削れたな。
「ラクリッテ、トモヨ、フィナ、ヴァン、シャロン、前へ出てくれ!」
「分かりました!」
「空中は私とフィナ先輩担当だね!」
「任せてください。弾き飛ばします」
「自分も精一杯頑張るであります!」
「私もフォローするよ!」
タンクを前に出したら攻撃開始だ。
「ヴァンは『六ノ城』まで一気に建てろ! シャロンはヴァンの城を補強してやってくれ!」
「はっ! 『第二拠点建造』! 『防御に勝りし壱ノ城』! 『気合いで打ち勝つ弐ノ城』! 『最後の砦の参ノ城』!」
「了解だよ! 『防壁召喚』! 『防壁強化』!」
「ラクリッテ、ヤバそうな攻撃が来たら逸らしてくれよ! 早速来るぞ!」
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ポ、ポン! 来たれ幻影の巨人×四――『ミラージュ大狸様×四体』!」
「種隕石が軌道を変えた!?」
「ナイスラクリッテ!」
シエラの防御スキルの効果が切れたので、次はシャロンとラクリッテの番。
ヴァンは防御が揃えばかなり硬いのだが、揃えるまで時間が掛かる。その辺をシャロンに補強してもらいつつ、ラクリッテにも付いてもらい、ヴァンの準備が整うまで守ってもらう形だ。
これは〈フェアリークイーン〉戦で編み出したコンビネーションだな。
現れた4体の大狸様の幻影に種隕石が降り注ぐがヴァンの城は無傷。
「『超極防壁の四ノ城』! 『1000年轟け五ノ城』!」
「あとひとーつ! 『失敗予告』!」
「ジャオ!?」
「『神炎天罰』!」
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「トモヨ、フィナナイス!」
茎が絡まったような身体から大量の茎を伸ばしてトモヨとフィナを狙う〈ネファイブ〉だが、トモヨの『失敗予告』で無事キャンセル。
そこにフィナが良い一撃を入れて怯ませていた。
「『難攻不落の六ノ城』! ――完成であります!」
「よーしゼルレカ! 第二拠点を使ってヒットアンドアウェイ! デバフをどんどん付与してやれ!」
「任せろ! 『モチベーション・ゼロ』! 『エンド・オブ・バイタリティ』!」
第二拠点が完成すれば、次はデバフだ。
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「攻撃来るぞ!」
「我が城にお任せであります!」
「て、な、なんじゃありゃあああああ!?」
「前衛は城に逃げ込めーー! 第二拠点を上手く使うんだ!」
「やっば! 『オリハルシステム排除ゴーレム召喚』! ゴーレム、受け止めて!」
続いて〈ネファイブ〉は全体攻撃をぶっ放す。
茎、根っこが大地を離れて空中に振り上げられ、続いて落ちてきたのだ。
まるで大地が落ちてくるような錯覚をするような、大量の根っこが落ちてくる攻撃だ。
予備動作が長いので全員が避難完了。
そう、ヴァンの第二拠点は避難先。
全体攻撃が真上から降ってくるため、アタッカーとヒーラーがタンクの後ろに居てもやられてしまうのだ。ならばと編み出したのがこれで、こりゃ避けられねぇ、というようなヤバい攻撃がきても避難できる場所を作ったのだ。
結果は上々。
全体攻撃がズシーンという音を立てて降り注いだが、〈エデン〉のアタッカーやヒーラー、サポート班は全員が城の中に退避していて無事だった。
シャロンのゴーレムが城をかばってくれたのも大きいな。
「よっしゃー! 続きだー!」
「私もお供するよゼルレカ――『必殺の溜め』!」
「俺も行くぜ! 『天光勇者聖剣』!」
万が一の避難先があるだけで前衛にとっては天国だ。
ヴァンには〈城〉回復系のスキルもあるので、耐久度も高い。
シャロンやノエルも加わればそう簡単には破壊されない拠点の完成だ。
〈ヘカトンケイル〉や〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の時もそうだったが、レイドボスというのはとんでもない全体攻撃をしてくる。
それを如何に防ぐのかが勝利の鍵だな!
タンクは充実しているし、バフもノエルがさっきからじゃんじゃん歌って付与している。ゼルレカはデバフを付与しまくり弱体化。
アタッカーはヒーラーとタンクの援護により十全に戦える。
となれば1本目のHPバーが無くなるまでそう時間は掛からなかったんだ。
「ジャオオオオ!?!?!?」
「第一形態突破!」
「本当に突破しちゃった!?」
自分も参加していたのに目を丸くするという器用なニーコにグーしておき、今のうちにポーションでみんなのHPとMPを全回復しておく。
「みんな、〈アルティメットエリクシール〉と〈アルティメットエリクサー〉を飲んでおけ! 十全の態勢を保つんだ!」
「相変わらずハンナちゃん印の〈アルティメットエリクサー〉回復力凄いんだけど!? これが使い放題ってやっぱり〈エデン〉はおかしいよ!」
クイナダが何か今更なことを言っている。
〈アルティメットエリクシール〉と〈アルティメットエリクサー〉はそれぞれHPとMPを回復させるポーションだ。
特に〈アルティメットエリクサー〉は回復力が大変で2本飲めば大体全回復する。
このダンジョンで素材が大量に確保出来るため、飲み放題を解禁したのだ。おかげで〈ネファイブ〉が第二形態になった時、俺たちも全回復していた。〈即死〉攻撃も防いでいるし、不備は無し!
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「なんだか負ける気がしなくなってきたよ!」
「その調子だぜニーコ!」
うむうむ、ニーコも吹っ切れてきたな。
〈ネファイブ〉の第二形態は――根っこをよく使い始めるようになる。
その名の通り、根を操ることこそが〈ネファイブ〉の真骨頂だ。
今までは〈樹界〉から養分を吸い取るために根を張り巡らせていたのだが、俺たちは真っ先に排除しなくちゃならない敵だと認識したのだろう。
せっかく張り巡らせていた根を解いて攻撃を仕掛けてくるのだ。
さらにはデバフ、ドレイン、状態異常攻撃系まで様々ないやらしい手も使ってくるようになる。さすがは邪悪な植物系モンスター!
「足下警戒!」
「空を飛べるメンバーは空から攻撃! ヴァンはここを死守せよ!」
「了解であります!」
地面から根っこが飛び出し、下から攻撃が飛んでくる。
だが、第二拠点の中は地面からの攻撃も無くて安心。ここは完全にヴァンのユニークスキルのテリトリー内なのだ。なぜか地面を通って攻撃などはできない。
「上からも比較的小さな種が飛んできてるよ! ヒーちゃんが当たって根に絡まってる!」
「ヤドリギ的な攻撃だな! HPを吸収されてるぞ! あの小さな種には直撃させるな!」
見ればフラーミナの〈オロチ〉のヒーちゃんに根が絡まってなにやら養分を吸われていた。それあかんやつ!
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「む、バフのアイコン、このボス、パワーアップする気ですよ!」
「よし、フィナやったれ!」
「はい! 『天秤の行方』!」
レイドボスが自己バフ使う? そんなのダメでしょ。却下です!
空飛ぶフィナが近くに居たので天秤を発動してもらう。
天秤が傾き、バフとデバフが反転した。
「ジャ!?」
すると〈ネファイブ〉のバフアイコンが消えてしまい、デバフアイコンになってしまったのだった。
「これだけ強メンバーが揃っていると、ガチの対策増し増しで、むしろやりやすいな! 『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
「ジャオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
俺の『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』が突き刺さり、大きくHPバーを減らす。
油断はまだまだ全然できないが、対抗策がある安心感でとても戦いやすい。
よし、2本目のHPバーも半分切った。もう少しだ!




