#1795 30層のさらに奥、30.5層に広がるフィールド!
「この門は、階層門にしては大きすぎるわね」
「それに、ちょっと禍々しいわ!」
「レアイベントボスの門、ということなのでしょうか」
それを見たシエラ、ラナ、リーナがそう感想を漏らす。
30層のパーソナルフィールドと思わしき大きな空間、そこにあったのは巨大な禍々しい扉だった。
「リーナさん、やっぱりこの30層、他にパーソナルフィールドが収まる大きな空間は無いっぽいよ!」
「そうなると、本来ならここに守護型ボスが居るはずですが、守護型ボスはどこへ?」
カイリが〈竜の箱庭〉を何度も確認するが、この階層に他のパーソナルフィールドらしき巨大空間は見当たらない。
ならば、ここに守護型ボスが居るはずなのだが、ここにはボスどころかモンスターすら居なかった。しかも、門の近くにはショートカット転移陣があり、ここが階層門であると告げていた。
「ショートカット転移陣も起動していない。つまりは誰かが守護型ボスを倒したわけじゃない。となると、あの扉が怪しいが」
メルトの言葉に全員が禍々しい門を見る。
その天辺には、10という数字が光っていたのだ。
「10、つまりは10パーティ推奨、だと?」
10パーティ推奨ボス。そんなんあり得るのか?
10パーティといえばSランクギルドにならないと50人フルメンバーを集められない。
Aランクギルドなどだったとき、攻略出来ないじゃないか! となるだろう。
まさにその通り、ゲーム時代、ここを攻略したければSランクギルドになり、50人育ててこい。という意味が込められていた。
ゲーム時代では下部組織のメンバーは連れてこられなかったからな。
さすがは最上級ダンジョン。
ぶっちゃけると、ゲーム時代、最上級ダンジョンの攻略はエンディングの半数以上は関係無かったのだ。
上級ダンジョンを攻略し、六段階目ツリーを開放すれば、あと新しく覚えるスキルなどはない。故に、ここで育成を終了し、エンディングの準備に入ることもできた。その場合は半分くらいはバッドなエンディング行きだったが……。
とはいえ、〈真のエンディング〉、〈トゥルーエンド〉、〈FIN〉、〈救世エンド〉などなど、豪華なエンディングは最上級ダンジョンを攻略しないとたどり着けなかったため、上級ダンジョンの攻略程度でエンディングに進むのは勿体ないと思うけどな。
まあ、Sランクギルドになって50人育成しないとクリア不可となるとさすがに難しかったので、〈真のエンディング〉が見たければ最上級ダンジョンもがんばれ! という方針だったというわけだ。
しかしこの世界では下部組織も連れてきて良いし、他のギルドと協力プレイもできるので50人ならば集めやすいだろう。多分。
とはいえ他に最上級ダンジョンへ入ダンしている人が居ない現状、俺は自分たちだけでここを突破するつもりだ。
「ゼフィルスさん、いかがしますの? 入るとなるとここに〈採集無双〉のみなさんを置いていくことになりますわ」
「確かにそうだな。だが……」
リーナに言われ、俺は〈採集無双〉の面々を見る。
さっきから無心に採集しまくっている彼ら彼女らを。
「あ、ゼフィルスさん、僕たちのことは気にしないで良いですよ! 『ゲスト』はまだまだ有効みたいですし、危険が迫ったら〈転移水晶〉で帰りますから!」
するとモナが振り返り、全くもって恐れることなく、むしろ生き生きした表情でそう言ってきた。
その手には大量の素材が抱えられている。農業少女かな? 間違えた。農業少年といった様子だ。収穫が楽しすぎると顔に書いてある。
「分かった。モナが言うのなら、ちょっと俺たちはここの扉の中に入ってくる。後は頼んだぞ」
「任せてください!」
「本当に任せてしまってもいいのでしょうか……?」
もし、万が一俺たちが戻らない、戻れない事態が発生した場合、〈採集無双〉がそれを学園に報告することになるだろう。
でも本当に大丈夫? リーナは夢中で採集活動に勤しむモナたちを見て心配なようだ。
だが、俺は心配いらないと知っている。
この中にいるのはとあるボス。もしそいつに負けても最奥ボスのように「ペっ」て扉の外に捨てられるだけだ。生きて帰れるから問題は無い。
でも約50人がぺってされるのか。ちょっと見てみたいのは秘密。
というわけで、俺たちは門に入ることを前提に話し合うことになった。
「まず必要なのは調査ですわ。この門が階層門だとすれば、普通でしたら31層に続いているはずですわ。この数字から考えると、31層は10パーティまでしか入れない、そう解釈するのが当然であると考えますが」
あ、なるほど。リーナの言うことはもっともだ。そっか、最初は31層に続いていると思うよな。軌道修正せねば。
「だがリーナ。これまであの数字はボス戦でのみ使用されてきた。もしかすれば、中にボスが居る可能性もあるぞ?」
「それよゼフィルス! 私も、最初門を見たときはレアイベントボスみたいなのが中に居るんじゃないかと思ったわ! そっくりだもの!」
よし、さすがはラナ。
ラナはいつも俺の言ってほしいことを言ってくれる。
この門の先にはボスがいる。レアイベントボスとは違う、また別のボスが。
そしてこの巨大な門は、階層門というよりもレアイベントボスで使われていた巨大扉の方が似ている。
それを聞き、メルトが頷いた。
「その言葉はもっともだろう。31層だった場合は〈竜の箱庭〉を出してマッピングすればすぐに判明する」
「ですわね。ではまず中に入ったら〈竜の箱庭〉でそこがどこかを調べることから始めますわ」
「よし、方針は決まったな」
ボス部屋だった場合、31層だった場合、それ以外だった場合。
そのどれにかかわらず、まずは〈竜の箱庭〉と『フルマッピング』のコンボで状況を把握する。
という方針で俺たちは準備を進めた。
モナたちは、素材の山を築き上げているな。
一応全員がセレスタンが作ったティーを飲み、準備が完了したところで声を掛ける。
「モナー、それじゃあ後をよろしく頼むぜー」
「はーい! ゼフィルスさんたちも、楽しんで来てください!」
「おう。それじゃあ行ってくるぜー!」
「おかしいな。今のやり取りは『俺たちに何かあった場合、報告や助けを呼んできてくれ』『任せてください』的なやり取りのはずなのだが、軽すぎないか?」
「たははは~。だって〈エデン〉だし、ゼフィルス君だからね~。『ちょっとそこまで行ってくるから留守番よろしくな~』『オッケー』くらいの軽さになっちゃってもしょうがないよ~」
そうそう。ミサトの言う通り、しょうがないのだ。
実際、ちょっと隣の部屋でバトルしてくるだけだからな!
「いくぞみんな! なにが来ても〈エデン〉ならば乗り越えられる! 俺に続けー!」
「「「「おおー!」」」」
掛け声あげて、出発だ。
見たことも無い禍々しい門、10と書かれ、おそらくそれ以上入れない門。もちろん中は禍々しいオーラに包まれていて見通すことはできない。
そこに俺が先頭で入る。
さすがにタンクを先頭にして入れとは言えない。俺ならば最悪『完全勇者』でなんでも防げるので問題は無いのだ。
そして中に入ると、そこは開けた空間だった。
「なによここ、あの禍々しい門からは考えられないくらいキレイな場所じゃないの!」
第一声はラナ。
みんなが中の光景に見惚れる中、さすがと言えるだろう。
そう、ここは〈樹界ダン〉。30.5層、とでも言えばいいだろうか。
名前は、フェアリーガーデン。
まるでお伽話に出てきそうなフィールド。森の中にある花畑、幻想的な光景が目の前にあったのだ。
本当、あの禍々しい門の先にある場所とは思えないよな。そこへ。
『招かれざる客が来たようじゃな』
「だれ!?」
それは森の奥からやって来た。
大量の〈フェアリー〉種を引き連れて、自身もその〈フェアリー〉種とあまり大きく変わらない姿で。
『招かれざる客?』
『燃やしちゃう?』
『凍らせちゃう?』
『痺れさせちゃう?』
「あ、この感じ知ってるわ! 〈フェアリー〉よ!」
ラナ正解。
〈ダン活〉では喋るモンスターはほんの一握り。そのうちの1種が〈フェアリー〉種だ。
この〈樹界ダン〉は〈ウルフ〉のみが出るダンジョンにあらず、ちゃんと〈樹〉系や〈フェアリー〉系など、これまで登場した森に住んでいる系統のモンスターも登場するのである。
「ゼフィルスさん、やはりここは31層とは思えません。『フルマッピング』では大きな部屋のように映し出されましたわ! これは、ボス部屋と酷似しています!」
「聞いたな! ここはボスフィールド。あれらは10パーティ推奨ボスと認定する! あの大量の個体を全て倒す事が必要だろう!」
「何体いるのかしら。10パーティで戦うのだから、300体くらいは仕掛けてくるのかしらね」
「〈巣多ダン〉なんかで鍛えた対集団戦法でいくぞ! 全員配置に付け!」
「タンクは前に出てくださいまし!」
ここはやはりボス部屋だった。
すぐに俺とリーナで声を張り、陣形を整えていく。
「『看破』! 出ました! 相手はやはりボスです。レイドボス・連型、〈フェアリークイーン〉です!」
エステルが看破したことでその正体も暴かれる。
相手は〈フェアリー〉系の最終ボス、〈フェアリークイーン〉。
その系統は――レイドボス・連型だ。
レイドボス。それはたくさんの味方が協力して倒す事が前提のボスの総称である。




