#1793 アンテナで迷走!マリー先輩の新しい事業!
エリアボスの〈金箱〉がドロップした! すごく良い。
もちろんラナの『プレイア・ゴッドブレス』のおかげだろう。
ということで、今回はラナが開けることを主張した。
「私に任せなさい! なにか良い物を当ててあげるわ!」
「なにか良い物とは!? でもそれで当ててしまうのがラナクオリティだって、俺信じてる!」
そして有言実行、ラナは〈金箱〉から〈超ボス探知アンテナ〉という、アクセ装備を引き当てたのである。
「な、なにこれー!」
「ホワッ!?」
俺はそれを見たとき、むちゃくちゃびっくりしたよ。
見た目はアンテナ。昔のアニメに出てきそうな、ちょっと太い棒とその先端に球体がくっついている感じ。
一応最上級アクセ装備ということで装飾も少し凝っており、キラキラしている。良いアンテナだね。これをどこに着ける気だい?
これ、人に着けるアンテナなんだよ。装備だし。とんでもない見た目になるぞ。
しかし、その効果は絶大。
名前の通り、これはカイリやリーナが今まで探知出来なかったエリアボスが探知出来るようになる装備なのだ!
「効果は――『エリアボス探知』などのボス探知系スキルの効果上昇ですね」
「ボス探知スキルの強化ですって! それ今一番欲しかった装備ですわ! ということは――カイリさん!」
「私!?」
エステルが淡々と〈幼若竜〉を使って読み上げ、その効果にリーナが度肝を抜かれたようにびっくりしてカイリに促した。
まあ『エリアボス探知』を持っているのは、カイリだからね。
しかし問題もある。
「ちょっと待って! このなんかラメ入って煌めいてる棒を装備するの!? どこに着けるの!?」
そう、それが問題だ。
昔のアニメとかだと、頭に着けるよね。
「それは、ここでしょうか?」
「リーナさん!? まだボケちゃダメだよ!?」
案の定リーナがアンテナをカイリの頭にセットしようとしていた。その手は掴まれてしまったけど。
リーナはたまに天然ボケをかますことがあるからとてもいいんだ。
俺は心の中でグーしておいた。
「まあアクセだし、手に持ったり腕に付けたりしても効果が出るんじゃないか?」
「だ、だよね! 頭に着ける必要は無いよね!?」
俺の提案に食いつくカイリ。こんなの頭に着けられるか! という気迫を感じるな。
なお、装着する場所はゲームの時でもどこでも良かったので、リアルでも問題無いと思われる。カイリは、どこにくっつけるのが一番目立たないか模索し始めたよ。
さらにそこへ女子も乗っかったんだ。
「ここなんか良いと思うのです!」
「尻尾ができちゃったよ~。見て見てキキョウ~」
「ちょー、そこもダメー! こんな尻尾恥ずかしぬー!」
「ならば肩はどうだろうか? ふむ…………なぜか不良度が上がった気がするな」
「ん。お腹は?」
「お腹から探知した情報を受信するの!?」
「ぶふっ!? と、とってもシュールですの!」
「そ、そんなのスキルを使う度に周りが笑っちゃうよ!」
長さ15センチくらいのアンテナをどこに着けるかで大盛り上がりだった。
ルルは尻尾のように着けることを提案し、リカは肩を提案、カルアはお腹だな。
なお、カルアの提案はカグヤの鋭いツッコミによってツッコミチームのサーシャとクイナダすらノックアウトしていた。
ちなみにそれ、スキルを使うと光るんだよね。
その性能を唯一知っている俺は、カイリがお腹に光るアンテナを装備しながら探知スキルを使用する姿を想像して――秒で腹筋がやられた。ち、ちくしょう、そこは盲点だったぜ。
なお、これは〈デザインペイント変更〉によってもっとマシな形にすることが決定し、帰還するまでは暫定的に手に持って使う事になった。
ということで12層で早速使用感を試してみる。
「いくよ! 『エリアボス探知』! ってこれ光るんだけど!?」
「ぶはっ!?」
本日2回目の強襲が腹筋を襲った。
危なかったよ。お腹に装備されていたら即死だったかもしれない。
「ですが、それの力は本物ですわ! 見てくださいカイリさん。〈竜の箱庭〉にエリアボスの反応がありますわ!」
「わ! ほんとだ! やっぱり樹の幹の中に隠れてるんだね!」
だがその効果は確かなもの。
〈竜の箱庭〉をみんなで覗けば、下の方、1階のさらに下に大きな反応があったんだ。
『エリアボス探知』を使ってから現れた反応なのでエリアボスに間違い無い。
「問題は、これがどうやって表に出てくるか、ですわね。先程のようなことが突如起これば危険ですわ」
さすがはリーナ。
ハンディ付きエリアボスと不意に遭遇してしまう危険性に、俺が言わずとも気付いていたようだ。
「どういうこと?」
カイリの言葉に頷き、俺がギルドメンバー全員に周知する。
「そうだな。さっきのエリアボスは3パーティ推奨、つまり2ハンディのボスだっただろ? そしてエリアボスは不意に遭遇してしまうこともあるボスだ」
「「「あ!」」」
ここまで言えば大体のメンバーは気が付いたようだ。
最上級ダンジョンのエリアボスという恐ろしさに。
一応その後も危険性を周知しておく。
「早急にエリアボスが出現する条件を突き止めなくてはなりませんわ。万が一にそなえ3パーティ行動を心がけますわよ! この周囲を探索し、何かエリアボス出現の手がかりがないか、みんなで捜索するのですわ!」
「時間もあまりないから、捜索時間は1時間までにしよう。そしたらエリアボスは一旦呼ぶまで出てこないものと仮定し、階層更新に努めようか」
方針を決定して動き出す。
俺は浅層エリアである1層から30層まではエリアボスが〈フルート〉無しで出てくることは無いと知っているが、調査は大事。
報告書にも纏めたいからな。
結局1時間捜索しても成果無し。いや、エリアボスは出てこないことが分かった。
ちなみに〈フルート〉を吹いたら普通に出てきたけどな。
その日は15層まで攻略して帰還した。
◇
夕方。
俺はとある場所に来ていた。
場所は〈S等地〉。俺たちのギルドハウスと、他に大手企業の販売詰め所などが建ち並ぶ区画。
そこに新しく出来た大きな建物がある。
建物は、控えめに言ってもデパートだった。
つまりはうちの〈エデン店〉のライバル店!
そんな場所に、俺は単身乗り込んだのだ。
「マリー先輩いるか~」
「いるで~」
そしてデパートの1階で呼ぶと、なんとマリー先輩がひょっこり顔を出したのである。
昨日卒業したはずなのに!!
「新しい店の進捗状況はどうだ?」
「ぼちぼちや。同期の生産メンバーを軒並み引き抜いたからなぁ、今は纏めるだけでてんてこまいや。オープンはまだまだ、あと2ヶ月は掛かりそうやな」
そう、実はこのデパートはマリー先輩の新しいお店。
卒業を目前に控えたマリー先輩は、この大型デパートを稼ぎまくった大量の資金で建て、新たなビジネスとしてスタートさせようとしているのだ!
つまりだ、昨日の卒パ寸劇の時点ですでにデパートは建っていたのである。わはははは。
デパートはまだオープン前で、現在は従業員がなにができるのかを確認しているとのことだ。
従業員、それはもちろんこの学園の卒業生たち。
〈ワッペンシールステッカー〉だけでも十数人、それ以外にも〈ドワーフの集い〉〈彫金ノ技工士〉さらには〈青空と女神〉の卒業生まで引き抜き、ここに勤めているのである。そう、マリー先輩は、総合高級デパートを作る気なのだ!
その売り先は学生――ではなく、学園である!
学生は基本、学生のギルドが売っているものを買っている。
大手の企業が学園に入り込んで売買するというのは、あまりされてこなかったのだ。
ここは学園都市。学生が相手だったため、そこまで本気で参入してこなかった背景があった。また学園の方針的に、生産職の学生の育成のためでもあったため、企業からの受注や接触は最低限となっていた。
しかし時代は変わるもので、もはやこの学園都市が最先端。
しかも学生だけじゃない。先生方がこの世のトップを走る時代になってきたのだ。
学生には売れなくても、先生たちには売ってもいいだろう?
だが、それに気付いた企業は、どこも学園都市に参入できなかった。
先生方が求める装備のクオリティの高さを、企業が用意出来なかったからだ。
ただ1つ、生産職の卒業生たちを除いて。
「そんなの生産職の卒業生を纏めたら勝ちやん!」とマリー先輩が動き――この通りである。パナイ。
オープンすれば、もう外の企業じゃ太刀打ちできなくなる。マリー先輩の1人勝ちだ。高笑いが聞こえてくる気がするのは、きっと気のせいではないだろう。
そして、本来企業勢が学生に販売するのはあまり良いことではないが、マリー先輩の新店舗は別。だってここのサポーター、俺だもん。
ここで働く予定の卒業生、その9割以上は〈エデン〉が〈上級転職チケット〉を用意した。ここで働くことができるのは〈エデン〉のおかげ。
学園にも売るが、俺たち〈エデン〉にももちろん売ってくれることになっている。ふはははははは!!
マリー先輩と2人で高笑いしたのがつい先日のようだ。
「忙しいところ悪いな。実はこれの〈デザインペイント変更〉をお願いできないかと思って来たんだ」
「なんやこれ?」
「最上級ダンジョンの〈金箱〉からドロップした装備」
「そんなん気軽に渡すなや!?」
〈デザインペイント変更〉するなら、やっぱりマリー先輩のところだよね。
俺が普通に渡した装備が誰も到達出来ていないダンジョンの、しかも〈金箱〉産装備だと知ったマリー先輩が素晴らしいツッコミを返してきた。さすがだ。
これだからマリー先輩の店に足繁く通ってしまうんだ!
「まあ分かったわぁ。これの見た目を違和感ないくらいに仕上げればいいんやな? そんなんちょちょいのちょいや! ――メイリーいるか~」
「今睡眠中~」
「起きとるやないかい!!」
というわけで先程の〈超ボス探知アンテナ〉はメイリー先輩に無事、目立たないよう改造してもらったのだった。
「ありがとなマリー先輩! オープン日決まったら教えてくれよ? またお土産たんまり持ってくるから!」
「ふっふっふ、そんなら期待して待ってるでぇ」
「任せろ、マリー先輩の期待を超えて、度肝を抜いてやるぜ!」
「……やっぱりちょっとは手加減してもらってもええんやで?」
マリー先輩のデパートも順調の様子が確認出来たし満足。
俺はマリー先輩が度肝を抜かれてしまうことを想像しながら帰路についたのだった。