#1792 エリアボスが襲ってこないランク1は優しいな?
レイドダンジョン。
今までなら最低限守護型ボスと最奥ボスを倒せばダンジョンを攻略できたため、攻略するだけなら5人でもなんとか、ギリギリ可能、ではあった。
だが、ここからはそうもいかない。
なにせランク1〈樹界ダン〉の10層の時点で、早々に2ハンディボスを倒さないと先に進めないからだ。
5人1パーティで2ハンディボスを倒すのは、相当骨が折れると言っていいだろう。
しかもこれ、先に進めばもっとハンディの上がった守護型ボスが登場するのだからレイドで挑まないと攻略は不可能である。
守護型ボスとは本来階層門を守り、先に通さないようにする門番。
パワーアップし、正しくその役目を全うしにきているな。
さて、守護型ボスに関してはこのくらいでいいだろう。
次は、さっきから不気味なほど登場しない、エリアボスだ。これが上級では考えられないくらい厄介なボスに化けているんだ。
「ゼフィルスさん、最上級ダンジョンにエリアボスはいるのでしょうか?」
「そりゃいるだろうな」
「断言するのね」
現在11層、リーナが〈竜の箱庭〉を見つめながら、やはり見つけられないエリアボスについて俺に聞いてくるが、俺は間違い無く居ると断言した。
シエラがチラリと視線を向けてくるので頷く。
「これまで、初級、中級、上級と、等級が進む毎にボスが増えてきた。初級では最奥に通常ボスとレアボス、中級では守護型ボスと徘徊型ボス、上級ではエリアに登場する階層ボスと希少ボスだ。通称エリアボス。今までたくさんのボスが増えてきたが、減ったことは一度もない」
ちなみにレアイベントボスは例外だ。
あれは中級で登場するレアモンスター、その上級バージョンだ。中級ではレアモンスター、上級ではレアイベントという、〈レアシリーズ〉の1種である。
レアイベントにボスが付属しているだけでメインはレアイベントの方だからな。
また〈レアシリーズ〉の方は減る。上級ではレアモンスターは出なくなるし、最上級ではレアイベントも起こらなくなるのだ。
「だからエリアボスは居ると」
「まあ、出てこないなら、こっちから呼び出してしまえばいいんだ。――サティナさん!」
「はい。呼ばれてきました。サティナです」
「ちょっとエリアボスに挨拶――じゃなかった、検証をしたい。手伝ってくれるか?」
「承知いたしました。では〈フルート〉を用意しますね。いつでも言ってください」
呼び出したのはサティナさん。
少し前から〈横笛のサティナ〉という二つ名で呼ばれ始めた〈フルート〉のスペシャリスト。
いや、別に〈フルート〉だけじゃなく、他のアイテムもかなり強力に使用できるのだが、一番使うのが〈フルート〉なのと、〈フルート〉を吹いている様子が大変絵になるという理由でこう呼ばれている。
すでに慣れたもので、俺が要望を出してすぐ〈フルート〉を構えるサティナさんの貫禄が凄い。様になりまくっている。
「みんな! これからエリアボスを呼び出すぞ! 備えてくれ! まずは1班で当たる!」
「エリアボスかぁ。さっきから全然いないけど、呼び出すんだね」
「おう。クイナダはとりあえずミサトの側に居てくれ」
「了解だよ!」
みんながそれぞれリーナを中心として集まり、その中から1班とサティナさんが前へ出ると、フルートを吹いてもらう。
「サティナさん、頼む」
「はい。♪~~♪~~」
さすがはサティナさん。言われてすぐに〈フルート〉の良い音色が響き渡る。
最近分かってきたんだが、いわゆる〈笛〉系のアイテムは、初心者でも吹くこと自体は可能だが、演奏者によって音が変わるらしい。
上手い人が吹けば音色は良く、初心者が吹けばホイッスルみたいな音が出るのだ。最初知った時は驚いたものだよ。道理でゲームと音が違うと思った。
ここまで素晴らしい音色で吹けるサティナさんが、どれだけ〈フルート〉を吹いてきたかが分かるな。
そして少しの間があり、急にズシンと衝撃が起こった。
「『エリアボス探知』! 居た! 真下だよ! 上がってくる!」
「サティナさんは避難していてくれ!」
「はい! ご武運を!」
サティナさんをリーナたちの居る方へ逃がすと、それは起きた。
地形がいきなりぐにゃりとたわみ、動き出し、枝が左右へと離れていく。5階層もあるフィールドが全て繋がり、巨大な空間が形成されていった。
最後には、ずいぶん風通しが良くなったじゃないかというほど開けた地形が完成する。そこは、まさにバトルフィールドといったところだろう。
そう、最上級ダンジョンのエリアボスは、バトルフィールドを作り出す。
今までの上級エリアボスは突発的な遭遇も含め、ちゃんとダンジョンの地形でバトルしてきたのに、最上級だとバトルフィールドを作っちゃうとか凄まじくパワーアップしてるな!
「来るぞ!」
そうして地面から現れたのは、ああ、この大きさじゃ確かに〈樹界ダン〉で動き回るのは無理だわぁ、という感想が出てきそうな――肥満狼。
いやこれ狼かな? というくらいまん丸とした体格を持つ毛玉。
大きさは10メートルはあるだろう。その名も。
「『看破』なのです! こ、こりは――〈風船毛玉ギガウルフ〉というのです!」
「〈風船毛玉ギガウルフ〉!? あのお腹のことかな!?」
「ぶふっ!?」
ルルの『看破』にクイナダがとても素晴らしいツッコミをしてくれてうっかり吹きだしてしまったぞ。ク、クイナダ、素晴らしいです。
「ゼフィルス、ツボに入っている場合じゃないぞ。あのボス、アイコンに〈3〉の数字がある」
「ゲフンゲフン。そうだった、あのアイコンは守護型ボスにあったものと同じだ! 実験するぞ! トモヨはヘイトを、メルトは動きを止めてくれ」
「了解! 『エル・フォース』!」
「任せろ! 『グラビティフィールド』!」
「ワオーーン!」
「『サンダーボルト』!」
最初に前へ出たのはタンクのトモヨ。間髪入れずにメルトが重力の力場を作り出しボスの動きを押さえた。吠えるボスに俺が『サンダーボルト』を叩き込むと、ボスが攻撃を仕掛けてくる。
「ワオ・オ・オ・オン!」
「口の中に火が見えた! 火球が来るっぽいぞ!」
「なに!? というか火球だと!?」
「『ガブリエルの盾壁』!」
〈風船毛玉ギガウルフ〉、通称〈ふうせん〉が使ってきたのは火球。
重力で動きが封じられているはずなのに、まるで「動けない? いつものことだから大丈夫」と言わんばかりの慣れた攻撃だった。動けない理由はその身体が原因に違いない。
動きを封じているはずのメルトも、普通に攻撃してくる相手に驚いているな。あと狼が火を噴くのかと二重の意味でも驚いてる。
当然火球はトモヨが全て防御した。
「あ、この火球、かなり重いよ!」
「ラナ!」
「任せなさい! いくわよ3班! まずは私からよ! ――『大聖光の四宝剣』!」
3班突入。
まずはラナの攻撃。これでハンディが発生するか見極めるのだ。
結果、回復無し。
「ハンディありよ!」
「ならあともう1パーティ、7班来てくれ!」
「待ってた。でも、なんか弱っちそう?」
「重力がダメなら、痺れさせて止めちゃうの~!」
7班は、エフィ、アリス、キキョウ、ゼルレカ、アルテ、のメンバー。
強い相手との戦闘大好きなエフィが、重力の力場に引きずり込まれているのにあくびをしているボスを見てちょっと不満そう。まあ、戦ってみれば分かるさ。
「おらぁ! 『怠慢と堕落の剣』!」
ゼルレカによるデバフ攻撃。しかし、HPは回復せず。
「2ハンディは確定だな! 次、もう1パーティ追加!」
「! ダメよ、ここも入れないエリアになっているわ!」
「――了解だ! みんな、ここは守護型ボスのパーソナルフィールドみたいに進入できるパーティ数が決まっているようだ!」
判明。
そう、エリアボスも守護型ボスと同じ。
バトルフィールドを形成し、バトル出来るパーティ数を制限する。最初からハンディ付きのボス。
実はこれ、考えてみると結構エグくて、もし突発的にエリアボスと遭遇した場合、パーティがバラバラで行動中に突如バトルフィールドが形成され、ハンディ付きのボスが登場することになるのだ。こっちはなんも準備してないのに。
1パーティじゃ荷が重いのに2ハンディボスと突発的に戦わなくちゃいけないとかもうね。うん、壊滅フラグやん。
故にランク1の〈樹界ダン〉では、浅層でエリアボスが能動的に襲ってこないのである。本格的に襲ってくるようになるのは中層、31層からだ。30層まではこうして呼び出さない限りエリアボスは考えなくていい。さすがはランク1、優しい(?)。
ということで、最初はこうしてみんな集まっているときに〈フルート〉で呼び出してボコって慣れよう。
大丈夫だ。ランク1のエリアボスだぞ? 浅層のエリアボスはこの〈ふうせん〉のようにどこか弱そうなボスだから安心だ。
そして当の〈ふうせん〉はというと、トモヨを中心としたタンクに他のメンバーのほとんどがアタッカーと化し、ボコボコにしていた。
「くっそう、こいつ動きはトロいのにHPと防御力の耐久が半端じゃないぞ!」
「ゼルレカ、もっとデバフを与えてください! 防御力と魔防力を中心にです!」
「おっしゃ! 『エンド・オブ・バイタリティ』!」
「いっくよー『神様はお怒りです』!」
「ワオーン!」
この〈ふうせん〉はとにかく耐久値が高いのでゼルレカに来てもらったのだが、それでも倒すのに結構時間が掛かったよ。
反撃はなぜか火炎系で、火を噴き、周囲を火の海にしたり火炎球を連射したりする程度だったので、問題無し。
耐久特化ボスなので火炎の威力は〈竜〉より……いや、ハンディ付きだから〈竜〉よりは強かったけど、問題のない範囲。
結局15分の戦闘で〈ふうせん〉も〈金箱〉になったのだった。




