#1788 〈バーサークフォレストウルフ〉の狂った推奨
―――〈バーサークフォレストウルフ〉。
道中に登場した〈フォレストウルフ〉の進化系にして、ただでさえ身体から樹が生えているかのような狂った姿をしていたのに、さらに行動まで狂っちゃったボスモンスターである。
とはいえツッコミどころ満載ではあるがボスの種類自体はそこまで問題では無い。
問題なのは、こいつが最上級ダンジョンのボス補正を得ているということだ。
「トモヨ! 頼むぞ!」
「任せてよ! 『エル・フォース』!」
「ガオオオオオオオオオン!」
守護型ボスが襲い来るパーソナルフィールドに侵入した俺たちは、初手挑発を敢行。
セオリー通り、タンクがボスの気を引き寄せた。だが。
「何が起こるか分からない。トモヨはあまりヘイトを稼ぎすぎるなよ」
「了解!」
ヘイトを稼ぎすぎると、タンクのスイッチがしにくくなる他、もしそれで大量のヘイトを稼いだタンクが戦闘不能になった場合、復活させたヒーラーがそのヘイトを背負うことになってしまう。スイッチがしにくくなりヒーラーがやられて全滅という負けパターンに繋がりやすい。
故に、ヘイトは稼ぎすぎず稼がなすぎず、絶妙な塩梅でとり続けることが望ましい。
それを、〈エデン〉のメンバーは例の大規模キャリーでしっかり身につけていた。
あの時はたくさん退場者が出たからな。
「ガオオオオオオオオオン!」
「来るぞ!」
「止めるよ!」
〈バーサークフォレストウルフ〉は狼の身体の上半身に、まるで鬣のように生やした樹木が特徴的だ。全長は7メートル半。
さらになぜか4つの脚には鎖枷が嵌められていた。まるでこの獰猛な猛獣を拘束していたが、あまりのパワーに鎖が引き千切られたような、そんな鎖が脚に着いている。
〈バーサークフォレストウルフ〉の初手は、樹木を伸ばしての串刺し×20本。当然のようにトモヨが2つの盾で抑える、素受けだ。
初手のスキルで挑発と同時に自分の防御力もバフで上げているため、これくらいではトモヨは崩れない。
だが、そこから〈バーサークフォレストウルフ〉は一気に飛び掛かり、前脚でトモヨの盾にのしかからんとしてきた。スキル『狂った肉球スタンプ』だ。
「それは遠慮だよ! 『エル・フォトンシールド』!」
これの威力を看破したトモヨがすぐさま〈五ツリ〉の防御スキルで光の結界を作り出す。しかし。
「ガオオオオオオオオオン!」
「うそっ!?」
しかし結界は物の見事に粉砕された。肉球に。あれは防御破壊スキルだ。
「おっとっと!? ――『天空飛翔』!」
「ガオオオオオオオオオン!」
しかしさすがはトモヨ。すぐに避けタンクのように横に回避。
そこから『天空飛翔』を使って飛ぼうとする。しかし。
「トモヨ、上へ上がるな!」
「うわ、やっば!?」
一気に上空へ飛ぼうとするトモヨだったが、おそらく『攻撃予測』で見えたのだろう。慌てて地面すれすれまで下がる。するとトモヨが飛ぼうとした先を大量の樹木が覆ったのだった。
「こりゃ、あの〈エルダートレディアン〉の時のような飛行特効があるぞ! 上へ飛ぶとやられるから、低空飛行で抑えてくれ! 『サンダーボルト』!」
「もう! 樹木系のボスモンスターってなんで飛行特効持ってるのかな!? というかこのボスって狼じゃなかったっけ!?」
まあ、そう言いたい気持ちも分かるが、持っているものは仕方ない。
さすがは最上級ボス、狼の特性に加え樹木系の特性をも持っているボス、ということだ。
トモヨは低空飛行とはいえ飛びながら動けるため避けタンクと受けタンクを兼任できる。〈バーサークフォレストウルフ〉が飛び掛かってきても避けることができるし、避けられない攻撃は盾で受けたり、受け流したりしながら対処できる。しかし。
「トモヨちゃんのHPが、結構減り早いよ! 『ハイヒール』!」
「かなりの威力だな。特に躱したと思っても、追撃のようにくる鎖が厄介だ。まるで鞭だな」
「トモヨちゃんのダメージカット率ってかなり高いのに、さらにはバフや料理バフまで積んで、あのダメージなんだ」
俺たちはというと、まず初見のボスということもあって行動を様子見中。
ちょくちょく遠距離攻撃で攻撃しているが、ダメージも思ったより通らない様子だ。
さらにミサトの回復の出番が、結構多い。
「『ヒール』! ――メルト様」
「そろそろトモヨにヘイトを取ってもらわないとマズいな――『グラビティフィールド』!」
「トモヨ、ヘイト!」
「『エル・フォース』!」
「『リジェネ』! 『ハイヒール』!」
〈バーサークフォレストウルフ〉の猛攻でトモヨが追加のヘイトを稼げず、ミサトの回復のヘイトが上回り掛ける。メルトが重力の力場を形成して〈バーサークフォレストウルフ〉の動きを止め、その間にトモヨがヘイトを稼ぎ、ミサトが追加の回復を送った。しかし、
「ガオオオオオオオオオン!」
「なに?」
重力の力場に1度は囚われたはずの〈バーサークフォレストウルフ〉だったが、なにかのスキルを使うと、無理矢理に力場を脱出して見せたのである。メルトもこれには驚いた様子だ。
「これが最上級ボスの力か、パワーもスピードも防御力も、全てが桁違いだ」
「あと、階層門やアイコンにある2の数字も気になるんだよ」
ミサトの言う2というのは、階層門の扉と〈バーサークフォレストウルフ〉のアイコンに書かれている数字だ。かなり目立つように大きく書かれている。
今までこんな数字が書かれていることなんて無かったし、気になるのだろう。良い目の付け所だ。
これが何を意味するのか、もちろん知っている俺はここで謎解きに掛かる。
「これは通常の能力値とは思えない。1ハンディが加算されている気がするぞ!」
「!? つまり、2パーティで戦った時のステータスだとでも言うのかゼフィルス?」
俺の言葉にメルトが素早く反応する。
1ハンディというのはハンディが1つ付与された状態。つまりは2パーティで戦った時のステータスという意味だ。
〈バーサークフォレストウルフ〉のステータスがやけに高い理由も、これで説明できる。
「だが、俺たちは1パーティでしか戦闘してないぞ。というか、パーソナルフィールドにすら1班しか入ってない。他のギルドだっているはずがない」
そう、ハンディとは複数のパーティで戦った時に付与される補正のことだ。しかし、俺たちは1パーティ。普通なら一蹴するような発言だろうが、実はこれが正解なんだ。
そのことを知っている俺は、行動を起こした。
「……これから1つ実験を行なう! ――シエラ班、突入してくれ!」
「了解よ!」
大きな声で待機組にも聞こえるように宣言し、2班であるシエラたちの班に突入してもらう。
つまり、マジの2パーティ戦だ。
「サーシャ! 軽く攻撃! ――全員警戒しろ!」
「かしこまりですの! 『ブリザード』!」
2班のメンバーはシエラ、ノーア、クラリス、サーシャ、カグヤ。
うち魔法アタッカーのサーシャに追撃を頼む。
俺たちが本気でアタックしていなかった理由がこれだ。
もし1パーティで倒せそうになかったとき、2パーティに変更するとハンディが発生し、それまで削ったHPが全回復してしまうのが〈ダン活〉の仕様だ。
故に、最初は相手の実力を測ることに注視していた。たくさん削っていたのに全部回復されるより、しっかり見極めた上で対策を講じたいためだな。
そうして備えていたことが生き、2パーティ戦が始まる――かと思われた。
しかし、ここで多くの者にとって予想外なことが起こる。
「ガオオオオオオオオオン!」
「HPが回復――しませんですの!」
「今確かに2パーティ目が途中から参戦しましたわよね?」
「試してみます――『千聖操剣』! 『千剣突撃』! ―――命中!」
続いてクラリスが攻撃してみるが、HPは回復しなかった。
これまでのダンジョンならば、攻撃した瞬間2パーティ目の参戦が確定し、HPが全回復しているはず。しかし、それが起こらなかったのだ。
これが何を意味しているのか。
「これは――〈巣多ダン〉や〈教会ダン〉に似た仕様の可能性があるな」
「! ハンディが発生しない特質か!」
俺の言葉にまたもメルトが鋭いセリフを口にする。さすがはメルト、俺が何を言いたいのか、かなり高い精度で察してくるんだぜ。
「いや、それよりももっと単純な話かもしれない。――3班もパーソナルフィールドに入ってみてくれ!」
「分かったわ! ――3班行くわよ! 私に付いてきなさい!」
「ちょーっと待つデース! まずはタンクから入るデス――あ痛いっ!?」
「ちょっと、大丈夫パメラ!?」
「な、なんデース!? ここに見えない壁があるデース!」
「なに?」
ここで待機班にトラブル発生。
ハンディが発生しないボス。ならば何パーティまでノーハンディなのか?
更なる実験のために3班を呼んだところ、先頭で入ろうとしたパメラがゴチンと頭をぶつけたのだ。
それに対し、振り向いたメルトが険しい顔をする。
他の待機メンバーも次々パーソナルフィールドの境目を触るが、確かにそこに結界が敷かれており、中に入れなくなっていたのだ。
となれば、答えは出たも同然だな。
「ゼフィルス。もしやと思うが、あの数字は、まさか推奨パーティではないか?」
「さすがだなメルト、俺も同じ答えだ」
どうやらメルトは察したらしい。
2パーティになる前からハンディ状態のボス、階層門とボスのアイコンに書かれていた目立つ数字、3パーティ目以降は入れないパーソナルフィールド。
ここから導き出される可能性は、1つ。
階層門の扉とボスのアイコンに書かれた2の数字は、推奨パーティを意味する。
ボスは、最初から1ハンディ付きボスだった。
つまりは2パーティで攻略せよの意味。
「ここはおそらく――2パーティ推奨ボスだ」
 




