#1787 5層からはスピードアップ!守護型ボス戦突入!
「ではもう少しスピードアップしていきますわ――『階層門発見』!」
「とー『安全ルート探知』!」
リーナとカイリのコンボ炸裂。
新しいダンジョンを爆速攻略する時の黄金コンボだ。
すでに『フルマッピング』済みの〈竜の箱庭〉に階層門が映し出され、そこへの安全なルートが描かれていく。
「今回の私たちの出発点は5階、階層門は3階にありますわ」
「ルートは、4階が一番安全みたい。一度4階に降りて、階層門の真上まで進んでから3階に降りるルートみたいだね」
「さすがリーナとカイリだ。〈樹界ダン〉の攻略法も分かってきたな」
ここ〈新世の樹界ダンジョン〉は1層毎に1階から5階という階層に分かれているダンジョンだ。
しかしだからといって1階から5階まで全てを攻略する必要は無い。むしろカイリに言わせれば「回避ルートが多くてありがたいくらいだよ」とのことだ。正面に何かあった場合、上下に移動して回避できるからだ。何事も考え方だな!
そして〈樹界ダン〉の攻略のセオリーは、階層門まで道中上下左右に回避しながら進むこと、だな。
「俺は真っ直ぐ3階を突っ切るんだ!」とか謎のこだわりを捨て、時に4階、5階を経由し、急がば回れの精神で進むのがセオリーとなる。すると、絶対に安全なルートがあるのが〈樹界ダン〉なのだ。
そしてルートはカイリの『安全ルート探知』で大体わかってしまう。
5層ともなればリーナとカイリもだいぶ慣れてきて、〈樹界ダン〉のセオリーが見事に染みこんでいた。
周囲を探索しまくり、ほぼ〈樹界ダン〉の作りや素材などが判明したため、現在スピードアップ中。俺たちは真っ直ぐ守護型ボスの所まで足を進めた。
「『エリアボス探知』! うう~ん、やっぱり反応無し」
「樹の中に潜んでいますわね。でも出現条件がまだ分かりませんわ。それとも、最上級ダンジョンにはエリアボスはいないのでしょうか?」
また、時々カイリが『エリアボス探知』でエリアボスを探るのだが、これが全くの反応無し、おかげでリーナも悩ましそうな表情である。
うむ。守護型ボスのギミックが終わればそろそろ教えてあげよう。
「この下だね」
「下に降りるのは簡単だからありがたい。飛び降りてもいいしな」
「そんなこと言ってラウ君、勢い余ってまた1階まで落ちないでよ?」
上下に進む場合、至る所に穴があるのでそこから落ちたり、登ったりする。
大体が壁面の側にあるため、壁面の蔓や出っ張りなどを足場にすれば簡単に上り下りが可能だ。
まあ、普通は簡単じゃないが、そこは上級職のステータス持ち。STRを活かしたりAGIを活かしたりしてすいすい登るのだ。パメラのように垂直壁走りしても可。
また、エレベーターのようなものもあって、枝に乗ると1つ上の階までぐい~っと上がるギミックなんかもあって結構楽しい。
ただ、ラウが言うように降りるときは簡単だが要注意。たまに1階から5階までぶち抜きの穴があったりするので、そこにジャンプして飛び込むと1階まで真っ逆さまに落ちたりする。まあHPのおかげでケガは負わないのだが。また登るのに逆に時間が掛かるため注意だな。
あの言い方からするとラウは一度やらかしたっぽいな。
うむうむ。男子なら一度は通る道だ。
降りてみると、これまたなかなか広い空間が広がっていた。
「これは、守護型ボスのパーソナルフィールドですわ」
「あの中央の階層門を守っているのが――守護型ボスね!」
到着した空間はドーム状に大きく、4階と5階までくりぬいた大部屋だった。いやそれ以上。もし存在するのなら7階くらいありそうなほど天井が高い。
そして1体のボス。その後ろに見慣れた巨大階層門があるとくれば、ここは守護型ボスのパーソナルフィールドだと分かる。
俺たち54人が揃ってここまで来たのは、もちろん最上級ダンジョン初めてのボスというものをみんなで見るためだった。
「ボスの『看破』をお願いしますわ」
「とう! ここはルルにお任せなのです! 『看破』! むむむ! これは〈バーサークフォレストウルフ〉と出たのです!」
「バーサークとか守護型ボスにしちゃって本当にいいの??」
「ごふっ!?」
ルルの『看破』したボスの名は〈バーサークフォレストウルフ〉。
瞬間、俺はいつも〈ダン活〉プレイヤーたちがツッコんでいたセリフを口にしてしまったんだぜ。メルトが突然の鋭すぎるツッコミに腹筋を射抜かれていたよ。
「たはは~、確かに! どう考えても守護型向きじゃないよね!」
「ワ、ワンちゃんが番犬というのは分かるけど。狂犬に番犬が務まるのかと思うと……」
「クイナダちゃん真面目過ぎ! というか犬じゃなくて狼だし!」
ほほう、トモヨがいいことを言う。
クイナダは、あれは多分緊張しているな。なにせ初の最上級ダンジョンボスだ。
ツッコミのキレが鈍ってる。ここは励ましてキレを取り戻させなければ。
「落ち着けクイナダ。俺たちがついてる。だからその入れすぎた力は抜いていいんだ」
「ゼ、ゼフィルス……」
「力が抜けたらトップバッターな。一緒にボスと戦おうぜ!」
「……それ全然力が抜けないんだけど!?」
一瞬俺の言ったことの意味が理解できないといったように目を点にしたクイナダだったが、すぐにツッコミを返してきたんだ。
おお! 良いツッコミだ。
よしよし、クイナダにツッコミのキレが戻ったな。これなら安心だ(?)。
「シエラ、リーナ、まずは1班が挑む。見逃さないようにな」
「ええ。しっかり見定めるわ」
「ご武運をゼフィルスさん。しっかり相手の行動は分析させていただきますわ」
「だ、誰も全く引き止めもしないよ……!」
「たはは~、クイナダちゃん。これがゼフィルス君なんだよ!」
「緊張は解けたようだな。俺の魔法が通じなかった場合は物理アタッカーのクイナダが頼みだ。頼むぞ」
「メルトもバリバリやる気なんだよ!? みんな怖くないの!?」
「ふふん。ゼフィルス君が居るからね! 多少怖くても安心感の方が強いんだよ」
「それは、ちょっと分かる気がする」
クイナダがちょっとボス戦に腰が引けていたが、ミサト、メルト、トモヨたちの言葉に俺を一度見て深呼吸。そして次に目を開いたときには、覚悟を決めた表情に戻っていたんだ。
「よし、料理バフを得たら早速挑むぞ!」
「こちら最上級ダンジョン素材から作りました。〈最強アイスティー〉のレシピから作りましたアイスコーヒーです」
「サンキューセレスタン!」
早速セレスタンが昨日採取したばかりの〈最上級珈琲豆〉から焙煎して作りあげた〈最強アイスコーヒー〉を出してくれるのでいただく。〈最強アイスティー〉のレシピになぜコーヒーまで書いてあるのかは定かではない。おそらく【メイド】や【執事】系職業のレシピだからだろう。
ごくり。うんま!! なにこれうんま! これ本当にアイスコーヒーなのか!?
「美味しい!? というかコクすご!? なにこれ、本当にアイスコーヒーなの!?」
ほら、トモヨも同じ事を言ってるぞ?
「HPとMPが20%増し、防御力と魔防力が30%増しか。ティーでこれとは、凄まじいな」
「僕も驚きました」
【賢王】メルトはその性能に大きく惹かれているな。セレスタンも、最上級レシピのティーは初めて作ったらしいが、その性能には驚いたとのことだ。
全員が料理バフを積み終えれば、いよいよボス戦だ。
「これより、最上級ダンジョンでは初のボス戦に挑む! 最初に挑むのは1班、俺、クイナダ、メルト、ミサト、トモヨだ。油断はするな。だが余計な力は抜け。安心しろ、みんなには俺が付いている。それにみんな強い。このボス戦だって勝てる。俺の言葉を信じろ! 行くぞ!」
「「「「おお!」」」」
初めての最上級ボスだ。俺はしっかりメンバーを鼓舞する。
みんなに気合いが入ったのが分かった。守護型ボスヘ向けて歩き出す。
「クイナダ、見ていろよゼフィルスの背中を。そして忘れるな、俺たちのリーダーが何をするのかを。それは、次にクイナダの番となるんだ」
「うん。見るよメルト。余すことなく全部。絶対に忘れない」
最上級ダンジョン守護型ボス戦――開始。