#1785 卒業生の旅立ち。マシロヒーラーの癒施術!!
卒業式の翌日から、卒業生たちの旅立ちが始まった。
卒業式の日は卒パや最上級ダンジョン門の解放で慌ただしい中、卒業生のみなさんは最後の学園生活を楽しんだ。
そして一夜明け、今日から数日掛けて少しずつ旅立っていくのだ。
在校生の俺たちは、今日が終業式。
次の登校日は1ヶ月と1週間後で、その時は3年生に進級していることだろう。
ついに俺たちがこの学園の最上級生となるのだ。
そのため、今日はその心構えや、次の登校日のクラス替えについてを説明された。
「みなさんも次の登校日、いえ、その前からすでに学園の最上級生です。来週からは新しい1年生たちが続々と学園にやってくるでしょう。みなさんは自分たちが最上級生であり、そしてトップのクラスである自覚を持ち、新入生の良い見本となれるようがんばってください」
もちろん説明してくださっているのはフィリス先生だ。
ためになる話だ。そうか、新入生が来る日がすぐそこまで迫っているのだ。
これは最上級生として気を引き締めねばなるまい。
「また、来週の水曜日には留学生も旅立たなくてはなりません。みなさんも悔いのないよう、友達や仲間との時間を過ごしてくださいね」
そう、新しい出会いがあれば別れもある。
卒業生と留学生、2つのお別れがすぐそこまで迫って来ているのだ。
まずはこちらに集中しなければ。
フィリス先生の言葉が終わり、続いて学園長のありがたいお言葉が放送で流れるが――ここは割愛しよう。
こうして俺たちの2年生の学園生活は終わりを告げたのだ。
放課後は――多くの学生たちが卒業生を見送りに行った。
俺たちもインサー先輩やサテンサ先輩など、多くの知り合いが旅立つのを見送ったよ。
「インサー先輩~! あなたの素晴らしい研究は私たちが引き継ぎます~!」
「お元気で~!」
「さらばだ同志たち! この学園で刻んだ思い出は、決して忘れんぞーー!!」
〈ギルバドヨッシャー〉の見送りはなかなかに派手だったよ。
横断幕とがんばれメッセージの寄せ書き、今後のインサー先輩たちの活躍を願うものが多くて俺も目頭が熱くなった。
なお、インサー先輩の乗っている馬車には元サブマスターのオサムス先輩も乗っていたはずだが、横断幕に書かれていたオサムス先輩の名が小さかったのも目頭が熱くなった理由だ。これ、書き忘れてて、あとで「あ、やべ」と途中で空いているスペースに書き足した感じだろう絶対。
馬車から顔を出して横断幕を見たオサムス先輩が「えっ!?」っという愕然とした表情をしていた気がしたが、きっと気のせいのはずだ。
そのまま馬車は出発し、去って行くオサムス先輩の顔が、とても忘れられなかったんだぜ。
「混沌!」
◇ ◇ ◇
卒業生の見送りが済むと、俺たちは再び最上級ダンジョンの1つ〈新世の樹界ダンジョン〉へ向かうことにした。
「ゼルレカ、大丈夫か?」
「はっ、もちろんだっての! もっともっと成長して、パネェの姉御や兄貴を驚かせてやるよ!」
ガッチリ装備を着込んだゼルレカがそう吠える。
目がちょっと赤いのは気のせいじゃないだろう。
サテンサ先輩の見送りで、色々言われたらしい。
「ゼルレカ~、無理はしちゃダメだよ~?」
「そうですよゼルレカ。アリスに心配掛けないようにしてくださいね」
「キキョウはアリス主義すぎねぇか!? 心配するところずれてんだろ!」
お、親友のアリスとキキョウが慰めにいったな。これでゼルレカは大丈夫だろう。
「ラウは平気か?」
「ああ、問題は無い。さすがに先輩との別れが辛くてダンジョンに入れないなんて、【獣王】の名が泣くからな」
「はは! 確かにな!」
〈獣王ガルタイガ〉の卒業生はほとんどの面々が旅立っていった。
仲の良かったラウとしては悲しかったはずだが、すでに切り替えているのか覇気の入った力強さを感じる。
何せ、これから挑むのは最上級ダンジョン。
心が乱れていて無傷で攻略できる難易度ではない。ちょっとした隙が敗北に繋がりかねないのだ。
センチメンタルになりやすい卒業式の翌日。
俺は少しずつみんなのメンタルをチェックしていった。
「クイナダは、大丈夫か?」
「あはは。大丈夫、じゃないかも。ちょっとお別れが近づいているんだなって、実感しちゃってさ」
やはりというかクイナダが一番の重症だった。
うむむ。さてどうしたものか。
「私に任せてください!」
「マシロか!」
「はい! 私たちでクイナダ先輩の心を癒してみせます! ヒーラーですから!」
「! そうか、そうだな! 頼んだぜマシロ!」
「はい!」
ここで手を上げてくれたのがマシロ。
この清らかさで全てを浄化し、感傷すら癒してしまおうという作戦か!
これぞヒーラーの鑑!
「ミサト先輩~、フィナ先輩も手伝ってくださ~い」
「あれ!? ヒーラーの私じゃなくてフィナちゃんが呼ばれたよ!?」
なお、近くで話を聞いていたエリサがマシロの言葉に驚愕していた。
うむ。エリサよりフィナの方がメンタルの回復に良さそうな感じするよね。
エリサはドンマイだ。ここで俺と一緒に見ていような。
「あ、でも今ならご主人様に大接近のチャンス!? ――ご主人様~」
しかしタダでは凹まない。さすがはエリサだ。エリサがヒシッと抱きついてきたので頭を撫でつつ、マシロたちを見守った。
「クイナダ先輩!」
「マシロちゃん!? それにミサトちゃんにフィナちゃんも!?」
「はい! クイナダ先輩をみんなで癒しに来ました!」
「とてもストレートなんだよ!?」
「たはは~。マシロちゃんがその気になったらもう癒されるしかないよね~」
「はい。観念してくださいクイナダさん」
「あ、あれ!? 私が観念するの!?」
なんとストレートなマシロの攻勢!
ミサトとフィナもノリノリだ! 3人でクイナダを囲むと、そこからフィニッシュ。
「いきます。癒やしのハグー!」
「たはは~。癒されちゃえ~」
「存分に癒されていってください、物理的に」
「ふひゃ!?」
ああっとここで3人の攻撃! クイナダを三方向から囲ったヒーラーたち(?)が一斉に抱きついたーー!! な、なんて羨ましい治療術!?
こ、こんなの喰らったら感傷なんて一発で治っちゃうよ!?
クイナダも「ふひゃ!? ちょ、待っ、ふにゃん!?」と良い声出してる。
なんだか、癒されている感じがするんだぜ。
「くっ! 羨ましい!」
「私よりもフィナちゃんの方が良いって言うの!?」
あ、そういえばエリサに抱きつかれていたんだった。
思わずこぼれてしまった裏山が聞こえてしまったようだ。
このままでは昼ドラが始まってしまう!
「こほん。いや、俺もあの3人ヒーラーの治療術を受けてみたいと思ってさ。ほら、俺も感傷が深刻で」
「な、なんてことなの! それなら私が癒してあげないとね!」
「うう~ん。なんというか、足りない気がする」
「にゃ、にゃにおう!?」
向こうは3人、こっちは1人だからね、ヒーラーが足りない気がするんだ。
なお、エリサは何か別のことを言われたと勘違いしたのか、凄まじく愕然とした表情になってた。
「よし、ここは、ラナ、シエラ」
「ひゃ!?」
「なにゼフィルス?」
ここでヒーラー(?)追加。
マシロがクイナダの感傷を癒すための治療術を見せて説明する。
「というわけで、俺にも感傷が。ここはラナとシエラの力が必要だと思うんだ!」
「な、なんてこと言ってるのよゼフュルス!? も、もう、ちょ、ちょっとだけなんだからね!!」
「てい!」
「ほふん!?」
「目を覚ましなさいゼフィルス」
「はっ!? 俺はいったい何を??」
何かを口走った瞬間頭部に衝撃。
どうやら、シエラがチョップをかましたようだ。
曇っていた目が晴れたのを感じる。
「ラナ殿下も。ゼフィルスのいつものあれよ。惑わされてはダメよ」
「あ、ああ! アレね、アレアレ、も、もちろんだわ! ――ま、まったくもうゼフィルスったら、ダメじゃないの!」
「ええ!? それで何か通じたの!?」
何かシエラとラナの間で通じた予感。
俺はいったい何に取り付かれていたんだ!?
でもここは素直に謝らなくちゃいけない予感。
「げふんげふん! ふう、シエラ、助かったぜ」
「はいはい。――エリサもこっちきなさい?」
「は、は~い」
ああ、最後の癒しまで向こうに行ってしまった!
無念。そう思っていると、こっちに来る影が4つ。
「ゼフィルス、その、無事完治しました」
「完治したのクイナダ!?」
もちろんクイナダとマシロ、ミサトとフィナの4人だったんだ。
しかも、完治報告までセットだと!?
「マシロすげぇな!」
「えっへん! クイナダさんには私たちが居ます。だから大丈夫です!」
「たはは~、すごいよねマシロちゃんの癒施術」
「はい。私も見習いたいものです」
賞賛を集めるマシロはやりきったというドヤ顔だった。珍しい!
なんだか理由はよく分からないがクイナダはもう大丈夫というし、よし、それならそろそろ出発しよう!
ほら、ちょうどケルばあさんも来たようだ。




