#193 片手で攻撃を受け止めるヒーローってロマン
「『エレメントアロー』!」
「『ストレートパンチ』!」
「『チャームソード』!
「ガァァァ…ァ…」
ダウン中の〈アリゲータートカゲ〉に全員の攻撃が突き刺さりHPが0になって消えていく。
すでに4戦目ということもあってだいぶボス戦にも慣れてきた様子だ。
〈公式裏技戦術ボス周回〉が公開され、ボスがリポップした時はシェリアとルルが目を輝かせてスゲーしてくれた。あれは中々気持ちよかった、俺はああいうリアクションを求めてたんだ!
それはともかく、本当は周回1回でシェリアもルルもLV15になったため切り上げても良かったのだが、新しく教えた職業の特性を生かした戦法というのがまだまだ練習したいということでこうして付き合って今に至る。
「ずいぶん馴染んできたんじゃないか?」
「です! 最初はちょっと怖かったのです。でもシェリアが守ってくれるのでもう怖くないです!」
「はい。最初こんな幼い子にタンクをさせようとほざいたあなた様をどうしてくれようかと思ったものですが、HPとスキルというものはすごいものですね」
「シェリアはもう少しオブラートを意識しような」
まあシェリアの意見も分からんでもない。分かりたくないけど。
確かにルルが多くの攻撃にさらされる絵はとても心臓に悪い。
だがノックバックorダウン防止パッシブスキル『ヒーローだもの、へっちゃらなのです』があると攻撃にほぼ動じなくなる。敵に囲まれてサンドバック状態になってもまるで効いていないかのように振る舞うことが出来るので、慣れればむしろカッコイイ図に見えてくるのだ。(ちゃんとダメージは受けています)
攻撃をまるで効いていないかのように振る舞うヒーローってロマンだよ。攻撃を片手で受け止めたりとか。あれカッコイイ。一度俺もやってみたい。
ちなみに『片手ヒーロー』という防御スキルがちゃんと2段階目ツリーに実在していたりする。ルルの左手に掛かれば幻想は打ち壊されてしまうのだ。(違う)
またルルによると、『ヒーローだもの、へっちゃらなのです』は攻撃を受けても少し怖いだけで痛みや衝撃はほとんどないらしい。
もちろんダメージはHPが肩代わりしてくれるので怪我をすることも無い。
反射的に「あうっ」と来ることもないそうだ。スキルってすごい。
ついでにシェリアの精霊貸し出しスキル『エレメントリース』により、【VIT】を上げる〈氷精霊〉をルルに渡して防御力をさらに強化している。
〈氷精霊〉はどう見ても掌サイズの雪ダルマで、ルルの肩がお気に入りらしい。なんか和む。
そんなこんなで最初はキツイ視線を俺に投げていたシェリアも今ではヒーロールルの虜だ。ルルが順調にヒーローっぽくなってきている。LV40で職業全てのスキルが解放されたときが実に楽しみだ。
「慣れてきたし次に行こうか。今日の目標は全員LV25超えになる事。一度帰還して昼食を取った後は初級中位ダンジョンでボス周回しよう」
「賛成です!」
「ルルに同じくです」
ということで、午後は初級中位ダンジョン〈野草の草原ダンジョン〉でゴブリン狩りだな。
食事が終わって午後、俺たちは〈野草の草原ダンジョン〉の最下層に来ていた。
道中は多少の連携を含めた練習もしたが、ゴブリンが弱すぎたためスキルの練習にはならず、早めにボス攻略することにしたのだった。
「まずルルたちの2段階目ツリーが解放されるLV20までは俺たちも一緒に周回する。その後溜めたSPで〈スキル〉〈魔法〉を獲得、後は3人でボス周回してみようか」
「わかったです!」
「かしこまりました」
初級中位ボスからは難易度がグッと上がる。初級下位ボスはソロでもなんとか勝てるレベルの強さに設定されているが、初級中位ボスはパーティで攻略することが前提になっている。
本来なら3人~5人くらいで挑むものなのだ初級中位ボスというものは。カルアとリカは2人で勝っちゃってたけどアレは例外。リカのパリィの腕前は本当にすごいから。
俺たちが自分たちの攻略とEランク昇格の間際でバタついている間にうっかり〈ナイトゴブリン〉に挑み、そして倒してしまったらしいとセレスタン経由で聞いた時は驚いたものだ。
まあ、この3人なら普通に勝てるだろうが、時間が掛かるだろう。
俺たちが入ったほうが速い。
「〈ナイトゴブリン〉ですか。腕が鳴りますね」
何故かセレスタンの微笑から凄みが。
ゴブリンと何かあったのだろうか?
〈ナイトゴブリン〉戦が始まる。
今回、タンクは俺が務めることになった。
「『アピール』!」
「ゴブゴブ!」
「ゴッブッブ!」
とりあえず4体のお供を引き寄せ、ルル、シェリア、セレスタンに任せる。
エステルは温存だ。オーバーキルだしMPが勿体無い。
「『チャームソード』!」
ルルの攻撃力ダウンデバフ付き斬撃スキルが光る。
斬られたものはロリータの魅力にやられ、本気で攻撃することが出来なくなってしまうのだ。
「『精霊召喚』! 『エレメントアロー』!」
後衛のシェリアがまず【精霊術師】の真骨頂である『精霊召喚』を発動する。
今回は〈火精霊〉を召喚したようだ。〈氷精霊〉の雪ダルマとは違いこちらは人型。髪が炎になっている小人という感じ。ちなみに男の子だ。
続いて下級魔法の『アロー』を使うと、〈火精霊〉から炎の矢が撃ち出された。
【精霊術師】は召喚した精霊の種類により魔法の属性が変わる。〈火精霊〉を呼び出せば炎の矢、〈雷精霊〉を呼び出せば雷の矢が放たれるのだ。
【精霊術師】の戦い方は、普通の魔法職と違い一度『精霊召喚』を挟まなくてはいけない手間はあるが、SPが節約できるため正直こちらの方が強いと思っている。
例えば下級魔法『アロー』にSPを10振ったらそれだけで6属性の下級魔法が全てLV10で撃てるのだ。強いぞ。一度召喚した精霊は送還するまで居続けるしな。まあ召喚数制限はあるんだが。最初は2体までしか呼び出せない。
「『ストレートパンチ』!」
セレスタンは相変わらず腰の入った良いパンチを放つ。
並ゴブリンの顔面にめり込み、ダウンを奪った。
3人ともスキルと魔法を多用し良い感じに腕を上げてきているな。
俺が攻撃を受け持っているとすぐにゴブリンが片付いた。〈ナイトゴブリン〉が動き出す。
同時にエステルも動き出した。温存していたエステルの出番だ。ルルに良いところを見せたいのかいつもより気合が入っている気がする。俺たちはあくまでサポート、それを忘れていなければ良いのだが。
「行きます。『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『閃光一閃突き』!」
「ゴビュ!?」
「あれ?」
予想的中。エステルがちょっと本気で動いたことにより〈ナイトゴブリン〉が速攻でHPゲージが0になって一瞬でエフェクトに還ってしまうトラブル発生。
どうやら運悪く全弾クリティカルヒットしてしまったらしい。ダウンからスタン、そしてフィニッシュと綺麗に決まってしまった。LV差があるとたまに起こる現象だ。
エステルが強くなりすぎてしまった件。
一瞬で固まる空気。最初にそれを割ったのはルルだった。
「あ、証…です」
ルルの手にはいつの間にか証が握られていた。
だがその声には喜びより物悲しさがあった。
「エステル。やりすぎです。あのルルを見なさい、しょんぼりしています!」
「も、申し訳ありません! ルル、その、あわ、あわわ」
シェリアに怒られて頭を下げるエステル。
むちゃくちゃあわあわ慌てていた。
エステルにしては割と珍しいミスだ。
「もう一度やり直そうか。エステルは手加減を覚えなくっちゃな」
「もう! エステルのお姉さんは強すぎるのです!」
「は、はい! 精進いたします!」
ルルのおこが炸裂。
それを受けて直立不動になったエステル。
なんだ、この図、ちょっと面白い。口には出せないが。
その後、周回した〈ナイトゴブリン〉戦。
どうなる事かと思ったが、思ったより問題は簡単に解決した。
テテテーっとルルがエステルの下に駆けていく。
「どうやったらエステルお姉さんみたいに強くなれますか?」
「え、えっとですね」
「エステル、頑張って教えてみ。〈エデン〉のトップアタッカーだろ」
「は、はい。強くなるにはですね——」
ルルがエステルにその強さの秘訣を聞きに行った事で空気が悪くなる事は無かった。むしろそれが切っ掛けで仲良くなったらしい。
雨降って地固まるか。よかったなエステル。
しかしエステルはお姉さん呼びか。
ルルの基準ってもしかして背丈なのか?