#1773 〈ギルバドヨッシャー〉と決勝戦を振り返る!
「それじゃあ各自、後夜祭を楽しんでくれ! 卒業する先輩への挨拶なんかも忘れないようにな! じゃあ解散! お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
〈ギルバドヨッシャー〉のみなさんが来たので、俺は振り返ってメンバーに解散を告げる。話が長くなりそうだったからな。
〈エデン〉のメンバーが各自散らばっていくのを見届けて、改めて〈ギルバドヨッシャー〉に向き直った。
「待たせたなインサー先輩! オスカー君も!」
「なぁに、ほとんど待ってない、むしろ我慢しきれずに迎えに来てしまった程だ!」
「混沌!」
「俺も居るぞ」
「オサムス先輩も、ご卒業おめでとうございます!」
「まだ卒業してないぞ!?」
「ははは!」
〈ギルバドヨッシャー〉の面々は全部で10人くらい。
俺もよく知っているメンバーたちだった。というかさっきまでバトルしていたからな。
さて、挨拶はこの辺でいいだろう。本題に入る。インサー先輩やオスカー君の目が光る。
「さて、挨拶はこの辺でいいだろう。そろそろ本題に入ろうではないか!」
どうやらインサー先輩も同じ事を思っていたようだ。俺もニヤリと笑う。
「さっきのギルドバトルだが、素晴らしかったぞゼフィルス氏!」
「それは俺の台詞でもあるぞインサー先輩! というか2年以上使われたことのないとかいう〈Z〉フィールドが凄まじく研究されていてびっくりしたぞ!」
「はーっはっはっはー! 時間はたっぷりあったからな! 全フィールドが研究対象だったのだ!」
「混沌!」
「混沌野郎!? 今は混沌語を控えろし!?」
「というか、よくあそこまでギルドバトル特化型メンバーを揃えられたな!? そっちもびっくりしたぞ! 【道案内人】4人に【ジャイアントハンドキーパー】が5人、さらに城特効を持つハンマー使いが複数人に【ワールドマッパー】や【エウレカカオス】とか【ドッペルゲンガー】も居てさ!」
「はーっはっはっはー! 凄かろう? 〈エデン〉は全てオールマイティに凄まじいが、対人が基本戦術になっているギルド、同じ土俵では我々の負けは目に見えていたからな! ならばと対人に頼らないギルドバトル特化型選手で揃えたのだ!」
「いやぁ素晴らしい! ここまでガチガチに揃えてきたのは〈ギルバドヨッシャー〉が初めてだったぜ!」
これで〈ギルバドヨッシャー〉はそのほとんどがノーカテゴリーである。
マジ凄まじい。いや、あと「騎士爵」入れて〈乗り物〉でも使いこなし始めていたらマジで〈エデン〉も足を掬われていたかもしれない。
それほどまでに研究されていたんだ。
「さらに赤本拠地のアレだよ! 〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉! あれを採用してくるとかすげぇビビったぞ!」
「混沌!」
「アレな! というかあれを見切られた我々の方がビビったぞ!? 〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉は〈エデン〉がまだ攻略していないダンジョンから産出したものだし、その戦法は我々が初めて使ったものだ。絶対に決まると思っていた、対〈エデン〉用に用意した奥の手だったのだぞ!? まさかあれを見抜かれるとは、完全に予想外だった!」
「はははははは!」
あれはな! 笑って誤魔化すんだ! ふはははははは!
「混沌の香りがするーー!!」
「だから混沌野郎は黙ってろーーー!?」
話題は例の〈ギルバドヨッシャー〉奥の手、〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉を使った、〈城ちょい残し事故戦法〉の話に移る。
ギルドバトルでは、巨城を総取りできる本拠地をどのタイミングで落とすかは最大のネックになる。
基本はラストタイムに落とすのが吉だ。
逆にラストタイム以外でうっかり落としちゃうと、最後に逆転を許してしまう可能性が高くなるのでむしろ落としちゃダメだったりする。
それを逆手に使い、敢えて相手をパワーアップさせて自分の本拠地を落とさせるという自爆戦法が存在した。それが〈城ちょい残し事故戦法〉だ。勢い余って相手に落とさせる戦法だな! 〈ダークアクマーフィールド〉と〈ゴリムックエリア〉を使った戦法もこれに含まれる。
〈ギルバドヨッシャー〉は本当、〈ダン活〉プレイヤーたちに負けないくらいの研究屋だよ。いつか語り合わせてあげたい。もしかしたら面白い化学反応が起きるかもしれないし、すげぇ見てみたいぜ。
尽きることのないギルドバトルの話題。
さっきまで戦っていた決勝戦の相手に会ってここまで盛り上がるのは〈ギルバドヨッシャー〉くらいだろう。マジ楽しい。
「優勝おめでとう」などの、一般的な台詞なんて欠片も無く、先程のギルドバトルの話題で大盛り上がりしてしまった。
「ふう。くっ、できればこのまま2、3日は語っていたいくらいだが、自分に残された時間が少ないのが口惜しい」
「混沌!」
「インサー先輩も卒業だもんな。本当に寂しくなる」
ここでようやく話題が明日の話にシフトした。ちょっと話しすぎたんだぜ。
「ああ、だがその話は明日でいいだろう」
と思ったら見事にインサー先輩が斬っちゃった。
まあ、卒業のしんみりした話は明日で良いか。
「そうだゼフィルス氏に最後に挨拶したいと言う者が何人も居てな。いいか?」
「もちろんだ」
「助かる。〈ギルバドヨッシャー〉に所属している留学生でな。明日は卒業生が主役だし、留学生がメインのパーティではゼフィルス氏と話す機会が取れるか分からないからな。もしかしたらこれが最後の交流になるかもしれないのだ」
「確かに」
インサー先輩に言われて見れば、5人ほどの留学生たちが緊張した面持ちで前に出てきた。
「マ、マージ感謝ですゼフィルスさん! ギルドバトルでは〈巨城ちょい残し戦法〉で役立たせていただきました、【呪われし右手の魔拳流】のジョウです!」
「おお! ということは、あの見事なちょい残しは、『邪流拳・みねうちの呪い』か!」
「知ってんですか!? あれ!? 今のところ世界で俺しか使えない六段階目ツリーのはずなのに!?」
いかん。〈ギルバドヨッシャー〉相手だとつい口がチュルンと滑る。
いつもなら自重さんがセーブしてくれていたはずなのに! あ、自重さん今旅行中だったわ。
『邪流拳・みねうちの呪い』は手加減技。どんなに相手のHPが少なくてもギリギリ1残る技だ。拳にみねなんかないはずだが、セレスタンもたまに「みねうちです」とか言って裏拳で相手を仕留めているし、裏拳技だな。
六段階目ツリーなのに手加減技ってどういうこと!? と思うかもしれないが、これがかなり強くて、〈巨城ちょい残し戦法〉とかとかなり相性が良かった。
件の〈城ちょい残し事故戦法〉の対策でもあり、たまにメンバーに加えていたプレイヤーもいたほどである。
「自分は【音楽の貴人】、エドガー。全体のバフを担当させていただきました」
「そうか! おかげで〈エデン〉のスピードにも付いてきて、巨城4城を先取されることになっちまったよ! 〈中央巨城〉もかなりギリギリだった! 移動速度上昇系のバフを優先的に育てたんだろ? 素晴らしいバフだったぞ!」
「感動に震えた」
〈ギルバドヨッシャー〉唯一のカテゴリー持ち、「男爵」のエドガー。またの名を〈旋律のエドガー〉とも呼ばれており、俺も聞いた事のある有名人だ。だが、こうして実際に話したことはほとんど無く、自己紹介されたよ。初めましてじゃないような、不思議な感覚だ。
もうすぐ分校に帰るけど、名前は覚えておいてほしいってことなのかな?
またエドガーの担当はバフ。
〈ギルバドヨッシャー〉があれほど早く動けた秘密の1つだ。
やっぱ男爵バフって強力だよ。
こんな調子で留学生組と挨拶し終えると、〈ギルバドヨッシャー〉は引き上げることにしたようだ。
「さて、このまま朝まで語っていたい気持ちは山々だが、どうやら〈エデン〉と話したいギルドは多いようだ。我々はこの辺でお暇させてもらおう」
周りを見れば結構な人だかりが俺たちを囲っていたんだ。
耳を澄ませば、〈エデン〉と〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスターが熱くギルドバトルについて語っている様子を聞きたいという声が聞こえてくる。
だが、その中に〈千剣フラカル〉のリン先輩たちを見つけて俺も頷いた。
「だな。それじゃあインサー先輩、〈ギルバドヨッシャー〉のみんな、また明日。卒業式で」
「うむ。ではみんな、行こうぞ!」
そう言ってインサー先輩は、メンバーを引き連れて風を切って去って行った。
「混沌!」
……ん? インサー先輩、オスカー君の事忘れてるぞ?




