#1767 決勝戦、初動対決の結末。混沌暗号大活躍!
「混沌!!」
「ははは! さすがはゼフィルス氏、あの速度でも〈中央巨城〉は取れないか! だが〈西2巨城〉と〈東2巨城〉は渡さんぞ!」
オスカーの混沌語の報告を聞いてインサーが笑う。
〈中央巨城〉への先取合戦は、ほんの少しの差で〈エデン〉が取得した。
〈ジャストタイムアタック〉は確かに強力だ。
それを城特効持ちたちを並べて敢行すれば敵無しだ、というインサーの作戦だったが、〈エデン〉の方がAGIも含め何もかも高すぎた。
まさか【道案内人】が速度で負けるとは思わなかった。
AGI特化装備に加え『勇気』を使うゼフィルスと『神速』使用中のカルアのツーマンセルはそれだけ速く、学園最速と言っても過言では無いだろう。
「『カオスサーチレーダー』! ―――混沌!」
「よし、チルミ君、指示を出せ!」
「了解だよ! 『地図起こし』! 『世界共有』!」
傍から見れば何をしているか全く分からない言葉の応酬。
これは暗号。
オスカーが六段階目ツリーの索敵を使い〈エデン〉の詳細な動きを感じ取り暗号に集約。
それを【ワールドマッパー】のチルミが地図に起こし、さらに『世界共有』で現実に投影させたのだ。味方からはチルミが起こした地図への情報を視認することができるようになる。もちろん〈エデン〉には見えない。
これはリーナの『ギルドチェーンブックマーク』と『投影コネクト』のコンボとほぼ一緒の効果だ。
なお、どうやって混沌の一言に詳細にしたため、それを地図に起こしたのかは不明である。
現在オスカー、チルミ、インサーは〈南Z巨城〉を攻略しながら同時並行で指示出し中。
完全な保護期間の道で〈エデン〉が入り込む余地をシャットアウトして削っているところだ。
東西を行き来するルートも保護期間中なのでしばらくは〈エデン〉から狙われることはないだろう。
〈エデン〉も同じく〈北Z巨城〉を攻略中なので、〈◯Z巨城〉の取り合いは、お互いイーブン。
となれば〈中央巨城〉を先取した〈エデン〉が優勢。
逆転を狙うには〈西2巨城〉と〈東2巨城〉の先取を狙うしかない。
すでに〈中央巨城〉に向かわせたハンマー部隊は踵を返しており、【道案内人】によって〈西2巨城〉へ牽引中だ。
これが間に合えば〈西2巨城〉を先取できる可能性はかなり高い。
もちろん間に合えばだ。
また、〈東2巨城〉では【道案内人】のおかげで巨城の隣接を取ることに成功している。
そしてこちらにも当然城特効持ちのハンマー使いが3人居た。
そう、【道案内人】が足の遅いハンマー使いを牽引して巨城を最速で落とす部隊を〈ギルバドヨッシャー〉は2つ用意していたのだ。
さすがはギルドバトルに情熱を向けるギルド。
ギルドバトルは初動が大切であり、特効持ちを導入することが最善であると分かっているのだ。
以前〈エデン〉とした練習試合以降、インサーたちは〈ギルバドヨッシャー〉内の人材を大きく変動させていた。
研究を重ね、特効持ちを運用するギルドバトル専門ギルドを本格的に目指したのだ。
その影響でサブマスターがオサムスからオスカーに変更になるなど、ちょっとした出来事もあったがそれは置いておこう。
これにより、ただでさえ強かった〈ギルバドヨッシャー〉がさらに強くなったのだ。
それは当然のように結果に表れて。〈東2巨城〉の先取に成功した。
「! 混沌!」
「よし、ナイスだ!」
ハンマー使いの特効持ちたちが〈東2巨城〉の先取に成功したのだ。〈ギルバドヨッシャー〉が取り合いを征し、残り取り合うのは〈西2巨城〉のみ。
しかし、こちらは〈中央巨城〉から〈西2巨城〉へ向かうハンマー使いが、手こずっていた。
そう、〈戦艦・スターライト〉を運用したエステルと〈白の玉座〉に座ったラナという、とんでもない相手が立ち塞がっていたのである。
◇
「もう! すばしっこいわね! 『神の天誅』!」
「全体攻撃ですぞーーーー!?」
「回避ーー! 『その道、案内と違います』!」
こちら西側、〈中央巨城〉と〈西2巨城〉の中間地点。
〈戦艦・スターライト〉に乗ったエステルとラナの2人が、〈西2巨城〉へ向かおうとする〈ギルバドヨッシャー〉6人を抑えていた。
マスの上空から、そのマス全てを覆い尽くすように降り注ぐ『神の天誅』。
マスから出ないと直撃するそのお怒りに、【道案内人】の人たちは叫びながらも回避を選択。
『その道、案内と違います』は踏み入れたマスとは違うマスに転移する〈6ツリ〉スキルだ。
おかげで無事回避に成功。
【道案内人】は転移にも似たスキルをいくつか覚える。
それにより、今のところなんとか一撃も食らわず、ジリジリと進退を繰り返していた。
「ここだ! 『案内人ダッシュ』!」
「『案内人ダッシュ』!」
「抜かせはしませんよ――『ドライブ全開』!」
「くっ!? これもダメか!」
「あのめちゃくちゃな機動、すげぇ困るんですけどーーー!?」
なんとかダッシュで抜こうとするが、横滑りで普通に回り込んで来る〈戦艦・スターライト〉。遠くに逃げても宝剣が降ってくる。
むっちゃビビる〈ギルバドヨッシャー〉組だった。
「『レード・セーゼ・スラスト』!」
「いい加減当たりなさい! 『大聖光の十宝剣』!」
「あれはダメですぞ! 転移で逃げなければずっと追ってくるやつですぞ!」
「ええい転移系はもう無い! こうなったら――『小城タッチ』!」
「それは奥の手ですぞ!?」
エステルとラナが決めに来た。
連射の攻撃で隊列をめちゃくちゃに粉砕する狙いだ。
仕方なく奥の手である『小城タッチ』を発動。
小城をタッチして保護期間を展開し、エステルとラナの攻撃を防いで見せた。
これは〈エデン〉対〈エデン〉の練習ギルドバトルでゼフィルスがやった、ラナの遠距離攻撃を防ぐ戦法だ。
【道案内人】は戦闘力皆無であるが、ギルドバトル限定で、回避や生き残る技術に凄まじく特化しているのである。
いくらマスを無視して攻撃できるラナとて、そう易々とは捉えられない。
だが、『小城タッチ』はちょっとマズかった。
もう1人の【道案内人】が言ったとおり、これは奥の手。
保護期間で同じマスにいる相手を吹き飛ばして突破するというテクニックが使えなくなった瞬間だ。
あの〈戦艦・スターライト〉を突破するにはそれくらいしないと難しいと感じていただけに、もう【道案内人】たちは突破出来る術を失ったとも言える。
「マズいですぞ!?」
「このままでは抜けない!? 『小城タッチ』のクールタイムが回復するまで保つか? ―――ってああ!?」
「あ、ああ! 〈西2巨城〉が落ちたんですぞーーーー!?」
時すでに遅し。
〈西2巨城〉では別の〈ギルバドヨッシャー〉グループと、〈エデン〉のカタリナ、エリサ、フィナ、ラウ、ルキアが先行して削っていたのだが、そこに〈西1巨城〉を陥落させたセレスタン、ノエル、クイナダ、ゼルレカの4人が合流したのだ。
そして見事に〈西2巨城〉を『突貫』と〈ジャストタイムアタック〉の合わせ技で先取したのだった。
「まさか、王女殿下は足止めだったんですぞーーー!?」
「く、こうなれば〈西3巨城〉へ行くしかないぞ!」
〈西1巨城〉は行きがけにセレスタンが落としており、〈北Z巨城〉ももうすぐ先取されそうなため、残りは〈西3巨城〉しかない。ここは〈ギルバドヨッシャー〉の〈救済巨城〉。〈エデン〉に取らせるわけにはいかない。
「行かせると思っているのかしら? 『大聖光の無限宝剣』!」
「『トライ・スラストカノン』!」
だが、もちろんラナたちが行かせるわけがない。
ラナたちの役目は、この巨城落とし専門部隊の足止めなのだ。最初は〈中央巨城〉攻略部隊の撃破が目的だったが、難しければ足止めを指示されていた。
〈中央巨城〉攻略部隊はここから〈西1巨城〉〈西2巨城〉〈西3巨城〉〈北Z巨城〉と、どこへでも援軍に向かえるためかなり重要なポジション。これを抑えるだけでかなり有利になるのだ。
エステルとラナが西側で大暴れしていた。
「ですが、〈戦艦・スターライト〉に乗ったエステルさんと〈白の玉座〉使用中のラナ殿下を相手にあそこまで生き残るなんて、さすがは〈ギルバドヨッシャー〉ですわ」
なお、〈竜の箱庭〉を難しい顔で見つめながらリーナが呟いた台詞は、誰にも聞かれることなく消えていったのだった。
〈天下一パイレーツ〉戦では、一撃で「あ、これダメだ。試合にならなくなる」とゼフィルスが判断して引っ込めた〈戦艦・スターライト〉。
そこにラナまで加わっているのに倒せない。これぞ〈ギルバドヨッシャー〉の力だ。
「ここで巨城攻略部隊を足止め出来たのはいいですが、次は〈南Z巨城〉を攻略していたメンバーが〈西3巨城〉へ向かっていますわね。これにはエリサさんを当てましょう――『マルチコネクトネットワーク』ですわ!」
残りの焦点となるのは〈西3巨城〉のみ。
東側はゼフィルスがちょっかいを出そうとするも〈東3巨城〉は奪われた後だったこともあり、残念ながら取得ならず。
〈東1巨城〉と〈東2巨城〉も攻略が終わったため、現在8城の巨城が攻略完了となっていた。
最後の巨城に集まる〈エデン〉と〈ギルバドヨッシャー〉の面々。
「ここだけは取られてはならんぞ! 3部隊による飽和攻撃で仕留める!」
「混沌!」
〈西3巨城〉へ向かうのは、近くの〈南Z巨城〉を攻略していた部隊7人と、〈西2巨城〉を攻略していた5人の部隊。あと〈中央巨城〉攻略部隊6人だ。
これは〈ギルバドヨッシャー〉の西側部隊の全メンバーである。これを最後の〈西3巨城〉に集中させることにより、確実に攻略しようという魂胆だ。
だが、〈中央巨城〉部隊はエステルとラナによって足止めされ、〈西2巨城〉の部隊はルキア、ゼルレカによってデバフを掛けられ、なんとか戦闘にまでは発展していないものの〈西3巨城〉へ向かうことは難しい。
よって、オスカーやインサーの居る部隊が〈西3巨城〉を落とさなければならない。
現在〈白チーム:5城〉〈赤チーム:3城〉。
なんとか〈ギルバドヨッシャー〉はこの1城は欲しかった。
「む、混沌!」
「なに! 〈眠り姫(眠らせる方)〉が近づいてきているだと!?」
なんでそんな混沌語が分かるのか……。
だが、インサーたちが見れば、上空にフィナという天使に羽交い締めにされたエリサが飛んできているのが目に入ったのだ。情報伝達は完璧だ。
「あれは――〈エリサ爆撃戦法〉! ならば、ここは自分が抑える!」
「混沌!」
「インサー先輩、ご武運をです!」
それを見て瞬時に作戦を見抜いたギルドマスター、インサーが残る。
これは最初から決まっていたことだ。それにしてはメンバーの反応が淡泊だったような気がしなくも無いが、きっと気のせいだろう。
「行くぞ! ユニークスキル――『ヘルヘブン・ダウンバースト』!」
インサーの職業は【天導師】。
天候を操り、果ては天国と地獄まで再現してしまう、ノーカテゴリーの中でもかなり優秀な魔法職だ。
「これは!」
「フィナちゃん、これはヤバいよ!」
いきなりフィナの真上で立ち込める暗雲。そこから落ちてきたのは光と闇が混ざり合ったような混沌としたエネルギーの固まり。
フィナは今からでは躱せないと判断してエリサをその辺に放り投げ、大盾を構えて防御に移行する。
「フィナちゃ~~~~ん!?」
「お姉さま、お元気で―――『天域大結界』!」
なんかフィナが、妹が姉を庇い別れる涙無くしては語れないようなシーンの台詞を呟いているが、放り投げたエリサは現在高いところから地面に落下中である。普通なら永遠のお別れだ。
もちろんそんなことにならないので御安心。
「『悪魔飛行』!」
エリサは自力で飛行できるからである。
悪魔の翼を生やしたエリサがスキルを発動する。
「そっちがヘルヘブンとか使っちゃってるなら――こっちは『万魔宮殿』よ!」
ズドーンと一瞬で現れるのはエリサ最強の睡眠施設、『万魔宮殿』。この中に囚われた者は深い眠りに誘われ、そのまま〈即死〉させられてしまうのだ。
そして、〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスターがなんと囚われてしまう。
まさか、まだ始まって間もないこのタイミングでギルドマスター退場か!?
もちろん、インサーは対策済みだ。
「だが、これは知っている。――入れ替えろ!」
「『入れ替わる偽者』!」
「んな!?」
瞬間、『万魔宮殿』内にいたはずのインサーがぬいぐるみと入れ替わった。
これは【ドッペルゲンガー】の仕業。
以前〈天下一パイレーツ〉戦で『万魔宮殿』から脱出した4人を見ていたインサーが、この特大に厄介な戦法の対策をしていないわけがなかったのだ。
「姉さま!」
「フィナちゃん無事!?」
「はい。しかし、まんまと止められてしまいました」
ユニークスキルを無事防ぎきり、HPも回復したフィナが合流した時には、インサーはすでに他のメンバーと〈西3巨城〉の攻略に入っていた。
そして――〈西3巨城〉は〈ギルバドヨッシャー〉が先取する。
初動の結果。
〈白:エデン〉=〈中央巨城〉〈北Z巨城〉〈東1巨城〉〈西2巨城〉〈西1巨城〉。
〈赤:ギルバドヨッシャー〉=〈南Z巨城〉〈東3巨城〉〈東2巨城〉〈西3巨城〉取得。
現在〈白:5城〉対〈赤:4城〉。