#1766 〈ギルバドヨッシャー〉戦初動。中央巨城!
「さあーーーー!! いよいよ決勝戦まであと少し! 〈SSランクギルドカップ〉も残すところあと1戦! これで勝ったギルドが、栄えある本校の――初のSSランクギルドとなるのだーーーーーー!!」
――――おおおおおおおおおおおお!
「いやぁ、観客席は始まる前から大熱狂ですね。決勝戦も変わらず僕たち、スティーブンと」
「キャスが実況をお送りするよーーー! そしてゲストは――途中何回かインタビューに行くわとか言って消えたけど、ちゃんと戻って来ました! ユミキさんです!」
「このカード、〈エデン〉も〈ギルバドヨッシャー〉もこれまで圧倒的な戦略で他のギルドを下してきたわ。さあ、いったいどんなバトルを見せてくれるのか。とても楽しみね」
「お互い本拠地に送られ、カウントダウンも着々と進んでる! その度に心臓がドキドキしてくるみたいだーーーーー!」
「キャスさん、興奮しすぎて倒れないでくださいよ」
「そうよ。興奮しすぎて過呼吸になる子もいるんだからね。そういえば混沌は大丈夫なのかしら?」
「ああああっとどうした!? 〈ギルバドヨッシャー〉でざわめきが起きているぞーー!? サブマスターが興奮しすぎて昏倒したようだーーー! 大丈夫なのかーーーーー!?」
「輪で確認したわ。私のスパ――部下がしっかり気付けしてたから安心よ」
「ユミキさんの部下有能!? あと今スパって―――おっと〈ギルバドヨッシャー〉、何事もなかったかのように配置に付いていくぞーーー!?」
「これで試合を延期するなんてとんでもない、とのことだわ」
「〈ギルバドヨッシャー〉もまた凄まじい気合いですね」
「これは気合いで済ませていいのかーーーーー!? しかし、カウントダウンは着々と進み、残り20秒に迫って来たーーーー!?」
「会場のみなさんも一緒にカウントダウンしましょうか」
「いいわね」
「それじゃあいくよーーー! ――10!」
「9、8」
「7、6」
―――――5! 4! 3! 2! 1!
「―――――試合開始!!」
◇
「『エールベストパフォーマンス』!」
「『時兎タイムブースト』!」
「『勇気』!」
「『神速』!」
試合開始直後、当然のバフを張り、素早さと移動速度とAGIをがっつり上昇させる。
スキル後の硬直が無くなった瞬間、俺たちはダッシュで飛び出した。
隣に居るのはカルア、そして上級馬具で強化しまくった愛馬ダンディ君に乗るレグラムとオリヒメさんだ。
初動では最強最速の布陣。
「まずは〈中央巨城〉まで全力だ! レグラムは途中で作戦通りに!」
「ん!」
「任せるがいい!」
俺たち4人はまず東側のルートから進行する。
この〈Z〉フィールドは、中央にZ型の観客席がある影響で東と西の2つのルートから攻めることになる。
そして俺たち〈エデン〉は白チーム。フィールドの北側に本拠地を持つ。
ここで重要なのがZの角や隅と呼ばれる部分。ここに2城ずつ巨城が配置されている。北東側に〈東1巨城〉〈北Z巨城〉、そして南西側に〈西3巨城〉〈南Z巨城〉だ。
前者は白チームの方が近く、後者は赤チームの方が近いのだが、隅にあるZ巨城だけは回り込む影響でどうしても40マス前後かかるため、相手に取られやすい。
〈東1巨城〉と〈西3巨城〉はお互い〈救済巨城〉に当たるのでスルーして、まずは〈◯Z巨城〉か、〈中央巨城〉、もしくは〈◯2巨城〉の5箇所のうちどこかを狙うことになる。
まずは速さなのだ。
ガチのタイムが争われる。
そんなフィールドで俺たちが狙うのは、Z観客席の中央、観客席と観客席の間に挟まれているという、とっても不思議な巨城、〈中央巨城〉。そこへ東側のルートから接近することだ。
この東側のルートからというのが重要。これには〈北Z巨城〉への狙いも含んでいる。
白チームは東側ルートから〈北Z巨城〉へ向かう方が僅かに距離が近いのだ。
加えてZ観客席には、東西を行き来できる場所が2箇所ある、その1箇所は東側にあるため、そこをまず相手に使用させないよう踏むという側面もあり、東側が重要となる。
逆に赤チームだと西側ルートが重要だ。
だからそれを利用する。
重要なルートは妨害するのが肝要。
「ゼフィルス!」
「ああ、見えている。こっちに来るな!」
レグラムの言葉、その視線を追えば、遠くに見え始めたのは〈ギルバドヨッシャー〉。しかも集団だった。
あれは2人の【道案内人】による、集団走行! 以前〈カッターオブパイレーツ〉戦でロード兄弟と呼ばれていた人物が使っていた戦法だが、そのロード兄弟が先頭だな。
【道案内人】によって連れられてくるのは6人か、合計8人の選手が真っ直ぐ、最短距離で北上していた。
狙いは〈東1巨城〉、俺たち〈エデン〉の〈救済巨城〉に違いない。俺だってそうするもん。
「向こうも同じ作戦ですか」
「さすがは〈ギルバドヨッシャー〉だろ?」
「ゼフィルスよ、嬉しそうに呟いている場合じゃないぞ」
オリヒメさんの言葉に俺は嬉しそうに言うと、レグラムが真剣な声で忠告してくる。
実は俺もほとんど同じ戦法を使っていたりする。〈エデン〉が西側ルートに送ったのは――〈戦艦・スターライト〉に乗ったエステル、ラナ、カタリナ、エリサ、フィナ、ラウ、ルキアのメンバーだ。ちなみにラウとルキアが先行するマス取り役。
狙いは〈ギルバドヨッシャー〉の救済巨城、〈西3巨城〉だ。
お互い同じような戦法使ってるだろ? こっちの方が攻撃力やべぇけど。
白チームは東側、赤チームは西側が肝心。故に妨害メンバーをそっちに送り込むのが肝要。お互い、それをよく分かっていたようだ。
だが、俺たちのやることは変わらない。
「そっちは後続に任せる! 俺たちはこのまま〈中央巨城〉だ!」
この妨害を防ぐのは後続の担当。
白チームの東側ルート担当の役目は多岐に渡り、〈中央巨城〉、〈北Z巨城〉、〈東2巨城〉の確保。そして東西を行き来する道を塞ぎ、妨害に攻め込んで来た相手から防衛する役割も担っている。
おかげで初動では東側に21人、西側に11人、本拠地に3人という配置になっていた。
東と西で送り込む人材が倍も違うのだから、〈エデン〉にとってどれだけ東側が重要か分かるな。
「レグラム、〈北Z巨城〉を頼む!」
「任せるがいい!」
ここでレグラムたちとはお別れだ。
Z観客席を東西に横断するのが最短ルートの〈北Z巨城〉は絶対に妨害されたくないので、俺とカルアが途中まで引っ張ってきて、途中でレグラムたちに進路を変更してもらい、〈北Z巨城〉を目指してもらったのだ。俺たちはそのまま直進。
そうして俺とカルアがまず〈中央巨城〉に一番乗りを決める。
「〈マイセット早着替え〉! 攻撃開始だ!」
「ん! 『エージェント・レイド・クロネコ』!」
俺はカルアの速度に追いつくため完全AGI装備だったものを〈マイセット早着替え〉で〈勇者竜装備〉に換装し、装備の入ったバッグを放り投げ、攻撃を開始する。
「『スターオブソード』! 『フィニッシュ・セイバー』!」
〈中央巨城〉へは〈ギルバドヨッシャー〉はまだ来ておらず、俺たちが優勢。
攻撃しながらリーナとやり取りし、状況を把握していくと、驚くべきことが判明する。
「『ゼフィルスさん、〈ギルバドヨッシャー〉は、わたくしたちとほとんど同じ戦法を取っていますわ! 西側から20人を超える大隊が進行し、〈中央巨城〉、〈南Z巨城〉、〈西2巨城〉の確保に加え、エステルさんたちの進行を抑える役割と思われるツーマンセルが居りました。現在西側ではエステルさんたちには〈西2巨城〉の攻略にシフトしてもらっておりますわ』」
「了解! 〈中央巨城〉は?」
「『そろそろ着きます、数6人ですわ!』」
「助かるぜリーナ!」
リーナのおかげで観客席が邪魔で見えない西側の状況が見えてきた。
というか東側とほぼ同じだった。
東側では〈ギルバドヨッシャー〉が2名だけを〈東1巨城〉へ向かわせて警戒させつつ、〈東2巨城〉の攻略にシフトしていたのだ。
途中で進路変更するのは自分たちの足に自信を持っている証拠だな。
〈東2巨城〉にはクラリスとミジュという、〈エデン〉でカルアに次ぐ最速メンバーを送り込んでいるが、相手の速さもとんでもなく、〈東2巨城〉も先取合戦に突入したようだ。これが〈西2巨城〉でも起きているとのこと。
どっちが先取するかは〈ジャストタイムアタック〉に掛かっているだろう。
リーナにはそっちの管理に集中してもらう。
おっと、〈ギルバドヨッシャー〉の面々も西側から〈中央巨城〉に張り付いたようで攻撃を開始してきた。
お互い反対側に居るため、向こう側のことが分かりにくいのがネック。
その直後。凄まじいダメージで城が削られ始め、さらにはドゴーンという破壊音が響いてきた。これはもしや?
「『ゼフィルスさん! 〈中央巨城〉ですがハンマー持ちが4人! もしかしたら〈城〉特効持ちが居る可能性が高いです!』」
「【道案内人】2人で城特効4人を連れてきたのか!」
これは予想を超える人材。どうやら西側にも【道案内人】が居て、しかも城特効持ちを運搬する戦法を取ってきたらしい。
道理でまだ俺とカルアしか到着していない〈中央巨城〉でこれだけのダメージが出せるはずだよ。〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーがギルドバトル特化すぎる!
だが、こっちだって負けてない。
「お待たせしたっす!」
「お待たせしましたゼフィルス先輩! ナキキちゃん配達のアルテが今到着しました!」
「よし! ナキキ! 『ドワーフ大噴火』だ!」
「『ドワーフ大噴火』っす!」
そう、こっちも城特攻がいるのだ!
アルテに足の遅いナキキを騎乗スキルで配達してもらい、1発だけ威力が5倍になる『ドワーフ大噴火』で準備オーケー。タイミングを計る。
「カルア、『512・ヘル』! ――ナキキは3秒後にスキルだ!」
「ん! 『512・ヘル』!」
「3、2―――」
〈中央巨城〉のHPは残り7割残っている。
正直、城特効持ちが複数いるとなると、いつ落とされてもおかしくない数値。
だが、ナキキの火力では微妙に届くか否かというところ。
カルアに最強技を使ってもらうと、向こう側の攻撃が止んだ。
タイミングを計っている可能性大。
だが、こっちの方が早い! 『勇気』中の俺の攻撃を喰らえ!
「『天光勇者聖剣』!」
「『破壊王の鉄槌』っす!」
ズドーーーーーーンと衝撃がまず起こったのは東側だった。
そのほとんど同時に向こうからもズドドーーーンという音が響いてくる。
超ギリギリのタイミング。
瞬間、巨城のHPが一瞬でゼロになった。
結果、〈中央巨城〉に立った旗は―――白。
〈中央巨城〉をまず確保したのは――〈エデン〉だった。




