#1764 こちらは学園側!ゼフィルス君には感謝だの。
こちらは学園長や他の幹部先生方が観戦している特別席。
「なんと、さすがは〈ギルバドヨッシャー〉、あの〈千剣フラカル〉に対してほとんど危なげのない勝利を収めるとは、やるのう!」
「ええ。作戦が綿密に練られています。まるでゼフィルス君の作戦を見ているようですよ。リンちゃんは悔しがるでしょうねぇ」
準決勝、第2試合、〈ギルバドヨッシャー〉対〈千剣フラカル〉の試合が終了したことで観客席は大いに盛り上がり、同時にざわめいていた。
その会場と観客席を同時に見ながらまず呟いたのは、この学園の長。学園長である。
その言葉に隣で相槌を打つのはその孫、フィリス先生だ。
ちなみに〈千剣フラカル〉では学園長の孫、リンカがギルドマスターのため、学園長がこっそり〈千剣フラカル〉を応援していたのは秘密だ。
負けてちょっと悔しい様子。
フィリス先生は結構普通だ。むしろ微笑ましいと言わんばかりの笑顔だ。最近ゼフィルスによって鍛えられ、見る見る成長しているフィリス先生には余裕が出てきていた。とても良い傾向だ。
「リンちゃんは強い子なのですが、完全に〈ギルバドヨッシャー〉の作戦に翻弄されていましたね」
「うむ。他のメンバーもほとんど同じじゃったのう。本当に、恐ろしいほどのギルドバトルの鬼才じゃ。〈キングアブソリュート〉と当てなくて本当に良かったのう」
試合の流れは、対人戦をしたい〈千剣フラカル〉と、巧みに相手のしたいことをさせず、ポイントで優勢を取る〈ギルバドヨッシャー〉という流れになった。
〈ギルバドヨッシャー〉の動きが巧み過ぎて〈千剣フラカル〉は最初から最後まで翻弄され、碌に対人戦も出来ず、最後に本拠地戦を挑んだが、それすらも〈ギルバドヨッシャー〉からカウンターを受けて逆に〈千剣フラカル〉の本拠地が陥落して負けたのだ。
〈ギルバドヨッシャー〉はあまりにもギルドバトルに特化しすぎだった。
こんなのと当てたら〈キングアブソリュート〉だって勝てたか分からない。
インサーとユーリを戦わせなくて良かったとホッと一息吐く学園長である。
「これで決勝へ進む2つのギルドが決まりましたな」
「〈ギルバドヨッシャー〉対〈千剣フラカル〉の戦い、正直どちらが勝つか見通せませんでしたが、まさかこのような結果になるとは思いませんでした」
「〈エデン〉と〈ギルバドヨッシャー〉、まさに頂上対決にふさわしいカードでしょう」
幹部先生方も熱く語り合っている。
〈エデン〉はともかく、特にノーカテゴリーの集まる〈ギルバドヨッシャー〉と貴族出身者の多い〈千剣フラカル〉戦はどちらが勝つか見通せない先生方も多かったのだ。
なにせ、ここにいる幹部先生方はまだ六段階目ツリーを開放していない。
六段階目ツリーというとんでも凄まじいスキルと魔法が飛び交う見たこともないギルドバトルに興奮しているのだ。
その中で、さらに白熱している方々がいた。
「いや、やっぱりリンカは〈ハンター委員会〉に欲しいって! 最近火力が足りなくてモンスターの殲滅スピードが落ちてるんだ!」
「それは待ってほしいわ。リンカさんは是非〈攻略先生委員会〉へ来てほしいの。こちらにはフィリス先生やキリちゃん先生もいるし、仕事も捗るはずだわ」
「あら、〈救護委員会〉だって彼女が欲しいのですよ? 即戦力ですもの、もし万が一学生に何かあった場合、彼女の突破力が必要になります」
〈ハンター委員会〉のギルドマスター、アーロン。
〈攻略先生委員会〉のギルドマスター、タバサ。
〈救護委員会〉の会長ヴィアランである。
話題は卒業生をどこのギルドで引き取るかだ。
引き抜きは現場で起きているんじゃない、会議室で起きてるんだ。
今代の卒業生、特にAランクギルド以上で準決勝戦に出場しているメンバーは、その多くが学園に就職することに決まっている。後はどこの部署に配置するかだ。
特にSランクギルドのギルドマスターなんて引く手あまたで、どこの公式ギルドも欲しがっていた。
「でもホシさんは〈ハンター委員会〉に譲ったじゃない」
「それはそれ、これはこれだ。〈ハンター委員会〉が充実することは、ひいては学園全体のレベルが上がることに直結する。戦力はまだまだ必要なんだ。特に、うちは今少しペースが落ちているからな」
「それを言うのなら学生の安全性も重要ですよ? 今はどんどんダンジョンが開放されていって、とても〈救護委員会〉の手が足りなくなっているのです。学生がダンジョンで迷ったり遭難する可能性がある以上、〈救護委員会〉の戦力を上げておかないと何かあった場合に困ることになります。具体的に言えば、ゼフィルスさんの卒業後ですね」
「そのための〈攻略先生委員会〉でもありますよヴィアラン会長。もしその時がくれば〈攻略先生委員会〉も惜しみなく〈救護委員会〉の指揮下に入ります。だからリンカさんはこっちに、ね?」
「ね? じゃありませんよまったく」
タバサの茶目っ気のあるお願いにヴィアラン会長も苦笑いだ。
だが、結局リンカは〈攻略先生委員会〉がスカウトすることに決まる。
本人に強い希望がない限り〈攻略先生委員会〉所属で決まりだ。
「やったわ、この調子で戦力増強に励むわ」
「おいおいタバサよ、〈ハンター委員会〉の分も残しておいてくれよ?」
「それじゃあ次の子ですね。希望を出してくださいな。とはいえ、3年生は15人ほどですね」
〈千剣フラカル〉の主体はほぼ2年生。
【グランドファイター】のセーダンや、次期ギルドマスターである【撃滅の剣姫】のエレメース。【炎刀大名】のナツキなどは2年生で。
【導き手】のクーレリテアや【ジャスティス】のアビドスは留学生だ。
3年生は思ったよりも少ない。
普通なら3年生が一番強いため、もっとも人数が多いようなものだが、結果はこの通りだ。
3年生の世代で優秀だった者の多くは〈転職制度〉で今は2年生である。
とはいえ、即戦力はかなりの人数が集まっていた。
いくつかのギルドから何人も引き抜いていればその数はかなりのもの。
しかも六段階目ツリー開放者の3年生は全部で150人近くもいたのだ。
それを各公式ギルドで分け合えば、もう即戦力がっぽがっぽ。各公式ギルドの戦力はとんでもなく上がる計算だ。
と、ここで学園長がそこへやってくる。
「首尾はどうかの?」
「あ、学園長先生。とても順調ですよ。六段階目ツリーを開放した、とても若い世代がたくさん入ってくるのです。〈救護委員会〉の手も拡張できますよ」
「私たち〈攻略先生委員会〉のところもです。さすがはゼフィルスさん、こんな嬉しいサプライズ。最近付いてこられなくなりつつある先生方も増えてきていましたので、ここで戦力アップは本当に助かります」
「こちら〈ハンター委員会〉もですよ! 特に上級上位ダンジョン産の素材というのは六段階目ツリーの話題性もあって需要がとんでもないことになっていますからね。ここで手を広げられるのはありがたい」
「うむ。ゼフィルス君の策が見事に嵌まっておるの」
この〈SSランクギルドカップ〉のもう1つの側面、六段階目ツリー開放の卒業生をたくさん出すという試みは大成功。
いや、時間的に厳しそうだったが、ゼフィルス率いる〈エデン〉が暗躍(?)しまくって無事大量の六段階目ツリー開放の卒業生を出せそうなのだ。
おかげで六段階目ツリー開放の卒業生を迎え入れることができるようになった公式ギルドは満面の笑み。
学園の未来は明るいものとなった。
「ゼフィルス君には感謝だのう」
そう、ちょっと変な汗をかきながら学園長は会場を見る。
そこにあるスクリーンには、〈SSランクギルドカップ〉決勝戦、〈エデン〉対〈ギルバドヨッシャー〉の文字がデカデカと記され、観客席がとてつもなく盛り上がっていた。
〈エデン〉と〈ギルバドヨッシャー〉の決勝戦まであと少し。




