#1763 アンジェ先輩が男子にはお見せできない姿に!
「ま、負けたわーーーー! なんか本拠地アタックをすることもなく、一斉攻撃も防がれて、完敗したわーーーーー!」
「はいはい。お疲れ様なのだわ」
「マナエラさん、リアクションが冷めてるわよ!」
「アンジェが熱くなりすぎてるのよ。はい、リンゴジュースでクールダウンするのだわ」
「いただくわ! ごくごく、負けたけど美味しい!」
「全然クールダウンできてないのだわ」
こちら試合後の〈ミーティア〉の控え室。
荒れているのか弾けているのかはしゃいでいるのか……アンジェが熱くなっていた。
マナエラが用意したアップルジュースも効果が無い。
「マナエラ先輩、アンジェ先輩はどうしちゃったんですか?」
そこへ結界使いのクエナが訪れた。目を点にしている。どうやら長いギルド生活でも、こんなアンジェは初めて見たらしい。
それに対し、マナエラはゆっくり目を瞑って首を横に振る。
「悲願だった〈百鬼夜行〉に勝利して浮かれる気持ちと、その後に待ち受けていた大敗北によって、テンションが迷子になっているのだわ」
「あ、ああ。なるほど、納得しました!」
そう、アンジェのテンションは現在銀河を彷徨い中。
すっごく嬉しい気持ちとすっごく悔しい気持ちが混ざってよく分からなくなっていたのだ。
準決勝戦の〈エデン〉戦。
それは真正面から粉砕されて負けたと言っていい。
まあ、最初から勝てるとは思っていなかったが、ちょっとは通用すると思っていたのだ。だが、〈エデン〉が〈ミーティア〉対策をしてきたのでもうダメだった。
「強い側が対策とかしちゃダメでしょ!?」
「はいはい。そろそろ落ち着くのだわ」
「くぅ! これは一度〈百鬼夜行〉に行ってホシをぎゃふんと言わせないと気が済まないわ!」
「〈百鬼夜行〉にダウン蹴りしないの」
ダウン蹴りとは、負けた相手に追撃を加えることだ。
やめてあげて! 〈百鬼夜行〉のHPはもうゼロよ! とかいうあれの〈ダン活〉版だ。
アンジェのテンションはなかなか宇宙から帰ってこない。
これはあれだ。マナエラは決断する。
「このままではどこかに迷惑をお掛けする可能性も無きにしも非ずなのだわ。縛っておきましょう」
「へ? 縛るんですか?」
「あと男子の目に触れないようにするのだわ。夢を壊してしまいそうだもの」
「アンジェ先輩って人気ありますよね~」
「んあ!? ちょ、マナエラさん、何をするのよ!」
「って本当に縛っちゃいました!?」
冗談じゃなくマジでアンジェを縛ってしまったマナエラにクエナがびっくりしてツッコミを入れる。
マナエラはやると言ったらやるのだ。縛られてしまったアンジェは、とても男子にはお見せできない姿になってしまった。
「ん~!」
「落ち着くまで見張っておきましょう。悪いのだけど、準決勝戦、第2試合はここで観戦するのだわ」
「それは構いませんが……」
自分たちのトップのなんとも情けない姿にさすがにクエナは進言しようとしたが、ゴクリと飲み込んで結局何も言わないことにした。
こうして〈ミーティア〉は〈エデン〉に負けたことで、アンジェが縛られてしまったのだった。(?)
◇
「準決勝戦勝利、おめでとうーーーーーー!」
「やふー!」
「やったのです!」
「やったのー!」
「ええ、ええ。完勝でしたねルル、アリスさん。その勇姿、しかと目に焼き付けさせていただきましたよ」
こちらは〈エデン〉の控え室。
ゼフィルスが高らかに勝利をお祝いすると、シヅキ、ルル、アリス、シェリアの順に嬉しい気持ちを解き放った。
若干1名、理由が勝利じゃなかった気がするが、きっと気のせいだ。
「本当に速攻で勝ってしまったわね。準決勝だったのに」
「〈ミーティア〉さん、今頃落ち込んでいるんじゃありませんの?」
一方、ちょっと素直に喜べていないのはシエラやリーナ。
準決勝戦という、この学園のベスト4が集まる試合で完全勝利。
試合開始から約15分でコールドって。
「どうしたんだシエラ、リーナ! もっと喜ぼうぜ!」
「まあ、そうなのよね」
「ちょっと、約15分でコールド勝ちして良かったのか気になってましたの」
「しかもこっちは退場者無しよ?」
「まさに完全勝利じゃないか!」
「やっぱりゼフィルスにはこの感覚は通じないわね」
「ですわ」
勝ったけれど、勝ちすぎてちょっと不安。
でも、観客席はかなり盛り上がったし、まあいいかとシエラもリーナも思い直した。
とここで控え室に来客。
「こんにちはゼフィルスさん、〈学園の鳥〉所属のユミキよ、インタビューしてもいいかしら?」
「あれ!? ユミキ先輩がいる!?」
「実況席でゲスト出演してたんじゃなかったっけ!?」
来客はなんと掲示板の調査OGこと、ユミキだった。
これにはシヅキとトモヨがまずびっくりした声を上げた。
まあそれも当然、なにせユミキは実況席ゲストのはずなのだから。
「はぁい。実況席ゲストのユミキよ。〈ギルバドヨッシャー〉と〈千剣フラカル〉の試合までまだあるから来ちゃった」
「いや来ちゃったって」
「相変わらずフットワーク軽っ!」
「ということでゼフィルスさんにインタビューしたいのよ。〈ミーティア〉戦のこと、詳しく聞かせてくれないかしら?」
「はーっはっはっは! なんでも聞いてくれユミキ先輩!」
「答えちゃうんだ!?」
「それじゃあ聞いちゃうわね。特にアンジェちゃん戦の時に使ってたあの光の柱、『立ち上がれ救世の勇者』について聞きたいわ」
「それは答えられないんだ!」
「答えられないんだ!?」
〈エデン〉は〈エデン〉でギルドマスターのテンションが弾けていた。
なお、トモヨとシヅキのツッコミも冴えていた模様だ。
◇
一方こちらは〈ギルバドヨッシャー〉。
試合開始約15分という驚異的なスピードでコールド勝ちした〈エデン〉の試合を見た〈ギルバドヨッシャー〉の面々もまた――はじけていた。
「あんなもの見せられてテンションが上がらないメンバーは〈ギルバドヨッシャー〉にはいないぞーー!!」
「混沌!!」
「「「「おおおおおおお!!!!」」」」
特にギルドマスターのインサーとサブマスターのオスカーはテンションマックス。
なお、理由は異なる。
インサーは単純に〈エデン〉の戦法に魅了と影響を受けて、オスカーはその混沌具合にご機嫌になっていた。
「混沌! 混沌!! こんとーーーーーん!!」
「やかましいぞ混沌野郎! また試合中に気絶しかねないから落ち着け!」
なお、テンションがマックスに届いていない〈ギルバドヨッシャー〉の面々もいて。
「やっべぇ、マージやっべぇ、未だかつてないほど〈ギルバドヨッシャー〉がやべぇことになってる。あと〈エデン〉もマージとんでもない」
「震える」
「わ、分かるぜ。あと、なんで俺たちは決勝戦と準決勝戦のメンバーに選ばれてるんだ?」
「マージ分からん」
「震えた」
「こんとーーーん!」
「だからやかましいぞ混沌野郎!」
〈ギルバドヨッシャー〉に染まっていないのはいわゆる掲示板組。
索神1年生ことシンジ、魔殴留学生ことジョウ、戦慄留学生ことエドガーだ。
なお、混沌2年生ことオスカーもここにいるが、こっちは色んな意味で除外しておく。混沌力が強すぎるのだ。
「今混沌の波動を感じた!」
「いつも感じてるだろ!?」
オスカーとシンジの師弟関係も良い感じ。
〈ギルバドヨッシャー〉は現在ノリに乗っていた。
「ふははははは! もうすぐだ! あと1回勝てば本気の〈エデン〉とやり合えるぞ! 楽しみでしょうがないな!」
「混沌!」
「「「「おおおおおおおお!」」」」
「マ、マージ圧倒的疎外感!」
「震えた」
〈エデン〉と戦いたいと願う人なんて世界広しと言えど〈ギルバドヨッシャー〉くらいだろう。まあ、全員ではないが。
「さあ、〈千剣フラカル〉戦ももうすぐだ。こっちもきっちり楽しんでいくぞ! 作戦の方針は変わらずだ、我らならば勝てる! 作戦会議を開始するぞーー!」
「「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」」
もちろん〈エデン〉戦が楽しみだからといって〈千剣フラカル〉戦で気を抜いたりしない。ギルドバトルに飢えていた〈ギルバドヨッシャー〉は〈千剣フラカル〉戦もすっごく楽しみだったのだ。
「ではこれより準決勝、第2試合! 〈ギルバドヨッシャー〉対〈千剣フラカル〉の試合を開始するよ!」
しばらくして試合予定時刻。〈ギルバドヨッシャー〉にお呼びが掛かる。
瞬間一糸乱れずに起立する〈ギルバドヨッシャー〉。
その無駄の無い動き、他のギルドとは気迫が違う。
あの連携に優れた〈ミーティア〉ですら及ばない連携力。否、結束力!
フィールドを研究し、研究し、あらゆる戦法を研究し尽くした〈ギルバドヨッシャー〉。
彼らが転移していった先に居たのは、準決勝戦の相手、〈千剣フラカル〉。
〈千剣フラカル〉は、転移してきた〈ギルバドヨッシャー〉を見て息を飲んだ。
「な、なんか笑顔全開な人が多いんだけど?」
「僕らとの試合を、とても楽しみにしていたようだ」
「なんで?」
「〈ギルバドヨッシャー〉だからじゃないか?」
ああ、とギルド全体が納得する。
〈ギルバドヨッシャー〉は〈ギルドバトルやりたい病〉に冒されたオタクたちの集まり。
〈千剣フラカル〉も実を言えば〈ギルバドヨッシャー〉には負けたことしかない。
「でも、今回は勝たせてもらいます」
そう言ってニッと笑うリンカ。
なぜかそれを見てセーダンとエレメースは不穏なことを感じたという。
ゼフィルスが居れば「あれ? 今フラグ立った?」とか思ったかもしれない。
〈ギルバドヨッシャー〉と〈千剣フラカル〉は挨拶をしてから各本拠地に送られ、
準決勝、第2試合が始まった!!
結果から言おう。
―――〈ギルバドヨッシャー〉が勝利した。




