#191 4月最後の日も通常運行。ダンジョンへ出発だ
本日は4月最後の日。火曜日だ。
朝からニュースには学生たちの最後の追い込みが報道されていた。
みんな目が必死だ。
モンスターを倒したのに高位職が選択肢に載らなかった学生などは別の要因を探して駆け回り、掲示板やニュースなどの錯綜する情報に振り回されている。
そして練習場、訓練場が激しく熱いオーラに包まれている中、俺たちは涼しげにギルド部屋に集まっていた。
「今日も全員集合だな」
「参加率が高いのは良いことね!」
〈エデン〉のメンバー12人。今までなんやかんや揃わなかったが昨日から全員がギルドに集合するようになった。俺が周りを見て頷くと何故かラナも頷いた。
とりあえずこれで育成が捗るな。育成は〈ダン活〉の醍醐味だ。
「じゃ、早速朝のミーティングを始めようか」
「では私から、昨日の報告をするわ」
シエラがいつもの可愛らしいメモ帳を片手に昨日の各パーティの成果をギルドメンバーに共有する。
誰がどのくらいのLVでどれほど攻略が進んでいるのか、周知しておくことは大事だ。
「ゼフィルスのパーティはシズとパメラがLV15、初級下位ダンジョンを全て制覇ね」
「ええ! すごいです! ルルたち追い抜かされてしまいました!」
「1日で初級下位ダンジョン全制覇? そんなことが物理的に可能なのですか? 興味深いですね」
シエラの報告に、昨日〈石橋の廃鉱ダンジョン〉をクリアして今日〈静水の地下ダンジョン〉に挑む予定だったルルが驚きの声を上げた。
シェリアも不思議そうな顔をした後に目をキラリと輝かせる。
多分、未知の知りたい事を見つけたのだろう。エルフは知識に貪欲だ。まあ俺ほどではないだろうが。
「ま、それに関しては今日教えるさ。何しろ今日はルルたちの番だからな」
何せ〈乗り物〉は一台しかないし操縦できるのも1人しかいない。
人数の関係もあるのでご利用は順番に、だ。
俺の回答を聞いたシェリアがにっこりと微笑む。満足な答えだったらしい。
「ルル、シェリア、セレスタン、は各LV14、〈石橋の廃鉱ダンジョン〉を攻略。ラナ殿下のパーティはリカとカルアが各LV26ね」
「了解だ。シエラ報告ありがとうな。——リカたちは、攻略は順調そうか?」
「そうだな。順調と言っていいと考える。罠や奇襲はカルアが見抜いてくれるし毒はラナ殿下がすぐに回復してくれる、ダメージを受けても同じくだ。とても頼りになるサポートをしてもらえている」
「ふふん、それほどでもあるわ!」
「攻略、順調。ぶい」
リカ、ラナ、カルアのパーティは難易度が一番高い初級上位ダンジョンにも関わらず一番人数が少なく心配だったが、やはりラナの活躍により苦戦はしていないらしい。
【聖女】は公式最強職業ランキング、第二位。
さすがの実力でサポートしまくっているようだ。
「オーケー。明日は少し時間できるから〈サボッテンダー〉狩りに行くか。午後をあけておいてくれ」
「分かったわ!」
約束を取り付けるとラナが満面の笑顔で頷いた。リカとカルアもどことなく嬉しげな雰囲気だ。
「人気者ね…」
「シエラ、何か言ったか?」
「別に、それより今日もパーティを分けるのでしょ?」
何かシエラが呟いた気がしたが気のせいだったか?
しかし、そんな事も続くシエラの言葉で気持ちがすぐに切り替わる。
「そうだった。ラナたちのパーティは昨日と同じだが、初級下位ダンジョンをクリアしたシズとパメラはメンバー交代だ」
俺はメモにすらすらと組み分けを書いていく。
・1班 ゼフィルス、エステル、ルル、シェリア、セレスタン。
・2班 ハンナ、シエラ、シズ、パメラ。
・3班 ラナ、カルア、リカ。
以上。
昨日と比べ、1班と2班の先陣メンバーが入れ替わった形だな。3班は昨日と同じメンバーで継続だ。
「とりあえずはこんなところだろう。昨日も見ていたんだが、パメラ」
「はいデス!」
「パメラはヘイト稼ぎとかあんまりやったこと無いだろう。少しシエラにタンクの道を教えてもらうといい」
「よろしくお願いします鬼軍曹!」
「誰が鬼軍曹かしら」
まあ、イメージ的にシエラはなんか手の込んだことをしそうだが鬼軍曹にはならないと思う。
「ルルたちは俺と初級ダンジョン攻略、終わり次第LV上げだ。目標はLV25だな」
「たった1日でLVを10以上も上げるのですか。楽しみです」
「ルルも楽しみです!」
言葉は丁寧だが目をキラッとさせてシェリアが言い、ルルも続く。ルルが可愛い。
俺も楽しみだ。
「んじゃ、各自ダンジョンを楽しもう。出発!」
俺の宣言に各パーティに分かれ初ダンに向かう。
初ダンからは別行動だ。
女の子が多いので手を振り合ったり、ハイタッチしてから分かれ、それぞれの門を潜っていく。
なんか良いよな、こういう光景。俺とセレスタンはそんなキャピっとした光景を見ながら、女子たちが満足するまで待つ。
「お待たせです! ルルはいつでも戦えます!」
「同じくシェリア、戦えます」
「ルルとシェリア仲良くなったなぁ。なんのものまねだ?」
「可愛いです。シェリア、上手くやりましたね」
「エステル、ルルの隣は譲りませんよ」
ちょっと見ないうちにルルとシェリアはずいぶん仲良くなったようだ。ダンジョンは人を仲良くさせる。楽しいからな。なんかエステルもそっち側に加わりたそうにしているがシェリアのガードが堅くて突破出来ないようだ。がんばれ。
俺も今日は仲良くなるぞ! じゃなかった、楽しむぞっと!
門を潜り、人の少ないところまで来た後にエステルが〈空間収納鞄(容量:大)〉から馬車をドンッと取り出すと、シェリアとルルの目がキラッキラになった。
どうやったらそんなアニメみたいに目をキラッキラさせることが出来るのか知りたいところ。
シェリアによると、エルフは知識欲を刺激されるとつい目が輝いてしまうの、と語っていたが多分そんなことはないと思う。
さっそく皆乗り込んで俺は案内役、エステルは御者席に座ると、ヒョイっとルルが身軽に助手席に立った。ちゃんと靴を脱いでいるところが偉い。
「行くのです! えっと、この馬車はなんて名前なのです?」
「〈からくり馬車〉ですよ」
「行くのです! 〈からくり馬車〉、発進です!」
可愛らしいルルの合図に合わせてエステルが馬車を動かした。
これは良い! 絶対バズる光景がそこにあった。今度からルルに発進の合図をさせよう。
くっ、カメラが無いのが悔やまれる! スクショ機能はどこ行った!
「でも〈からくり馬車〉はちょっとダサいです。〈サンダージャベリン号〉なんてどうです? いかにもヒーローが乗ってそうな感じがするのです」
いかにもかはちょっと分からなかったが名前の件は採用され、
今日から〈からくり馬車〉は〈サンダージャベリン号〉に改名することになった。