#1760 〈城取り〉の初動巨城確保で大先制攻撃!
「それにしてもゼフィルスさんはとても冷静ですわね。まさかあのような戦法で〈ミーティア〉の足を止めるなんて」
「そうでもないさ。〈ミーティア〉は〈百鬼夜行〉戦ですでにあれと同じものを受けていたんだ。すぐに対応してくるだろう。と思っていたんだけどなぁ」
現在試合開始の初動ダッシュ中、レグラムの後ろに2人乗りしているオリヒメさんが言っているのは、試合開始直後の『魔法飛行』禁止にした戦法のことだ。
――――『羨ましいからそれ禁止』。
その効果は〈〈羨望取消書〉を装備している状態で発動、そのギルドバトルまたはエンカウント中に使用された、スキル・魔法・ユニークスキルのうち1種を敵味方問わず使用禁止にする〉だ。
対象は人物ではなく、アクティブ系のスキル・魔法・ユニークスキル。
1つではなく1種というのがミソ。
試合中ずっと発動しているためフィールドの影響は受けず、解除するには【嫉妬】を倒す、もしくは〈羨望取消書〉を【盗賊】系が奪う必要がある。あとは【嫉妬】自身が解除するか。
要は試合終了までお互い使用禁止にするユニークスキルだ。
お互いが使用禁止の対象なのだから、相手だけではなく、仲間に使えるのも当然だ。
ぶっちゃけゲーム〈ダン活〉時代はここまで強いユニークスキルじゃなかった。
敵味方問わずなので、相手に禁止したものを自分も持っていたら、自分も使えなくなってしまうからだ。
相手の『大聖光の無限宝剣』を禁止にしたら、自分の『大聖光の無限宝剣』も使えなくなってしまうという痛み分けのユニークスキル。
しかも禁止にできるのは1種だけなので、強い人種カテゴリーに人数制限のあったゲームではここまでぶっ刺さらなかったんだ。
しかし、そこは〈ダン活〉プレイヤー。新たな可能性の模索に成功した。
それがこれ、味方のスキル・魔法・ユニークスキルを最初に禁止しておくことで、相手が使うだろうスキル・魔法・ユニークスキルを先んじて禁止にし、重要な場面で大きな隙を作り出す戦法。――〈隠れ禁止〉戦法だ。
相手からすればどれが禁止にされているのか分からない地雷罠。
ここぞというときに出したスキルが不発になり、それが大きな隙となって致命傷に繋がった時はコメントが大いに舞ったものだ。
また、相手が要にしているスキルや、その戦法に依存していたりするととてもやりやすかった。なにせ、【嫉妬】本人がその場に居る必要がないのだ。
【嫉妬】が禁止に出来るのは目視したスキル・魔法・ユニークスキルのみ。一度禁止にしてしまえばそのギルドバトル中は使用禁止になるものの、まず対象のスキル・魔法・ユニークスキルが発動するタイミングで目視していなければならないのがネックだったのだ。
故に先んじて仲間が使って禁止にしておく〈隠れ禁止〉戦法が一時期流行ったんだよなぁ。
もう絶対に禁止されたくないキャラと【嫉妬】を出会わないよう立ち回る回避戦術は使えない。
とはいえ、先ほども言ったとおり、別にそこまで強くはない。少なくとも1発でギルドバトルの勝ちにこぎ着けてしまえるユニークスキルではないはずだ。
なにせ〈ミーティア〉が『魔法飛行』とは別の移動術を持っていたら、簡単に対策されてしまうのだから。
一度〈ミーティア〉側を見る。
ここまでぶっ刺さっているのは、うん。俺も想定以上の成果だったんだ。
また「それなら試合開始から少し時間をおいて発動すれば〈ミーティア〉は墜落するのではありませんか?」とヴァンから提案もあったりしたんだが、〈百鬼夜行〉戦では見事に墜落を阻止していたからな。今回は即発動を選択。
おかげで〈ミーティア〉は混乱し、初動の動きが完全に遅れてしまった。
ならばここは一気に赤本拠地に近い〈東巨城〉や〈南東巨城〉まで手を進める場面。
「俺たちは〈南東巨城〉までの道を引いたのち、相手のツーマンセルを狩るぞ! この〈八角形〉フィールドでなにが大事かと言えば――初動のツーマンセル封じだ! もう初動からバチバチの対人戦をする気持ちで押し進むのが最善」
比較的小さな観客席がたくさん、それも隙間が少なく設置されているのでそれを上手く使い、相手の進行を妨げつつ回り込んで対人戦にもつれ込むのだ。
それと罠も仕掛けさせてもらった。シズやカイリの手を借りない、これ見よがしに罠ですと分かる罠をそこら中に配置する。
これを壊すため、もしくは回避するために動きが阻害されたところを対人戦へもつれ込むのだ。
「発見! カルアは先行、相手を保護期間マスに逃げさせるな!」
「ん! 『ナンバーワン・ソニックスター』!」
「レグラムと俺はこのまま先行! 小城マスを取らせないよう一気に突っ走るぞ!」
「任せるがいい! 『天空絶光・疾駆無秒閃々』!」
「俺もいくぜ! 『テンペストセイバー』!」
「え!? 〈エデン〉がもうこんなところに!?」
「保護期間マスに逃げるよ!?」
「そうはとんやがおろさにゃい」
「!! 回り込まれた!?」
「突破するの!」
「「『アルティメット・ファイブバースト』!」」
「『ディスアピア・モーメント』! 回避無事」
「「当たらない!?」」
「そこに俺たちがどーん!」
「「きゃあああああああ!?」」
まずは〈南東巨城〉の近くで〈ミーティア〉のツーマンセルを1つ撃破!
速度を活かし、カルアに来た道を戻らせないよう回り込ませ、レグラムと俺が小城にタッチされないような軌道で接近して討ち取った。
〈南東巨城〉の隣接は取られてしまったが、他の巨城隣接はこれで取れなくなったはずだ。
「『〈ミーティア〉のツーマンセル部隊、3組の撃破を確認しましたわ! これでツーマンセルは全部です!』」
「よっしゃ!」
作戦は見事に大成功。他のところでも無事撃破出来たらしい。
〈八角形〉フィールドは巨城同士が近すぎて、相手の部隊とぶつかりやすいため非常に注意が必要だ。
だが、逆に敢えてぶつかって相手を倒す、というのがこの作戦のキモである。
とはいえそれだけだと自分たちもやられてしまうことも大いにあるため、ツーマンセル部隊を多めに放ち、互いに援護させるのが正義である。
〈ミーティア〉はセオリー通り、3組のツーマンセルで巨城の囲い込みや隣接確保に走らせた。
だが〈エデン〉から放たれたツーマンセルは――8組+1組。(+1組はレグラムたち)
狙いは巨城の隣接ももちろんだが、相手のツーマンセルの撃破が真の目的だった。
結果、試合開始僅か3分弱で〈ミーティア〉のツーマンセルを全て撃破してしまったのである。
この成果は大きい。
なにしろツーマンセルは攻めであり索敵であり守りの部隊である。
それを真っ先に潰されたとなれば、視界が黒い布で覆われたに等しい。
〈ミーティア〉の大部隊は2つの組に分かれて〈東巨城〉と〈南東巨城〉を攻略するだろうが、その後が続かなくなったな。
ならば新たなツーマンセル部隊を放つか? だがこの時点で俺たちの狙いがツーマンセルであると分かっているだろう。リーナがいる限り、苦し紛れのツーマンセルなんて各個撃破の餌食になる。
〈ミーティア〉は連携が優秀なギルド。
となれば〈ミーティア〉の次の手は。
「『ゼフィルスさん、〈ミーティア〉は集団のまま〈東巨城〉と〈南東巨城〉の攻略に入る模様です! どうしますか?』」
「もちろん俺たちも差し込むぞ! 出来るだけ多くのメンバーを集めてくれ! それぞれ〈ミーティア〉の反対側から巨城先取を狙う!」
「『了解ですわ!』」
正直なところ〈エデン〉は今回全巨城の確保は難しいと思っていた。
〈救済巨城〉が無いため、〈ミーティア〉が〈東巨城〉や〈南東巨城〉を狙ってくる可能性が高かったからだ。それが〈八角形〉フィールドのセオリーでもある。
故に〈隠れ禁止〉戦法でちょっとでも〈ミーティア〉の足を遅らせようとしたのだが、これが見事にぶっ刺さり、全巨城確保の可能性が出てきた。
俺たちも白本拠地から最も遠い2城、〈東巨城〉と〈南東巨城〉に到着し、攻略を開始する。〈ミーティア〉と差し込み合戦だ!
相手は6人が退場し、14人と15人の部隊なので、〈エデン〉も小城よりも巨城確保を優先し、ツーマンセルも巨城攻略に参加させて各10人以上の部隊で差し込み狙いだ。
〈ミーティア〉は〈ジャストタイムアタック〉の使い手。
一斉着弾攻撃の時間によっては取られる可能性もあるが、果たしてどうなるかな?
俺は〈南東巨城〉に向かい、巨城へアタックを仕掛ける。
リーナの采配は的確で、〈南東巨城〉へ〈エデン〉10人が到着したのと〈ミーティア〉が到着したのは、ほぼ同時だった。
「攻撃開始よ! 〈エデン〉よりも先に奪うのよ!」
「こっちも攻撃開始だ! リーナ、3分48秒で行く」
「『了解です。通達いたしますわ!』」
〈ミーティア〉のズドドドドドドドドドンという爆撃機かと思うような爆発の嵐が巨城を揺らす。〈エデン〉でも攻撃を開始。
合計25人の攻撃だ。
こうなってくると巨城のHPは凄まじい速度で減っていき、僅か10秒でHPが30%まで減った。まだ3発くらいしかスキル使ってないのに、さすがは六段階目ツリーのぶつかり合い。
そして、このタイミングで〈エデン〉の〈ジャストタイムアタック〉が発動する。
「――3、2、1――『天光勇者聖剣』!」
「『512・ヘル』!」
「「『天海星・ウラヌスネプチューン・キャリバー』!」」
「『神様はお怒りです』!」
「『完全コピー魔法・真・それ私もやるー』!」
「『破壊王の鉄槌』!」
「『ビッグクマン・ギガデストロイフィスト』!」
「『必殺・絶刀』!」
「『魔王砲』!」
総勢10人の一斉着弾攻撃が炸裂。
だが、〈ミーティア〉も動いていた。
「いくわよ! 『シューティングスター』!」
「「「「「『アルティメット・フレアバースト』!」」」」」
アンジェ先輩の声に、乱れること無く一斉に放たれる〈ミーティア〉の攻撃。
俺たちは着弾時間を合わせなくちゃいけないからタイムを図っているというのに、向こうは魔法発動を指示代わりにして放てるとかヤバい。
それいつでも好きなときに、時間を合わせなくても同時着弾攻撃が撃てるってことじゃん。息合いすぎだろ!
だが、俺だって負けてはいない。
これまでのデータは全て俺の中にある、そこから導き出した着弾時間の指示はかなりきわどいギリギリを攻めることができるのだ。
残りHP30%くらいならば〈エデン〉は強力な一撃の一斉着弾攻撃で吹き飛ばせる。
その残りHP30%のラインに何秒でたどり着くのか、その予想も完璧だ。
〈ミーティア〉も同じだろうが、見て、指示を聞いてから放つのと、初めから作戦行動時間が決められていて、その時間になれば迷わず放つ〈エデン〉。
今回軍配が上がったのは、どうやら〈エデン〉だったようだ。
ズドドドドドドドドドカーーーーーーンというとんでもない衝撃音が響き、その後には――白い旗が立った〈南東巨城〉が残っていた。
「おっしゃーー!!」
「やったですーー!」
「わーい!」
「なあああああああああ!?」
〈南東巨城〉差し込み成功!
俺やキキョウ、アリスなどが一斉に歓声を上げ、巨城の反対側からは嘆きの叫びが聞こえてきた。
となれば、流れは一気に〈エデン〉側に流れ込む。
「マスで囲って〈ミーティア〉の進路を制限しろ! 攻略班は次〈南巨城〉を攻略だ!」
「「「おおー!」」」
「な! すぐに追いかけるのよ!」
続いては〈南巨城〉。これもどちらかというと、赤本拠地側にある巨城だ。
もちろん〈ミーティア〉は差し込もうと追いかけてくるが、そうはさせないと途中のマスを確保して保護期間を張り、逆に誘い込む。
ここで一気に決めよう。
「『ゼフィルスさん、〈東巨城〉ですが、こちらは〈ミーティア〉が先取しましたわ!』」
「さすがだな!」
俺の居た〈南東巨城〉でギリギリだったのだ。〈ミーティア〉は本当に〈ジャストタイムアタック〉が強い。〈東巨城〉へ差し込みに行った部隊は、残念ながら差し込みに失敗したようだ。
これで現在の巨城は〈白:3城〉〈赤:1城〉。
だが、他の巨城は〈エデン〉の本拠地に近い。これを〈エデン〉が確保すれば〈白:7城〉〈赤:1城〉で一気に優勢が取れるだろう。
しかし、その前にここで一度ぶつかっておきたい。
「追ってくる〈ミーティア〉を迎撃するぞ!」
「「「「おおー!」」」」
ここで反転。
〈ミーティア〉は〈南巨城〉へ向かうためにとあるルートを進んできている。
というかそのルートの左右が保護期間中なので、そのルートしか通れない。
もちろん誘い込みだ。
「〈エデン〉、迎撃の姿勢! 数――14人!」
「! ここでぶつかるのは好都合よ! 気張りなさい!」
「うっし、アンジェ先輩、やる気みたいだな! リカたちも防御頼むぞ!」
「うむ。腕が鳴るな」
反転した〈エデン〉を見ても〈ミーティア〉は止まらず逃げず、明らかにやる気だった。
試合開始からわずか4分57秒のことである。ここで対人戦をしたかったのでリカやラクリッテなど4人合流して迎え撃つ。
いきなり最終決戦とも言えるギルドマスター率いる〈エデン〉14人の部隊と、〈ミーティア〉15人の部隊のぶつかり合いだった。
〈ミーティア〉にして見れば、後半になればなるほど人数が減り、その強みを生かし切れなくなってくる。
故に、こうして大人数で固まっている初期に敵の大部隊とぶつかるのが、一番歓迎する展開だろう。
だが、俺としてもそれは大歓迎というところ。
〈ミーティア〉の一番強い状態と勝負できる!
さあ、いよいよ〈ミーティア〉とぶつかり合いだ!(試合開始から5分くらい)




