#1759 〈ミーティア〉作戦練って、頑張ろう宣言!
「アンジェ、どうするのだわ?」
「もちろんそんなの決まってるわ! やるからには全力で勝ちに行くのよ! あの〈百鬼夜行〉に勝った私たちよ、〈エデン〉にだって勝てる可能性だって、きっとあるわ!」
「「「「おおー!」」」」
マナエラの問いに迷い無く答えるアンジェ。
その姿を頼もしく思い、思わず声を上げるメンバーたち。
ここは〈ミーティア〉の控え室。
準決勝戦、第一アリーナ、第1試合出場が決まったところでみんなで移動して今に到る。
「さすがはアンジェね。あの〈エデン〉相手にも動じていない姿。見事なものなのだわ」
マナエラも見習う。
アンジェはついに悲願だった打倒〈百鬼夜行〉を成し遂げ、なんだかツヤツヤしていた。勝利の栄光に潤っている?
他のメンバーたちもテンションが上がっている様子で、連戦にもかかわらず疲れた様子が無い。
日々かなりの難易度を誇る上級ダンジョンに潜っている学生は、これくらいの連戦へっちゃらなのだ。
テンションが落っこちた瞬間バテるかもしれないが……。
それが分かっているのでアンジェもしっかり鼓舞しているのである。
今は休憩中。
貴重なインターバルなので軽い食事や飲み物で休憩をしているところだ。
しっかり回復して〈エデン〉対策に勤しむのである。
「それでマナエラさん、何か良い案とかないかしら?」
「まさかのノープランだったのだわ」
鼓舞が終わったところでこっそりと、他のメンバーに聞こえないくらい小さな声でアンジェがマナエラに聞いてきた。
せっかく感心していたのにと、マナエラが感心を返してもらう。
だが、アンジェにも言い分はあるのだ。
「なに言ってんのマナエラさん、相手は〈エデン〉よ? 必勝の策なんてある方がおかしいでしょうに」
「……確かにそう言われればそうだったのだわ」
「いえ、おかしくてもいいのよ。だからマナエラさん、必勝の策とかあったらくださいな?」
「くださいな? ではないのだわ。甘えてきても無いものは出せないわよ」
「やっぱりマナエラさんもないのね。長く〈エデン〉にかかわることが多かったあなたならもしやと思ったのだけれど」
「掲示板のことを言っているのなら、見当違いなのだわ。あんなところで必勝の策なんて蔓延っていたらみんな使っているわよ」
「それもそうね」
アンジェとマナエラが顔を見合わせて再び考える。
しかし残念ながら、〈エデン〉に勝てるビジョンが浮かばない。
「こうなったらいつも通りやるしかないわ! 幸い一度は〈エデン〉の拠点に王手を掛けたことがあるのよ。私たちならやれるわ!」
「さすがはアンジェなのだわ。こういう時のアンジェは見習うべきところがあるわね」
勝てるビジョンが思い浮かばなくても――やる。
後ろ向きにならず、常に前を向いて歩き続けるのがアンジェ最大の魅力にして長所だ。
この姿勢に〈ミーティア〉は何度も助けられ、そしてここまで来たのだ。
〈百鬼夜行〉に3度も負けたのにめげずに挑み、ついには勝ちを掴んだのも、アンジェの諦めない心があってこそ。この姿勢に憧れて〈ミーティア〉に入ってきた子も多いし、アンジェに告白して玉砕した男子も多い。
「やるのよマナエラさん! いつも通りの、〈百鬼夜行〉を倒せるまでに仕上げた私たちの連携をぶつけるの!」
「了解よ。私たちのギルドマスター」
こうして〈ミーティア〉は、下手な奇策なんて考えず、いつもどおりの真っ向勝負に出ると決めた。
そのために色々話し合う。
「今回のフィールドは〈八角形〉フィールド。ここのセオリーはあるかしらマナエラさん?」
「ええ。巨城は8城、それが中心の観客席を取り囲むようにして固まっているフィールドなのだわ。地図を表示するわね」
「ほんと、巨城同士がかなり近いわね。隣の巨城まで僅か4マスって」
「隣接を取るだけなら3マスなのだわ。セオリーと言えるのか分からないけれど、ここは自分たちに一番近い巨城から攻め落としていくのがセオリーなのだわ」
「それは……いつもと逆ね」
フィールドの図を見ながらマナエラとアンジェが作戦を練る。
マナエラが逆と言ったのは、普通ギルドバトルの初動は遠い巨城から落としていくのがセオリーだからだ。
近いところは〈救済巨城〉と呼ばれ、ほぼ自分たちが取れるため後回し。
相手と同じような距離にある巨城を取り合い先取するのがギルドバトルの基本。
しかし、〈八角形〉フィールドではその〈救済巨城〉がほぼ存在しないという、ギルドバトルにおいてかなり特殊なフィールドだ。
故に取る巨城の場所も戦法も、かなり変わってくる。
巨城は遠いところではなく、逆に近い方から落として巨城を落とす速さを競うという、超バトルフィールドなのだ。
「私たちなら差し込みも狙えるけれど」
「〈エデン〉はきっと隣接を取らせてくれないのだわ。今回の〈八角形〉フィールドでは、マス取りのツーマンセルと巨城を落とす担当を完全に分けてしまうのがセオリーで、マス取り担当は巨城確保に参加せずどんどんマスを取って巨城を囲い、相手の侵入をさせないという戦術を使うみたい」
「なるほどね……。それなら速度で不利の〈ミーティア〉では難しいわね」
「ええ。だから最初から近い巨城をじゃんじゃん落として、差し込みは考えないようにした方がいいのだわ」
「なによマナエラさん。必勝の策は無いとか言っておきながら、すごく考えているじゃないの」
「これは〈エデン〉対策じゃなくて〈八角形〉フィールドのセオリーよ? セオリー通りに行けば〈エデン〉は必ず対策を練ってくるのだわ」
「言われてみれば確かにそうね……」
一瞬いけそうと思ったが、これはセオリーだった。セオリーなんて対策してなんぼだ。むしろセオリー通りに行動すれば動きが読まれる。読まれたら〈エデン〉のことだ、絶対何かしてくるに違いない。
「ならば、〈ミーティア〉の独自の戦法を混ぜてアレンジすればいい、というわけね」
「ええ。ここで連携して一斉攻撃。各個撃破を狙う戦法もあるのだわ」
「巨城を狙わず、一斉攻撃を対人に使う策ね。読まれるだろうけれど、そこは数のパワーで押し切りましょう。〈ミーティア〉の強みをここぞとばかりに使うのよ」
マナエラとアンジェの話し合いは、インターバルの3分の2を消費するまで続いた。
その後はギルドメンバーに作戦を通達。
こうして〈ミーティア〉もギルドバトルをする準備が整った。
だが、相手はあの〈エデン〉。
〈エデン〉は―――多少の作戦も簡単に上回ってくる。
◇
「さああああああ〈エデン〉対〈ミーティア〉の試合が、間もなく開始されようとしているぞーーー!」
「インターバルお疲れ様でした。ついに準決勝が始まりますね。お互い補給は済んだのでしょうか」
「〈ミーティア〉はサッパリしているわね。表情がいいわ。これは期待できそうよ」
実況席では再びキャス、スティーブン、ユミキがアリーナの中央で顔を合わせる〈エデン〉と〈ミーティア〉を実況していた。
「お互いのギルドは握手! そして本拠地に転送されたーー! 5分後に試合が始まるぞーーー!」
「カウントダウン、開始です」
「〈エデン〉はいつも通り白チーム、〈ミーティア〉はいつも通り赤チームね。分かりやすくて大変結構だわ。試合開始が待ち遠しいわね」
〈エデン〉と〈ミーティア〉はそれぞれ、北西にある白本拠地と、南東にある赤本拠地に転送された。
お互いの本拠地からの距離はとても長い。
そしてその中心にあるのが8つの巨城だ。
「改めて〈八角形〉フィールドを解説するよ~、スティーブン君が!」
「そこは自分じゃないのね」
「では解説していきましょう。とはいえ見て分かる通りなので巨城の数と配置だけですが。巨城は8城。それぞれ中央を囲むように配置されており、〈北巨城〉から時計回りに〈北東巨城〉〈東巨城〉〈南東巨城〉〈南巨城〉〈南西巨城〉〈西巨城〉〈北西巨城〉となっております」
「名前分かりやすいね!」
「上から俯瞰して見ると、◇のようにも見える配置なのだわ」
「場所も配置も分かりやすい!」
改めて巨城を説明していると、ついに試合開始の時間となる。
「ではそろそろ時間となって来ました。キャスさん。お願いしますね」
「おーともよーーーー!! カウントダウンいくよーー! 5、4、3、2、1――試合開始だーーーーーー!!」
◇
〈ミーティア〉の初動は作戦通り一番近い巨城、〈東巨城〉と〈南東巨城〉の2城を狙う2つの部隊に分かれた。その後は順に近い巨城を落として2城ずつ確実に先取されずに落とすのが狙い。これで半数の4城をゲットしたいところ。
巨城を落とす担当とは別に、マス取り担当のツーマンセルを3組放ち、それぞれ相手に巨城の隣接を取らせないように動き回る予定だ。これは〈八角形〉のセオリー通り。
もし相手と接触するのならばそれもいいだろう。〈ミーティア〉の巨城担当は14人と15人の班に分かれている。一斉攻撃で〈エデン〉の数を減らすのだ。
物量攻撃には自信がある〈ミーティア〉である。
〈ミーティア〉内で改めてアンジェからそう通達される。
「いいみんな! いつも通り〈ミーティア〉の強みを前面に出していくわ! 私たちの連携は〈エデン〉にだって通用すると見せるのよ!」
「「「「「おおー!!」」」」」
ここで会場のブザーが鳴る。試合開始だ!
「『追い風』!」
「「「「「『追い風』!」」」」」
「「「「「『スピードアップ』!」」」」」
「「「「「『突風』!」」」」」
「みんな行くわよ! 『魔法飛行』!」
「「「「「『魔法飛行』!」」」」」
これが〈ミーティア〉の過半数が持つ両手装備、〈魔法使いの箒杖〉の力。
飛行能力を得るスキルだ。箒に跨がり空を飛ぶ。まさに魔女という光景。
〈ミーティア〉は箒に2人乗りし、1人が『魔法飛行』をもう1人がアクセサリーなどの装備スキル、飛行状態で移動速度が上がるスキルなどを使用し、低空での高速移動を実現。
全員がかなりの速度を得ることに成功したのだ。
本来魔法使いばかりで構成され、移動速度に難のあった〈ミーティア〉だったが、これを実現したことで、前回の初動ではあの獣人の多い〈百鬼夜行〉とほぼ同着でクロスエリアに到着したほどの作戦である。
これぞ学園で〈ミーティア〉だけが使える〈ミーティア〉の強み!
―――これが仇になった。
「へ? ちょ、え!? なんで? 『魔法飛行』が発動しない!?」
――――しーん。
スキルを発動したはずなのにまさかの不発。
それが、全メンバーで起こったのだ。
「どうなってるの!? 『魔法飛行』!」
「「「「「『魔法飛行』!」」」」」
スキルを言い直すも発動せず。〈ミーティア〉の強みであるはずの〈魔法使いの箒杖〉がウンともスンとも、いやスン状態になってしまったのだ。
原因不明。
だが、もたもたしている暇は無い。だって試合はもう始まっているのだから。
「アンジェ、こうなったら全力で走るのだわ! 〈東巨城〉と〈南東巨城〉なら今ならまだ取れる!」
「! みんなダッシュ! 急いで!」
急遽予定変更。
飛行が使えないなら走るしかない。すでに30秒が経過しようとしていた。
走る速度の遅い〈ミーティア〉にとってこれは厳しいしかない。
そしてフィールドを見れば、〈エデン〉が8組以上のツーマンセルをばらまいて〈ミーティア〉の陣地側に攻めてきていたのだ。
◇
一方こちらは〈エデン〉側、試合開始直前。
「ヴァン、キキョウ! 先制頼むぜ!」
「承ったであります!」
「任せてくださいゼフィルス先輩!」
ゼフィルスの声に〈魔法使いの箒杖〉を持ったヴァンと、【嫉妬】のキキョウがタッグを組んでいたのだ。もう嫌な予感しかしない。
会場にブザーが鳴り、試合開始。――その瞬間にゴーサインが下される。
「『魔法飛行』!」
「『羨ましいからそれ禁止』!」
試合開始1秒、禁止発動。
『羨ましいからそれ禁止』は――味方のスキルにも発動出来るんだ。




