#1753 〈エデン〉対〈カオスアビス〉大罪揃っちゃった
「お、次の対戦相手が決まったぞ!」
「〈カオスアビス〉……ギルドマスターロデン先輩の所ね」
俺たちが見上げる巨大なスクリーン。
そこに映し出された対戦表には――〈エデン〉対〈カオスアビス〉の名が輝いていた。
他のところも気になるが、まずは俺たち。
今回も第1試合みたいだからな!
「〈カオスアビス〉と言えばキール、ジェイ、ハイウド、ダノム、ハーミットなどが所属するギルドでもあるぞ。かなり多彩な職業たちが揃ってる。〈サクセスブレーン〉戦の時のような、各職への対策が必要だな」
横のシエラに俺は腕を組んで言う。
〈カオスアビス〉はその名の通り、普通の枠に留まらない、非常に特殊な職業持ちたちの集まりだ。
隣のクラスのキールは【死神代行】。〈即死〉系を操る非常に強力な職業だ。
ジェイは【ダークマターサイキッカー】という超能力者で、メルトとはまた違ったダークマターというエネルギーを操る。
ハイウドは【サイボーグ完全体】。装備する機械によって戦い方がガラッと異なる変わり種。
ダノムは【スーパータイフーン・ジェントルマン】で、その戦い方はユニークの一言。【正義漢】がどうしてそうなったのか訳が分からないほど、自らが台風の目となって全てをぶっ飛ばす。
ハーミットは【パーフェクトターミネーター】。バイクの〈乗り物〉を使いこなす非常に弾けている強者だ。
うん。
普通に留まらないカオスでユニークな職業たちだと分かるだろう。
そして、それを纏めているのがロデン先輩。
学園でも僅か8人しか居ない【大罪】職の1つ、【暴食】に就いている〈カオスアビス〉のギルドマスターだ。
あまり活躍の話が聞こえてこないので軽く見られがちだが、【暴食】は【大罪】職の1つ。
弱いわけがなく、暴食の闇に掴まれば〈エデン〉のメンバーだって退場させられてしまうだろう。
「よし、俺たちもすぐに出番がくる。準備しよう」
「「「「おおー!」」」」
◇
「いやぁ、参ったんだね」
「ロデン先輩、ゼフィルスたちに勝つのは厳しいよ。なにせあの〈エデン〉メンバーは全員が六段階目ツリーを開放しているんだ。僕たちはまだ25人が良いところさ。今回は〈35人戦〉、10人の差は大きすぎる。それに相手は常勝の〈エデン〉。きっとこちらの弱い部分、六段階目ツリーを開放していないメンバーを狙って来るに違いないよ。それに向こうには【獣王】まで居るんだ」
「長い」
こちらは〈カオスアビス〉。
対戦相手が〈エデン〉だと知って、ロデンはこめかみをポリポリかき、キールがその危険性を述べるも、いつも通り話が長すぎてジェイに文句を受けていた。
第5回戦、〈カオスアビス〉は元同門である〈世界の熊〉に勝利し、準々決勝に勝ち上がって来た。〈世界の熊〉の意思を継ぎ、行けるところまで勝ち上がりたいとギルドメンバーは熱意を燃やした。
だがその燃える気持ちが「ふぅー」と一吹きで消えてしまった予感……!
もちろんそれを成したのが〈エデン〉である。みんなガクブル状態だ。
だが、そんな〈カオスアビス〉メンバーの前に出るのは、ロデン。
「みんな、我々はできる限りのことをするんだね。〈世界の熊〉のみんなに顔向けできる、最大のパフォーマンスで〈エデン〉に挑むんだね!」
「「「「おお、おおお! おおおおおお!!」」」」
さすがは長くこの〈カオスアビス〉を纏めてきた男。
この男の声にメンバーが消沈した息を吹き返す。
〈カオスアビス〉は、相手が〈エデン〉だろうとやってやる!
―――――そう、燃えていた時もあった。
◇
第一アリーナ、準々決勝、第1試合。
〈エデン〉対〈カオスアビス〉の対戦は、始まったばかりの初動から決着が付いてしまった。
「『そこですわゼフィルスさん! タイミング2、1――今です! 斬り込んでくださいまし!』」
「オーケーリーナ! 行くぜ――『天光勇者聖剣』!」
「な、勇者の伏兵だとーー!?」
「「の、のあああああああ!?」」
「まだまだーー!!」
ズドーンととんでもない音が辺りに響く。
伏兵ゼフィルスの奇襲からの突撃で〈カオスアビス〉の部隊に大きな打撃を与えたのだ。
ここ〈ドーナツクロス〉フィールドは非常にシンプル。
フィールド全体を俯瞰して見るとドーナツのような円形をベースに中央に特大の円形観客席がある作りをしている。まんまドーナツのようなフィールドだ。
その北と南にはそれぞれX型の観客席があり、その四方に巨城が合計8城建っている。
これにより、完全に東西の陣地が分け隔たれている形だ。
故に、相手の陣地を侵略した者が勝ちという、とてもシンプルなルールがこのフィールドの鍵を握っているのだ。
もちろんそんなことは百も承知どころか500くらい承知しているゼフィルス率いる〈エデン〉は、巨城よりも相手の陣地への侵略を優先した。
そして〈カオスアビス〉の部隊をどんどん倒しまくっている。今ココ。
「くっ!? どんな作戦で来るのかと思いきや、いきなり全力制圧かい!?」
「キール、なにをもたもたしている、斬り込め!」
「分かっているさ!」
「お? 来るかキール!」
ゼフィルスのいる部隊に斬り込むのはキールやジェイの部隊。
キールは確認している。ゼフィルスや他のメンバーが『即死無効』を持つ〈身代わりのペンダント〉を装備していないことを。
〈エデン〉が自分対策をしていない。
絶対に裏があるに決まっているのだが、キールにはもうやるしか残されて居なかった。
「ゼフィルスさえ倒せればーーー! 『死神のいざない』!」
「ゼフィルスさんはやらせません!」
「ラクリッテさんだと!?」
ゼフィルスを狙うキールの前に飛び出してきたのは、まさかのラクリッテ。
だが、逆に好都合だった。
キールの【死神代行】は六段階目ツリーを開放し、その〈即死〉効果をとんでもなく高めている。タンクですらレジスト出来ないほどだ。
さらには『即死無効』を〈封印〉してしまえるスキルも得ている。それがこの『死神のいざない』だ。
「む! 『カメ代わり』が〈封印〉されました!?」
『カメ代わり』、それは〈幸猫様〉の『幸運』と同じギルド設置アイテムのスキル。
効果は1日1回だけ『即死無効』だ。これを〈エデン〉の全員が所持している。
当然キールはこれを知っていた。〈エデン〉対策は、キールだってしてきたのだから。
そして『即死無効』を〈封印〉し、動揺したところを〈即死〉させていっちょ上がり、という作戦。
さすがは〈即死〉特化型職業【死神代行】。非常に高い完成度を誇っている職業だった。
だが、それは所詮、初見殺し。ゼフィルスには効かない。
「これで決めるよラクリッテさん――『死神の大鎌』!」
少し動揺しつつも盾を構えるラクリッテ。そこに振りかぶった鎌から凶悪な闇のオーラをまき散らしながらキールが接近する。
キールのユニークスキル『死神の大鎌』は強力な〈即死〉スキル。あのゼフィルスすら〈即死〉させられる気満々の一撃だ。『即死無効』を持っていなければ、確殺できるレベルの一撃。
ラクリッテが防御スキルを発動しようと貫通して〈即死〉させてくるだろう。
これでラクリッテに良いところを――じゃなくて、ラクリッテを仕留められる!
そう思っていたのだが――キールの予想は大きく外れた。
「ポン! 〈マイセット早着替え〉!」
瞬間、キールのスキルがラクリッテの盾に命中。
〈即死〉判定は―――無効化された。
「な、な!?」
「【死神代行】が『即死無効』を〈封印〉するには、最初にそのスキルを使っておく必要がある。ならば、〈封印〉されないように装備を隠しておくというのは有効な戦法だ」
「メルトだと!?」
そう、ラクリッテの後方から接近してきたメルトの言う通り。
ラクリッテがしたのは非常にシンプル。着替えアイテムである〈マイセット早着替え〉で〈身代わりのペンダント〉を装備しただけだ。
最初から〈身代わりのペンダント〉を装備していたら〈封印〉スキルで『カメ代わり』同様封じられてしまう。ならば、装備せずに隠しておけば良い。そして、必要な時に装備しなおせばいいのだ。
「ポン! 〈マイセット早着替え〉!」
「うそ!?」
役目を終えてラクリッテが再びいつものアクセ装備に戻る。
ここでキールは、ゼフィルスたちの戦法を理解したらしい。青ざめていた。
そこにトドメとばかりにメルトから杖が向けられる。
「ポン! 恐怖の半壊弱体化――『ポンコツ』!」
「『コキュートス・ゼロ・ディザスター』!」
「がっ――――!?」
ラクリッテの盾に弾かれ無防備になったところにメルトからの一撃が叩き込まれ、キールは呆気なく退場してしまう。そしてジェイも。
「キーーール!? よくもよくも――『ダークマター・ヘル・バーサクサイキッカー』!」
ジェイの使った六段階目ツリースキルは、1年生のクラス対抗戦でも使った下級ユニークスキルのまさに上位互換だ。だが、
「なんだかあの頃のことを思い出しちゃうね!」
ここにノエルまで登場し、まさに1年生のクラス対抗戦の焼き回し、あの時と同じ状況が完成した。
だが、力の差はどうやら開いていたようだ。
「『エールベストパフォーマンス』! 『コングラチュレーション』! 『音速リズム』! 『オールナイト・カルテット』! 『アルティメットテンションエール』!」
「ポン! 全てが能力を下げる業の幻――――『ファントムランド・ステージ』!」
「ぐあ!?」
ノエルがバフを掛け、ラクリッテがデバフでジェイを封じる。そして。
「これで終わりだ――『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』!」
『アルティメットテンションエール』で威力3倍になった『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』が放たれた。
「俺は負けん! いでよ――『アグア・ララ・ダークマター』!!」
ここでジェイの奥の手が発動。1年生のクラス対抗戦で出た『アグア・ララ』の完全体。ジェイの最強魔法だ!
アグアの手足だけではなく、その本体が降臨し、そこへ6つのアポカリプスが直撃する。
「倒せーー! アグア・ララーー!!」
「撃ち抜けーー! 六のアポカリプスよーー!!」
「―――!?」
ぶつかり合いに勝ったのは――メルト。
3倍の威力にラクリッテのデバフフィールドは伊達ではなく、6つのアポカリプスに『アグア・ララ』の完全体は粉砕され、術者のジェイごと退場してしまったのだった。
そして最後はロデン対ゼフィルス。
――ではなく、ロデン対〈エデン〉いっぱい!
「これは、実に厳しいんだね!」
「観念してくださいねロデン先輩!」
「たはは~、なんか揃っちゃったね」
「ここが本気の使いどころかな!」
「やべぇ、こんなに大罪職が集まるなんてよ……!」
ここに集まったのは【嫉妬】のキキョウ、【色欲】のミサト、【傲慢】のフラーミナ、【怠惰】のゼルレカだった。
「我、最大魔法で挑むんだね!! 『ベルゼブブの大暴食テーブル』!」
【暴食】の六段階目ツリー、『ベルゼブブの大暴食テーブル』は環境魔法。
料理が山積みにされたフィールドが顕現し、ドデカいベルゼブブが席に着く。
そのテーブルの上にいるものは、全てベルゼブブのご馳走だ。食べられたが最後、大量の状態異常とダメージを付与され、HPやMPを吸い取られて退場させられる、恐ろしい広範囲魔法。まさにロデンの必殺技だ。
「よし、キキョウ、やっていいぞ!」
「『羨ましいからそれ禁止』!」
「あ」
だが、そんなロデンの必殺技は、ゼフィルスの指示とキキョウのユニークスキルの前に一瞬で消え去ってしまったのだった。なんてことを……!
「ロデン先輩! 『サイボーグ・最強・フルバースト』!」
「たは! 邪魔はしちゃダメだよ! 『全反射』!」
「ロデン先輩はやらせねぇぞ! 『ターミネートダークルイン』!」
「はっ! 邪魔はさせねぇぞ! 『あなたの技は怠惰だね』! 『ライフフォース・アトミック』!」
「「ぐはぁ!?」」
ロデンを庇うためにハイウドやハーミットが飛び出してくるが、ミサトが攻撃を全反射し、ゼルレカがスキルの効力を半減させた後、『ライフフォース・アトミック』でハーミットごとぶっ飛ばす。
「本気行くよ! 『召喚盤よ。我が軍勢に入れ』! 〈溶岩大帝・ラーヴァエンプドドラゴン〉!」
最後はフラーミナが〈竜ダン〉のレアボスを召喚する。
前回の〈集え・テイマーサモナー〉戦では出す前に終わってしまったために、今回が初のお披露目になる召喚盤の大召喚。
「こいつはまずいんだね! 『蟒蛇の大飲酒』!」
「みんな下がって! 『レアボスユニークスキル解放』!」
ロデンが六段階目ツリーの大蛇を放つ。だが、〈溶岩大帝・ラーヴァエンプドドラゴン〉のユニークスキルは、全てをブレイクして飲み込むブレスだ。
「ギュアアアアアアア!」
「ぬ、ぬおおおおおおおおなんだねーーーーー!?!?」
それは蟒蛇を消し飛ばし、さらにロデンとハイウドとハーミットを飲み込んだのだった。
これが決め手になって〈カオスアビス〉が劣勢となり、最後の1人になるまで戦ったが全員が退場してしまい、試合開始17分で〈エデン〉がコールド勝ちとなった。