#1741 残り2分、決着のラストタイム!
残り時間2分00秒。
〈エデン〉も大きく動き出した。
場所は〈南東巨城〉付近、1番目、2番目、3番目の出入り口から出てきた〈エデン〉メンバーが合流し、それを〈サクセスブレーン〉が逃がさないように取り囲もうとしている場面。しかし、保護期間の張りが甘い。
なにせ、フィールドの南東側はほとんど白マスが無かったのだ。
赤マスばかりだったため、ひっくり返せる場所がそもそもほとんど無い。
故に〈エデン〉は自由にマスを移動できたのだ。
これは狙い通りだった。
「さあ行くぞ! 対人戦及び、小城マス取りの時間だ!」
「絶対に〈南東巨城〉を守り切れ! 2分守れば勝利だぞ!」
「いや待て、今勇者先輩がなんか聞き捨てならないことを言ってたぞ!?」
「巨城を取るんじゃなくて、ここで対人戦と小城マス取り??」
「散開!!」
ゼフィルスの指揮に〈エデン〉のメンバーが一気に下車。〈イブキ〉と〈ブオール〉から総勢27人のメンバーが飛び降りて、一気に広がったのだ。
そう〈エデン〉の狙いはそもそも〈南東巨城〉ではない。
いや、〈南東巨城〉を落とせば〈エデン〉の勝ちは確定だが、そもそも〈南西巨城〉をシエラたちに任せてきた時点で守り通せると思っている〈エデン〉である。
ならば、もっとSSランク戦にふさわしい盛り上がりを演出したいと思うのがゼフィルスだ。
「〈エデン〉がここで散った!?」
「え? なに? どういうこと!?」
〈サクセスブレーン〉の狙いは時間稼ぎであり、巨城を守ること。
なのに当の〈エデン〉が狙っていたはずの巨城から離れていってしまったのだから困惑するのも無理はない。だが、もちろんカイエンは見抜いている。
「! ギルマスから受信! 『本拠地を守れ』とのこと!」
「本拠地を守れーーーーー!!」
本拠地のカイエンから指示が入り、大声で周知がなされ、〈サクセスブレーン〉が瞬時に動き出す。そこに疑問や困惑は無い。カイエンが動けと言ったら動く。〈サクセスブレーン〉のメンバーはとても訓練されていた。
「もうバレちゃった! わかったら道空けよーってね! 『震えろ・大魔王様からは逃げられない』!」
「動きを止めちゃうね『タイムストップ』!」
「突破するよ――『神峰の宝刀』!」
「え、ええええ!? なにそれええ―――」
だが、分かったからといって〈エデン〉を止められるとは限らない。
シヅキが全体に〈鈍足〉を与える威圧を放つと、ルキアが1人を『タイムストップ』で一瞬硬直させ、そこをクイナダが一瞬で斬って女子を退場させる。
強制的に一時的に硬直させる『タイムストップ』は仲間と連携するととんでもなく凶悪な魔法に化けるのだ。これは〈ギルバドヨッシャー〉の協力を得てルキアが編み出した戦術、当然タイミングはバッチリだった。さらに。
「『時奪取』!」
「移動速度デバフ!?」
移動速度を奪う『時奪取』で相手の動きをゆっくりにして自分は速度を増し増し。
「〈混走〉さえ止めればーーー!」
「『ノットフリーズタイムオーバー』! いってらっしゃーい」
「え? のあああ!? 足が止まらないーーーーー!?!?」
追いついてきそうな相手にはブレーキが利かなくなる魔法でそのままどこかへ行ってもらう。
「進路確保だよ!」
ここでシヅキたちが包囲を突破し赤本拠地までの道を確保した。
赤本拠地まで、全て赤マス。保護期間は特に無く、本拠地周りしか利いていない。
「まさか、これを見越して私たちの本拠地近くのマスを取らなかったの!?」
〈エデン〉が止まらない。止めるには保護期間で通行不可にするのが手っ取り早いが、周りがほとんど赤マスで、保護期間を張れない〈サクセスブレーン〉。
だが、ここで気が付いた。〈エデン〉がなぜ初手で〈サクセスブレーン〉を南東に封じ込めようとしてきたのか。
てっきり巨城を独り占めしようという作戦かと思ったが、もう1つ狙いがあったのだ。南東側を赤マスでいっぱいにするという狙いが。
知っての通り、マスを取るときは、空きマスか相手マスしか取れない。
故に、〈エデン〉は最初に南東側に〈サクセスブレーン〉を押し込め、南東側しかマス取り出来ないようにしたのだ。そうして赤一色になった南東側は、保護期間を張れず、対人戦が成立する魔境と化してしまったのである。
「〈エデン〉赤本拠地隣接まで残り2マス!」
「だ、誰か止めろーーーー!」
「残り時間1分!」
情報が飛び交う中、〈サクセスブレーン〉は必死に赤本拠地を守ろうと立ち塞がる。
赤本拠地はしっかり〈保護期間戦法〉を使っており、隣接する8マス中7マスを保護期間にすることに成功していた。つまり、試合終了まで侵入経路は1箇所のみ。ここを突破されなければ〈サクセスブレーン〉の本拠地が落とされることは無い! 当然〈エデン〉はその残り1箇所から侵入、突破しようとしてきた。
「絶対に止めるのだ! 全員、奮起せよ! 残り1分が正念場だ! 後先考えず全てのスキルを使うのだ!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」」
すでにカイエンの言葉が直接届く距離。
〈エデン〉でここまでたどり着いたのは7人。他のメンバーは周囲の人たちが邪魔しないよう足止めなどに徹している。
そして赤本拠地から出てきたのが、これまた7人。最後の防衛部隊だ。
さすがに意表を突かれた〈サクセスブレーン〉は1分では本拠地に戻れなかった。
「行くぞ『時空斬・一閃』!」
ここで誰よりも先陣を切ったのはリカだった。
1本の刀を両手で持ち、一刀流で相手の防御をすり抜け一気に斬る。
「『岩鉄防刃』! ぐはぁぁぁぁ!?」
「防御スキルを使うな! 防御ごと切り伏せられるぞ! 攻撃スキルで相殺を狙うんだ!」
「俺が行く!」
1人が切り捨てられ、カイエンが指示し、1人の大男がリカの前に飛び込んだ。
「ゴウか! 相手に取って不足なし!」
そう、〈サクセスブレーン〉最強の男と名高い――【仙人】のゴウだった。
その時ゼフィルスがニヤリと笑う。ゴウに当てるのはリカかルルだと、初めから決めていたのだ。これは全てゼフィルスの計画通り。
「『大仙術・百雷破轟撃』!」
「『抜刀術・壊斬大一閃』!」
勝負は一瞬。お互いが発動したのは六段階目ツリーだ。
ゴウは【仙人】のスキル、『仙術』系の大技『大仙術』のラッシュ。巨大な拳の形をした大量の雷が、連撃でリカを襲わんとした。
しかし、リカの攻撃は一瞬。ブレイク系の抜刀術を発動。
2本目の刀を抜く勢いで全ての雷を斬ってしてゴウに接近したのだ。
「はああああああ! 『大仙術・精峰拳』!」
おそらく突破されるだろうと構えていたゴウが強烈な拳で迎え撃つ。しかし。
「『必殺の太刀・六閃華』!」
「――がはっ!?」
「ゴウ!」
「まさか、ここまでとは……」
勝ったのはリカ。
一気に距離を詰めたリカが相手の反撃をも粉砕する六連撃を食らわせ、ゴウを吹っ飛ばしたのだ。六段階目ツリーにして全属性攻撃を食らったゴウは吹っ飛び、赤本拠地の〈防壁〉に激突。さらにはダウンしてしまう。
〈サクセスブレーン〉最強の男がぶつかって僅か5秒でやられた事実に、さすがの〈サクセスブレーン〉も動揺が走った。そして、それは最大の隙となる。
「ここで私がターッチ!」
ルキアが防衛陣をすり抜け、赤本拠地の隣接マスを確保してしまったのだ。
その場で戦っていた〈サクセスブレーン〉のメンバーが全てマスの外へ転移してしまう。
「さあ、道を空けたぞ。ロゼッタよ!」
「では、突っ込ませていただきます!」
最後の攻撃だ。
ここで登場するのは〈ブオール〉。
ロゼッタの〈ブオール〉に乗り込んだゼフィルスたち3人のメンバーだった。
「いっけーロゼッタ! ユニークスキル発動だ!」
「はい! ――――『暴走列車・特急城壁螺激槍』!」
ロゼッタのユニークスキルがここで発動。〈ブオール〉の先頭に巨大なドリルが生まれ、高速回転しながら突っ走る。その姿はまさに暴走列車。
【天守護の騎士姫】のユニークスキルがなぜ暴走列車なのかは誰にも分からない。
【姫騎士】の上級職は全て〈乗り物〉関係のユニークスキルなのだ。
〈ダン活〉プレイヤーたちからは「絶対タンクの技じゃねぇ!?」と言わしめた、相手の防御スキルや〈防壁〉〈城〉など、防御系を破壊する螺旋の突撃だ。
空いた道を突っ走り、そのまま赤本拠地に激突せんとする。
赤本拠地の周りには当然のようにカララが造った〈防壁〉があったが、ズドンと激突。もの凄い勢いでHPを削り取り、ぶっ壊した。ついに〈エデン〉が侵入を果たす。残り30秒。
だが、その前に1人の男が立ちはだかった。
――カイエンだ。
「侵入者を全て撃破する! 『電脳機械・侵入者排除警備波動』!」
それは【ブレイン】のユニークスキル。
本拠地から巨大なドーム状の装置が現れると、それが開き、中から巨大なビーム砲が出てきた。それを寸分違わずロゼッタの〈ブオール〉に向けると、発射する。
【ブレイン】のユニークスキルは、意外にも攻撃スキル。本拠地設置型、中に入ってきた侵入者を一撃で蒸発させる高威力のビーム砲だ。
だが、〈エデン〉にはゼフィルスが居た。
「『英勇転移』!」
いつの間にか下車していたゼフィルスが転移する、もちろんそこはカイエンのユニークスキルの前だ。そして。
「発射!!」
「『完全勇者』!」
ユニークスキル同士がぶつかり合った。
片や超強力なビーム砲、片や無敵スキル。
ビーム砲は、完全にゼフィルスに受け止められてしまったのだ。そして。
「『勇者の剣』!」
「な……!」
ズバンっと一閃。追加と言わんばかりに強力なビーム砲は、ゼフィルスのユニークスキルにぶった切られて消滅してしまったのだった。
「そこを通らせていただきましょう――『闘神拳』!」
ズドン!
「ぐはあああああああ!?!?!?」
「「「「「カイエンせんぱーーーーーーい!!」」」」」
ユニークスキル後の硬直状態だったカイエンはセレスタンが一撃でぶっ飛ばしてしまった。今、会場中の人たちがカイエンの名を叫んだ。
最大の障害を取り除いた〈エデン〉はさらに侵攻、ロゼッタの螺旋暴走列車を赤本拠地に激突させた。
「私たちも行くっすーーー! 『ドワーフ大噴火』! 『破壊王の鉄槌』!」
「参りましょう。『こんなこともあろうかと』! ――『突貫』です!」
ズドドドドーーーーーン!
〈ブオール〉から降りたナキキも参戦。追いついたセレスタンは即そんな事があってたまるかを起動して換装。『突貫』する。
これにより、赤本拠地のHPはほとんど一瞬のうちにゼロになってしまったのだった。
これにて巨城の数が変動。
全ての巨城が白のものとなった。
ほとんど同時刻、〈南西巨城〉周辺では。
「クラス対抗戦の雪辱を今、果たすー! ――『対人忍法・お命頂戴いたします』!」
「「『対人忍法・お命頂戴いたします』!」」
「無駄よ――『カウンター・レイ・ストリーム』!」
「「「ぶはあああああああああああああ!?!?!?」」」
「カウンター決めちゃった!? しかも3人同時に!?」
「残りは私たちがやらないと、全部シエラさんに持っていかれますよトモヨさん」
「よーしフィナちゃん、ここは秘技〈天使サンドラッシュ〉でいくよーー!!」
「今よラナ殿下。射線は通ったわよね」
シエラが忍者3人衆にカウンターを決めて吹っ飛ばし、巨城の影から追い出すと、本拠地からの射線が通る。
「シャロンチェンジよ!」
「はいはい~」
「『大聖光の無限宝剣』!」
「「「……え?」」」
吹っ飛んだ忍者たちが見たのは、白本拠地から飛んでくる無数の光の宝剣だった。
〈白の玉座〉を装備したラナの無限宝剣だ。
そう、白本拠地からは巨城回復魔法だけじゃなく、宝剣も飛んでくるのである。
忍者たちは、カウンターをまともに喰らった衝撃でダウン中。
「「「あ」」」
宝剣はそのまま――忍者たち3人を飲み込んでしまったのだった。
ほぼ同時に赤本拠地が落ちたことを知らせるメッセージが巨大スクリーンに流れる。
……そのまま時間は0分00秒となり試合終了。
〈白エデン:9城〉〈赤サクセスブレーン:0城〉
第1回戦、第1試合〈エデン〉対〈サクセスブレーン〉戦は。
―――〈エデン〉の勝ち。




