#1739 マシロと黒猫、隠密最強のナギを追い詰めろ!
「良いですわ! 第二の塔の内側の小城を取り尽くすのです! 相手の進路を妨害するのも忘れないように! 対人戦も積極的に仕掛けるのですわ!」
「第二の塔の内側の小城を取り尽くされるな! 取り返すのだ! 対人戦だけは回避しろ! 絶対に対峙するな!」
リーナとカイエンの指揮が白熱する。
現在巨城は〈白7城〉〈赤2城〉を獲得し、初動から中盤に入ったところ。
小城マス取りだ。
そして小城マス取りでも〈エデン〉は優勢。
〈エデン〉は中盤戦も見越しており、初動で重要なマスを確保。〈サクセスブレーン〉が第二の塔の内部に入ったり、北上するのを上手く阻止して南東に封じ込めることに成功していた。
『カ、カイエン先輩、北上できません! 保護期間で止められます!』
『塔の内部も足止めされて上手くマス取りができません! どんどん点を離されています!』
『こちら忍者3人衆! 至る所で対人戦を仕掛けられている! なんとか回避しているが――』
『キツいニン!』
カイエンのところにはどんどん報告が飛び込んで来る。
音声入力で送られてくるメッセージの連絡はカイエンの職業によってすぐさま解析され、多数の報告を一度に読み解くことを可能にしていた。
「慌てるな! 今は自分にできることに集中せよ! 重要なのは北側だ! C班とD班は周囲のマスを取りつつ北側へ道を敷くことを続けよ! ただし対人戦だけはなんとしても避けろ! 罠の類いに注意を巡らせるのだ! 『送信』!」
だが、赤本拠地に居るカイエンは慌てない。もちろん見た目だけは。
心の中の大慌ては見事に封じ込め、見た目だけは冷静に対処していた。
「(ひええええ!?!? 負けるー! やられちゃうよ!? だけどなんとか一矢報いないと……! 良いところを見せないと……! えっと北側が重要だから、忍者3人衆にはナギと合流してもらって、フォルノにはこことここにトラップを仕掛けてもらう。取るマスも気をつけなくちゃ、相手に気取られないように慎重に)」
カイエンは諦めない。
〈エデン〉のいつもの必勝パターンが決まりつつあり、白本拠地を落とせない〈サクセスブレーン〉では負けが決まったようなものだが、カイエンは良いとこ見せたい系男子なのだ。みんなの期待に応えたい――否、応えなくちゃいけないプレッシャーがカイエンを諦めさせない。
「よしここだ! 『音声入力』! 今だナギ! プランTを発動する! 『送信』!」
『アイサー!』
カイエンの指示にナギもいつもの言葉で了解の意思を返してくる。
残り時間27分、ここで〈サクセスブレーン〉側が仕掛けた。
北の近くで隠れ潜みながらひっそりとマス取りをしていたが、ようやく北側への道が開けたため巨城に攻撃を開始したのだ。
ナギは【レジェンドレイヴン】。隠れることに特化している職業持ちだ。
隠密系では最強格となる。ハイド系が強すぎて探知感知系では位置を掴めないためなんとリーナの【姫総帥】の目すら誤魔化すことが可能だ。
「出番ですよ忍者のみなさん――『暗部の暗躍』! 『サイレントワーク』!」
「張り切りますぞ! ナギさん見張りをお願いします!」
「がんばります!」
「巨城を削るニン!」
ナギの側には3人のメンバー、忍者3人衆であるコブロウ、クロイ、ローザスの姿があった。場所は〈北東巨城〉の北側隣接。
ほとんど最北端であり、南側からだと巨城の真裏に居るため目視での発見も難しい位置だ。さらにはナギの隠密スキルで隠れているため、まず見つからない。
ここからこっそり巨城のHPを削るのだ。
現在北側にある〈北西巨城〉〈北巨城〉〈北東巨城〉は全て〈エデン〉のもの。
その周囲の小城マスもほぼ〈エデン〉が獲得していた。
開始から13分で、北側のほとんどを制圧されてしまった形である。
マジ〈エデン〉側優秀。
なんとか〈サクセスブレーン〉も北側に侵入を試みようとしたが、〈エデン〉からの圧力や妨害、プレッシャーが大きく、踏み込めなかった。
しかし、確保しきればもう用無しだ。だって空き小城マスがもうないんだもん。
ようやく〈エデン〉が引いていったタイミングでナギたちが北上して、こっそり小城を削っていっているのだ。
また、他の部隊も北側のマスを少しずつひっくり返してナギたちの行動がバレないよう攪乱してくれている。
特に【トレジャーミミック】のフォルノが優秀で、罠の腕は〈サクセスブレーン〉で1番。
罠は良い。相手に接触せずに何らかのダメージを与えられる優秀な技能だ。
〈エデン〉に接触せずにダメージを与えられる? なにそれ採用!!(即決)
カイエンはフォルノを起点にして注目を集め、ナギに目がいかないよう工作中だ。
「よし、残り1割を切ったね。そこでやめ! 次〈北巨城〉へ行くよ。隣接はもうあるから小城マスは取らなくて良いから」
「「「ニン!」」」
忍者3人衆が協力して巨城を削り、ついに〈北東巨城〉のHPが1割以下まで減る。
〈エデン〉にバレてはいない。『暗部の暗躍』で姿を消し、『サイレントワーク』で音まで消して攻撃していたからだ。
この調子で忍者3人衆とナギは〈北巨城〉、〈北西巨城〉を削っていった。
もうお察しかもしれないが、これは〈巨城ちょい残し〉戦法だ。
巨城のHPを一気に全て削るのは厳しいが、残り僅かならば簡単に落とせる。
この戦法の利点は――巨城を落とすタイミングを計る事が出来る点だ。
落とした直後の巨城はHPが復活するまでの2分間、保護期間が貼られ攻撃不可となる。
つまり試合の残り時間が2分の段階で巨城を落とせば、試合終了まで再び落とすことができなくなる。
カイエンは白本拠地を落とすのは無理だと早々に判断していた。
じゃあどうやってポイントを稼ぐのか? それがこれだ。
〈巨城ちょい残し〉戦法で残り時間2分の段階で全ての巨城を手に入れる。
ポイント的にはこれで逆転が可能だ。
すでに〈エデン〉が小城で200以上〈サクセスブレーン〉に差を付けている状況。
〈サクセスブレーン〉が勝つには文字通り9城全ての巨城を持っている状態でタイムアップを迎えなければならない。
ここが腕の見せ所だ。
対人戦でも〈サクセスブレーン〉は〈エデン〉に敵わないため、大きな動きのない盛り上がりに欠ける試合にはなってしまうが、勝てば良いのだ。否、ギルドメンバーの期待に応えられればいいのだ。〈エデン〉に一矢報いることができればカイエンは満足して卒業を迎えられるだろう。
むしろ一矢報いて「〈エデン〉にあそこまで善戦できるカイエン先輩すげぇ!」と思われたまま1回戦で敗退した方がいいのでは? そう思い始めているのは秘密だ。
だが、もちろん〈エデン〉が、というかリーナが何も手を打たないわけが無い。
「ニャー」
「クミンちゃん、ここですか?」
「へ?」
北側の3巨城が終わり、今度は魔の〈西巨城〉。最初にゼフィルスと忍者3人衆が取り合った、あの〈中央巨城〉の西側にある巨城である。
ナギたちはまたもこっそりと移動して、北側から巨城を削っていたときのことだ。
いつの間にか全身真っ黒の黒猫と、その上空を飛ぶ白猫装備のマシロがナギの側にいたのである。
ナギ、一瞬の思考停止。
今のナギは【レジェンドレイヴン】の能力をフルに使った隠密中。
しかし、黒猫はバッチリとナギに視線を向けていたのである。明らかに見つかっている。そしてマシロ。マシロには今ナギの姿は、見えていなかった。しかし、この黒猫とマシロこそ、カイエンが最も警戒しろと言っていた存在の1つだった。
「『シークレットアウト』! あ、見つけました!」
そう、このマシロはゼフィルスがナギ対策にメンバーに加えた1人なのだ。
マシロは立派に役目を果たし、見事にナギを見つけ出した。
「やば! 見つかったよ! ――コブロウ!」
「フシャー!」
慌てて声を上げるナギ。しかし、黒猫との距離が近すぎた。
黒猫はもちろんカルアのエージェント猫、最初の1体であるクミンだったのだ。
クミンは目をキランとさせるとフシャーっと超速でナギに躍りかかる。
そしてナギ対クミン&マシロのバトルが始まった。
「いっ!? きゃ!? ちょ、なにこの猫、強っ!?」
「私もいきます! 『フォトンノヴァ』!」
「きゃー!? あなたヒーラーでしょ!?」
ナギは一方的にボコボコにされた。
だってクミンは『上位エージェント・開放』と『エージェントアサシン』のスキル効果で単体でもかなり強い召喚獣なのだ。加えてラナの薫陶を受け継ぐヒーラーのマシロである。そりゃもう強いよ。支援職で立ち向かえるわけがないのだ。
「ナギさん! 『忍法・大影手裏剣斬り』!」
「ニャ!」
「わわわ!?」
ここでコブロウが間に合い、なんとかクミン&マシロとナギを引き離すことに成功する。
しかし、ここでナギの『危機感知』が警報を鳴らす。
「この感じ、新手がくる! 逃げるよ!」
「ん、見つけた」
「! カルアさんに、シズさん、パメラさん!?」
「ご名答です」
「お縄につくのデース!」
ここで〈エデン〉の頼れる斥候組、カルア、シズ、パメラが合流。
カルアの足下には黒猫の2体目、シナモンがゴロニャンしていた。
「作戦A!」
すぐにナギが声を張る。
「プラン」ではなく「作戦」。作戦Aとは不意の相手との交戦の時、ユニークスキルを使ってでも逃げ延びろというものだ。
忍者3人衆がそれを聞いてユニークスキルを一斉発動する。
「『究極忍法・影海縛りの大術』!」
「『究極忍法・分身神速の術』!
「『究極忍法・英雄忍者召喚の術』!」
「『究極忍法・多重分身の術』デース!」
これに反応してパメラもユニークスキルを発動。
大量のパメラ分身が来た。
同時にコブロウが発動した影の海が足下を全て黒くし、5体の分身を得たクロイが神速の駆け足で――逃げに入り、ローザスの英雄忍者が1体、殿に残った。
「いっくデース!」
「「「「「ぶっ壊すデース!」」」」」
「あの1体は私がやりましょう。『冥土への片道切符・冥王球』!」
「ん。影は飛び越えれば良し。『スターソニック・レインエッジ』!」
パメラの分身たちが影の海をものともせずに追撃を放ちまくり、シズはユニークスキルで英雄忍者とやらを狙い撃った。
『冥土への片道切符・冥王球』は究極のブレイク系。
その効果は〈ユニークスキルでも破壊する〉である。加えてもし人に命中すればかなりの高確率で〈即死〉が発動。
しかも『状態貫通』効果付きというエグい性能をしている。『即死耐性』では貫通してしまうのだ!
放たれた1発の銃弾は暗黒色の球体、英雄忍者とやらに命中。そのままパーンと弾けてしまったのだった。
「ば、バカな!?」
まあそうだよね。語尾のニンを忘れるほどの衝撃だったようだ。
そしてカルアは足装備〈爆速飛行スターブーツ〉のおかげで空中をソニック系で突っ走り。
「ナギ、覚悟」
「ひえ! ユニークスキル――『レジェンドハイド・レイヴンミラージュ』!」
「ん!?」
カルアに追いつかれそうな瞬間、ナギも最強の隠密ユニークスキルを発動。
瞬間、カルアの目の前からナギが消えたのだ。
これはハイドとインビジブルの両方に特化したスキル。
たとえ目の前に居ても消えてしまい、目視でも耳でも触覚でも見失うという究極の隠密スキルだ。1分20秒ほど消えることが出来る。
だが、見えないだけでそこに居るのは変わらない。
「『カルアさん、ナギさんはまだいらっしゃいますわ! 範囲攻撃です!』」
ここでリーナから『ギルドコネクト』の指示が届く。
厄介なナギはリーナの元同級生。警戒していないはずもなく、リーナも〈竜の箱庭〉からずっと見ていたのだ。
「カルア先輩、2時の方角です!」
さらに空飛ぶマシロから『シークレットアウト』で見破った報告がなされる。
カルアと3体目の黒猫、ナツメの目がキラリと光った。
「おけ――『エージェント・レイド・クロネコ』!」
「! ~~~~~~~!?!?!?」
ここで猫津波発生。
カルアを中心として2時の方向に溢れた猫たちは、無事に隠れていたナギを捉えたのだ。
なにかを叫んで居たっぽいナギだったが、猫津波には抗えず、そのまま退場してしまったのだった。
〈サクセスブレーン〉から初の退場者現る。




