#1738 〈エデン〉が〈救済巨城〉まで狙ってくるよー
『カ、カイエン先輩!? どうしよう!? 〈東巨城〉が狙われちゃってるよ!』
『こちらD班! 北側への進路でゼフィルス氏とカルア氏にぬ、抜かされましたー!? このままでは北側が!?』
『〈エデン〉のツーマンセルが東2番目の出入り口から東側に侵入!? おそらく〈南東巨城〉を狙ってます!!』
『カイエン先輩指示を!!』
試合開始から僅かな時間で至る所から緊急連絡が届きまくる。
ここは司令部、赤本拠地にしてカイエンが詰める場所。
そこにはいつの間にか〈竜の箱庭〉が置かれ、その前でカイエンが指示を出していた。
「(やばいやばいやばい!? なにこの戦法!? 想定を遥かに上回ってるっていうか、むしろそこまでするのってくらい無茶苦茶な戦法なんだけど!? しかもそれが戦法として成立してる!?)」
カイエンは内心おののいていた。
〈サクセスブレーン〉が汗水流してようやく手に入れた〈竜の箱庭〉には、現在カイエンの六段階目ツリー『フルマッピング』で地図が映し出されていたのだが、そこに映る映像が衝撃的過ぎたのだ。
〈エデン〉の戦法はかなり研究してきたカイエン。
警戒していたのは〈世界の熊〉戦で見せた〈救済東西ぶった切り〉戦法だ。
それはフィールドをぶった切るように横断し、相手の行動を制限、本拠地周辺に押し込める非常に画期的な戦法だった。これのせいで〈世界の熊〉は試合開始10分でギブアップした。
今回の〈バベルの塔〉フィールドは、あの時の〈ハート〉フィールドと似ている。〈ハート〉フィールドは北側に両本拠地があり、巨城が南の方へ続いていた。
〈バベルの塔〉はその反対で、南側に両本拠地があり、巨城が北の方へ続いている。
故に、似た戦法を仕掛けてくることは容易に想像出来ていた。
だからこそ〈中央巨城〉へ向かう忍者3人衆の他に、ほとんど真っ直ぐ北へ向かう別部隊を用意し、ぶった切られないよう北側の巨城への道を確保せんとしていたのだが。
速度で完全に〈エデン〉に先を行かれ、北側の巨城への道が途絶えようとしていた。
え? なにこの力業?
カイエンの最初の狙いは〈中央巨城〉〈南巨城〉〈北東巨城〉〈東巨城〉〈南東巨城〉の5箇所。
この中で最も難易度が高いのが〈中央巨城〉で、その次が〈南巨城〉だ。
なにせ、〈エデン〉と壮絶な取り合いになることが予想されていた。
そのため〈中央巨城〉には最速の忍者3人衆を行かせた。東側の隣接からならば取れる可能性は十分にあったからだ。
しかし、結果は惨敗。まさかあそこで〈ロードローラー戦法〉に切り替えるとか「4人同速の〈スタダロード戦法〉なんて初めて見たわ!」という心境だった。
続いて〈南巨城〉。
こちらは無事隣接の確保に成功していた。予想通り〈エデン〉のメンバーであるクイナダとゼルレカのツーマンセルが回り込んできていてマジギリギリだったが隣接に成功。
問題は東側にある〈北東巨城〉〈東巨城〉〈南東巨城〉だ。
ここは〈エデン〉にとって敵地。とはいえ〈救済東西ぶった切り〉戦法を使う〈エデン〉である。〈北東巨城〉と〈東巨城〉くらいは隣接を取られる可能性は考えていた。
だが、蓋を開ければとんでもない。
〈エデン〉の狙いは最初から全巨城だったのだ!
「(というか、なんで〈南東巨城〉まで狙ってきてるの!? そこ赤本拠地から6マスで隣接が取れる位置にあるんだよ!? 白本拠地からだと第2の塔を抜けてこなくちゃいけないからまず無理。2番目の出入り口を使っても36マスも掛かるのに仕掛けてくるって異常過ぎる!?)」
〈北東巨城〉なら分かる。
〈中央巨城〉も分かる。
でも赤チームの〈救済巨城〉でもある〈南東巨城〉まで狙ってきているのが分からない。
1番目の出入り口は〈南巨城〉を取るために使っているため逆侵入は不可能だ。
だからって2番目の出入り口を使って回り込んで来るとか、カイエンにはまったく無い発想だった。「普通諦めるでしょ」という感覚だ。
「(! だから〈エデン〉は2番目の出入り口を使わないのか! そこを突破されそうな時は保護期間で道を塞ぐために!)」
〈バベルの塔〉フィールドは第2の塔に出入りするための出入り口がいくつもある。
自分たちが侵入するためでもあるが、相手が通って攻めてくる場合もある。
それを防ぐのもプレイヤーの腕の見せ所なのだ。
そして、今カイエンが注目している、南から2番目にある出入り口は、初動では盲点になりやすい。
1番目の出入り口付近は〈南西巨城〉〈南巨城〉〈南東巨城〉があるし。
3番目の出入り口付近は〈西巨城〉〈中央巨城〉〈東巨城〉があるため警戒度は高いのだが、故にその間にある2番目からスルッと抜けられると不意を撃たれることが多々あった。
ゼフィルスはそれを使い、まさかの〈救済巨城〉狙いをしてきたのである。
「(しかもこれは!? 何この〈クマライダー・バワー〉!? 天使の翼が生えてるんだけど!? 改造版? いや、新しい乗り物かもしれない。空飛んでるし! ツーマンセルを追う形でクマ天使の〈乗り物〉が接近しているってことは、ここの狙いは〈城特効〉による早期陥落だ! ヤバいヤバい! ここが一番ヤバい!!)」
〈南東巨城〉に向かうツーマンセルはパメラとクラリス。しかし、その背後には大きな白クマ(天使の翼付き)が飛行しながら追走していた。
ミジュの新しい〈乗り物〉、〈クマエンジェル・バワード〉のミジュクマ号だ。
そこに乗るのは仲の良いナキキ。〈城特効〉を持ち、〈南東巨城〉を速攻で落とす布陣だった。このまま〈南東巨城〉の隣接が取られれば数十秒と持つまい。
〈南東巨城〉はとてつもない危機が迫っていた。
それだけではない、〈東巨城〉もやっかいだった。
ここにはまさかのレグラム、オリヒメのツーマンセルが隣接を確保していた。
あの4人2組の〈スタダロード戦法〉はここで別れ、ゼフィルス、カルアは北側の巨城の確保に向かい、レグラム、オリヒメが〈東巨城〉の隣接確保に向かい、これを成功させたのである。これで〈南巨城〉や〈東巨城〉も先取できるか分からなくなった。
つまりは全巨城が危ない!
カイエンは秒もしないうちに状況を把握して灰色の脳細胞をぎゅるぎゅるんと回し優先順位を付けて連絡を送る。
「『音声入力』! A班はすぐに戻って〈南東巨城〉の攻略を開始! 絶対に相手に取らせるな! 全力確保だ! B班は〈南巨城〉の攻略に入れ、3分30秒で一斉攻撃! C班〈東巨城〉は絶対に確保しろ! 3分45秒で一斉攻撃だ! 〈エデン〉の後続が来る前に全力で落とし切れ! 『送信』!」
結果として〈サクセスブレーン〉が隣接を取れたのはこの3城だけだった。
こうなったら絶対にこの3城だけは確保したい。
〈サクセスブレーン〉は各10人体制で巨城の確保に入った。
特に〈南東巨城〉を渡すのはアウトだ。そこから赤本拠地まで6マスで隣接できてしまう。絶対に〈南東巨城〉だけは確保しなければならなかった。
『音声入力』スキルで即で通信機器に入力し、『送信』で各班へ指示を伝達する。
〈サクセスブレーン〉には奥の手があった。
そう、〈エデン〉が使っている戦法、〈ジャストタイムアタック〉が使えるようになっていたのだ。
上手くいけば試合開始から3分30秒で〈南巨城〉が、3分45秒で〈東巨城〉がゲットできるだろう。
そして、吉報が届く。
『A班だ。〈南東巨城〉の確保に成功!』
「よくやった!(うおおおおお! マジよくやった! 本当によくやった!)」
一番取られたくなかった〈南東巨城〉だったが、ギリギリでナキキが城特効を打ち込む前に確保することに成功したのだ。本当にギリギリ首の皮一枚繋がったと言って良かった。
なんとか進路上の保護期間マスを確保出来、ミジュたちを迂回させることが出来たのが功を奏した。それを成したゴウにはあとで何か報いようと心に決めるカイエン。
これにより〈サクセスブレーン〉が最初の巨城ポイントを確保する。
だが、ここで〈中央巨城〉と〈西巨城〉が〈エデン〉に落とされて逆転。
そして時間は3分30秒になろうとしていた。しかし、
もうすぐ時間という3分22秒で〈南巨城〉が白チームのものになってしまう。
「がふっ!?」
こういうこともある。
巨城の取り合い、〈ジャストタイムアタック〉の一斉攻撃時間は〈エデン〉に一日の長があった模様だ。
ここにはセレスタンが居たので仕方ない。
だが、〈東巨城〉はなんとか〈サクセスブレーン〉が確保することに成功する。
「よ、よくやった!」
だが、〈サクセスブレーン〉が確保出来たのはそこまでだった。
『こちらD班! 北側にある3城、全て〈エデン〉に取られました!!』
「…………」
がんばってゼフィルスとカルアを追いかけていたD班だったが、結局道をぶった切られてしまって進めなくなり、なすすべもなく北側の3城〈北西巨城〉〈北巨城〉〈北東巨城〉が〈エデン〉の手に渡ってしまったのだ。
そして最後まで残った〈南西巨城〉は白チームの〈救済巨城〉なのでこれも白チームが確保。
初動は〈白チーム:7城〉、〈赤チーム:2城〉で決着したのだった。
「これ、やっぱり無理じゃない?」
お腹を撫でながらぼそりと呟いたカイエンの言葉は、誰の耳に入ることなく空気に消えていったのだった。




