#1736 忍者3人衆の前を、ゼフィルスが抜けていく。
この〈バベルの塔〉フィールドは、俯瞰して見たときフィールド自体がまるで北へ延びる塔のように見えることから名付けられている。
そして、フィールド内の観客席もまた、俯瞰したときに塔のように見える配置となっている。
南側から北側まで、まるで服の縫い目のように点々と観客席が配置されているのだ。これが2つ、南側では2つの間隔は広く、北側では狭くなっていて、塔のフィールド内に塔がある、という見た目になっている。
この2つ目の塔、その内側には〈南巨城〉〈中央巨城〉〈北巨城〉があるため、塔に侵入し、塔の中にあるお宝を取り合うという展開が面白いのだ。
故に、基本的に塔の内部でぶつかり合いは起こるし、塔の内部ではなにが起こるか分からない、非常に警戒しなければならない、そんなダンジョンにも通じる面白さがあるのが、このフィールドである。
ではどう攻略していくか?
この塔の観客席と保護期間を上手く使って相手の行く手を阻むのがコツとなる。
巨城メインで取り合いをするんじゃない。塔の内部を上手く使って相手の行く手を阻み、自分たちは悠々とお宝を掴んでいくのがここの攻略法だ。
そう、俺たちは今回初動で狙うのは巨城じゃない。
――〈サクセスブレーン〉の妨害だ。
試合開始のブザーと共に俺たちは飛び出した。
「『時兎タイムブースト』!」
飛び出す直前、ルキアの〈六ツリ〉、移動速度と素早さを大上昇させるスキルで同じマスにいる全ギルドメンバーを強化。
各人が本拠地の北東方面へ一斉に飛び出す。
「行くぞダンディ君!」
「ヒヒーン!」
そして今回、元アイギスの愛馬にして現在はレグラムの愛馬となっている馬、ダンディ君にも来てもらっている。
レグラムとオリヒメさんをその背に乗せ、トップを走る俺とカルアのツーマンセルに並走する形で着いてきていた。その姿は、シルバー色の手綱や鞍、鎧など豪華な装飾が装備され、ダンディ君の能力を相当パワーアップさせていた。そこに跨がるレグラムとオリヒメさんがいつもよりも煌めいて見える。
「よし、出だしは成功だ!」
「ん!」
俺は今回もAGIのフル装備。例の〈天下一パイレーツ〉戦の初動で使ったのと同じ装備を着込み、カルアの速度に付いていけるほどの速度を得ている。
そして〈馬〉に乗ったレグラムとオリヒメさんが並走。
レグラムはそこまでAGIが高い訳ではない。しかしそのパッシブスキル『横に並ぶ二人LV10』によって、共に行動するメンバーの速度と同じ移動速度を得ることができる。レグラムはこれをオリヒメさん――ではなくカルアに使っているのだ。
故にレグラムもカルアの速度に追いつけているわけである。
ニコニコ顔のオリヒメさんに妙な迫力があるんだぜ。腕がレグラムの腰をがっしり掴んで離さないところとか。
まあ、気のせいということにしておこう。
さらにはスキル『二人騎乗』によって〈馬〉のダンディ君にオリヒメさんを乗せることができ、こうしてトップを走るのは俺、カルア、レグラム、オリヒメさんという4人の図式が完成。
これが〈エデン〉が誇る新戦法。
カルアの速度で4人2組のツーマンセルが走る〈スタダロード戦法〉だ!
同じルートしか走れないが、4人である。これがどういうことか分かるだろうか?
「ここで進路を北東に変更! いよいよ塔の内部に入るぞ! 3マス進んで真東に進路を変更し、相手の進路を止めてやるぞ!」
「「「おお!」」」
俺たちは本拠地から北東へ真っ直ぐ10マス進み、観客席の2マス西という中途半端なところで進路を真北に変更。5マス進んだところで進路を再び北東へ変え、ついに2つ目の塔の内側に侵入せんとする。
塔の内側へ侵入するには観客席と観客席の切れ目から入る、切れ目は何カ所かあり、俺たちは南から3番目の切れ目から侵入した。
観客席と観客席の間は幅が2マス、そのうち1マスだけを使い、一気に真東に進路を変えて突っ切り始めた俺たち4人。
この3番目の切れ目から塔の内部に侵入すると、一番近いのは〈中央巨城〉となる。
〈中央巨城〉はフィールドのど真ん中にあり、いわゆる天王山と呼ばれているフィールドの重要な場所だ。
だが、俺たちはここをスルー。さらに東へと進まんとする。しかし。
「『ゼフィルスさん、〈サクセスブレーン〉はルートDを使っていますわ!』」
ここでリーナの通信が届いた。
「やはり〈サクセスブレーン〉はルートDを使ったか。さすがの分析力だな!」
ここで同じく〈中央巨城〉を狙う〈サクセスブレーン〉の部隊を発見する。
〈中央巨城〉を狙うルートはいくつかあるが、その中でも2番目に安全な、2番目の切れ目から塔の内側に入り、観客席沿いに北上してくるルートで来ていた。
〈中央巨城〉を狙うのであれば、非常に手堅い手だ。さすがはカイエン先輩。よく研究している。
移動速度勝負をした場合、相手は観客席沿いを北上しているためかなり遠い。
その進路を塞ごうとした場合、遠すぎて間に合わない可能性が増すのだ。
〈天下一パイレーツ〉戦の初動での〈北巨城〉の取り合いを覚えているだろうか?
あの時は〈天下一パイレーツ〉のツーマンセルが〈北巨城〉の真南まで寄ってきてくれたため、簡単に進路を塞ぐことができたのだ。あれが俺たちよりかなり離れた所から北上していたらきっと間に合わなかっただろう。
おそらくカイエン先輩はその時の研究を活かしてきている。
〈中央巨城〉の取り合いで、もし〈中央巨城〉の真南から北上して取ろうとすれば、俺たちはこのまま東へ突っ切って進路を塞ぐことができる。
相手はどうやら例の忍者3人衆。しかし、カルアよりは遅い。こっちの方が速いのだ。
だが、このまま俺たちが東に向かっても、おそらくは間に合わない。
俺たちが進路を塞ぐ前に相手の方が速く北へと突き抜けてしまうだろう。
ならば〈中央巨城〉の周りを囲い、相手を侵入できなくさせてはどうか?
これも本来ならば難しい。ここから〈中央巨城〉へ向かうとなると北東に進路を変更しなくてはならないが、そうなると斜めにマスを取らないといけない。そして斜めのマスは隙間が発生し、そこを突かれると突き抜けられてしまう。斜めに取得すると進路を塞ぐことができないのだ。本来なら。
だが、ここで4人2組という〈スタダロード戦法〉が活きる。
「プランC、〈ロードローラー戦法〉いくぞ! レグラムたちは2マス、俺たちは3マス進んだ後、斜め北東方向に進路を変更だ!」
「ん?」
「カルアは俺の指示に従えば良し!」
「ラジャ!」
「レグラムたちはその後作戦の通りに進んでくれ!」
「任せるがいい!」
「ゼフィルスさん、カルアさんもご武運を」
そう、4人ということは2組に分かれて〈ロードローラー戦法〉に切り替えることが可能だ。ルートDならこっちはプランCで対抗する。
俺たちは〈中央巨城〉のほぼ真南(図Xー31)で進路を北東に切り替える。
「カルア、レグラム、オリヒメさん――ブロック行くぞ!」
「ん! 『神速』!」
「「「なに!?」」」
忍者3人衆は進路を北西に変更、あと少し、あと1マスで〈中央巨城〉の隣接が取れるというところで〈サクセスブレーン〉の前に〈エデン〉メンバーが現れる。
〈ロードローラー戦法〉は1マスずらして2組以上のツーマンセルが2マスずつ取得しながら進む戦法。
これにより、俺とカルア、レグラムとオリヒメさんのツーマンセルが斜めに取得したことで、相手は突破することはできなくなる。
「オリヒメ、しっかり掴まっていろ!」
「はいレグラム様! 一生懸命抱きつきます!」
「――行くぞダンディ君! ここからは分かれて進む! 『疾風迅雷』!」
「カルアは1人斬ってしまえ!」
「『256ジ・エンド』!」
「なニン!? 『忍法・身代わり』!」
しかも、うち1人をカルアは切り捨てていったのだ。
しかし、〈サクセスブレーン〉の忍者3人衆は優秀だった。
斬られた忍者は咄嗟に回避スキルで逃げ延びていたようだ。やるな。
だが、残念ながら今の回避は致命的だった。
俺とカルアは完全に相手の行動を止め、どんどん北東に抜けていったのだ。
「行くぜカルア、俺たちはこのまま北だ!」
「ん!」
「ぐあ! 弾かれた!? 保護期間が張られたのか!?」
「勇者が北へ向かってます!」
「ここで北に向かうニン!? 〈中央巨城〉は完全に無視ですニン!?」
そう、俺たちは〈中央巨城〉を取らない。そのまま突き抜けていくのだ!
だが、突き抜けたことでマスの線が敷かれることになる。
「な! 進路が!」
「あ、塞がれました!?」
「げっ!? ヤバいですニン! このままじゃ〈東巨城〉まで危ないですニン!」
レグラムとオリヒメさんとは途中合流するも、すぐにお別れ。
俺たちは真北へ、レグラムとオリヒメさんは東へ向かい〈東巨城〉の隣接確保に成功する。
当然忍者3人衆はそんな俺たちの通った保護期間に囲まれてしまい、北にも西にも東にも行けなくなり、立ち往生した。




