#1735 〈サクセスブレーン〉鼓舞!〈中央巨城〉戦!
「全員傾聴せよ!」
こちら〈サクセスブレーン〉の転移した赤本拠地。
そこでは、ギルドマスターのカイエンが早速全員に向かって傾聴を呼びかけていた。
その言葉だけでカイエンの話を1つも聞き逃さないと言わんばかりにみんな静かになる。
「時間も僅かだ、すぐに最終確認を行なう! ナギ、地図を」
「アイサー!」
カイエンが指示を出せば、待ってましたと言わんばかりにナギがいくつか持ってきていた紙から1つを取り出し、バサッと大きく広げる。
それは奇しくもゼフィルスが持ち込んだ巨大地図とほとんど同じもの、ここ〈バベルの塔〉フィールドの地図だった。地図には戦法の詳細などがびっしりと書き込まれている。
フィールドは試合直前にランダムに決まる。
故に事前にどこのフィールドになるかは分からない。ならば、全てのフィールドを予習してくれば良いのである。
〈サクセスブレーン〉も〈エデン〉と同じく、全部のフィールドの戦法を考え、そして全員で共有していたのだ。
この巨大地図はそれを今一度思い出すために使う。
「〈エデン〉はこのルートで北側に向かうと推測される。その間、本拠地の防衛部隊がかなり減るだろう。本来ならば本拠地を攻撃する場面だ。しかし〈エデン〉の防衛部隊は精強だ。加えて〈エデン〉には多数の〈乗り物〉がある。〈ミーティア〉対〈百鬼夜行〉の教訓を忘れてはいけないぞ」
〈バベルの塔〉フィールドは本拠地からこれでもかと遠くに北側巨城が3城ある。
全部取れれば非常に美味しいが、取っている間本拠地がかなり無防備になる。
〈ミーティア〉は〈百鬼夜行〉にわざと北側巨城を渡し、本拠地へ一斉攻撃を仕掛けるという大胆な作戦に出た。
しかしそれはギルドマスターホシによって防がれ、足止めされたところを〈乗り物〉を使い電光石火で戻って来たサブマスターハクの部隊に挟撃されて敗北した。
カイエンは、〈エデン〉の本拠地がたとえ無防備に見えたとしても攻撃はしないと宣言しているのだ。
「くれぐれも先走るなよ?(〈エデン〉のメンバーとまともにぶつかって勝てるわけないじゃん! 対人戦は最低限、というか1度もしないのがベスト! 本拠地を攻める? そんなデンジャラスしないぞ!? 絶対にしないからな!!)」
カイエンの目標は対人戦無しでの勝利。
昔Eランク試験で戦ったあの時の如く、対人戦無しでの勝利を目標としていた。
ギルドメンバーの何人かは六段階目ツリーの力を使って〈エデン〉を倒したくてうずうずしていたが、それもカイエンのカリスマによってなんとか抑えられている。
「(いやな、〈エデン〉のギルドメンバーを討ち取ればそれだけでヒーロー扱いを受けることは間違いないし、それはそれは気分がいいだろうさ。だけどね、そんなことはさせないから! 俺を〈エデン〉とのギルドバトルに参加させた以上、絶対に対人戦なんかさせない! だって勝てるわけないもん!)」
「カイエンさん! 俺、〈エデン〉のメンバーと対人戦で戦ってみたいです!」
「ふむ……(だからダメだって言ってんだろう!? お願いだから先走らないでねマジで!? あれに本気で勝てると思ってるの!?)気持ちはとてもよく分かる。だが、これはチーム戦だ。機を待て、対人戦は最後の最後の最後の手段だ。タイミングは俺に一任してほしい」
「お、オッス! ありがとうございます! カイエンさん!」
「(3年生や留学生はこれが最後の試合になるかもだからめちゃくちゃ好戦的なんだよな! 俺なら絶対に危険に飛び込まないのに飛び込もうとするし!!)」
「カイエンさんが言うなら大丈夫だな」
「ああ、きっと俺たちに最適な機会を用意してくれる気だぜあれは」
「(俺のせいだったーーーー!! いや、お願いだからそんな信用しているみたいなキラキラした目を向けないで!? あそこはもろ死地なんだって! 死地に送る指揮官の気持ちも察して!? 俺に『〈エデン〉を殲滅してこい』とか言わせないで!? それ『退場してこい』って意味だから!!)」
カイエンの頭脳は今日もグルグル回っている。
「話がズレたが、みな、自分の役割は把握しているな? ここが確認のできる最後の機会だ。疑問があれば今ここで聞こう」
カイエンは改めて場の空気を掌握してキリッとし、各人の疑問に答えていく。
「カイエン先輩、ここなんだが、〈エデン〉がこう来た時は――」
「反転して来た道を戻れ、保護期間を十分に使うのだ。無理に前へ進もうとせず、戻ることも重要だ」
「こう、保護期間を使って追い詰められた時はどうすれば?」
「そこは指揮官の腕の見せ所だ。俺が指示を出す。基本的に他のメンバーに援軍へ向かってもらうことになるだろう。だが、基本は回避だ。対人戦はなるべくせず、生き残ることに意識を注げ」
「カイエンさん、対人戦が発生しちゃった場合はどうすれば!?」
「防御に徹しろ。攻撃は最大の防御でもいい。とにかくスキルや魔法を連打し、後先考えずに凌げ、俺が必ず助ける」
「おお……!」
「カイエン先輩、そろそろ時間です」
最後に確認するべきことも終え、ついにその時が迫る。
カウントダウンが迫り、全員の視線がカイエンに注目する。
「……みなが一致団結すれば〈エデン〉にだってきっと勝てるだろう。SSランク戦を勝ち上がり、優勝するのはこの〈サクセスブレーン〉だ!(がんばれみんな、くれぐれも悔いのないようにね?)」
「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」
カイエン的にはこの作戦で勝てる可能性は10%にも満たない、下手をすればゼロかもしれない。だが、今までこの作戦を〈エデン〉に仕掛けたギルドはいない。
勝てる可能性はある。
「行くぞ! 配置に付け!」
「「「「「応!」」」」」
カイエンの言葉に素早く配置に付くギルドメンバーたち。よく訓練されている。
全員が配置に付くとカウントダウンが残り10秒を切り、ドキドキタイム。
数は徐々に少なくなっていき、ついに――3、2、1――0。
ブザーの合図と共にギルドバトルが始まった。
まず飛び出したのは〈サクセスブレーン〉で最も速い【影忍】のコブロウ、【速神忍者】のクロイ、【御庭番】のローザス。
なんか全員名前にロが入っているし、見た目も黒一色でそっくりな3人だ。ちなみに兄弟ではない。
「行くぞ忍者3人衆の力を今見せる時! 『忍法・忍者走り』!」
「スタートダッシュは任せてください! 『忍法・忍者走り』!」
「2人の援護はお任せくだされニン! 『忍法・忍者走り』!」
【忍者】系の〈四ツリ〉。壁だろうが天井だろうが水の上だろうがどこだって走る『忍法・忍者走り』を発動。
移動速度も上がり、まずは〈中央巨城〉を取らんとする。
ここが〈サクセスブレーン〉の作戦のキモだ。〈中央巨城〉はその名の通りフィールドの中心地にある巨城。フィールドのど真ん中は天王山とも呼ばれ、優位を取るのに非常に適した立地。
赤本拠地から僅か6マスで隣接が取れる〈南東巨城〉には目もくれず、一番速い部隊3人でまずフィールドの中央を取らんとしたのだ。
狙いはいい。しかし、〈エデン〉はその更に先を行く。
「カルア、レグラム、オリヒメさん――ブロック行くぞ!」
「ん! 『神速』!」
「オリヒメ、しっかり掴まっていろ!」
「はいレグラム様! 一生懸命抱きつきます!」
「――行くぞダンディ君! ここからは分かれて進む! 『疾風迅雷』!」
「『256ジ・エンド』!」
なんと〈中央巨城〉隣接まで残り1マスというところでコブロウ、クロイ、ローザスの前を凄まじい速度でなにかが横切り、しかも【御庭番】のローザスがカルアに斬られていたのだった。




