#188 シズとパメラのジョブと装備。説明回。
さて、到着しました最下層。
第1層からここまでのタイム、僅か30分。
つまり1層につき約3分で走破である。さすが〈馬車〉、速い。
これで低速の安全運転だというのだから素晴らしい。
エステルが馬車の運転に慣れればどれほどのタイムアタックが出来るのか、今から楽しみである。
さて〈熱帯の森林ダンジョン〉ボス部屋である。
相手はクマっぽいアリクイの〈クマアリクイ〉。
〈ダン活〉で最も弱いボスであり、初級者への最初の試練でもある。
昨日はルルたちがここを突破したらしい。
シズたちは1層で狩りをしていたためLVは1つ上がってLV11。
ソロだと苦労するが2人で挑めば簡単に勝利できるだろう。彼女たちの装備も中々良い物だからな。
まずは、彼女たちの実力を見させてもらう。
馬車は一旦〈空間収納鞄(容量:大)〉に収納する。
ボス相手に『ドライブ』系スキルは効かないし、むしろ手出し無用だから。
仕舞う時にエステルが少し悲しそうにしているのが印象的だった。またすぐに出すっていうのに、よほどこの馬車が気に入ったらしい。
頑張った甲斐があったな。
「さて2人とも、準備は良いか?」
「はい。いつでも行けます」
「ばっちしデース!」
俺の確認に武器を構えた2人が頷く。
ここで彼女たちの武器を紹介しておこう。
最初は【戦場メイド】の職業に就いているシズ。
まず【戦場メイド】とはなんだというツッコミはさておいて。え、ダメ? 説明必要?
そうか、では職業もついでに説明しよう。
セレスタンの【バトラー】が戦う執事であるなら、【戦場メイド】とは戦うメイドである。そのまんまだが。
基本的に中ランクに位置する普通の【メイド】は完全サポート系で戦闘には向かないスキル構成になっているのだが、【戦場メイド】になるとその7割が戦闘系スキルに置き換わる。
そして当然ながら高位職。高の中ランクに位置している。ダンジョンでもギルドバトルでも相当戦える、斥候も出来るアタッカーだ。
育成方法は大きく分けて2種類有り、どの武器を使うかによって分かれる。
【戦場メイド】と言えば思い浮かぶのが銃だ。
〈ダン活〉では多くの声にお答えしてちゃんと銃系も魔砲系も採用している。主に【ガンナー】系と呼ばれる職業に多い武器だな。銃系が物理射撃。魔砲系が魔法射撃だ。
〈ダン活〉プレイヤーの中ではファンタジーに銃は有りなのかと賛否両論あったが、HPが衝撃もなんも吸い取ってしまって弾が刺さらないので普通の武器として最後は受け入れられていた。
ちなみにゲームらしく、弾は目で追える速度で飛んでいくし。撃たれても傷跡すら残らない。低年齢向けにプシャーも全カットされた安全仕様だ。
(※〈ダン活〉は対象年齢B(12歳以上)のゲームです)
そしてもう一つがハンマー系。
メイドに何故ハンマーなのか、よくは分からないが、メイドさんが持つモップやデッキブラシが〈ダン活〉では何故かハンマーの分類だった。
こっちを選ぶとメイドさんが「お掃除します」と言ってモンスターを掃討してくれるぞ。
実際には思いっきり打っ叩いて倒していたけどな。〈ダン活〉プレイヤーには「【戦場メイド】流のお掃除術なんだよ。アレが正しい掃除の姿なんだ」と言って受け入れられていた。多分みんな、メイドならなんだって良かったのだと思う。(よくわからない)
育成は銃が【DEX】依存、ハンマーが【STR】依存なので最初っからどちらに振っていくのか決めておかないと中途半端になってSUPが無駄になる、気をつけろ。
そしてシズだが、立派な両手銃をその手に持っていた。
俺は銃にあまり詳しくはないのだが、多分アサルトライフルっぽい形の銃だな。なんか【戦場メイド】に妙に合っている。シズは銃系の道を進むらしい。
まあここはリアル。さすがにモップやデッキブラシを武器にする【戦場メイド】は選ばないよなぁ。あっちはネタだったし。
続いてパメラだが、まずその職業である【女忍者】から説明する。
こちらも【忍者】系の高位職だ。高の中ランクに位置する。
というよりも【忍者】自体高位職にしかなく全2職、男なら【忍者】、女なら【女忍者】と分類されている。何故分けたのかは開発陣のみ知る世界だ。おそらく深い意味は無いだろう。
「分家」は主にサポート系の職業がメインではあるが【忍者】は戦闘もこなせる斥候だ。ちなみに【忍者】は「分家」カテゴリーでしか取得出来ない。
【女忍者】は主に斥候がメインだ、敵の感知を始め、罠の発見から解除、再利用までなんでもできる。
戦闘面では回避アタッカーとして活躍する。
『忍法』系のスキルは敵のヘイトを下げたり、別の的にタゲを移す事が出来るためどれだけ攻撃してもヘイトを稼ぎすぎるという事があまりない。
さらに『霧隠れ』や『空蝉』、『身代わり』などの緊急回避スキルで全体攻撃や範囲攻撃も回避出来るためとても生き残りやすい強ジョブだ。タンクとの相性も良い。
また、自身が避けタンクになって敵を引きつける戦法もできるため、サブタンクとしても活躍できる。ヘイトを下げればメインタンクとのスイッチも楽なので色々と使いやすい職業だ
武器は、こっちも大きく分けて二種類。
一つ目は鎌。
鎖と分銅付きの鎌をメイン武器とし、ナイフ、クナイ等をサブウエポンにして戦う方法。中距離メインで戦うため回避がしやすく、安定した戦闘が出来る。
ただ、その代わりにスキルの威力が低いのが欠点だな。
二つ目は刀。
所謂忍刀だ。リカが使うような反りのある刀ではなく、直刀と呼ばれる真っ直ぐな刀だな。
〈ダン活〉では別に種類が分かれているわけではなかったのでどちらも〈刀〉に分類されているし、どちらでも好きな方を装備できた。だが一部のプレイヤーはこだわりにこだわり抜いて【武士】には刀、【忍者】には忍刀を装備させていた。その方が格好いいし似合うから。ゲームではスクショも取れたのでプレイヤーは結構その辺に気を使っていたのだ。
俺もできるだけ合わせるようにしていた。〈デザインペイント変更屋〉には何度もお世話になったっけ。
こちらは接近戦型だ。
『一刀両断』や『雷斬』などのスキルがとても格好いい。
スキルの威力も高くて優秀なのだが、スキル数が少ないのと、接近戦なため回避が難しいのが欠点だ。
基本ヒットアンドアウェイ戦法で手裏剣なども駆使して戦う形になる。
どちらの武器も良いものだが、パメラは刀を選択したらしい。背中に二本の忍刀を背負っていた。
忍者二刀流とか格好いいんだけど!
思わずパメラにそう言ってしまった時、彼女がニシシーって感じで笑っていた姿がとても良かったのを覚えている。パメラもこの姿はお気に入りらしい。わざわざ忍刀を拵えてくるほどだもんな。パメラとは仲良くなれそうである。
「では行ってきます」
「私たちの勇姿、見ていてくださいデース!」
そう言って門を潜る2人に手を振って見送った。
では宣言されたとおり、彼女たちの勇姿を見させて貰おう。
「エステルは彼女たちの同僚なんだろ? 彼女たちの実力はどんな感じだ?」
「そうですね。生身の時は非常に優秀でした。特にパメラの方が身軽で気配を隠すのも上手く、隠れた護衛向きでした。シズはラナ様付きのメイドだったはずですが、いつの間にかああなっていましたね。原因は…、失礼、それは秘密でした」
「秘密なんだ。何か訳ありというわけか?」
「…いえ、深い意味は…、お気になさらないで大丈夫です。――ラナ様が大事すぎて付いてきたなんて言えませんし(ボソ)」
「? 後半なんか言ったか? よく聞き取れなかったんだが」
「いいえ。とにかく私も職業に就いてからの彼女たちは初めて見ますから。これ以上は、実際に見てみるのが一番かと」
「そうか。分かった。教えてくれてありがとうなエステル」
「構いません。何かお聞きになりたいのでしたらいつでも聞いてください」
「その時は頼むよ」
そうエステルに頼んで視線をボス部屋に向けると、ちょうど2人が〈クマアリクイ〉と対峙するところだった。さて、戦闘開始だな。