#1728 対〈サクセスブレーン〉ブリーフィング会議!
〈クマエンジェル・バワード〉の納品が終わり、〈生徒会〉へ向かうタネテちゃんやハンナたちを見送ると、俺たちは集まって作戦会議。
今日はもう他のギルドと接触は無しだ。
各ギルドだって、〈SSランクギルドカップ〉の最終調整に入っているだろうからな!
俺たちも同じだ!
〈教会ダン〉へ行き、ギルドバトルの仕上げをせねばなるまい!
だが、その前にブリーフィング、作戦会議を行なう! 当然SSランク戦の作戦会議だ。これをやらないと最終調整はできん!
ギルドハウスに集まり、いつも通り席に座って壇上に俺とリーナが立ち、ブリーフィングを開始した。
「みんな! 知っての通り今度のSSランク戦は――〈35人戦〉だ! 俺たち〈エデン〉メンバーはそれよりも数が多いので、選抜されたメンバーで挑むことになるだろう! だが安心してほしい。初戦から決勝戦まで通しでその選抜メンバーで行くことはない。毎試合最適なメンバーに変更する予定だ!」
「最適とは言いましたが、基本的に前の試合に出られなかった方を優先的に選抜する予定ですわ」
本日ホームルームで説明があったのは全戦闘課共通。
よって〈35人戦〉の選抜方法を知っておきたいというメンバーも多いだろうからこのブリーフィングで共有する。
まず出場選手だが、これは毎試合変更が可能だ。
故に、試合ごとに選抜メンバーを決めることになる。
基本的には相手のギルドを見て、その対策にメンバーをシャッフルする感じだな!
「あー、ゼフィルス君。ぼくは今回辞退させてもらうよ。お宝は出ないしね」
「了解だニーコ」
ニーコは今回辞退するというのは前々から聞いていたので了承。
まあ、ニーコの本領はダンジョンだからな。このあとたっぷりと働いてもらうさ。ふはは!
「!?!?!? な、なんだか今寒気がしたんだが!?」
心の中でほくそ笑みながら、続いて同じく〈支援課〉のカイリに聞いてみる。
「カイリは?」
「う~ん、私はどうしようかなぁ。ダンジョンならともかく、ギルドバトルだと『無限収納』くらいしか出番がないんだけど」
「カイリはできれば出場してくれると助かるな。〈ブオール〉に〈戦艦・スターライト〉など、大型の〈乗り物〉はセレスタンやシズの収納に入りきらない」
〈エデン〉の〈乗り物〉はだいぶ大型のものが増えてきて、〈空間収納鞄〉が禁止な〈城取り〉だと、持ち込むことに苦労する。
カイリの『無限収納』があるととても助かるんだ。
「それに、『無限収納』だけってことは無いぞ? カイリのAGIは1200に迫る。初動ではかなり優秀だ。AGI装備で身を固めればミジュと一緒に走ることもできるだろう」
「そっか、私なら『無限収納』があるし、装備を持ち込んで〈マイセット早着替え〉で換装できるんだ」
「おう。それ以外にもやってほしい戦法がいくつかある。頼りになること間違い無しだ!」
「うん! そういうことなら私は参加させてもらうよ!」
決定だな。
ハンナはすでに参加しないという連絡を受けているので、今回の〈エデン〉出場者は、〈戦闘課〉メンバー+カイリで48人だ。
「初戦はAランクギルド、〈サクセスブレーン〉ですわね。まさか、1回戦からこんな大物と当たるとは思いませんでしたわ」
「〈サクセスブレーン〉のカイエン先輩は強敵だぞ。リーナの指揮力が試されるな」
「全力で迎え撃ちますわ! わたくしが勝ってみせます!」
「リーナが珍しく燃えているわね」
おお! シエラがちょっと驚きの言葉を口にするくらい燃えているリーナ。
もしかしたらカイエン先輩のことをこっそりライバル的な認定をしていたのかもしれないな。確か、〈エデン〉の大規模キャリーで〈サクセスブレーン〉へ行くことを決めたのも、半分はカイエン先輩の戦法を間近で見るためだったらしいし。
なお、そのカイエン先輩は秘密主義というか、作戦を練るときは大抵1人になるらしく、その真髄を見ることはできなかったとリーナが悔しがっていたっけ。
さすがはカイエン先輩、情報規制も完璧だ。
〈SSランクギルドカップ〉、1回戦からなんて熱いんだ! 情報合戦はすでに始まっているんだ!
「では、選抜メンバーを決めたいと思いますわ。対〈サクセスブレーン〉戦を見越して、対策を打ちますわよ!」
ダンジョンに行く前に選抜メンバーを決める。その方が練習もしやすい!
ちなみに2回戦以降も勝ち上がってきたギルドでまたシャッフルして対戦相手を決めるため、今のところどこと当たるか分からない。そのため対策しようが無い感じだ。また、1回戦目で好成績を収めたギルドにはシード権が付与される。
〈エデン〉はもしかしたら2回戦目は出られないかもしれない。
故に、まずは1回戦に集中し、対策に熱を注ぐ形だな。
「セレスタン、向こうの情報を頼む」
「畏まりました」
セレスタンに〈サクセスブレーン〉の主なメンバーとその職業、戦闘方法からギルドバトルでよく使う戦法などの情報をホワイトボードに張り出してもらう。
いつもならサトルがやってくれるのだが、今日は〈生徒会〉に行って不在なのでセレスタンが担当してくれていた。
「〈サクセスブレーン〉は非常に優れたバランスの良いギルドで、多様な職業を所有する特殊なギルドだ」
「ええ。一般的なギルドでは一点特化型というか、とある方向に特化した職業持ちが多いですが、〈サクセスブレーン〉は実に様々な職業を所有し、しかも成功を収めておりますわ」
「多様性ね。〈エデン〉や〈ギルバドヨッシャー〉のように、多様性を極めたギルドは運用が難しい分、とても強いわ。気を引き締めていきましょう」
まずは〈サクセスブレーン〉を知らない1年生世代にも分かりやすいように説明して行く。〈サクセスブレーン〉は〈エデン〉や〈ギルバドヨッシャー〉と同じく、多様性タイプのギルドなんだ。
「あの質問よろしいでしょうか?」
「ん? いいわよマシロ。どんどん聞きなさい。なんでも答えてあげるわ。ゼフィルスが」
「ラナがじゃないんだ……!」
まあ、俺が答えるんだが。
「えっと、多様性ギルド? というのが強いみたいですけど、ならなんで他のギルドさんはそうしないんでしょう? 〈ミーティア〉さんとか、〈世界の熊〉さんとか」
「良い質問だなマシロ」
そう、この学園のギルドは大きく分けて2つのタイプがある。
画一性に特化したギルドと多様性のギルドだ。
まあ、画一というほど一緒くたでもないが、便宜上そう呼ばせてもらおう。
画一性のギルドというのはマシロの言ったとおり、〈ミーティア〉や〈世界の熊〉、〈集え・テイマーサモナー〉や〈筋肉は最強だ〉、〈氷の城塞〉や〈ハンマーバトルロイヤル〉などが上げられるだろう。
方向性を揃えているということであれば〈獣王ガルタイガ〉や〈新緑の里〉も該当する。
要は同じような職業が集まってできているギルドだ。
故に出来ることも限られており、多様性のギルドと比べると少し見劣りするのも事実。
じゃあ、なんでみんな多様性のギルドにしないのか? そうマシロは言っているんだ。
「簡単に一言で言うと、ノウハウが無いからだ」
「ノウハウ?」
「そう、最強育成論のノウハウが無い。つまりよく知らない職業に下手に手を出して育成しても、かえって足を引っ張り合う可能性がある、それを恐れているんだよ」
「同じような職業であれば、どんなことが出来、どう足並みを揃えればいいのかを熟知しているので、ギルドのコンセプトとしては一点特化の方が育てやすいのですわ」
「だな。もっと簡単に一言で表現すると、多様性ギルドは器用貧乏になり得てしまうんだ。オールマイティと呼ばれる、多様性を活かした強いギルドなんてほんの一握りということだな」
「あ、なんとなくイメージできました!」
そう、多様性ギルドに重要なのはバランスと各職業の認識。
俺の〈エデン〉は全てのことに対応出来ることをコンセプトに、大体のメンバーは俺がスカウトした。いくら強い職業があるからといって、同じポジションばかりを入れたのでは弱点があったとき、それをカバーできない。
弱点をカバーし合える関係性、対策に次ぐ対策、そして全ての物事に対応出来るメンバーの集まり、それが〈エデン〉だ。
だが、ここまで育て上げるにはノウハウがいる。
対策やカバーをし合える関係性に育成するノウハウが。
そして大抵の学生はそれを学びに学園に来ているので、そのノウハウが無い。
だから自分が分かる方向性に進むことが多く、画一性ギルドが多く出来るんだ。
どこのギルドも〈ギルバドヨッシャー〉や〈サクセスブレーン〉みたいに研究しまくって新たな可能性を模索しまくるギルドではないのである。
ここまで言えば、〈サクセスブレーン〉がどれだけ強いかが見えてくるだろう。
1年生も気を引き締め直したのが感じられた。
「相手が多様性ギルドなら、こっちだって多様性で攻めるしかない! バランスよく組むぞ! なにが来ても対応出来るようにしておくのが大切だ」
「はい!」
「では話を戻しますね。主な構成員ですが、どうやら最近は忍者3人衆という方々を〈サクセスブレーン〉の主軸にしているようです」
「ほう? セレスタン、詳しく」
「はい。名前はコブロウ、クロイ、ローザス。それぞれ【忍者】の上級職、【影忍】【速神忍者】【御庭番】に就いており、斥候から初動の〈スタダロード戦法〉など、多くのところで活躍しているとか」
「ほほう、忍者部隊! 良いじゃないか! カイエン先輩はロマンも分かっている!」
全てが別々の【忍者】系統の職業というのも良い。多様性でお互いの弱い所をカバーし合えるしな。
「新しくギルドマスターに就任することが決まっている【レジェンドレイヴン】のナギさんも強力です。その隠密性能は学園でもトップクラス。〈竜の箱庭〉でも見つけられない可能性が高いです」
「その対策もしないとな」
「そして斬り込み隊長の【仙人】ゴウ、トラップに関しては右に出るもの無しと言われている【トレジャーミミック】のフォルノ、〈城壁〉を建てる戦う生産職【芸景回宝ハイドワーフ】のカララなどが名の知れたメンバーですね」
「うわぁ、そう言われるとなにをどう対策すればいいのか分かんないね」
「多様性の凄さが分かってきましたですの!」
「そしてやはり強敵はこの方でしょう、現ギルドマスターにして全指揮系統をこなし、僅かな期間でCランクギルドだった〈サクセスブレーン〉をAランクギルドにまで成長させた――【ブレイン】のカイエン」
セレスタンの言葉に大きな緊張感が部屋を包む。
カイエン先輩、燃えてきたぜ!
相手に取って不足なし!! 絶対に俺が、全力で倒してやるからな!
なお、そう決意に燃える俺とは裏腹に、カイエン先輩がこの時心底悪寒に震えていたことなど、俺は知らないのだった。




