#1711 筋肉流の新技炸裂〈真・筋肉サンビーム〉だ!
ダンジョン週間3日目、俺たちは筋肉と共に、〈巣多ダン〉に来ていた。
「なるほどな。あれがゼフィルスの言っていたモンスター集団か。筋肉にとって不足無し!」
「え? いや、俺は手加減してほしいっていうか」
上級上位ダンジョンに入ダンできるようになったその翌日、いきなりランク4ダンジョンに入ダンする高速キャリーだが、アランは二の腕の筋肉を膨らませ、ハッキリと〈巣多ダン〉モンスターたちを威嚇した。
心なしか、威嚇されたモンスターたちも負けじと威嚇し返している気がする。
おかしい。樹に筋肉はないはずだが……。
鍛えれば鍛えるだけ膨らむ身体に憧れでもあるのだろうか?
いや、やっぱり気のせいだろう。
「まずは1層で少し感覚を養う! それが終わったら真っ直ぐ深層まで行ってレベル上げだ!」
「「「「「応!」」」」」
時間は有限。
俺たちはまず筋肉たちが〈巣多ダン〉でも十分やっていけるよう、対策と傾向を伝えていく。実戦形式で。
なぜかこの筋肉たち、言葉で伝えるより身体を動かしながら見せた方が考えが伝わるので、俺たちが手本を見せつつ言葉で補足していった。
「こんな感じだ。分かったか?」
「バッチリだ! 次は我らだけに任せてくれ! ―――行くぞ筋肉たちよ! 今、真の筋肉を魅せるのだ!」
「「「「「おおおおお!」」」」」
狙いは少し遠くにある巣。
モンスターの数は30前後というところだろう。
そこへ駆けていく筋肉たちは、一度止まると横並びになる。
7人と7人の二列で横並びするマッスルたちの姿は壮観だ。
ここから〈筋肉ビルドローラー〉でもするのかと思いきや、アランたちは進化していた。
「ゆくぞ! 〈真・筋肉サンビーム〉だ!」
「「「「「応!」」」」」
瞬間、筋肉たちの目が光ったような気がした。そして、後ろの筋肉たちが、前の筋肉たちの脇を掴む。右、左の順に。
「「「「「筋肉!」」」」」
――ガシャン!
「「「「「筋肉!」」」」」
――ガシャン!
「「「「「〈真・筋肉サンビーム〉!!」」」」」
後ろの筋肉が前の筋肉の脇を掴んだのだ――そして。
「「「「「『サタンボディビームエターナル』!」」」」」
前の筋肉たちが煌びやかな筋肉ボディから正面にビームを放ったのだ。
「「「「「キキキキ!?」」」」」
これにはモンスターたちもびっくり。
知ってるか? 最近の筋肉は、ビームを放てるんだ。
「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」
「そのまま行ったーーーー!!」
もちろんそれで終わらない。
なんと後ろの筋肉たちは、筋肉にものを言わせて前の筋肉たちを持ち上げると、そのまま走り出したのだ。
ビームをボディから放ったままの筋肉を持ち上げたまま。
「「「「「キキキキキーーーーー!?!?!?」」」」」
正面から迫り来る謎のビームを放つ筋肉を持ち上げる筋肉という、もはや何が何だか分からない存在。
モンスターと言えど、その混乱は非常に凄まじいものだったことだろう。
これぞ〈筋肉は最強だ〉の新技!!
身体からビームを放っている筋肉を、まるで武器のように持ち上げて敵陣を強襲するというとんでもない戦法だ。
普通スキルというのはスキルアクションと言って、技の使用中は動きをかなり制限される。スキルに組み込まれたアクションしかすることはできないのだ。
例えば俺の『ソニックソード』なら「移動して斬る」スキルなので移動しなくちゃいけないし、斬らなければいけない。
シエラの『鉄壁』なら「その場から動かず防御」するスキルなので、その場から動けないし、防御中はメイスを振るうこともできない。
もしこれが破られれば失敗してしまう。
だが、スキルを発動中の人を持ち運んだり投げたりすること自体は可能なんだ。
そしてアクションを破らなければ、持ち運んでいる状態でもスキルは発動出来てしまうのである。エステルの〈戦艦〉のように。
この筋肉たちがしている戦法はまさにその延長系。
ビームを放ったままの筋肉を、筋肉タクシーが運んで薙ぎ払う戦法なのである。
「薙ぎ払え!」
「「「「「応!」」」」」
先頭でキレッキレのマッスルポーズを決めながらビームを放つアランの指示で、筋肉たちがまた横並びして右から左へと扇状にビームを浴びせていく。
それそんなスキルじゃねぇからな! 銃弾を連射しながら薙ぎ払っている感じに近いだろうか。
「「「「キキキーーー!?」」」」
薙ぎ払われたモンスターも大ダメージを受け、しかし負けずに遠距離攻撃を放つ。
しかし。
「無駄だ! ――防御筋と攻撃筋を分けるのだ!」
「「「「応!」」」」
防御筋と攻撃筋ってなんだろう?
そんなことを考える暇も無い。
さらに筋肉たちは連携しだし、相手の攻撃を迎撃する筋肉と、その隙に相手に直接ビームを打ち込む筋肉が現れた。横に並び、筋肉にフレンドリーファイアを浴びせるなんてこともない。良く訓練されている。
このサタンビームは、MPが続く限り使用者の意思で出し続けることができる特殊なスキル。しかもビームなのにSTR依存の技だ。これ、魔法じゃなくてスキルなんだよ。筋肉がビームを放つスキルなんだ。マジ意味が分からない。
ゲームの時のフレーバーテキストには「身体から相手が身動き出来ないほどの威圧を放っていたら、ついにビームを放てるようになった」と書かれていたが、全然分からなかったんだ。
おそらく、手から何か出せるのだから、身体全体からビームくらい出せたっていいだろう、ということなんだと思う??
撃っているときは無防備になる上に、タンクがMPの消費が激しいこれを決めるのはそこそこ難しく、ゲーム時代はなかなか難易度の高い技だった。だが、ずっと当て続けられれば鬼強いスキルである。
それがまさかこんな使い方があったとは、筋肉たちには脱帽だよほんと。しかもである。
「MPが切れるぞ!」
「よし、交代だ!」
「「「「「応!」」」」」
「「「「「マッスル~~~チェンジ!」」」」」
「「「「「『サタンボディビームエターナル』!!」」」」」
そう、前後を交代すればMPも全快だ。
蹂躙はまだまだ続く。そして、
「あ、頭吹っ飛んだーーー!? ってええ!? こっち来るんだけど!? あだああああああ!?」
「油断するなオルク! その頭は後衛を攻撃してくるんだ!」
「なんか俺ばっかり狙われてね!? あ―――」
ズドン!
「ホネデス!?」
「おい、オルクが逝ったぞ!?」
茫然と蹂躙するマッスルたちを見ていたオルクの下に〈パージトラキ〉の頭吹っ飛んだ攻撃が突き刺さり、なぜか参加していないオルクが戦闘不能になる被害も出たりした。
でも「頭吹っ飛んだー」はナイスリアクションだったぞオルク。
「『リヴァイヴ』! ……なぁゼフィルス。こんな攻略でいいのか?」
ここ数日だけで復活魔法に手慣れてしまったメルトが問うてくる。
「いいじゃないかメルト。なにも俺たちが編み出した戦術が全てあっているというわけじゃあない。そのギルドにはそのギルドにあった戦術というのが存在する。それにこんな攻略法、他じゃ思いつかねぇよ」
「まあ、確かにな」
リアル特有の攻略法だ。俺はこういうの大好き。
むしろどんどん見せてほしいくらいだ!
「いいぞアラン! もっとやれーーー!!」
「はーっはっはっはーーー!!」
思わず応援にも力が入ったよ。
そして、ついに最後の1体が光に還り、蹂躙終了。
筋肉たちは、なぜか筋肉をひけらかしながら帰還した。
「ヘイ、どうだったゼフィルス?」
「最高だったぜアラン!」
「ええ。とっても爽やかでしたね」
「だろう?」
アランの言葉に笑顔で称えると、後ろのセレスタンも笑顔で頷く。
でも爽やかという表現は、俺たちには分からなかったんだぜ。
「改めて、みんなお疲れ様だ! 見事な新戦法だったぜ」
「はっはっは! ゼフィルスの情報があってこそだ! それにポーションでも世話になっているからな!」
そう言って〈エリクサー〉を揃ってグイッと飲む筋肉たち。どこかのCMのワンシーンみたいにそろってらぁ。
もちろんこれはハンナ製の〈エリクサー〉。
〈エデン店〉にとって、筋肉たちは大お得意様なのだ。前々から高いポーションを大量に買ってくれていたからな。
今のでレベルが上がった筋肉もいたようだ。
MPを大量に消費はするものの、大量蹂躙できる戦術があるとかとてもこのダンジョンと相性が良い。
元々はギルドバトル用に編み出された戦術だというのだから恐ろしいけどな。
「アラン、俺から見ても全く問題無さそうだった! あと2、3回やって慣らしたら深層へ行こう!」
「はーっはは! 俺たちの筋肉も早く強くなりたいと疼いている! 頼むぞゼフィルス!」
「おう!」
あとがき!
昔は作者も、鍛えればビームが撃てるんだって信じていた時期がありました。




