#1709 もはや上級中位レアイベントは恐るるに足らず
「また5体でありますか!」
「ヴァン、第二拠点展開! 〈一夜城戦法〉で分断だ!」
「はっ! 『第二拠点建造』!」
「シュウウウウウ!!」
「ブレスか? 『ヘッドグラビティ』!」
初手、ヴァンによる第二拠点建造。〈一夜城戦法〉。
それに対し、5体のうち3体が大火球を口から発射した。
さすがは竜人。火球を吐ける模様だ。
当然メルトがそれを叩き落とす。
「槍使い、相手に取って不足は無い『獣人の王威』!」
「ええ。ではいきましょうか――『雷拳』!」
次の瞬間には残り2体が飛び込んで来ており、内1体の〈竜人〉をラウがバフをして担当、もう1体にはセレスタンが雷の拳を叩き付けていた。
「こりゃ、チームで戦うより1人1体を担当するほうが良いかもな!」
「いつもとは違う変則パターンか。乗った」
「自分はタンクなのでありますが!?」
「倒したら駆けつける。それまで城の中で耐えろヴァン!」
「了解であります! ――1体誘い込めたであります。『防御に勝りし壱ノ城』! 『気合いで打ち勝つ弐ノ城』! 『最後の砦の参ノ城』!」
「それじゃあ俺はこいつをもらうぜ! 『ヘイトスラッシュ』!」
ヴァンの城は1体を引き込んだ時点で分断工作を開始。
俺も1体の〈竜人〉に飛び掛かりヘイト攻撃をたたき込んでタゲを奪うと少し離れる。
〈ダン活〉の上級では珍しい、ボスとの1対1の戦いだ!
「シャアアアアア!」
「1対1でボス戦とか久しぶりだぜ! さあ、どれくらい戦えるか見てもらおうか!」
3メートルの槍をスキルエフェクトで覆った〈竜人〉が連続の突きを繰り出してくるが、
「『ガードラッシュ』!」
防御しながら3回斬るスキルを発動。〈三ツリ〉ではあるがLV5なので力負けはしない。
ガガガガガというどう聞いても槍で突かれている音じゃない効果音が盾から響くが気にせず前進して懐に飛び込み、斬る、斬る、斬る。
間合いを詰めるのに本当に適したスキルだぜ!
「シャアアアアア!」
「あだ!? こんにゃろめーー! 『聖剣』!」
「シャアアアア!?」
「『フィニッシュ・セイバー』!」
勢いのついた槍のスイングが脇腹に直撃。
さすがにタンクがいないからなかなか効く! だがそこは肉を切らせて骨を断つ。
『聖剣』でぶった切り、相手が硬直した瞬間『フィニッシュ・セイバー』でフィニッシュした。HPへのダメージは1割。なかなかのダメージが入ったな。
だが〈竜人〉の動きは止まらない。すぐに復帰して攻撃してくる。
これは『ドラゴンアギト』か!
〈竜人〉の槍がドラゴンヘッドになると一気に突いてきた。お、チャンス!
「『ソニックソード』!」
「シャ!?」
『ソニックソード』は出だしも早く非常に優秀な〈二ツリ〉スキル。
これもLV5まで育てた甲斐はあり、一瞬で発動して回避、そのまま後ろに回り込んで斬ったのだ。1対1のボス戦では非常に有効な技だというのは〈エンペラーゴブリン〉戦の時から分かってる!
『上竜鱗』が無いから普通にダメージが入るのが良き!
かなり予想外だったのか〈竜人〉に大きな隙が出来る。
大技発動の大チャンス!
「ここだーー! 『天光勇者聖剣』!」
〈六ツリ〉発動。
1対1の時は小技、速い技を駆使して相手の体勢を崩し、追撃でドカンするのが最高。
レイドボスすらぶった切る特大の光の聖剣が一瞬で〈竜人〉を飲み込んだ。
これも出だしがかなり早い技だ。
さらに聖剣だけあり、受けた相手は一瞬硬直するおまけ付き。
「『勇気』!」
俺はこの隙にバフを使用。さあ、決めにいこうか!
「シャアアア!」
「これを許したからにはそっちの負けだぜ――『勇者の剣』!」
「シャ!?」
「追撃の『サンダーボルト』!」
硬直から復帰後、上段からの叩き付け。『ドラゴンテイルスタンプ』。
だが俺のユニークスキル2つの合わせ技はそんなものを叩っ切り吹っ飛ばした。かなりのダメージを与えたな。加えて蹈鞴を踏み、少し距離の開いた〈竜人〉に『サンダーボルト』を叩き込む。
よし、崩した。ここだ!
「『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
巨大な雷のドラゴンを顕現。
ノックバックから立ち直ったばかりの〈竜人〉は、これを避けられない。
ブレスを吐かんとしたようだがその前に直撃。
ダウンした。総攻撃チャンス! 1人だけど!
「『シャインライトニング』! 『テンペストセイバー』! そしてトドメの――『スターオブソード』!」
ズドンとトドメ。
これにより俺の担当していた〈竜人〉のHPはゼロになった。
◇ ◇ ◇
「『グラビティ・レビテーション』! 『重力加速』!」
「シャアアア!」
メルトに接近戦を仕掛けようとする〈竜人〉だが、メルトが素早く『グラビティ・レビテーション』で浮遊。さらに浮遊中に加速を得る『重力加速』で高速移動して距離を取って避けた。
〈竜人〉は火球を連射して、メルトを狙うが。
メルトは着地すると杖を前に出す。
「『三十六・重穴展開』!」
五段階目ツリーの36の重穴を発生させ火球を吸い消してしまう。
「お返しだ――『集束・グラビティレーザー』!」
「シャアアアア!?」
吸ったものをレーザーにして返す魔法。これは非常に強力。
ゼフィルスたちは避けてばかりだから実感はないが、この火球は非常に威力が高く、耐久力の低いメルトなんかが当たれば3発ほどで戦闘不能になる威力を持っている。
連射で撃ってきたので即死攻撃みたいなものだったのだ。
それがレーザーに変わって跳ね返り、大きなダメージを与える。
「『コキュートス・ゼロ・ディザスター』!」
「シャアア!」
メルトの追撃。六段階目ツリーの氷属性の大威力魔法だ。
これに対し、〈竜人〉が槍を投げて粉砕しようとするが、メルトの攻撃の方が強く逆にやられてしまう。
「シャア、アア。アアアアアア!」
「む。デカい攻撃か。良いだろう」
ここでパターンを変えてきた〈竜人〉。大量の息を吸い込み喉の下が急激に赤くなっていくのだ。空気で炎を燃やしに燃やす。そして特大のブレスを吐く溜め魔法である。
本来は5人戦をしてくる〈竜人〉は1体がこのスキルで溜めていても、他の〈竜人〉が援護し、邪魔をさせず、そしてブレスを撃ってくるという連携をこなしてくる。
1体では溜め中に大きくダメージを与えればキャンセルできるのだが、メルトはこれを迎え撃つことに決めた。
「『グラビティ・デトネーション』!」
これは『三十六・重穴展開』の上位ツリー。
特大の防御魔法で、バラバラだった重力球の重穴を一箇所に集め、特大にして大量という重力球で相手の攻撃を防ぐ、メルト最強の防御魔法だ。
「―――ッッッシャアアアアア!」
そしてついに溜めに溜めたブレスが発射される。
それはあまりの高温に白くなり、ブレスというよりも光線に近い極太の炎。
メルトに一直線に進んできたそれは、途中に展開されている『グラビティ・デトネーション』に激突。大量の炎を周りにまき散らしながら、しかしそれすらも全て大量の重力球たちに吸われていってしまったのだ。
そして、ここからがメルトの真骨頂。
「『グラビティ・メテオ・エクスボール』!」
相手が攻撃の最中でもお構いなしの反撃。
メルトは『攻防デュアル』によって攻撃スキルと防御スキルを同時に展開可能だ。
攻撃を受け止めた直後、メルトはカウンターでメテオを放つ。
それは攻撃の最中で全く身動きの取れない〈竜人〉に真上から激突した。
「シャアアアアア!?」
ダウン。
そこからはもう一方的な展開である。
「『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』!」
また1体の〈竜人〉がエフェクトに消えるまで、そう時間は掛からなかった。
◇ ◇ ◇
一方こちらはラウ。こちらもかなりの激戦となっていた。
「シャアアアアア!」
「温い! そんな攻撃、温いわ! 『インフェルノフィスト』!」
ラウの炎のパンチが火球をぶっ飛ばして粉砕する。
「『獣王無尽』!」
「シャ!?」
一気に懐に飛び込んだラウがボディブローをたたき込み、そのまま360度、空中まで使った三次元の動きで大量のパンチを叩き込んでいく。
〈竜人〉もボスとしての矜持か、槍による突き、薙ぎを叩き込みまくるがラウには当たらない。
〈獣王ガルタイガ〉での修業でラウはモンスター戦よりも、こうした対人戦の方が得意になっていた。特に1対1というのが良い。
〈竜人〉はブレスも吐くが、基本は対人戦と変わらない。少し体格は大きいが。
ラウにとっては、かなり戦いやすい相手だった。
「面白くなってきたじゃないか! 『超進化』!」
ラウがユニークスキルを発動し、パワーアップ。
「狼人」の名にふさわしい、フサフサしたワイルド狼に変身したラウ。
身長は2メートルに迫るほど巨大化しており、かなりの王威を放っていた。
「シャアア!」
「『チャンピオン・キング』!」
ガツンと拳と拳を合わせる音の衝撃波で火球を粉砕し、バフでパワーアップ。
「『神獣拳闘気合爪破凱』!」
そのままダブルスレッジハンマーのように組んだ手を前に出してズドンと突っ込んでいった。
このスキルが非常に強力。
六段階目ツリーの両の爪は、まさに相手を食らう大きなアギト。
ラウはそのまま防御してきた槍を跳ね飛ばしてボディに叩き込んだ。
「シャ!?」
2割のダメージに至るとんでもないダメージが入った。
「トドメといこうかあああ!」
「シャアアアア!」
突っ込むラウ。
ここで〈竜人〉は今まで見せたこともない炎の結界スキルを発動。
それはドラゴンの顔。『ドラゴンフレイサークル』である。
「しゃらくさい! 『獣王の拳を防げる訳無し』!」
これは獣王お得意の粉砕スキル。
五段階目ツリーに似たような『獣王に引き裂けぬ物は無し』があるが、あれの防御破壊版だ。
ラウは両爪で中心を穿つと、そのまま左右に引き裂くようにして粉砕。
特大ノックバックによって〈竜人〉は大きな隙をさらしてしまう。
「シャ!?」
「『ゼルワン・カイザーバスター』!」
「シャアアアアア!?」
ズドーンと大爆発。
バスター系の最強。ラウの拳からゼロ距離で特大のバスター波が放たれ〈竜人〉は大ダメージを受けてダウンした。大チャンス。
「――『神・獣・願・獣王獅子戦牙』!」
そしてトドメは獅子。
両の拳がライオンヘッドの巨人獅子は竜人に連続ライオンヘッドパンチをお見舞いし、最後はシンバルのようにクラッシュをお見舞いしてHPをゼロにしてしまったのだ。
こちらもまた、ラウの勝利である。
◇
「すげぇ……」
「はははは! どうだオルクよ! 〈エデン〉の戦いをこれほど間近で見られる機会はそうは無いぞ!」
また、観戦席ではオルクがポカンと口を半開きにして呟き、その隣で筋肉を膨らませムキムキしているアランがニカッと笑う。
ここは闘技場みたいなレアイベントフィールド、なぜか観戦席が設けられていてバリアも完璧なため、オルクたちは〈エデン〉の戦闘を目に焼き付けていた。
ちなみにオルクは、なぜか〈エデン〉の試合を見ようとすると割と変なのが横から入るので、じっくり観戦できたのは今日が初めてだったりする。感動もひとしおだった様子だ。
「1人1体のボスを受け持つとか、回復どうすんだよと思ったけど、全然回復必要になってない!」
「〈エデン〉は戦闘不能者が出ないことで有名なギルドだからな。当たらない、相手の攻撃は後出しで全部防ぐを地でいくのだ。オルクよ、戦闘不能になりたくなければ〈エデン〉のこれを参考にするのだ!」
「え? あ、うん……え? これを?」
〈エデン〉をよく知るアランがオルクに諭す。だけどオルクは目を点にするだけだった。
え? これをするの? 俺が?
自分が目指すべき姿を目の前に提示されたオルク。
しかしなぜだろう……? 自分がこうしてかっこよく立ち回っている姿が――全然想像出来ないオルクだった。
「お、ゼフィルスとメルトとラウとセレスタンがほぼ同時に下したな!!」
「ほ、本当に1人1体を担当して勝っちまった……」
レアイベントボスは所詮は上級中位。
さらに5体が連携することを前提にして推奨LV60超えとなっていたのだから、分断してしまえば……いや、それでもこうして全勝できるのは〈エデン〉ならではである。
なお、セレスタンの方はただの一撃も食らわず、〈竜人〉をエフェクトの海に沈めた様子だ。
ラスト1体はヴァンが分断して止め、迎えに来たゼフィルスたち4人の攻撃を集中的に食らい、3分も持たずに消えていったのだった。




