#1706 歴史に刻まれし初攻略者の名に―勇者と冒険者
一方こちらはゼフィルスとメルト側。
「メルト、『グラビティフィールド』だ!」
「なんでゼフィルスは俺の魔法を俺より把握しているんだろうな――『グラビティフィールド』!」
「ニャー!?」
『グラビティフィールド』はその名の通り、重力を発する力場を作り出す防御魔法。
どちらかというとブラックホールに近く、周りのものを全て引き寄せてしまう六段階目ツリーだ。それを〈灰〉の目の前に設置。
〈灰〉はその重力に抗えず、『グラビティフィールド』の中心地に囚われ抜け出せなくなった。大チャンスだな。
「ナイスメルト! 総攻撃だ! 『ライトニングバースト』! 『サンダーボルト』!」
「『五隕星重力砲魔法陣』! 『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』!」
そこへ俺とメルトが魔法攻撃を一方的に叩き込むと、〈灰〉のHPはガンガン少なくなりそのままゼロになる。
「クニャア~…………」
「なに? …………呆気なくないか?」
「そりゃ六段階目ツリー使ってるからな!」
HPがゼロになって動かなくなった〈灰〉を見てメルトが微妙な声で呟いた。
だがそれは仕方ない。
何度も言うが六段階目ツリーは最上級ダンジョンでレイドボスと戦うためのスキル・魔法だ。
過去アリーナに登場した〈ヘカトンケイル〉や〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のようなレイドボスと戦うためにあるようなスキル・魔法なので、そりゃ上級中位のボス相手に使えば余裕勝ちである。
まあ、それは今は置いておく。問題は目の前でHPがゼロになっても消えないネコだ。
「ゼフィルス、こいつHPがゼロになったのに消えないぞ。解放してもいいのか?」
未だに防御魔法『グラビティフィールド』で捕まえているメルトが初めての経験に眉を顰めながら俺に聞いてくる。
「あ、もう解放していいぞ。それよりアランのところにいくぞ」
「……おう」
〈灰〉をその場に解放して〈茶〉が入り込んだ方へ向かうと、ちょうどアランとオルクが〈茶〉を倒したところだった。
アランがネコに抱きつき拘束して、オルクや〈ホネデス〉が槍で討つ様。
どうしよう、俺が考案した気がするオルクの戦法が全然【ルシファー】っぽくない。
いや、きっと気のせいだろう。気のせいのはずだ。あ、オルクが吹っ飛ばされてダウンした。
しかし、ホネデスとハニーが無事〈茶〉を討ち取ったのできっとセーフ。
「ナイス撃破!」
「あ、ゼフィルスさん?」
「お疲れさんだ! 『オーバーヒール』!」
「あ、あざっす!」
「『キングヒーリング』!」
「おお! 我が筋肉に再び活力が沸いてくる~~~!! 感謝するぞメルトよ!」
オルクとアランをそれぞれ回復する。
結構な死闘だったようで2人のHPは結構減っていたのだ。特にオルクがヤバかったのでオーバー回復しておく。吹っ飛んでたからな。
そうしてHPが全開を超してオーバー回復すると、今やられた〈茶〉の身体が光り出す。
「ぬ? なんだ? おお!?」
「と、飛んでいった!?」
そして〈茶〉は勢いよく第二拠点から飛び去っていったんだ。
みんなで第二拠点の通路から外に出れば、〈灰〉も一緒に飛んで行くのが見えた。
〈茶〉と〈灰〉は〈赤〉の前に立つとそこでエフェクトの光を発して消えてしまう。
「消えた? いや、エフェクトの光が集まっていく?」
「あ、いつの間にか白と黒までいるぞ! あれ? なんか光が集まっていってないか?」
「第二形態だ」
メルトが目を細め、オルクが指さす向こうではまさにとある現象が起きていた。
そう、これは第二形態。
この〈五体猫戦隊・ネコレンジャー〉は非常に特殊で、最初は5体のネコが居る状態で始まり、〈赤〉以外の4体で襲ってくるのが第一形態である。ちなみに〈赤〉は近づくと魔法で迎撃してくる。
そして、ネコ5体の内、2体を倒すとパワーアップイベントが発生。つまり第二形態になるのだ。
やられてしまった2体の力をみんなで分け合っているのか、残った3体のネコの身体能力が上昇し、さらにHPまで全回復してしまうのである。
へ? せっかく削ったHPが全回復するの? ボスがHP全回復しちゃダメでしょ!?
まさにその通り。そのため最初は2体を分断し、2体に集中して倒すのがここのセオリーとなっている。
ちなみに3体以上を同時にHPをゼロにしても、うち2体が消え、残りの1体を含む3体のHPが全回復する仕様なので意味はないぞ。
「第二形態?」
「来るぞ!」
瞬間、〈赤〉が『ハザードプロミネンスアグニ』を発射。
そ、それは、サターンが使っていた魔法!
「『ヘッドグラビティ』!」
当然、あの時のようにメルトが上からはたき落とす。
「「ニャー!」」
そして〈白〉と〈黒〉が鋭い鉤爪を見せながら飛び掛かってきた。
〈白〉と〈黒〉はヴァンの壱ノ城と弐ノ城に飛びつくと、その爪で乱れひっかきを敢行。なんとぶっ壊し始めたのである。この調子ならあと数秒も持たないだろう。
「なんと恐ろしいネコの爪でありますか!?」
「ヴァン! 四ノ城!」
「はっ! 『超極防壁の四ノ城』!」
「ニャー!」
ヴァンの壱ノ城から参ノ城までは五段階目ツリーだ。だが、四ノ城からは六段階目ツリーである。硬さが違う。
案の定、〈黒〉は弐ノ城を破壊し終わり四ノ城へと飛びつくが、その爪では先程とは違い思うように削れないようだ。
「続いて五ノ城!」
「『1000年轟け五ノ城』!」
「ニャ!?」
ヴァンの城はまだまだこんな物ではない。
参ノ城を破壊し終わった〈白〉が新しく出来た五ノ城へ取りかかるも、破壊できない。
「ニャー!」
〈赤〉は砲台だ。火属性の大量の攻撃を食らわし始める。
しかし、2つの城はびくともしない。
「反撃だ! 『インフィニティ・バニッシュセイバー』!」
「え?」
「「「ニャ!?」」」
光の奔流、全体攻撃の斬撃を発動! 今の俺の最強攻撃をぶっ放した。
オルクが目を点にしたのが見えた気がした。ははは! かなりのダメージが入ったぜ!
「メルト! 狙いは〈白〉と〈黒〉!」
「『グラビティ・メテオ・エクスボール』! ここからでは射線が取れん、回り込む! 『コキュートス・ゼロ・ディザスター』!」
「オルクも続け!」
「はっ!? い、行くぞハニーさん! ホネデスさんも!」
「アクニャ!」「ホネデス!」
「食らえ! 『デーモンスピア(投)』!」
俺の指示にオルクも我に返ったように攻撃開始。
拠点に守られながら2体のモンスターと一緒に遠距離攻撃、魔法の投げ槍を放った。
ハニーは『デビルにゃんこハート』、素早さにデバフが掛かる攻撃魔法を発射。
ホネデスは〈即死〉する黒いエネルギー弾を発射する! ホネデスよ、ボスに〈即死〉は効かないぞ!?
「むむ! この者たち、かなり強いであります! 攻撃パターンが変わったであります!」
「六ノ城だ!」
「はっ! 『難攻不落の六ノ城』!」
ヴァン最後の城にして最強の防御スキルを展開する。
ネコの攻撃力は強い。特に相手はボスだ。その攻撃は強く、四ノ城と五ノ城が軋み始めた。六段階目ツリーとはいえ、受け止め続けるのは難しい。さすがはネコ。
故に最後の城を建てる。
ヴァンの壱ノ城から始まる防御スキルシリーズは順番通り建てないと発動しないというとんでもないデメリットを持っている反面、六ノ城まで建つと特大の効果を発揮する。
「城が、直っていく?」
「『フルライトニング・スプライト』! 城同士が耐久性を共有しあって壊れにくくなるんだよ」
アランが飛び掛かってくる〈黒〉に筋肉を膨らませて威嚇しながら城を見て呟く。
俺も魔法で迎撃しながらそれに答えた。
この防御スキルはまさに最硬の防御スキルの1つ。
複数の城、つまり複数のスキルが組み上がったコンボなのだ。
そう、ヴァンの六つの城は、個人でコンボスキルが発動できる能力なのである。そりゃ硬い。六つの城が建てばサチたちのコンボ攻撃すら防ぎきるだろう。
加えてここまで来ると『破壊無効』『貫通無効』『衝撃無効』『フィードバック大軽減』など様々な効果を発揮するようになる。
おかげで〈白〉〈黒〉はヴァンの城を突破出来なくなってしまう。大チャンス。
「今だオルク! 教えた最強の奥の手を、今出すときだ!」
「今がそうか! よっしゃいくぜ! これが俺の全力――『簡易召喚・悪魔の上半身』!」
ここでオルクに指示、オルクが手を掲げると、上空に空間の渦が生まれ、そこから魔王の上半身がこんにちはする。シヅキも使っていた『簡易召喚・悪魔の上半身』だ。
ホネデス、ハニー、魔王の上半身。
オルクが今召喚出来る最大数。オルクにできる最大の攻撃が今放たれる。
「うおおおおおおお! いっくぞーーーー!」
「ホネデス!」「アクニャ!」「――オオオオオ!!」
「ニャ!?」
〈白〉に飛び込むオルク、ホネデス、ハニー。そして巨大な上半身を使い、大きく拳を振りかぶる魔王。
四連撃コンボ!
だが、ここでちょっとした不幸が起こった。
「『ダークドレインスペン―――ぐはぁあああああああっ!?!?」
「あ」
「ホネデス!?」
なぜか魔王の拳の前に飛び出してしまったオルク。
そこに魔王の拳がズドンしたのだ。不幸な事故だった。
魔王の拳はオルクごと〈白〉に直撃し、オルクごと敵をぶっ飛ばして――満足して消えていった。
オルクに使われるのがいやだったとか、そういうわけじゃないはずだ。多分。
だが、これが切っ掛けとなり〈白〉がダウン。総攻撃で討ち取り、間もなく〈黒〉も討ち取ることに成功した。ファインプレーかな?
「俺の最強はどこ??」
「呆けるなオルクよ。今のが第二形態ならば、最後がまだ残っているぞ!」
「! 第三形態!」
HPがゼロとなってだらーんした〈白〉と〈黒〉は〈赤〉の下に念動力に引っ張られるように飛んでいくと、その身体がエフェクトに消える。その光が全て〈赤〉に吸収されると、ついに〈赤〉が真の力を呼び覚ました。
「で、でっか! いやいやどこまででかくなるんだよ!?」
「グ~~~ニャ~~~!!!!」
「これが、第三形態か!」
〈赤〉の大きさは実に15メートル。
ミジュのクマンよりも大きい身体は、首元から伸びゆらゆら揺れる4つの帯のようなものを靡かせ、目には赤色の面を着けていた。
「先制! 『グラビティ・ボール・エクス』!」
「グニャー!」
メルトの〈五ツリ〉。
しかしそれを〈赤〉は拳で相殺してきた。
「な、パンチでだと!?」
「凄まじい筋肉だ!」
「こいつ魔法型じゃなかったっけ!?」
メルトが驚愕し、アランが褒める(?)。
そしてオルクも目を見開いて驚いた。その横でなぜかホネデスも同じリアクションを取っているが、ホネデスに見開く目は無いぞ。でもその息の合いようはオーケー。
今度は相手の番。〈赤〉は目を煌めかせ。4つの帯を操って放ってきた。
狙いは俺、メルト、アラン、オルクだ。
「防御! 『ディフェンス』!」
「『グラビティ・ヘヴィ』!」
「『サタンボディ』!」
「あーーーーーー!?」
「アクニャー!?」「ホネデス!」
「オルクが攫われたぞ!」
帯は4色、〈茶〉〈灰〉〈白〉〈黒〉色をしている。うち〈黒〉に捕まったのはオルクだった。
だから〈ホネデス〉を身代わりにしろと何度も!
まあ5日前からやり始めた戦法なのでまだまだ詰めが甘かったということだろう。
オルクは、そのまま地面に叩き付けられてしまった。
しかもそれだけに終わらず、今度は〈白〉に巻かれてビタンした。
それでも終わらず今度は〈灰〉がオルクに巻き付く。
「た、助けてーーー!?」
「まさかの連続『絡みつくビタン』!? ええい『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
―――『絡みつくビタン』。
ゲームの時は単発攻撃だったのに、リアルでは連続?
いったいオルクはどんなヘイトを買ったんだ!?
「ヴァン、ヘイトを稼いでくれ!」
「はっ! 『我、この城の主なり』! 『ここから先は何人たりとも通さない』!」
明らかに俺やメルトの方が攻撃のダメージが高いはずで、ヴァンだって先程からちょくちょくヘイトを稼いでいたのに――狙われるオルク。
原因はあれか、最初の4人攻撃の時にオルクがダウンしたからだな。故にダウンしている相手を追撃するアクションが組まれたパターンかもしれない。
「オルクよ、今助けるぞ! 『ザ・サタンオーバー・はかいこうせん』!」
アランがここで口からなんか特大の光線を発射した!?
ちょ、アランそれかっこいい!
「ニャー!」
「『ブリザードテンペスト』!」
ヴァンがヘイトを稼ぎまくり、俺やアラン、メルトが特大の攻撃をぶち当てているが――〈赤〉はオルクを離さない。なぜ?
ここまで攻撃すれば手放すものなのに??
「ニャー!」
「ああああああああ!?」
そして4つ目の帯、〈茶〉に捕まったオルクは、なぜかシュッシュとファイティングポーズを取る〈赤〉の目の前にグルグル巻きのまま持ってこられ、そして。
「フルニャンチ!!」
「フルニャンチ!?」
それはまるでミジュのビッグなクマンのフルパンチ。
見事にオルクはネコパンチ(大)にぶん殴られてしまい、ついにハニーやホネデスがエフェクトになって消えてしまう。
オルクも転移陣が輝くだけだ。戦闘不能になってしまったらしい。
さすがにあれだけの猛攻、VITにかなり振っているオルクも助からなかった模様だ。
「フニャァ」
満足そうに一仕事終えて額の汗を拭う仕草をする〈赤〉。
その目は「次はお前だにゃ」みたいにヴァンの城を見つめる。
あ、やっとヘイトが正常に作用した予感。
「オルクの仇だ! うおおおおお! 『サタン・スタン・スターラッシュ』!」
「おお! 『サタンラッシュ』の上位ツリー! 強力な連打パンチか!」
「ゼフィルス、解説してないでやるぞ! 『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』!」
「だな! アランに続くぜ! うおりゃああああ! 『勇者の剣』! あ、反撃来るぞ! 帯に気をつけろ!」
ズドンズドンと猛攻撃。
〈赤〉は様々な攻撃をしてきた。
特に気をつけなくちゃいけなかったのが帯だ。
4色の帯は変幻自在に動き回り、翻弄。叩き付け、巻き付き、メルトの魔法攻撃を防御してくることもありかなり強力だった。
最後はヴァンの六ノ城もネコパンチによってついに破壊されてしまい、第二拠点も怪獣大侵攻と言わんばかりに突っ込まれて粉砕されてしまった。
おかしい、このネコって〈五体猫戦隊・ネコレンジャー〉じゃなかったっけ?
怪獣側に見える。
「ニャー!」
「ぐぬぬ、我が城が粉砕されるとは! だが、我が城はただでは陥落しないであります! はあああ! 『城・大爆発』!」
「あ」
拠点を崩して乗り込んだ〈赤〉だったが、ここで第二拠点から光が溢れ、次の瞬間には大爆発を起こして〈赤〉を巻き込んだのだ。
突然の大爆発に巻き込まれた〈赤〉はその衝撃で特大のノックバックを起こしてしまう。
「ナイスヴァン! トドメだ! 『天光勇者聖剣』!」
「ニャー!?」
「総攻撃だー!」
『聖剣』の上位ツリーでズドン!
見事にダウンを勝ち取り総攻撃。
「「「うおおおおおお!」」」
攻撃優先! 俺たち3人で攻撃の連打を放つと、ついに〈五体猫戦隊・ネコレンジャー〉のHPはゼロになる。
「グ、グニャア……」
「倒した。倒したぞーーーー! 我が筋肉の勝利だーー!」
「やったなアラン!」
「ああ、これもゼフィルスたちのおかげだ!」
ガシッと確かなハンドシェイク。
膨大なエフェクトを発生させて沈んで消えていく〈赤〉の前で、俺とアランは、初の〈猫猫ダン〉突破に盛り上がったんだ!
そこにクールに告げるメルト。
「そういえばオルクを復活させなくて良かったのか?」
「あ、そういえば忘れてた」
普段ボス戦中に復活なんて使わないので俺ですらすっかり忘れてた。
オルクが復活されたのは、ボスがエフェクトの海に沈み、〈金箱〉がポップしてからだったのだ。




